★★ プチ回答(旧)3 ★★

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質問 どうして水は常温でも気化するのですか? 水の沸点は100℃のはずなのでは!【古典物理】
回答
qa_pt16.gif  水(液体)と水蒸気が接しているシステムでは、両者の間で常に H2O 分子が行き来しています。例として、密閉された容器の中に水を入れ、上部に真空の隙間を少し残しておく場合を考えましょう。初めのうちは、水から真空へと一方的に H2O 分子が飛び出していきますが、水蒸気の密度が高くなるにつれて、水蒸気から水へと戻ってくる H2O 分子の数も増えていきます。最終的には、一定時間内に水から飛び出す H2O 分子と、水に飛び込む H2O 分子の個数が等しくなり、平衡状態に達します。このとき、水蒸気は「飽和状態にある」と言い、出入りする H2O 分子の個数が同じなので、水はそれ以上は蒸発しなくなります。
 閉じ込められていない水の場合は、少し事態が異なります。一般に、環境中の水蒸気は飽和状態に達しておらず、水から飛び出した H2O 分子は周囲に拡散してしまうので、常温であっても水の蒸発は止まりません。
 一方、沸点は、きわめて特殊な蒸発が起きる温度です。水から H2O 分子が飛び出すためには、他の H2O 分子からの引力を振り切らなければならないので、エネルギーが必要です。沸点以下の水に熱エネルギーを加えると、一部が H2O 分子を(それまで以上に)飛び出させるのに使われ、残りの熱エネルギーによって水全体の温度が上昇します。しかし、沸点に達した水では、熱運動が激しく H2O 分子間の結合が切れる寸前の状態になっているので、わずかでも熱エネルギーを加えるとすぐに H2O 分子が飛び出すのに使われてしまい、水温は沸点以上には上がりません。

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質問 気圧が地表に近いほど高いのはなぜですか?【古典物理】
回答
 地表に近いほど気圧が高くなるのは、その上にある気体の重さが加わるためです。
qa_pt15.gif  気体の流れはないものとして、図のような(底面が単位面積で高さがΔz の)円柱状の部分を考えます(以下、Δの付く量は微小量とする)。円柱の下面に加わる圧力(気圧)を p、上面に加わる圧力を p+Δp とすると、この圧力の差Δp が、円柱状の気体に加わる重力 ρgΔz (ρ:気体の密度、g:重力加速度)と釣り合っています。したがって、
  Δp = -ρgΔz
となります(大気層は天体の半径に比べて薄いので、重力加速度は一定と見なせます)。一方、気体の平均分子量を M、温度を T、気体定数を R とすると、状態方程式より、
  p = ρRT/M
となります。これより、
  Δp/p = -Δz/H ( H = RT/Mg )
これを積分をすれば、高度 z での圧力 p(z) は、
  p(z) = p(0) exp { - ∫dz/H } (積分範囲は 0 から z まで)
となります。H は温度や平均分子量に依存するため高度によって異なりますが、H>0 なので、気圧は高度とともに単調に減少します。地球の場合、地表近くでは H = 8.5[km] なので、高度による H の変化を無視すれば、8.5km上昇するごとに、気圧は 1/e になります(実際には、高くなるにつれて温度が下がるので、高度が上がるほど H は小さくなり、気圧が減少するペースが速くなります)。

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質問 宇宙でも食事が出来るのはなぜですか? また、胃液はなぜ逆流しないのですか?【その他】
回答
 1950年代に宇宙飛行が計画された頃には、人間は無重力状態では食物を嚥下できないと考える科学者もいました。しかし、1960年代に有人宇宙飛行が始まった初期の段階で、ソ連の宇宙飛行士が大気圏外で実験的にチューブからペースト状の食べ物を摂取したところ、比較的簡単に飲み込めることが確認され、宇宙でも安全に食事ができることがわかりました。現在、スペースシャトルなどで宇宙飛行士に提供される食事は、船内に液体や食べ物カスが飛び散らないように工夫されている点を除けば、地上での食事と近いものになっています。
 無重力でも食事ができるのは、咽頭や食道の筋肉の働きで食物が能動的に運ばれるからです。食道の場合は、食道筋の蠕動運動によって咽頭から胃まで食物を送り込んでいます。また、食道の入り口と出口にはそれぞれ上部括約筋・下部括約筋と呼ばれる筋肉があり、食物が通っていないときには、食物や胃液が逆流しないように収縮して管を閉じています。
 ただし、横になって食事をすると飲み込むのに苦労することからもわかるように、嚥下には重力の助けも借りています。ニワトリのひななど、スペースシャトル内で飼育しようとしても衰弱死してしまう動物がかなりいますが、無重力では水や食物が飲み込みにくくなることと関係しているかもしれません。

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質問 大人になってから体にできる黒子(ほくろ)って、健康上、問題あるのでしょうか? 黒子もやっぱり、IFの条件が整ったときに遺伝子が出すTHENの指令で作られるんでしょうか? 黒子っには、進化上、有利な点があるのでしょうか?【その他】
回答
 ほくろは、メラニン色素を含む細胞が何らかの理由で正常な状態から逸脱してできたものです。メラニン色素には、生体を有害な紫外線から守る作用がありますが、メラニンが過剰になったほくろに進化上の有利な点はないでしょうし、ほくろを作れという遺伝的指令がコードされているわけでもありません。
 大部分のほくろは、表皮基底のメラニン色素が増加した単純黒子(扁平で色が薄い)か、母斑細胞と呼ばれる未分化な細胞が増殖した母斑細胞母斑(盛り上がって色が黒い)のいずれかです。小児期以降にできるほくろは、紫外線などによって遺伝子が損傷を受けてできるケースが多く、良性のものと悪性のもの(悪性黒色腫)があります。悪性黒色腫はきわめてたちの悪いガンなので、早期発見が必要です。
 健康上の問題に関しては、より専門的なサイトでお調べください。

