★★ プチ回答 ★★

表紙を表示する

 このページには、さまざまな理由によりQ&Aコーナーで回答できなかった質問のうち、取りあえず簡単な返答を書けるものを集めてあります。いずれも、きちんと調べた上での回答ではありませんので、内容に不備があるかもしれませんが、ご了承ください。


質問 アインシュタインやニュートンなどの偉人たちの直筆の論文を閲覧することはできますか。【その他】
回答
 どちらも、原稿の一部をネット上で閲読することができます。ニュートンに関しては、 Cambridge Digital Library にある Newton Papers のページ (http://cudl.lib.cam.ac.uk/collections/newton) に、プリンキピアなどの直筆原稿が無料公開されています。アインシュタインの論文は、ヘブライ大学が公開している Albert Einstein Archives (http://www.alberteinstein.info/)にあります。目的の論文を探し出す方法がわかりにくいのですが、論文のタイトルが判明しているならば、 Archival Database のページにある送信フォームにタイトルを入力すると良いでしょう。

【Q&A目次に戻る】

質問 魔法瓶が嵩張るのですが、手動でポンプ等を用いてペットボトルを冷やす器具は作れませんか?【その他】
回答
 通常の冷蔵庫は、冷媒(モントリオール条約でフロンが禁止されてからは、イソブタンなどが使用される)を圧縮・液化した後に気化させ、気化熱を奪うことで冷却しています。しかし、この方式では、手動ポンプで圧縮・気化させる冷却装置を作ったとしても、魔法瓶よりはるかに嵩張るものになってしまうでしょう。
 小型の冷却装置を作るには、ペルチエ効果を利用する方法が考えられます。これは、半導体を層状に重ねた素子に電流を流したとき、一方の面から他方の面へと熱が移動し、高温と低温の面になるというものです。高温になる面から熱を効率的に除去することができれば、数十ワット程度の消費電力で小型冷蔵庫として機能するはずです。
 例えば、サイクリングをする際に、人力発電機とペルチエ式クーラーを荷台に積んで持参し、目的地に着いた後、さらにがんばって何十分かペダルを漕ぎ続けて発電すれば、冷たいジュースが飲めるわけですが……多分、魔法瓶を持っていった方が楽だと思います。

【Q&A目次に戻る】

質問 地球の陸上は緑で覆われていますが、なぜ海面は光合成プランクトンで覆われないのでしょうか?【その他】
回答
 私は生物学者ではないので確実なことは言えませんが、移動が可能かどうかによると思われます。地上の植生は、生えている場所を占有し太陽光を独占します。水上でも、淀んだ沼のように水の移動がほとんどない場合は、しばしば水面を藻が覆い尽くしてしまいます。これに対して、海では潮流や海面に吹き付ける風のせいで、光合成を行う植物が特定の場所を占拠することはできません。海上はどこでも同じではなく、潮目や大陸棚との位置関係によって物理的な状態が大幅に異なるため、植物プランクトンのバイオマスにも場所による濃淡が生じ、それが潮流や気象の影響で移動していきます。こうした動的なプロセスがあるので、海面全体を植物プランクトンが覆い尽くす事態にはならないのでしょう。
 さらに、海中には鉛直方向の拡がりがあります。深海底にもプランクトンの死骸や噴出する熱水などを利用するエビやカニ、チューブワームが生息しており、海面から深海底に至るまで多様な生態系が実現されています。中でも、俊敏な運動能力を持つ魚類や海棲哺乳類(および巨大な神経軸索を持つイカ)は、プランクトンやオキアミの豊富な海域に速やかに移動して捕食するため、バイオマスの分布に影響を与えています。
 ただし、こうした精妙な生態系を人間が壊すこともあります。都市に近い海域では、人間が排出する窒素やリンによって富栄養化が進み、その結果としてプランクトンや藻類が増殖します(光合成する植物プランクトンでも栄養塩類は生存に欠かせません)。特に、潮流の弱い閉鎖的な海域では、海面を植物プランクトンが覆った例外的な状態である赤潮が発生します。富栄養化が進んだ海域では、植物プランクトンを栄養源とするバクテリアの活動で酸素濃度が下がるため、酸素を大量に消費しながら動き回る魚類は生存しにくくなり、ゆっくりと動きながら豊富にある栄養をちびちびと摂取するゼラチン質の生物(クラゲ・ナマコ・ヒトデなど)が幅を利かせています。

【Q&A目次に戻る】

質問 宇宙で真っすぐ進むと一周回って元の場所に戻って来る−−と聞いたんですけれど、本当ですか? 本当だとしたら、一周回って戻って来たとき、大きさが変わったり左右が反転していたりはしますか?【現代物理】
回答
 宇宙が4次元球面の表面のような形状をしており、直進し続けると一周して元の場所に戻ってくるというモデルは、1917年にアインシュタインが提案したものです。現実の宇宙がこの通りならば、確かに一周して戻って来られるのですが、その後の研究によって、アインシュタインのモデルは不安定であり、現実的でないことが示されました。理論と観測によって支持されている宇宙は、ビッグバン以降ずっと膨張し続けているというもので、宇宙全体の形状に関しては、単に途方もなく巨大だということがわかっているだけです。少なくとも観測可能な100億光年程度の範囲では、空間を球面状にするために必要なゆがみは見いだされていません。
 仮に、宇宙空間が数千億光年かそれ以上の拡がりを持つ球面の形をしているとしても、宇宙が膨張を続けている限り、一周することはできません。宇宙船が航行するスピードよりも、遠方での膨張速度の方がずっと速くなり、どう頑張っても地平線の彼方に到達することができないからです。あるモデルによると、遠い未来に宇宙の膨張は止まって収縮に転じるとされるので、この時期には宇宙空間を一周することが原理的に不可能でなくなります。しかし、現在の観測データは、膨張が永遠に続くことを強く示唆しており、宇宙一周は夢物語のようです。
 現実の宇宙ではなく理論的な考察の範囲ならば、いろいろな可能性があります。アインシュタインのモデルでは、一周して戻ったときに大きさの変化や左右の反転が起きることはありませんが、そうした現象が起きるようなモデルを構築することは不可能ではないでしょう。もっとも、現実的ではないという理由で学界では注目されないでしょうが。

