質問 イーサネットについて教えて下さい。プロトコルという言葉をよく聞きますが、これはどういうことですか?また、現在の通信方式についてイーサネット以外にはどんなものがあるのですか?【技術論】
回答
 コンピュータが開発された当初は、1台の大型マシンに全ての処理を実行させるのが当たり前でしたが、こんにちでは、ケーブルを介して多数のコンピュータをネットワーク化し、互いにデータを交換しながら作業するのが一般的になっています。イーサネットとは、LAN(Local Area Network;構内ネットワーク)を構成する代表的な接続方式です。「イーサネット」という用語は、もともとは開発元の米国ゼロックス社の登録商標ですが、この規格を元にして後にIEEE(米国電気技術者協会)やISO(国際標準化機構)が規定したLANの規格も、習慣的にイーサネットと総称されています(このため、人によって定義が少し異なることがあります)。
qa_fig22.gif  イーサネットの基本は、(イーサネットカードを装備して)同等の送受信機能を持っている多数のコンピュータを、ツリー状に(閉回路を含まないように)ケーブル接続することで、任意の2台がデータ交換を行えるようにすることです。接続の仕方は、(1)太い同軸ケーブル(イエローケーブル)からAUIケーブルを分岐させてコンピュータにつなぐ;(2)アタッチメントを搭載したコンピュータを細い同軸ケーブルを使って鎖状に連結する;(3)ハブ(集線装置)からツイストペアケーブルを放射状に延ばしてコンピュータに接続する──という3つのタイプに分けられます。大規模LANの場合は、伝送能力の大きい基幹ケーブルからノードルータを介して枝分かれした先に、こうした小規模ネットワークが構成されるケースが多く見られます。また、基幹ケーブルがゲートウェイと呼ばれるコンピュータに接続しており、外部のネットワークと情報をやりとりしていることもあります。
 もちろん、コンピュータをケーブルでつないだだけでは、まだ通信はできません。どのような手順でデータを交換するかという通信のための「約束ごと」を決める必要があります。この「約束ごと」を「プロトコル」と言います。コンピュータ間で通信を行うためには、あらかじめ、回線の種類・通信速度・エラーの判定法・送信権の委譲法・双方向性の有無・割り込み法・使用コード・データの構成などを決めておかなければなりません。こうしたプロトコルには、JISのような団体が定めた「標準規格」やメーカごとの独自規格など、いろいろな種類がありますが、最近では、「TCP/IP」がLANにおける「事実上の標準」として広く用いられています。
 TCP/IP(Transmission Control Protocol/Internet Protocol)は、もともとアメリカ国防総省の研究機関が、緊急時の通信手段の確保のために開発したものですが、1980年代にUNIXというOS(基本ソフト)の標準通信プロトコルとして使用されたのをきっかけに広まり、現在では、インターネットの標準プロトコルとして世界的に普及しています。TCP/IPの特長は、何といっても、仕様が公開されていて誰でも入手できる点でしょう。ネットワーク利用者が自ら使用しながら改良を進め、必要な関連ソフトを開発してきたので、通信プロトコルとして完成度が高く、安心して使用できる上に、使い勝手の良いソフトが豊富にそろっています。
 TCP/IPでは、伝える情報を「パケット」という小さな単位に分けて送信します。パケットとは、通信内容をある長さに区切って、それに、通信に必要な情報を付け加えたもので、イーサネットの場合は、同期信号、データ長、送信先のイーサネットアドレス(個々のコンピュータや端末に重複しないように付けられたアドレス)、送信元のイーサネットアドレス、IPヘッダ、TCPヘッダなどの情報が付加されます。パケットを受け取ったコンピュータは、送信先アドレスを読み取って、自分の所に来たものならば取り込むように設定されています。IPヘッダやTCPヘッダの詳細は省略しますが、簡単に言えば、前者は、中継装置を利用したときにも通信が確実に伝わるようにするための、後者は、いくつかのパケットに分割された通信内容を再構成するためのデータです。
 現在、LANの方式としてはイーサネットが最もポピュラーですが、それでも、パケットの衝突(2つの機器が同時に相手に送信する)などが生じてユーザを悩ませることがあります。こうした問題を回避する次世代LAN技術として最近話題になっているのが、ATM(Asynchronous Transfer Mode)です。これは、イーサネットで使われる可変長のパケットの代わりに固定長の小さなパケットを利用してパケットの衝突を避けるとともに、情報伝送のスピードアップをはかるもので、これから普及していくものと思われます。