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質問 カルノーサイクルが熱効率最大の熱機関である理由を教えてください。【古典物理】
回答
 この質問には、別の回答の中で答えています。

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質問 赤、緑、青の3色の光を混ぜると白色光が出来ますが、3色の絵の具を混ぜると黒色になります。特定の色の絵の具が、特定のスペクトルのみを反射するとしたら、3色混ぜた絵の具は、3種類のスペクトルを反射するので、やはり白色が得られるような気がします。【古典物理】
回答
 色の知覚は、網膜に存在する3種類の光受容タンパク質が特定範囲の波長の光を吸収することによって生じます。3つのタンパク質が全て光を吸収した場合は、白色が知覚されます(このことは、「昼間の月はなぜ白いか」という質問に対する回答でも説明しています)。
 絵の具の場合は、ある色の光を反射するというよりも、その色の補色を吸収すると考えるのが良いでしょう。例えば、赤の絵の具は、青や緑の波長を吸収する物質を含んでいるので、結果的に赤く見えるわけです。ですから、3原色の絵の具を混ぜると、全ての波長成分が吸収されて、黒く見えることになります。

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質問 水を丸くするにはどうしたらいいですか。【古典物理】
回答
 衛星軌道上のスペースシャトルなど無重量状態にある環境下では、あまり多量でない水は、表面張力によって球状になります。また、比重が水に近く、水と混じらない溶媒の中に少量の水を入れると、やはり丸い状態で安定します。

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質問 著者、発行日、タイトルが判明している論文を閲覧する方法を教えてください。【その他】
回答
 現在、多くの学術雑誌が、インターネット上で論文を閲読できるサービス(大半が会員制・有料)を提供しています。出版元のサイトで調べてください。
 専門文献を扱う図書館で当該論文を読む方法もあります。科学技術系の文献のかなりのものが国立国会図書館関西館に収蔵されており、著作権の制限の範囲内でコピー可能です。登録すれば、コピーを郵送してくれるサービス(有料)も受けられます。

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質問 いわゆる「量子力学の多重世界解釈」にはどのようなご意見をお持ちですか?【現代物理】
回答
 多(重)世界解釈については、すでに、何回か回答していますので、そちらを参照してください。

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質問 月は地球に対して、常に同じ面を向けて自転と公転をしています。これは潮汐力によるものと言われていますが、月と地球に起きているこの関係が、太陽と地球に起きないのはなぜなのでしょう? 【古典力学】
回答
 月と潮汐力については、月と地球の運動変化についての回答海水に作用する潮汐力についての回答などでも触れています。
 ある天体から作用する潮汐力の大きさは、その天体の質量に比例し、天体までの距離の3乗に反比例します。したがって、太陽から地球に作用する潮汐力と、地球から月に作用する潮汐力の比は、
  (M/m)(r/R)3
    M : 太陽の質量 (2×1030kg)
    m : 地球の質量 (6×1024kg)
    R : 地球−太陽間の距離 (1.5×108km)
    r : 月−地球間の距離 (4×105km)
で与えられます。代入すると、上の値は 0.006 程度になり、太陽から地球に作用する潮汐力は、月に作用している力より遥かに弱いことがわかります。太陽から大きな潮汐力を受けて、常に同じ面を太陽に向けるのは、もっと太陽に近い天体に限られます。われわれの太陽系では、水星に強い潮汐力が作用しており、昔は常に同じ面を太陽に向けていると思われていましたが、実際には、自転と公転は完全に同期せず、3:2の共鳴関係になって、太陽の周りを2回公転する間に3回自転しています。

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質問 バイオリンやギターなどの弦楽器では、弦を弾くのは右手で、弦を押さえるのは左手でします(私が知りうる範囲では)。ここで不思議なのは、なぜ弦を押さえる方が弾くことよりも遥かに高度な動作を要求されるのに−−事実、バイオリン演奏中の人の脳では左手をコントロールする部位が右手よりも激しく活動しているという研究が発表されています−−多くの人の利き手ではない左手を使うのかということです。これは何らかの文化、歴史的な理由なのか、それとも深い脳科学的な理由でもあるのでしょうか。【その他】
回答
 残念ながら、この質問にきちんとお答えすることは、私にはできません。
 バイオリンの場合、左利き用のものは特注品以外は制作されておらず、千住真理子や古澤巌のような左利きのバイオリニストは、通常のバイオリンを使い、利き手で弦を押さえ非利き手で弓を持って演奏しているそうですから、利き手で弦を弾かなければ演奏が至難になるというわけではないようです。もっとも、芸術家には左利きの割合が多いと言われる(厳密なデータはありませんが、その傾向があることは昔から指摘されています)のに、左利きのバイオリニストはあまり知られていません。その理由が、「利き手でない右手で弓を持つのが難しい」からなのか、あるいは、「左利きはバイオリニストに向かないとの俗説がある」とか「左利きの人に演奏を教えられる音楽教師が少ない」といったことなのか、よくわかりません(左利き用のバイオリンがないのは、集団で演奏するときに肘がぶつかるためでしょうか)。
 ギターの場合には、左利き用のものが制作されており、ポール・マッカートニーをはじめ、これを愛用するレフティのミュージシャンは少なくありません。甲斐よしひろやジミ・ヘンドリックスのように、右利き用のギターを逆に持って演奏した強者もいます(ジミヘンは右利きなのに効果を狙ってわざとそうしたという説もありますが)。こうした例を見ると、利き手で弦を弾く方が自然な演奏スタイルのようにも思われます。
 利き手か否かで大きな差が出るのは、手指の細かな運動であり、「投げる」「叩く」といった腕全体を大きく動かすような課題については、練習を積めばどちらの手でも同等にできるようになると言われています。しかし、私自身が経験する範囲では、必ずしもそうだとは言えません。例えば、キーボードに入力する場合、左右の指をほとんど同じように速やかに動かすことができますが、ペンを持って筆記体のl(エル)を続けて書こうとすると、利き手である右では難なくできるのに、左手では、左右を逆転した鏡像文字にしても、ひどく手間取ります。どうも、手首と指の協調的な運動が右手ほどうまくいかないようです。利き手は、単に指先が器用だというのではなく、手首や腕と指を協調して動かす作業に長けていると考えられます。そうだとすると、指先を使って弦を押さえる作業よりも、手首や腕を大きく動かしながら適切に弦を弾く作業の方が、より利き手向きだと言えます。
 もう1つの仮説として、旋律を思い浮かべながら筋出力をフィードフォワード制御(予測値と現状との差を小さくしていく制御)する過程が、主に言語優位脳で行われて可能性が考えられます。とすると、右利きの場合、右手が旋律向き、左手が和音向きなのでしょうか。
 こうした仮説は思いつくのですが、それを検証するだけのデータは、今のところ見あたりません。専門家に教えてほしいところです。