【Q&A目次に戻る】

質問 4つの力の一つ「弱い力」の命名について質問です。重力・電磁気力は普通にイメージしやすいですし、強い力も「核力」と言われればイメージできる人も多そうな気がしますが、弱い力と言われると???となりそうです。電磁気力と比べて非常に力が弱いことから名付けられたそうですが、もっと適切なのはなかったものかと思ってしまいます。もし仮に「弱い力」を命名しなおすならばどのようにされますか?【現代物理】
回答
 1930年代初めまで、原子核の中で何が起きているかは全くわかっていませんでした。全体として正の電荷を持つのになぜか構成要素となる粒子(1932年になって陽子と中性子だと判明する)が堅く結合している、いくつかの原子核はα崩壊やβ崩壊のような放射性崩壊を起こす−−など、解決のつかない謎がいくつもあったのです。そうした中で、まずハイゼンベルクが、電子が力を媒介して陽子と中性子を結びつけているという説を発表したものの、理論として多くの矛盾点を抱えていました。そこでフェルミが、ハイゼンベルクの理論が持つ矛盾を解消すべく、β崩壊を引き起こす力が陽子と中性子を結合させていると論じたのですが、すぐに、この力は「弱すぎる」という厳しい批判にさらされます。そうした中で、湯川秀樹が、クーロン力に打ち勝つだけの「強い」力で陽子と中性子を結合させる中間子のアイデアを提唱し、学界の支持を得るに至りました。このとき論点になったのが力の強さだったせいで、陽子・中性子が絡む相互作用を「強い/弱い」と分けるやり方が定着したと想像されます。
 1930年代の曖昧な呼び方がそのままずっと続けられたのは、物理学者があまり命名にこだわらないことの現れかもしれません。「強い相互作用(強い力)/弱い相互作用(弱い力)」の代わりに、前者がα崩壊、後者がβ崩壊にかかわっていることから「α相互作用(α力)/β相互作用(β力)」と呼ぶ手もあったでしょう(湯川・フェルミの名前は、相互作用の種類を表すものとして、「湯川(型)相互作用/フェルミ(型)相互作用」というように使われます)。

【Q&A目次に戻る】

質問 光速で走る粒子は質量ゼロでなくてはならないという理屈はわかるのですが、光子の質量がゼロとするとブラックホールは強大な重力のため光すら出ることができず見えない−−という説明はおかしいのではと思います。質量がゼロなら重力の影響は受けないのではないでしょうか。また、一般相対性理論を裏付けた実験、すなわち日食のときに太陽の重力で太陽方向の星の光が曲がるというのも、光子が質量ゼロで重力の影響を受けないのならおかしな話に思えます。時空がゆがむのであればわからないでもないですが。粒子の質量の有無にかかわらず、重力は粒子に影響を及ぼすと理解していいのでしょうか。【現代物理】
回答
 「重力は質量を持つ物体同士が引き合う力だ」というのは、ニュートンの重力理論です。アインシュタインの重力理論(一般相対論)は、重力が時空のゆがみに起因するという主張であり、質量ゼロの光でも重力の影響を受けることを含意しています。
 1919年に天体からの光線が曲がるかどうかの観測が行われた時点で、可能な理論は3つありました。(1)光に質量はなく光線は曲がらない(マクスウェルの光の理論+ニュートンの重力理論)、(2)光に質量があり光線は0.87秒曲げられる(ニュートンの光の理論+ニュートンまたはアインシュタインの重力理論)、(3)光に質量はなく光線は1.75秒曲げられる(マクスウェルの光の理論+アインシュタインの重力理論)。観測結果は1.61±0.30秒で、(3)が正しいということになりました。

【Q&A目次に戻る】

質問 閉じた系ではすべての化学的・物理的変化は、エントロピーが増大する方向に進むとのことです。宇宙を一つの閉じた系とみると、最終的にはエントロピーが増大しきった宇宙になるのでしょうか?【現代物理】
回答
 物理学者の中には、この宇宙のどこかでエントロピーがリセットされた新たな宇宙が創生される可能性を指摘する人もいますが、現在の物理学理論をナイーブに受け容れると、宇宙のエントロピーの増大を引き留めることはできないはずです。この宇宙が閉じた有限世界ならば、途中でビッグクランチを起こして宇宙全体がつぶれてしまいますが、永遠に膨張を続ける無限世界ならば、エントロピー(正確に言えば、質量あたりのエントロピー密度)はいつまでも増大していきます。この結果、まず、全ての天体が崩壊してブラックホールと長波長光(およびバラバラに飛び散った軽い素粒子)だけの状態となります。ホーキングの理論が正しければ、さらに永遠とも思えるような長い時間が経過した後に、ブラックホールすら蒸発して消滅し、宇宙は、何も起きることのない漆黒の闇の中に閉ざされます。

【Q&A目次に戻る】

質問 現段階では、宇宙空間が閉じているのか開いているのかまだ結論が出ていないという説を読みました。もし、宇宙が開いているのなら、ビッグバンにより誕生した直後も宇宙空間は開いていたのですか? それとも閉じていた宇宙がある時期に開いた宇宙になったのでしょうか?【現代物理】
回答
 宇宙が一般相対論に従って膨張しているならば、閉じていた有限の空間が途中で開いた無限空間に変化するとは考えられません。しかし、逆の可能性はあります。無限の拡がりを持つ母宇宙の有限部分が相転移を起こし、膨張する過程で母宇宙との(臍の緒のような)つながりであるワームホールが重力崩壊を起こしてちぎれたとすると、開いた宇宙から閉じた宇宙ができたことになります。