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質問 最近本を読んで知ったことなのですが、地球ができたばかりの頃、地球の1日は5、6時間で、月は今よりずっと近くにあり、25倍も大きく見えたそうですね。月の引力が地球の自転を弱めて地球の1日は今の24時間になった。そして月はだんだんと地球から遠ざかっている。あと40億年たつと、地球の1日は今の40日となり、月も遥か向こうへ行ってしまう。
 月は現在、1年に3センチ遠ざかっているそうですが、でもそれは何十億年単位で考えると一定ではないですよね?(それともずっと一定なのですか?)月が近いほど月の引力の影響は強く、地球の自転を止めようとする力もきっと強いのではないかと思うのですが、月が地球からどれくらいの距離にあるときに、どれくらいの時間だけ、地球の自転を遅くするのでしょうか?そういう力学的な公式はあるのですか?また、例えば月が直径にして今の2分の1くらいに見えるとき、地球の1日は何時間で、それは何万(億?)年後であり、地球の1年は何日になっているのでしょうか(やはり365日ですか)? 【その他】
回答
 現代科学によれば、太陽系が形成され始めてから5000万年ほど経った頃(45.0〜45.2億年前)、原始地球に火星ほどの大きさの天体が衝突し、はじき飛ばされた岩石片が重力で凝集して、地球には不釣り合いなほど巨大な衛星として月が形成されたと考えられています(ジャイアント・インパクト説)。このときの衝突の勢いもあって、地球は今よりもかなり速いスピードで自転していましたが、月との潮汐摩擦の影響などで次第に回転エネルギーを失い、1日の長さが伸びていきました。現在でも、1年に0.000015秒の割合で長くなっています。一方、月の方は、地球の回転を遅くするときの反作用でエネルギーを得て、少しずつ遠ざかっています。月との距離は、アポロ宇宙船が着陸した際に月面に設置してきた反射板にレーザー光線を反射させることによって、センチメートル単位で測定できますが、現在の測定値によると、1年に3.8cmの割合で地球から離れていることがわかっています。
qa_fig23.gif  地球の自転周期を変化させる最大の要因は、月の重力が地球を変形させることによって生じる摩擦力(潮汐摩擦)です。海水が月に引き寄せられて干満を繰り返すのは周知の通りですが、地球自体も、ほんの少し変形することがわかっています(右図;誇張して描いています)。月の(見かけの)位置が変わると、それにつれて岩石も移動して摩擦が生じるため、回転エネルギーが摩擦熱となって散逸してしまいます。こうして、地球の自転速度は、少しずつ遅くなっているのです。また、地球が月に及ぼす潮汐摩擦のせいで、月は地球に対して回転するエネルギーを失い、いつもこちらに同じ面を見せていますし、木星の衛星イオでは、木星からの巨大な潮汐力による摩擦熱が岩石を溶かすため、今なお火山活動が続いています。
 他の天体からの重力や地球内部の質量移動を無視しても良いならば、地球の自転周期と月までの距離の関係は、比較的容易に導けます。簡単のため、地球の自転軸は月の公転面に垂直で、月は地球の周りで円軌道を描く質点だと仮定しましょう。このとき、地球−月システムの角運動量が保存するので、高校の物理で習う次の式が成り立ちます。
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ここで、第2式を第1式に代入して変形すれば、
qa_fig25.gif

となり、地球の自転周期が伸びるにつれて月の軌道半径が大きくなることがわかります。
 ただし、実際には、上の関係式はあまり良い近似になっていません。地球の自転が遅くなるのは、月からの潮汐力だけではなく、太陽からの潮汐力をはじめとしてさまざまな要因が絡んでおり、毎年0.000015秒という周期の変化のうち月の影響は半分程度に過ぎないからです。
qa_fig26.gif  時間とともに地球の自転周期や月までの距離がどのように変わってきたかは、潮汐摩擦の効果が月までの距離に依存して変化するので、簡単な関係式では表されません。潮汐力の大きさは、地球の中心から月までの距離の3乗に反比例する(1/r2のグラフの傾きに比例する)ので、月が出来たばかりでロシュ限界(その内側では潮汐力で衛星が破壊されてしまう距離)付近(〜50,000km)にあったときは、月までの距離が384,000kmの現在に比べて潮汐力が数百倍も強く、地球も赤道直径が極方向の2倍近い扁平な形をしていて、自転に急ブレーキが掛かっているような状況でしたが、その後、月が遠ざかるにつれて、潮汐摩擦の作用は次第に弱くなってきています。ただし、1割程度の誤差を無視する範囲では、ここ数億年ほどの間はこの作用はコンスタントであり、地球の自転が遅くなる/月が遠ざかる割合も一定だと見なして良いでしょう(これは、右図で赤線部分を直線で置き換える近似です)。この近似を使えば、月までの距離の変化は、毎年3.8cmという観測値に現在からの時間を掛ければ求められます。
 地質学的な調査によれば、今から9億年前の先カンブリア紀には、地球の1日が18時間であることが明らかになっています(上で述べた毎年0.000015秒というペースを9億年前まで外挿すると1日=20時間となり、1割程度の誤差があります)。このとき、地球の1年は480日ほど、また、月までの距離は約35万kmで、現在より2割ほど大きく見えていたはずです。

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©Nobuo YOSHIDA