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質問 植物はどのようなシステムを使い、水を吸い上げているのでしょうか。樹高が数十メートルにも及ぶ場合など、物凄いパワーが必要だと思うのですが。【その他】
回答
 これと同様の質問にすでに回答していますので、そちらを参照してください。

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質問 「独我論solipsism」というのがありますが、あれを科学的に説明することは可能でしょうか? 科学の歴史は哲学や宗教の領域を侵食してきた歴史なので、いずれは可能になるはずと思えます。しかしまた一方では、科学の方法は抽象化・一般化することなので、不可能な気もします。【その他】
回答
 独我論(唯我論)に関する私の考えについては、別の回答で論じています。ただし、この回答で念頭に置いているのは、「世界には自分一人しかいない」という「素朴独我論」で、バークリやデカルトらの哲学的議論に応えるものではありません。
 科学は仮説の集積ですから、客観的世界に関する科学的命題は全て仮定の話にすぎません。しかし、それは、きわめて高い精度で予測できる確実性の高い仮説です。一方、主観的世界についての直感は、リアルで疑い得ないものですが、その変化は予測困難で不確実です。科学は独我論を否定するのではなく、命題の確実性によって相対的に無力化すると言えるでしょう。
 なお、ヴィトゲンシュタイン流の「私と他者の非対称性」に関しては、これとは別のアプローチが必要ですが、長くなるので、ここでは論じません。

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質問 ブラックホールは人工的に作り出すことができるのでしょうか?可能ならば、どのような現象や振る舞いを示すと思いますか?【現代物理】
回答
 この問いの回答となる解説記事がありました。
  B.J.カー/S.B.ギディングズ「ブラックホールを製造する」(日経サイエンス2005年8月号)
この記事によると、2007年頃に稼働する大型ハドロン衝突型加速器(LHC)を利用すれば、ブラックホールを製造することが可能になるかもしれないとのことです。
 量子力学の予想によると、3次元空間に存在するるブラックホールの質量は、10-8kg が最小だとされています。このブラックホールを作り出すためには、LHCの出力より1015倍も大きいエネルギーが必要であり、技術的に不可能です。しかし、この世界の空間次元は、実は3次元ではないという理論(超ひも理論やM理論)もあり、これが正しいとすると、質量が10-23kg、大きさが10-19m のブラックホールもあり得ます。この程度のブラックホールなら、LHCでハドロンを衝突させて作ることができます。
 加速器でマイクロ・ブラックホールを造ったとしても、これが周囲の物質を飲み込んで成長し、遂には地球をも破壊してしまう−−という心配は、まずありません。いわゆるホーキング効果によって、10-26 秒程度で“蒸発”してしまうからです。このときに放出される粒子は、ブラックホールの蒸発に特有の分布パターンを示すため、これを捉えることによって、ブラックホールが一時的に形成されたことがわかります。

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質問 振動数の少ない粗雑な波が振動数の多い微細な波に影響を与えることは出来ますか?もし、出来るなら、それはなぜか、教えて下さい。【古典物理】
回答
 音波のような疎密波は、媒質の密度を場所によって周期的に変化させます。ところが、波動の伝播速度は、媒質の密度に依存するのが一般的であり、媒質の疎密は、屈折率の変化をもたらします。このため、波長の長い(振動数の小さな)疎密波によって密度が空間的に変化している場所に波長の短い波が進入すると、屈折率の違いによる屈折や回折などの現象が見られます。
 こうした現象で良く知られているのが、音響光学効果です。これは、超音波によって媒質中に周期的な屈折率の変化が生じ、その結果として光が屈折または回折する現象です。この効果を利用した音響光学型分光計も開発されています。