【Q&A目次に戻る】

質問 「卵とニワトリ」のような質問で恐縮なのですが、物理法則というものは、宇宙が始まる前から存在(用意?)していたのでしょうか? それとも、宇宙が生まれてから形成されていったのでしょうか? 現代の物理学者がどのような見解を抱いているか、ご存知でしたら教えていただけますか?【現代物理】
回答
 この質問は、宇宙とは何かという問題と絡んできます。もし、あらゆる存在を含むものが宇宙だとするならば、物理法則を宇宙から切り離すことはできません。「物理」とは、物(存在)の理(ことわり、ロゴス)であり、存在しないものについての法則は考えることすらできないからです。
 しかし、宇宙として、一般相対論の1つの解であるような「アインシュタイン宇宙」を想定するならば、話は別です。インフレーション宇宙論によれば、われわれが住むこの「アインシュタイン宇宙」は、母宇宙(マザーユニバース)の一部が相転移によって急激に膨張することで生じたという可能性があります。この場合、この宇宙の物理法則には、母宇宙からそのまま受け継いだものだけでなく、膨張の仕方などによって規定された固有の法則もあるはずです。例えば、重力やクーロン力が距離の2乗に反比例するのは、この宇宙の空間次元がたまたま3次元になった結果なのかもしれません。もっとも、実験や観測によって母宇宙の存在を検証することはほぼ不可能であり、物理法則を母宇宙から継承されたものとそうでないものに区別することも、現実問題としてできそうにありません。

【Q&A目次に戻る】

質問 不確定性原理について質問です。電子の位置と運動の状態は不確定性原理で同時には観測できないということになっていますが、それは電子が常に粒子として存在していることを前提としているように感じます。これは、「あらゆる場所に同時に存在する」という重ね合わせの考え方とそれている気がするのですが…【現代物理】
回答
 この疑問は実に正当なものです。ΔxΔp≧h/4π という不確定性原理は量子力学の基礎から導かれる式であり、厳密に成り立つものですが、この式のxとpが粒子の位置と運動量だというのは、一つの解釈でしかありません。粒子ならば、どこか特定の場所に位置していると考えるのが自然ですし、位置が不確定になるとすれば、それは粒子ではないと見なすべきでしょう。こうした二律背反性を、ハイゼンベルクら量子力学の建設者が訳の分からない哲学的議論によって糊塗したために、充分に説明されないまま放置されてしまったのです。
 量子場の議論を援用すれば、この問題はもう少しわかりやすくなります。不確定になるのは、リアルに存在する粒子の位置と運動量ではなく、量子場の粒子的な振舞いに関して定義された位置と運動量なのです。この考え方も一つの解釈ではありますが、「位置が確定しない粒子」よりも遥かにまっとうな見方だと思います。

【Q&A目次に戻る】

質問 E=mc2の公式においてm=0ならばE=0となります。ということは質量をもたない物質のエネルギーは0と解釈してよいのでしょうか。もしそうなら光子1個はエネルギーをもたないということでしょうか。【現代物理】
回答
 E=mc2 が成り立つのは、質量mの物体が静止している場合です。速度vで運動しているときには、
  E=mc2/(1-(v/c)2)1/2
という式に拡張されます(右辺の c2 以外の部分を広義の質量と見なす考え方もあります)。光子をはじめとする質量0の粒子は、常に光速cで動き回っているので v=c であり、右辺の分子も分母も 0 になってしまいます。これでは分数式の値が不定になるため、この式でエネルギーを定義することができません。光子の場合は、光の振動数をνとすると、光量子論におけるアインシュタインの関係式
  E = hν (h:プランク定数)
によってエネルギーが定義されます。

【Q&A目次に戻る】

質問 水に電圧や磁場をかけると水に変化が生じますが、その変化はいつまで持続されるものなのでしょうか。また、電圧や磁場をかけたときの水の変化のメカニズムを教えてください。【その他】
回答
 水分子 H2O では、負に帯電した酸素原子(O)の両脇に正に帯電した2個の水素原子(H)が“く”の字の形に結合しています。したがって、正負の電荷が分離した双極子モーメントを持つことになり、電圧を加えると、陽極に酸素イオンが、陰極に水素イオンが引っ張られて、分子の向きが変化します。また、専門的になるので詳しい説明はいたしませんが、電子配置の関係で、外部から加えた磁場に反発する磁場を発生させるという反磁性を有しており、超伝導電磁石などできわめて強力な磁場を加えると、そこから逃げるような動きを示すことがあります。ただし、いずれの現象も、外部から加えた電磁的な作用に対する応答であって、電場や磁場を取り除くと、ほとんど瞬間的に元の状態に戻ります。
 水を磁気で処理すると防錆効果や生体効果のある磁気活性水に変質するという主張もありますが、これは、物理学の常識に反するものです。鉄やコバルトのような強磁性体ならば、外部磁場を取り除いても磁化が残りますが、これは、電子のスピンが自然に同じ方向に揃う自発磁化と呼ばれる性質があるためで、水のような反磁性体で残留磁化が生じるとは考えられません。

【Q&A目次に戻る】

質問 物体が衝突した際の衝撃力を求める方法はありますか? 運動量の変化と力積の関係式:
  Δ(mv)=FΔt
のFの形を具体的に決定する、または、極大値を求めることはできるでしょうか? やはり、計算機を使って数値計算をするしかないのでしょうか?【古典物理】
回答
 衝撃力を簡単に計算することはできません。運動量の変化が同じであっても、体にぶつかるのがゴムボールか小石かでは痛さが大きく異なりますが、これは、ぶつかる際に物体がどれだけ変形するか、接触している時間はどの程度で、変形によって失われる力学的エネルギーはどれくらいかによって、作用する力が異なってくるからです。衝突するのが球のような簡単な形をした弾性体であり、変形に対する応力が式の形で与えられている場合は、運動方程式を解くことで解析的に力が求められます。しかし、一般のケースでは、応力やエネルギー損失などに関していくつかの仮定を置いた上で、コンピュータによって力ずくで求めるしかないでしょう。