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質問 平らに研磨した鏡に光を当てると入射角=反射角で反射します。しかし光を光子としてみると、光子は鏡の表面を構成している原子より小さいものはずで、原子レベルで見ると鏡の表面に平らな面は無いと思います。にもかかわらず、ほとんどの光子が入射角=反射角で反射するのはどうしてでしょうか。【古典物理】
回答
qa_pt14.gif  光の反射は、ボールが平らな壁にぶつかって跳ね返るのとは全く異なる現象です。物質の表面に入射した電磁波は、表面近くの電子と相互作用して散乱されます。このとき、表面の1点でしか散乱されないとすると、さまざまな方向に向かう散乱波が出てくるはずです。しかし、こうした散乱波のうち、表面に対する角度が入射角とは異なる方向に散乱されたものは、すぐ近くで散乱された別の散乱波と干渉して互いに弱めあってしまいます(右図)。散乱されるポイントがどこであっても位相が揃って強めあうのは、入射角と同じ角度で散乱された電磁波だけです。これが反射波として伝播することになります。

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質問 回路解析に使われるフェーザ法がよくわかりません。いろんな本を見ても詳しく書いてないので、できるだけ詳しく教えてください。【古典物理】
回答
 フェーザ法(フェーザ表示)とは、正弦振動する現象を複素数で表す方法です。オイラーの関係式:
  eix = cos x + i sin x
  (iは虚数単位、工学系の教科書ではjで表すことが多い)
を使えば、角振動数ωで正弦振動する物理量f(t)は、
  f(t) = |A|cos(ωt+φ) = Re{Aeiωt}
  A = |A|e
と表されます(|A|:振幅、φ:初期位相)。ただし、Re{…} は複素数…の実部を表します。実部を取る操作は最後の段階で行うことにすれば、f(t) の代わりに複素量 f(t)=Aeiωt を使って計算することが許されます。交流回路では、電流や電圧を表すのに Aeiωt という形の複素数を使うだけでなく、コイルやコンデンサなどの素子による位相のずれも、複素数e で表します。こうすると、位相のずれが指数部の足し算・引き算だけで求められ、三角関数の加法定理を使った面倒な計算をしなくて済むので、たいへん便利です。
 「いろんな本を見ても詳しく書いてない」とありますが、大学レベルの電磁気学・回路理論の教科書の大半はフェーザ表示なので、おそらく「なぜ複素数を使うのか説明していない」ということだと思います。大学の先生にとっては、複素数を使うのが当たり前なので、わざわざ説明しないのでしょうが、高校であまり複素数を勉強したことのない学生は、急にオイラーの関係式が出てきたりすると、かなり戸惑うのも当然です。もっとも、複素数を使う便利さは、実際にいろいろな計算を行ってみなければ実感できないので、まずは複素数を使って練習問題を解いてみてください。何回か計算すれば、高校生のときに加法定理を使って苦労して計算したことがバカバカしく感じられるようになるはずです。

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質問 鏡に物を映したとき、左右は反転して映るのに、なぜ上下は反転して映らないのでしょうか?【古典物理】
回答
 平面鏡は、鏡面に対して面対称となる位置に虚像を作るものなので、反転しているのは左右ではなく、(鏡面に垂直方向となる)前後です。前後が反転しているのに左右が反転しているように見える理由は、2つのステップに分けて考えられます。
 まず考えるべきは、幾何学です。前後の方向にx軸、左右の方向にy軸を取ると、x方向(前後)に反転した3次元図形は、y方向(左右)に反転したものをz軸に関して180°回転したものと一致します。つまり、図形の形としては、前後に反転したものは左右に反転したものとは同じになります。
qa_pt13.gif
 次に、心理学を考える必要があります。通常、物体の後ろ側までは見えないので、目の前にあるものが前後に反転した状況を思い描くことは困難です。特に、鏡に映った自分の姿を見る場合、鏡の中の自分は、前後に反転した像ではなく、こちらに向き直って生身の自分と対面している姿だと思うのが、人間の心理としては自然です。その結果として、前後の反転ではなく、左右反転した像が180°回転してこちらを向いたものと見えてしまうのでしょう。

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質問 ニュートンの運動方程式により、惑星の運動などは良く記述されると言います。例えば、太陽と地球の関係のように。しかし、実際に観測される運動は、他の惑星の影響等々があるものです。それら他の影響を総合して、はじめてニュートンの運動方程式(太陽と地球だけを想定して)の結果と同じになっている可能性はないのでしょうか? つまり他の惑星の影響を全部考えたニュートンの運動方程式を解くと(解けたとして)観測される結果と違うというようなことはないのでしょうか?【古典物理】
回答
 惑星運動の計算において、太陽だけではなく他の惑星の影響を部分的に取り入れることは、かなり早くから行われています。最も有名なのは、天王星の軌道がニュートンの理論から求められたものと異なることから、天王星の外側にもう1つの惑星が存在し、その重力が天王星の運動に影響していると推測されたケースです。1846年、天王星の軌道の変化から第8惑星が存在すると予言された位置に、海王星が発見されました(もっとも、後になって、計算された海王星の軌道は、実際の軌道とかなり違っていたことが判明しましたが)。また、水星の軌道は、他の惑星からの重力を考慮しても、ニュートン理論の予測と一致しないことが知られていましたが、1916年にアインシュタインによって、その原因が、太陽からの重力がニュートン理論とわずかに異なるという一般相対論の効果だと説明されました。
 科学者が紙とペンを使って計算していた時代は、他の惑星からの影響を全て考慮することは至難の業でしたが、現在では、コンピュータを使った精密な計算が可能です。惑星探査機や彗星の軌道を求める際には、太陽と9つの惑星の他、大型の衛星や小惑星からの重力も含めて計算します(一般相対論の効果も一部取り入れます)。ただし、小天体の重力、太陽風や磁気、彗星の場合は太陽熱によって表面からガスが吹き出す効果までは考慮しきれないため、計算結果と観測が微妙にずれることもあります。