【Q&A目次に戻る】

質問 熱についての質問です。巨視的なケースでは、ある物体が壁などにぶつかって跳ね返った場合、その前後でのエネルギーの損失は熱になったと言います。ところが、微視的な世界で分子が壁に衝突して跳ね返るときには、巨視的な世界とは異なって完全弾性衝突でなければならない気がします。と言うのは、高校で「熱とは分子の運動」と習ったことからすると、エネルギーが奪われるとしても、どのようにエネルギー変換されるのかわからないからです。いろいろ考えていくうちに、微視的な世界では摩擦というものはないのかと思ったりもするのですが、どうなのでしょうか?【その他】
回答
 原子・分子レベルでの微視的な世界でも、完全弾性衝突になるとは限りません。結晶の場合、原子は最も安定な状態を中心に振動することができます。このため、気体分子などがぶつかったときに、振動状態が変化することでエネルギーをやりとりすることがあります。また、原子核に堅く束縛されていない電子(伝導体にある電子)も、エネルギーを吸収ないし放出して状態を変化させることがあります。
 微視的な世界が巨視的な世界と異なるのは、やりとりされるエネルギーが必ずしも散逸しないという点です。巨視的な世界で運動物体の間に摩擦が生じると、運動エネルギーが熱エネルギーに変換され散逸してしまいます。しかし、微視的な世界では、そうとは限りません。例えば、結晶でできた容器に気体分子を閉じ込めている場合、気体分子が容器壁に衝突すると、気体分子が持っていた運動エネルギーの一部が結晶の熱振動のエネルギーに変換されることもありますし、逆に、結晶の熱振動のエネルギーが気体分子に与えられて、その運動エネルギーが増すこともあります。気体と容器の温度が等しい熱平衡状態では、容器を構成する結晶と気体分子の間で頻繁にエネルギーがやりとりされているものの、(原子から見て)長い時間にわたって平均するとエネルギー収支はゼロになり、あたかもエネルギーのやりとりがないように見えます(これが「熱平衡」ということの意味です)。初歩的な気体分子運動論では、こうした状況を「エネルギーのやりとりのない弾性衝突」で近似している訳です。

【Q&A目次に戻る】

質問 大学で量子力学を学んでいるのですが、「ミクロの世界ではニュートン力学が成立しない」ということがどうも納得できないでいます。例えば「電子は飛び飛びのエネルギー値を取る」といったこと。これは、自然の摂理でそうなるものと捕らえるしかないのでしょうか?「何故ニュートン力学が適用出来なくなってしまうのか」、何か教えて頂けると嬉しいですが。【その他】
回答
 確かに、自然の摂理と言えば摂理ですが…
 ニュートン力学は、あくまで人間が観察するようなスケールでのみ成り立つ近似的な理論でしかありません。宇宙論的なスケールになれば一般相対論が支配していますし、原子のスケールでは量子力学の効果が顕著になります。喩えて言えば、ニュートン力学は、バネにおけるフックの法則のようなものです。「バネの伸びは加えられた力に比例する」というフックの法則は、簡明でわかりやすのですが、厳密に成り立っている訳ではありません。あくまで、力が小さいときにだけ成り立つ近似的な法則でしかなく、力が大きくなるにつれて、比例関係ははっきりと破れていきます。ニュートン力学も、これと似たような近似的な法則でしかありません。
 量子力学に基づく振舞いは、確かに常識はずれの奇妙なものに見えます。ただし、この振舞いが顕著に現れるのは、関与する原子の個数が少ない範囲に限られます。多数の原子が相互作用しているようなケースでは、量子力学的な効果は打ち消されて目立たなくなります。例として、量子力学で記述されるバネについて考えましょう。周囲と全く相互作用しない孤立したバネならば、エネルギーが飛び飛びの値の1つに確定した波動的な状態だけが実現され、「おもりが振動をする」というニュートン力学の描像は成立しません。しかし、膨大な個数の原子から構成された周囲とエネルギーのやりとりをしていると、波のように拡がった状態は干渉を通じて破壊され、ニュートン力学と良く似た「おもりが振動する状態」に収束していきます(このことは、著名な物理学者であるファインマンが示しました)。このように、きわめて多数の原子で構成されたシステムは、個々の原子が量子力学に支配されていたとしても、全体としては、ニュートン力学に従っているように振舞います。この結果、全体的な振舞いしか観察することのできない人間は、物質世界がニュートン力学に支配されているように見えてしまうのです。

【Q&A目次に戻る】

質問 幼稚な質問で恥ずかしいのですが…。地球は1日で1回転(自転)しているので、空中で同じ場所でずっと浮かんで止まっていれば、半日たつと裏側の国まで行っている−−ということにならないでしょうか?【古典物理】
回答
 現実には、「空中の同じ場所に浮かんで止まっている」のが困難です。
qa_pt24.gif  地表に置かれた物体は、全て大地とともに回転運動をしています。スペースシャトルのような衛星軌道に乗るロケットの場合は、慣性の法則に従って、この回転運動の勢いを持って飛び出し、その後さらに加速して、地球の自転よりも速い回転運動を行う衛星となるのです。ロケット噴射によって自転による初速を打ち消そうとすると、莫大なエネルギーを使わなければなりません。
 図のように、真東に向かって地面に平行に飛び出し、地球が半回転したところで重力を利用して帰還すれば、地球の裏側に行けそうに思えるかもしれません。しかし、これでは、帰還するときの対地速度が自転速度の2倍近くになってしまいます。大気圏に再突入しようとしても、猛烈な気流に阻まれ、宇宙の彼方にはじき返されるでしょう。