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質問 ワームホールってなんですか。タイムマシンの製造は可能ですか。 【現代物理】
回答
 どちらも、すでに回答しています。「ブラックホールには、ワームホールと呼ばれるブラックホール同士をつなげているものが存在してると聞いたことがありますが、本当ですか?」「タイムマシンは、作れるのですか」という質問に対する回答を参照してください。

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質問 世の中の物質は加熱によって膨張するのか?それともしないのか?教えてください。【古典物理】
回答
 多くの物質は、加熱によって熱膨張を起こしますが、例外的な物質もあります。最もよく知られているのが、水です。水の熱膨張率は、20℃で 2×10-4[K-1] ですが、4℃で膨張率がゼロ(密度が極大)になり、0〜4℃では膨張率が負になります。0℃で水は結晶になりますが、0〜4℃では、結晶が崩れて隙間に水分子が入り込んだような構造になるため、熱を加えると収縮することになるのです。

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質問 ある量子力学の入門書に「1次元量子井戸中の粒子の持つ全エネルギーは、運動エネルギーp2/2mであるから…」とあるのですが、なぜ相対論におけるエネルギーE=mc2が考慮されていないのでしょうか? 全エネルギーは静止エネルギーmc2と運動エネルギーの和だと思ったのですが…【古典物理】
回答
 電子に関して厳密に相対論的な扱いをするならば、エネルギーE と運動量p の間に、
  E = {m2c4 + c2p2}1/2
という関係式を考えなければなりません。このとき、シュレディンガー方程式
  i(h/2π)∂ψ/∂t = Eψ
を立てると、演算子であるp が根号の中に入ってしまい、どう考えれば良いかわからなくなります。この障害は、ディラックによって回避する方法が与えられましたが、理論的にかなり難しいので、初学者には、あえて説明しないのがふつうです。上のエネルギーの式を、mc に比べて |p| が小さいとして近似すると、
  E = mc2 + p2/2m
となります。これを使っても良いのですが、右辺第1項は全ての電子で共通の定数であり、波動関数に
  exp (-2πimc2/h)
という係数を乗じる効果しかありません。いつも同じ係数、同じ定数項しか出てこないので、mc2の項はいちいち書かずに省いてしまうのが習慣になっています。

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質問 市販の天体望遠鏡で人工衛星やスペースシャトルは見ることはできますか?土星の輪や冥王星はどうですか?【その他】
回答
 天体望遠鏡の性能は、口径と倍率に依存します。口径8cm、倍率100倍もあれば、土星の輪や木星の縞模様を観察することができます。どの程度のものが見えるかは、望遠鏡のカタログなどに記載されているので、参考にしてください。海王星や天王星までなら、少し性能の良い市販の天体望遠鏡で見えますが、冥王星は、大きさが月の2/3程度と極端に小さく、惑星と言うよりはカイパーベルト(海王星軌道の外側にある小惑星帯)に属する天体であり、かなり性能の良いものでも存在を確認するのがやっとでしょう。
 スペースシャトルのような低軌道を回る大型人工衛星は、小型の天体望遠鏡で充分に捉えられる大きさです。しかし、スピードがきわめて速い(秒速7km以上)ために、軌道計算に基づいて追尾する装置がなけれ、把捉するのは困難でしょう(追尾装置は市販されていますが、かなり高価です)。

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質問 プチ解答の「量子コンピュータが開発されたとき、突如そこに意識が発生するということはあるのでしょうか?」という質問の解答に「意識の存在を「空間内部を物体が運動する」という古典力学的な世界観の下で解明するのは困難であり、何らかの形で量子効果が関与していることは間違いありません」とあるのですが、ペンローズの量子脳理論などの反論に、「熱雑音にかき消されて量子力学的効果は存在できない」というのをよく目にします。この辺のところはどうお考えでしょうか?【現代物理】
回答
 意識は、多くの情報を含んだ複雑な様態を示すものなので、局所的な物理的状態ではなく、巨視的な拡がりを持った皮質の領域が関与していると考えられます。この問題をどのように考えるかが、量子力学を意識の科学に適用する際の論点となります。
 量子脳理論を唱えるペンローズらは、この“拡がり”をコヒーレンス(可干渉性)を元に説明しようとしています。二重スリットの実験では、離れたスリットを通る粒子の波動関数が互いに干渉し、スクリーンに到達する粒子の確率分布を決定しますが、このことからもわかるように、量子力学では、「干渉しあう」という性質を通じて離れた地点での波動関数が互いに関係性を持っています。この性質が意識の発生に関与しているというのがペンローズらの考えですが、質問にあるように、熱雑音でコヒーレンスは壊れてしまうという大きな障害があります。意識には少なくとも数平方センチの皮質が関わっていると言われるので、ペンローズ説を支持するのは、かなり難しいのではないかと思われます。
 私は、意識の発生にコヒーレンスが重要な役割を演じているとは考えていません。むしろ、量子力学に現れる多次元空間での相関こそが本質的だという立場です。私の見解を手短に語るのは難しいので、量子力学で複雑な性質を実現するのに多次元空間がいかに重要かを扱った論文をお読みください(自分で言うのは何ですが、きわめて難解です)。

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質問 角速度の計算をしている時ふと思ったのですが、算出される答えがラジアンですね。時々見かける物理の公式で、角度の単位がラジアンで算出されるものは、後で度(DEGREE)に変換しなければなりません。どうして直感に訴え難い面倒なラジアンで算出されなければならないのでしょうか?【その他】
回答
 力学の公式で、角度がラジアン単位で表されているのは、微積分を使って計算するときに便利だからです。半径rの円運動の場合、進んだ角度θをラジアン単位で表しておけば、円周に沿った移動距離Lは、
  L = rθ
という簡単な式になり、円周方向の速度v(=dL/dt)と角速度ω(=dθ/dt)の間に
  v = rω
なる関係が存在することが、直ちに導けます。より一般的な運動でも、ラジアンを使った方が式の形が簡単になります。三角関数を使う場合は、ラジアンで表しておけば、θが小さいときに成り立つ関係式:
  sin θ ≒ θ
  cos θ ≒ 1 - θ2/2
が使えます。
 度で表した方が直感的にわかりにくいと感じているようですが、ラジアンでの計算に慣れてくると、逆に、○πといった表記の方がイメージが湧きやすくなってきます。

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質問 普段の生活の中で「視線を感じる」という表現をする機会が多々あると思います。確かに背中を見つめられるとふと振り返りたくなる瞬間があります。視線は物理的・物質的なもので空間を飛んでいくものなのでしょうか。【その他】
回答
 「視線」とは心理的なものであり、物質的な何かが空間を飛んでくるとは考えられません。
 人間は、多くの感覚データを総合して、外界の状況を認知しています。このとき、個々の感覚データは必ずしも意識されず、総合的な状況認知が、元々のデータとは異なる“感覚もどき”として立ち現れることがあります。例えば、ハンターが銃で獲物を仕留めたときに感じる“手応え”は、銃を撃つ前後における視聴覚データの変化を元に作り上げられた総合的な状況判断です。「見られている」という感じも、同様の感覚もどきだと思われます。
 人は、見られることが大きな意味を持つような立場に置かれたとき、自分でそれと意識せずに周囲に気を配っているものです。恥ずかしい格好で街を歩いているときなど、視野の端で人々の表情を窺っており、わずかな変化を読みとって、「見られている」という擬似的な感覚を伴う状況判断を行うことがあります。こうしたケースでは、ぱっと振り返ったときに、正に相手がこちらを見ていることも稀ではないので、あたかも「視線」そのものが実在するような錯覚に陥るわけです。

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質問 日経新聞に連載された「アインシュタイン光と影の100年」の記事に「量子テレポーション」の話が載っていましたが、新聞記事の限界で物足りない内容です。もう少しわかりやすく、理論の現状や研究動向を踏まえて解説してください。【現代物理】
回答
 「量子テレポーテーション」は、量子力学の奇妙さを如実に示す現象であり、実用的にも役に立つので、最近は、マスコミにも良く紹介されています。ただし、「テレポーテーション」という名称は、SF好きの物理学者がおもしろ半分につけたもので、スタートレックのように物質を遠方に送信するのではなく、せいぜい状態に関する情報を伝えるだけです。
 この話題に関しては、すでにいくつかの解説を書いています。全体的な紹介は2001年の回答にあります。また、量子テレポーテーションで使われるエンタングル状態に関するやや専門的な話題を、2002年の回答で取り上げています。EPR相関の物理的な意味に関しては、「EPR論文を巡って」という(かなり専門的な)論文で説明しました。

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質問 なぜ星は球体なのですか?【その他】
回答
 恒星は、星間ガスが自分自身の重力によって凝集したものです。周囲に比べて多量のガスが集まった領域ができると、その重心に向かって引っ張る重力が他の力よりも強くなり、遠方の物質をも引きつけるため、ガスや微粒子が渦を巻きながら流入するようになります。このため、生まれて数百万年以下の若い恒星は、球体と言うよりも、中心のコアの周りを円盤が取り巻いているような姿をしています。しかし、時間が経つにつれて、円盤を構成する物質の大半は、摩擦のために運動エネルギーを失って中心のコアに飲み込まれてしまい、最終的に、ある平衡状態に達します。
 平衡とは、さまざまな量に関して釣り合いが取れており、時間が経っても変化が見られないような状態です。恒星の場合は、物質を重心に集めようとする重力と、圧縮されたガス(および中心部から放射される光)が持つ圧力との釣り合いが問題になりますが、圧力の元になる熱や光は、核融合反応を起こしている中心部から四方八方に等しく伝わっていくので、釣り合いが成り立つのは、中心からどの方向も同じように見える状態(球対称の状態)になります。これが、恒星が球体である理由です。
 惑星は、まず、若い恒星の周囲にできた円盤内部で部分的に物質が集まって微惑星を作り、次に、この微惑星同士が衝突・合体するという2つの段階を経て、形成されます。微惑星は必ずしも球体ではありませんが、微惑星同士が衝突すると、岩石が粉砕・溶融した後に重力によって再び集まるため、でこぼこが均されて球に近づいていきます(木星型惑星は、表面が流体なので自然に球形になります)。その一方で、合体しそびれた小惑星や小さな衛星には、いびつな形のものが少なくありません。
 なお、恒星も惑星も、自転による遠心力が働くため、厳密には球体ではなく、赤道部分が膨らんだ回転楕円体になっています。

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質問 中性子回折での散乱角はどうして2θで表すのですが?【古典物理】
回答
qa_pt12.gif  中性子回折は、結晶格子面(原子面)での反射と考えることができます。反射波が干渉によって強め合う条件は、ブラッグ条件として知られており、入射角の補角をθとすると、
  nλ = 2d sinθ
と表されます(n:正整数、λ:波長、d:格子間隔)。光学におけるスネルの法則の場合などと異なり、入射角ではなくその補角を使うのは、その方が散乱の議論と結びつけやすいからです。
 中性子散乱の実験を行う場合、結晶格子の向きはわからず、中性子ビームを試料に照射したときの角度の変化だけが測定されます。この角度が散乱角と呼ばれるもので、上のθを使うと、散乱角は 2θに等しくなります。