【Q&A目次に戻る】

質問 2つの原子核が核融合をするとエネルギーが放出され、その分質量欠損が起き、出来上がった1つの原子の質量は元の2つの原子の質量の単純合計より小さくなりますよね。百科事典によると各原子の原子量は陽子・中性子の単純合計より約1%小さいとありました。また、一つの原子が核分裂によって2つの原子になった場合(仮に正確に2等分されたとします)、核分裂によってエネルギーが放出され、分裂して生じた2つの原子の1つ分の質量は、元の原子1つ分の質量の1/2より小さくなるはずです。また、化学反応においてもエネルギーが放出されれば微々たる量とは言え質量欠損は起きます。以上の前提が正しければ(正しいか不安ですが)、ある陽子やある中性子がある原子に取り込まれ、その原子が核融合や核分裂や化学反応をして…などという過程を繰り返すと、そのたびにエネルギーを放出するわけなので、その陽子や中性子は、どんどん質量が減っていくという結論になります。
(1)以上から、宇宙全体の質量は年を経るごとにどんどん減っていくと考えてよいのでしょうか。
(2)宇宙を構成している陽子と中性子は、全て異なる経歴を持っているはずですから厳密にはどれ一つとして同じ質量のものはないと思うのですが、実際はどうなのでしょうか。【現代物理】
回答
 核融合の際にエネルギーが放出されるのは、融合後の原子核の方が融合前よりも質量が小さい場合だけですが、こうしたケースは、質量数が鉄より小さい元素のときに限られます。ビッグバンの直後には、宇宙には水素とヘリウムしかありませんでした。この水素とヘリウムが恒星の中心部で核融合をしていくことにより、炭素・窒素・酸素といった水素やヘリウムよりも重い元素が次々と誕生するとともに、質量欠損の分だけ放出されたエネルギーで恒星が光り輝きます。しかし、エネルギーを放出する核融合は、鉄が生成された段階で終焉を迎えます。鉄原子核に何を融合させても質量は増えてしまうので、それ以降の核融合が起きることはもうないのです。
 一方、エネルギーを放出する核分裂を起こすのは、鉄よりもずっと質量数の大きい元素だけです。こうした元素は、寿命を終えた恒星が最後に超新星爆発を起こす際に、爆発のエネルギーを吸収して生成されます。質量欠損を伴う核融合で生成されたのと同じ元素が核分裂する訳ではありません。
 また、化学反応に関しては、エネルギーを吸収する反応(吸熱反応)と放出する反応(発熱反応)があります。
 このように、核反応も化学反応もエネルギーを吸収したり放出したりしながら進行しており、エネルギー(あるいは質量)が一方的に減ることはありません。
 なお、質量欠損は原子核全体の質量に関するものであって、内部に存在する個々の陽子や中性子の質量とは直接結びつきません。原子核内部にある陽子の質量を測定しようと外部に取り出す際には、エネルギーを加えて弾き出さなければなりません。こうして測定されるのは、物理法則によって定まる陽子固有の質量です。

【Q&A目次に戻る】

質問 原子と原子の距離を決めている原理は何ですか?「原子核(陽子)と原子核の斥力および間に存在する電子との引力の釣合いに、熱による原子核の運動が干渉する」でOKでしょうか? さらに量子力学的な力が加わるのでしょうか?【古典物理】
回答
 原子の間隔は、主に、原子核および電子の間に働く電気的な力によって決定されます。磁気的な力も作用しますが、原子間隔に対しては大きな影響はありません。また、原子核の近傍に束縛されている電子は、ほとんど原子核の電荷を遮蔽する効果しかないので、「原子核+近傍の電子」をひとまとめにした陽イオンを考えてもかまいません。
 実際の計算を行う場合は、原子核(あるいは陽イオン)間・電子間・原子核−電子間の距離の関数として表した電気的な位置エネルギーをもとに、シュレディンガー方程式を立てます。質問文には、「量子力学的な力」が別に考慮できるかのように書かれていますが、1つのシュレディンガー方程式の中に交換相互作用のような量子力学的な効果も含まれてしまい、別々に扱うことはできません。原子数があまり多くない孤立した分子の場合、コンピュータを用いてシュレディンガー方程式を近似的に解くことにより、原子間隔を高い精度で求めることが可能です。
 結晶の場合は話が少し厄介になりますが、いろいろな近似を組み合わせれば、熱による原子間隔の変化を求めることができます。

【Q&A目次に戻る】

質問 人間(人類)が「SEXをすると妊娠しやがて出産に至る」という性交と出産の因果関係を結びつけられたのはいつごろなのでしょうか? またその発見のきっかけはどんなものだったと思われますか?【その他】
回答
 さすがに、こうした分野にはあまり詳しくありません。女性の分娩能力を強調したヴィーナス像が後期旧石器時代から制作されていた(例えば、ドイツではマンモスの牙で作った3万5000年前の女性像が発見されています)のに対して、男性生殖器をかたどった像が現れるのは、紀元前1万年以降の新石器時代になるので、その頃に性行為と出産を結びつける発想が生まれたのではないかと推測されます。

【Q&A目次に戻る】

質問 高校の文化祭で、化学部・生物部、およびそれぞれの下部組織としてある非公式の物理部・地学部で何か合同の展示をしようという話が出ています・そこで、化学生物物理地学全てがうまく絡むような展示のテーマは何かないでしょうか。ここ2ヶ月ほど色々と考えているのですが、なかなかうまい案が出ません。3教科までなら何とかなるのですが…。【その他】
回答
 それならば、宇宙生物学に関する展示はどうでしょうか? 宇宙における生命の発生、知的生命の存在確率といったテーマは、自然科学の全分野に関連するものです。
 生命発生の可能性がある領域はハビタブルゾーン(habitable zone)と呼ばれ、環境の恒常性や液体状態の水の存在など、満たすべき条件がいくつか提案されています。生命が発生できるような恒常的な環境が実現されるには、恒星の寿命が数億年以上あること(地学の問題)、近接連星系内部でも巨大質量を持つ惑星の近傍でもないこと(物理学・地学の問題)、大気や磁気圏を保持できる程度の質量があること(物理学・地学の問題)−−などが要請されます。さらに、電気モーメントの大きい水分子が液体として存在することは、水和を通じて高分子間の複雑な反応を可能にするために必須だと考えられています(化学の問題)。水が液体でいられる条件は、大気の組成を地球と同じなどと仮定すれば、恒星の光度と惑星までの距離に関する制限として示されます(物理学・地学の問題)
 ハビタブルゾーンにある惑星表面でどのようにして生命が発生するかについては、確定した結論はありません。無生物的にアミノ酸を合成できることは、有名なユーリ・ミラーの実験をはじめとして数多くの実験が示しています。しかし、具体的な反応過程やエネルギー源、生命誕生の場所(浅い海か深海か)、最初の生命の構造(膜構造の有無)と遺伝物質の種類(RNAかタンパク質か)などについては、議論が紛糾しています(化学・生物学の問題)
 こうした議論をふまえて、自分たちでドレイクの式(コンタクト可能な知的生命の数を予想する式)を再考察してみてはいかがでしょうか?