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質問 あるHPからの抜粋です。
カルシウムを殆ど含まない珪素ばかりの土地に育ったつくしでも、やはり大量のカルシウム分を含んでいるとのこと。
つくしが土の中から吸収した珪素と、空気中の二酸化炭素から分離した炭素を融合してカルシウムに原子転換したのではないか
とありました。このような原子変換はなぜ起きるのでしょうか?【その他】
回答
 こうした原子変換が実際に起きていたら、世界中の物理学者が腰を抜かします。
 植物は、必要とする栄養素を選択的に吸収する能力を持っています。植物の内部でカルシウム濃度が高くなると、過剰なカルシウムによる細胞の傷害を防ぐために、カルモジュリンなどのカルシウム結合タンパク質に構造変化が起きて活性化され、その作用によって、細胞の外にカルシウムイオンを排出するカルシウムポンプの活性が高まることが知られています。こうした機構が存在するため、土壌の濃度と植物体内の元素量は、必ずしも一致しません。トマトによる実験では、カリウムや窒素の場合、土壌中の濃度が高まると吸収量が増大するのに対して、カルシウムでは、土壌濃度が高いと逆に吸収量が低下するそうです。カルシウムは地殻で5番目に多く存在する元素であり、濃度が低くとも土壌中には必ず含有されているので、積極的に吸収すれば、植物体内に充分に蓄積できると考えられます。
【参考文献】『植物栄養・肥料の事典』(朝倉書店)

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質問 人間は一般に10進数を使いますが、これは指が両手で10本あることに関係しているのでしょうか?【その他】
回答
 その通りでしょう。10進数は必ずしも使いやすいものではありません。10進法で切れのいい数字は3で割り切れないため、3人で割り勘にするときなどに苦労させられますし、瓶などを箱詰めするときに、10本では2×5の細長い箱を使わなければならなくなるので、便宜的にダースという12進法を導入しています。
 ただし、10進法を採用する心理学的な根拠が全くないわけではありません。台の上に置かれた小石などを見て、その個数を直観的に認知できるのは、せいぜい4個までで、5個の物体は、2個と3個の集まりに分けて初めて個数を把握できると言われています。従って、10進法を少し変更した変則的な5進法(そろばんで使われているようなもの)を使うと、足し算・引き算を簡単に暗算でできるようになります。例えば、8+6 という計算を行う場合、8 を(5進法で上の位を表す) 1 と 3 に、6 を 1 と 1 に分けて表せば、1+1、3+1 という直観的にイメージできる計算だけで答えを求められます。こうした変則的な5進法は、ローマ数字の表記法にも見られ、いくつかの文化圏で独立に発見されたようです。変則的5進法を補助的に利用できるということが、10進法の普及と関係しているかどうかはわかりませんが、足し算・引き算だけを行っている限りは、このやり方が人間の能力にちょうど見合ったものなのかもしれません。

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質問 相対性理論は間違っていたと主張する本をちらほら見かけますが、あの手の本は相対性理論のどこを誤解しているのですか? できればパターン化して教えてください。【その他】
回答
 相対論批判に対する物理学者の反論として最もわかりやすいのは、次の著書でしょう:
松田卓也・木下篤哉 著 『パリティブックス 相対論の正しい間違え方』(丸善)
典型的な誤解に関して、いくつかのパターンに分類して解説しているので、間違えやすいポイントがつかめるはずです。
 「相対論は間違っていた」と主張する人たちは、数式の変形などに関して単純な誤解をしているわけではなく、「時間の空間化」という相対論の根本的なアイデアに納得できないのだと思われます。だからこそ、物理学者がどのように反論しようとも、決して自説を撤回することなく、いつまでも批判を繰り返しているのでしょう。相対論を正しく理解するためには、「時間は流れるものではない」「全世界で共有される現在という時間はない」といった相対論的な世界観を受け入れる必要があるのです。
 もっとも、物理学者の中にも、ローレンツ変換などの公式の適用法はマスターしながら、時間を空間と同じような拡がりとして捉えることにためらいを感じる人は、少なくないようです。例えば、量子力学の解釈として「時間とともに異なる状態に分岐する」と主張する人は、時間の流れが変化を生むという反=相対論的な世界観を心に抱いているように感じられます。

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質問 アポロが設置してきたというコーナーキューブリフレクター(CCR)は、入射光をそのまま反射するという説明を見ました。しかし、よくよく考えると、月へレーザーを発射して2.5秒後には地球も自転しているので、緯度30度で480メートルあまり西へ到達するはずです。どうやって地上で検出しているのでしょう?【古典力学】
回答
 月に設置したコーナーキューブを利用した距離の測定は、日本でも行われていますが、そのとき使用されたシステムの写真を見ると、レーザーの送信機と受信用のパラボラアンテナは、ほとんど同じ場所に置かれています。確かに、レーザー光線が幾何工学に従って反射されてくるならば、地球の自転の分だけ位置がずれるためにキャッチできないはずですが…。専門家の話を聞いたわけではないので、正確なところはわかりませんが、これは、レーザー光線の拡がりが、ずれた場所までカバーしているためだと思われます。地球から送ったとき、月の表面付近でレーザー光線は5kmほどに拡がっていると言われています。おそらく、コーナーキューブから反射されたビームも、地球上で同程度の拡がりを持っているため、送信機と同じ場所に置かれた受信機で受信できるのでしょう。

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質問 太陽にも地球にも磁場が有りますね。磁気単極子が存在しないので、磁場の原因は電流のはずです。その電流はジュール熱に転化して減衰すると考えられます。しかし太陽磁場は徐々に減衰することはないようですが、なぜでしょうか?【古典力学】
回答
 太陽や地球などに見られる天体の磁場が形成されるメカニズムは、現在、ダイナモ理論によって説明されています。ダイナモ理論に関しては、別の回答で解説していますが、そこでも述べているように、磁場を維持するためにはエネルギーを供給し続ける必要があります。惑星では放射性崩壊、恒星では核融合によって発生する熱がエネルギー源となり、磁気流体力学的な相互作用を通じて磁場を作り続けています。

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質問 宇宙の膨張について質問があります。何かが膨張しているというのは(たとえば風船)、もともと膨張できる空間が与えられているから可能なことだと思います。ということは、宇宙の外側には、宇宙の膨張を可能にする空間が、すでに用意されている(いた?)のでしょうか?【現代物理】
回答
 一般相対論による宇宙モデルでは、「宇宙の外側」は想定されていません。宇宙の計量が変化しているのであって、どこか外側に向かって拡がっているというわけではないのです。風船の場合、内外の気圧差とゴムの張力の大小関係が膨張するかどうかを決めており、膜以外の部分との相互作用を無視できませんが、宇宙に関しては、外部との相互作用なしに、それ自体の状態変化として膨張・収縮が実現されるのです。
 とは言え、もともと拡がる余地が与えられていないのに、なぜ宇宙は膨張できるのかと考えると、どうにも訳が分からなくなります。おそらく、宇宙の膨張とは、人間が頭で思い描くような「場所の拡大」ではなく、物理的な自由度の変化といった根元的な過程に由来するものでしょう。そうした根元的な過程をうまく記述する方法がないために、一般相対論という近似的な理論によって「宇宙が膨張する」という形で記述しているだけなのかもしれません。

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質問 大地震の直前には動物の異常行動があるといわれます。しかし、国内ではあまり重要ではないという印象がありますが、日本国内では研究されていないのでしょうか? また、異常行動があるとすれば、それは何が原因ですか? なぜ、人間は感じないのでしょうか?【その他】
回答
 日本国内でも、地震前の動物の異常行動に関しては、民間レベルで盛んに研究されています。しかし、多額の予算をつぎ込んだ東海地震の専門調査会などでは、ほとんど顧慮されていません。国立大学などで地震研究に携わっている専門家の間では、あまり評判の良くない研究テーマと言えるでしょう。
 阪神大震災の直前に動物たちが通常とは異なる行動をしたといった報告は、マスコミや民間研究者のもとに多数寄せられています。しかし、今ひとつ信憑性に欠けるのは、ポジティブな事象とネガティブな事象に関する統計的なデータが充分に得られていないからです。確かに、大地震直前に異常な行動を取った動物がいるかもしれませんが、周辺で飼育されている莫大な数の動物のうち、通常通りに振舞っていた大多数に関しては、何の報告もなされないので、いったい何%の動物が異常を示したか、はっきりわかりません。また、ある動物が異常な行動を示しても、その後に大地震のような印象的な事件が起きないと、報告されないまま忘れ去られてしまいます。日本には地震もペットも多く、ある個体が異常行動を起こしたときに、たまたま大地震が起きることは決して珍しくないはずなので、大地震直前に動物に異常行動が見られたという報告があっても、それだけでは科学者の気持ちを動かすことはできません。長期にわたり同じ条件下で多数の実験動物(ネズミなど)を飼育し続け、その記録を常時取った結果として、行動パターンの変化と地震の間に何らかの相関を示すデータが得られれば、相当の説得力がありますが、それだけの実験を行う資金と時間のある研究者は、国内外にほとんどいないと思います。
 動物の異常行動を説明する何らかの理論があれば、もう少し現実味のある測定が行えるでしょう。動物が異常行動を起こす理由としてしばしば挙げられるのは、地震前に発生する電磁波や荷電粒子の影響だと考える人もいます。従って、地震前の動物の様子を観察するのではなく、「地震と荷電粒子の発生」および「荷電粒子の発生と動物の異常行動」のように研究テーマを分けて、それぞれデータを集めれば、説得力のある結果が得られるかもしれません。こうした研究は、一部の専門家や民間人によって少しずつ進められているようですが、地震予知に結びつくほどの確実性の高いデータは、今のところ見あたりません。
 東海地震の直前予知というあまり実現性のない分野に莫大な予算を配分するよりも、こうした草の根研究にほんの少し資金を分けた方がマシではないかという気もするのですが…

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質問 今、物理学者の最先端の理論とされるM理論についてどう思われますか? それに従えば、宇宙は複数=無限にあり、文明も無限にあるとのことでしたが…【現代物理】
回答
 M理論とは、いくつものバージョンに分かれていた超ひも理論を統合する理論として、ウィッテンにより提案されたものです(この間の事情に関しては、別の回答をご覧ください)。「科学の回廊私が超ひも理論を嫌いな訳」で書いたように、私は、超ひも理論そのものが好きではないので、はっきり言って、M理論も真に受けてはいません。
 ただし、宇宙が無数に存在する可能性は、M理論以外にも、インフレーション理論のあるバージョンなどで提案されているので、物理学的に検討する価値のあるものだと考えています。

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©Nobuo YOSHIDA