【Q&A目次に戻る】

質問 テレビで、車の上に風車を取り付け、走行時に受ける風で発生した電気を行灯に利用することにより、エネルギーの節約を図っているタクシー会社が紹介されていました。しかし、風車を回す分、車の走行抵抗が増えると思うのですが、それでもエコロジー効果はあるのでしょうか。【その他】
回答
 質問者のお考えの通り、エコロジー効果があるとは思えません。車体を通り過ぎる風は、摩擦熱やフラッターなどのエネルギーの散逸を引き起こすことがあり、これを何らかの形で利用できれば節約効果があるかもしれません。しかし、風力発電タクシーを紹介したウェブページを見ると、屋根の上に突出する形で風車を取り付けているので、かえって空気抵抗を増して燃費を(ほんの少しですが)悪くする結果になっているはずです。エネルギー効率を考えるならば、いったん車体の運動エネルギーに変えてから再利用するよりも、車内で電気エネルギーに変換した方がマシです。
 本格的にエネルギーの節約を図るならば、減速の際に運動エネルギーを電気エネルギーに変換する「回生ブレーキ」(ハイブリッドカーのケースが良く知られているが、ガソリン車への搭載も行われている)や、消費電力の少ないLEDの採用などが有効です。どちらも、それなりの初期投資が必要ですが。

【Q&A目次に戻る】

質問 数学について質問です。
自然数の集合から一つの数pをとりだしたとき、pが奇数である確率は1/2ですよね? …(1)
自然数なのでpを素因数分解して
  p=2a1×3a2
と表せます。ここで、各素数の指数の数列{a1 a2 …}の集合から一つの数列を取り出した場合、その数列のa1が0(pが奇数⇔a1=0)である確率は、a1が無限に値を取り得ることを考えると直観的には0に等しい気がします。 …(2)
このように(1)(2)の2通りの操作で再現される自然数pが奇数である確率は等しいと考えたいところなのですが、(1)では1/2、(2)では0となります。どのように考えればよいのでしょうか?【その他】
回答
 自然数全体を母集団として、そこから1つの数を無作為に選び出したとき、その数が奇数である確率は1/2です(「無限集合から1つの数を選び出せるのか?」という疑問があるかもしれませんが、「できる」というのが数学の前提です)。(2)のケースは、無作為に選び出すという操作ではなく、奇数・偶数を構成する特定の方法を与えるものです。
 奇数・偶数を構成する方法は無数にあります。例えば、任意の自然数をn(≠0)として、偶数を 2n、奇数を 2n-1 と定義することができます。ところが、この方法では、ある自然数nに対して偶数と奇数が一意的に定められるので、自然数と偶数または奇数の間に1:1対応が成立します。これは、自然数全体の集合と偶数または奇数全体の集合が同じ大きさであることを意味するように見えます。
 一方、質問文の(2)のケースのように偶数を構成することもできます。ある奇数をnoddとすると、偶数は、任意の自然数をnとして、2n×nodd という形で表されます。これを見ると、偶数は奇数より遥かに多いような気になります。また、2n は自然数全体と1:1対応していますから、偶数全体の集合は、自然数集合の2乗と1:1対応している訳です。これは、偶数が自然数よりも遥かに沢山あることを意味するようにも見えます。
 こうした奇妙さは、自然数全体のような無限集合を扱うときに付き物です(「無限集合は存在しない」という立場を取れば奇妙さはなくなりますが、数学の理論構造が不自然になります)。自然数全体の集合を N、無限の元を持つ真部分集合を N' とすると、N' は N とも N2 とも、あるいは、N3、N4 … とも1:1対応させられます(ただし、NN には1:1対応させられません)。元の対応付けによって集合の大小を判定するという考えに基づくならば、これらの無限集合の間に大小関係を決めることができないのです。そこで、集合論では、N' も N2 も全て自然数全体と同じ大きさの集合(可算無限集合、アレフゼロの集合などと呼ばれる)として扱われています。

【Q&A目次に戻る】

質問 2価の銅イオンなどはどうして色づいて見えるのですか? 物理の教科書には、電子のエネルギー準位に絡めて、「1つ上のエネルギー準位とのエネルギー差に相当する波長の光を吸収するため」というような説明が書いてあるのですが、この電子がまた下のエネルギー準位に戻る際には同じ波長の光を放出する(と、これも教科書より)ので、結局は変わらないのではないかと思うのです。【古典物理】
回答
 金属原子の周囲に配位子が結合したいわゆる「金属錯体」には、特有の美しい色をしているものが多くあります。金属錯体のスペクトルについては昔から研究が盛んで、現在では、「配位子場理論」と呼ばれるジャンルを形成しています。ここでは、そのさわりだけを簡単に述べておきます。
 金属の銅は赤っぽい色をしていますが、硫酸銅のようなイオン化合物の結晶(水和物)や水溶液は、美しい青色をしています。これは、硫酸銅では、銅原子の周囲に4個の水分子が配位して錯イオン [Cu(H2O)4]2+ を形成しているためです。2価の銅イオンには27個(銅の原子番号29引く2)の電子がありますが、このうち18個が化学反応や色に関与しない“芯”の部分(1s22s22p63s23p6)に含まれており、残りの9個がd軌道と呼ばれる外側の軌道を回っています。電子の軌道は“数が限られた座席”のようなもので、座席に腰を下ろせる(=軌道に入れる)電子数には上限があります。d軌道の上限は10個なので、2価の銅イオンにはd軌道に“空席”が1つあることになります。水分子が配位していない場合、10個の座席は全て同等でエネルギーの差はなく、青の発色はありません(硫酸銅の結晶でも無水和物は白色です)。しかし、周囲に配位子が集まると、その電気的な作用によってd軌道が変形し、エネルギーの高い状態と低い状態に分裂します。ここで、d軌道の高いエネルギー状態に“空席”があるとき、低いエネルギー状態の電子は光を吸収して空席に遷移することができます。この遷移が銅イオンの青色をもたらしています。
 質問にもあるように、遷移には、光を吸収して高いエネルギー状態に移る場合と、光を放出して低いエネルギー状態に移る場合があります。このとき、吸収・放出されるエネルギーは等しいため、光の色は同じになります。しかし、吸収前と放出後の光の進み方は同じではありません。例えば、溶液の背後に光源があって、目に向かって進んできた光の一部が吸収された場合、たとえ低いエネルギーへの遷移が起きて同じ色の光が放出されたとしても、その向きは一般に視線方向とは異なっています。このため、目に到達する光では、吸収された波長の強度が減少しており、溶液は吸収された光の補色に色づいて見えます。

【Q&A目次に戻る】

質問 ビッグバン宇宙論によれば、現在の宇宙では空間が膨張しており、遠距離の銀河は膨張する空間に乗って遠ざかっていると説明されています。また、今後は重力により空間の膨張が縮小に変わるとも説明されています。ここで質問なのですが、現在の科学で空間を任意に移動・膨張・縮小することができることは立証されているのでしょうか? また、実験等により証明されているのでしょうか?【現代物理】
回答
 空間が膨張・縮小することを示すのは、アインシュタインが提唱した一般相対論ですが、この理論特有の効果が現れるのは、ブラックホール近傍のようにきわめて重力が強い領域か、宇宙論的なスケールの現象に限られているため、地球周辺での実験によって何らかの証明を行うのは困難です。数学的なモデルを元に一般相対論に基づく理論的予測を行い、これを観測データを比較することで、一般相対論の正当性を検証するしかありません。
 遠方の銀河ほど高速で離れていくように見えるという1929年のハッブルの発見に対して、空間が膨張しているという一般相対論による解釈の他にも、いくつかの提案がなされてきました。例えば、ヴァイツゼッカーは、当初は特定領域に凝集していた始源物質が大爆発を起こして飛び散り、その破片が銀河になったと解釈しましたが、この解釈では、銀河たちの視線速度が距離に比例して大きくなるというデータをうまく説明できません。また、ハッブル自身は、遠方の銀河に見られる光の赤方偏移は、実際に遠ざかる運動を意味するのではなく、空間を伝播する過程で光子がエネルギーを失って波長が伸びる効果を示すものだという解釈を紹介していますが、散乱されることなく光子がエネルギーを失うメカニズムが示せなかったなどの理由で、この解釈も最終的には棄却されました。こうして、空間の膨張を含意しない他の仮説が次々と廃れていく中で、一般相対論だけが、全てのデータと矛盾しないほとんど唯一の仮説として生き残ってきたのです。
 もしかしたら一般相対論は間違っており、空間は伸びも縮みもしないという理論が復活することがあるかもしれませんが、これまでの科学史における理論の消長過程を見る限り、一般相対論を打ち負かすような対抗理論が現れるとは考えにくいのが現状です。

【Q&A目次に戻る】

質問 iPS細胞やES細胞から得られた神経細胞を移植することで、脳の老化を食い止めることは、将来的に可能になるでしょうか?【その他】
回答
 19世紀末から20世紀後半まで、哺乳類の中枢神経系で神経細胞の増殖は起こらないと思われてきましたが、1980年代に成体マウスを用いた実験で、幹細胞から神経細胞が新たに生まれることが確認されました。もともと増殖が起こらない細胞ならば再生医療は困難でしょうが、少ないながらも増殖能力があるからには、iPS細胞やES細胞を使って損耗した神経細胞を補うことも可能になるかもしれません。日本では、マウスのES細胞から大脳皮質の神経細胞を誘導したり、脊髄を損傷したマウスにiPS細胞由来の神経前駆細胞(ニューロンに分化する前の段階の細胞)を移植して症状を改善させたりすることに成功しています。この方向で研究が進めば、中枢神経系の再生医療も夢物語ではなくなります。
 ただし、こうした再生医療をもってしても、「脳の老化を食い止める」ことができるとは思えません。脳梗塞やアルツハイマー病などによって神経細胞が失われた部位にiPS細胞やES細胞から誘導した神経前駆細胞を注入すると、新たに神経細胞が生まれるかもしれませんが、元のシナプス結合まで再現できる訳ではないからです。記憶や知能はシナプス結合のパターンの中に刻み込まれていると考えられるので、神経細胞の喪失とともにこれらも消滅し、再び学習し直さなければならない初期状態に戻ってしまうでしょう。脳の再生医療は、うまくいったとしても、大幅に失われた機能を少しだけ回復させるためのものにすぎません。

【Q&A目次に戻る】

質問 長方形の天板の4角に脚があるテーブルの中央に10kgのおもりを置いた時、机の自重を考えないとすると各々の脚には1/4の2.5kg重が掛かりますが、このおもりを各々の脚から等距離でない位置に置いた場合はどう計算するのか教えて下さい。【その他】
回答
 4つの脚に掛かる力を順に F1,F2,F3,F4 とします。この4つの力が満たすべき式を考えてみましょう。まず、力の総和がおもりの重量に等しいという式があります。
  F1+F2+F3+F4 = Mg (Mはおもりの質量)
次に、机の縦方向・横方向に関するモーメントの式ですが、これは、隣り合う2つの力の和が幾何学的に定まる比をなすというものなので、
  F1+F2 = a(F3+F4)
  F1+F4 = b(F2+F3)
という形の式で表されます。質問の条件だけでは、力を求めるために使える式は、この3つしかありません。未知数はF1〜F4の4つで方程式が3つですから、答えは不定になります。
 答えが定まらない理由は、おもりを支えるには脚が3本で充分だからです。3本の脚の付け根が作る三角形の中におもりが位置しているとき、残りの1本の脚を取り外しても机は転倒せずに立っています。つまり、この脚に掛かる荷重は、0kg重から最大5kg重の間のどの値でもあり得るのです。実際に各脚にどれだけの荷重が加わるかは、脚長の僅かな差や天板の弾性によって決まります。

【Q&A目次に戻る】

質問 シュレディンガー方程式を導く文献を読んでいて疑問があり、質問しました。導出の過程で、多くの文献では、E=P2/2mという関係を使っています。しかし、特殊相対性理論の式
  E = mc2(ただし、m = m0/(1-β2)1/2, β=v/c)
と、一般的な運動量の式 P = m0v を使って求めていくと、同じ形の式にならずに悩んでいます。どこかに間違いがあるのでしょうか?【古典物理】
回答
 特殊相対論における運動量の式は、厳密には、
  P = m0v/(1-β2)1/2
です(相対論の教科書をご覧ください)。これとエネルギーの式と比較すると、
  E2 - P2c2 = m02c4
となります。したがって、
  E = m0c2 (1 + P2/m02c2)1/2
となるので、()1/2 の部分を展開して、
  E = m0c2 (1 + P2/2m02c2 + …) = m0c2 + P2/2m0 + …
が得られます(この式は、v を使って表したエネルギーと運動量の式から v を消去しても求められます)。非相対論的な式は、上の…の部分が小さいとして無視したものです。
 時間に依存するシュレディンガー方程式は、
  (ih/2π)∂Ψ/∂t = HΨ
という形をしています(これを知らない場合は、量子力学の教科書で勉強してください)。ただし、H は位置と運動量を使って表したエネルギーの式(ハミルトニアン)において、運動量Pを微分演算子(-ih/2π)▽ (▽はナブラのつもり)で置き換えたものです。自由粒子の場合は、上の E の表式を使って
  (ih/2π)∂Ψ/∂t = ( m0c2 + P2/2m0
と書き、運動量Pの置き換えをすれば、シュレディンガー方程式が得られます。
 もっとも、m0c2 は単なる定数項なので、いちいち記すのは邪魔です。そこで、
  Ψ → Ψ' exp(-2πi m0c2t/h)
とすれば、邪魔な定数項を含まない
  (ih/2π)∂Ψ'/∂t = P2/2m0Ψ'
という式に変換されます。通常は、この式(にPの置き換えをしたもの)をシュレディンガー方程式と呼んでいますが、本当の波動関数は、この式を解いて得られるΨ' に exp(-2πi m0c2t/h) という振動係数が掛かったものです。

【Q&A目次に戻る】

質問 長野県に波動強命水「活」という飲料水(500ml/2000円)が売られています。純水なのですが、なにやら健康にいいと紹介されています。科学的な効能があるのでしょうか?【その他】
回答
 波動強命水とは何か知らなかったので、紹介しているホームページを見たところ、長野県諏訪地方の水を原料とし、フィルターで濾過して不純物を取り除いた後、「独自の特殊製法」で「波動を超強力に記憶させ」て作っているとのこと。また、「正常波動を細胞に共鳴させる」という記述も見られます。しかし、水分子に波動を記憶させることは物理的には不可能ですし、水の波動(水分子の固有振動?)と細胞が共鳴することもありません。このページの記述は、科学的な立場からは理解不能です。
 同じページに掲載されている長野県食品衛生協会による水質検査の結果を見ると、水質基準を逸脱する濃度の不純物は検出されていないものの、いわゆる純水ではなく、1リットル当たり 0.7mg の有機物などが含まれているとのことです。ただし、その成分は不明であり、これが生体に何らかの影響を及ぼすかどうかはわかりません。水質基準を満たしているので、飲用しても害はないと思いますが、何らかの効能があるとは期待しない方が良いでしょう。

【Q&A目次に戻る】

質問 恒星間航行の実現性はどのくらいあるのでしょうか? 21世紀のうちに可能になるでしょうか?【その他】
回答
 無人探査機を数光年の距離にある恒星付近に到達させるだけならば、現在の技術でも実現可能ですが、到達までに数千〜数万年掛かります。到達時間をこの1000分の1以下にするには、革新的な宇宙航行技術が必要なので、有人往還機の開発は今世紀中には無理でしょう(映画『猿の惑星』に出てくるような数百年掛けての片道渡航ならば、今世紀中の出発が可能かもしれませんが)。
 現在の惑星探査機は、地球の重力圏を脱した後、スイングバイ航法によって加速しています(スイングバイ航法に関しては、「スイングバイ航法における加速メカニズム」についての回答を参照してください)。この方法では、秒速数十キロメートルまで加速することが可能ですが、それでも光速の1万分の1程度であり、太陽系に最も近い4光年彼方のプロキシマ・ケンタウリに到達するまで何万年も掛かってしまいます。スピードアップのためには、エネルギー源を搭載して自力で加速しなければなりません。と言っても、通常のロケット燃料では重すぎるので、核融合か対消滅のような新しいエネルギー源の開発が必要となります。核融合に関しては、ITERという巨大な熱核融合実験炉の建設が決まっていますが、実用段階に達するのは(たとえ可能だとしても)今世紀後半から来世紀以降であり、宇宙船に搭載できる小型核融合炉の実用化はその先になります。対消滅エンジンは、いまだSFの世界でのみ語られる夢物語でしかありません。

【Q&A目次に戻る】

質問 富士山の山頂では気圧が低いから100℃未満の温度で水が沸騰する、と聞きます。では気圧をどんどん下げていったら、人間は自分自身の体温で沸騰してしまうのでしょうか?【その他】
回答
 恐ろしいことですが、実際に沸騰します。この件に関しては、「宇宙空間に生身の人間が放り出された場合、どのようになってしまうのでしょうか?」という質問の回答として説明していますので、そちらをお読みください。

【Q&A目次に戻る】

質問 ボソンが各々の場の励起なら、フェルミオンも各々の場の励起なのでしょうか?【現代物理】
回答
 その通りです。光子のようなボソンは、注入されたエネルギー量に応じて何個でも生成され、最終的には他の素粒子に吸収され消滅してしまうので、粒子と言うよりも場の励起状態としてイメージしやすいのですが、電子やクォークのようなフェルミオンは、個数(正確に言うと粒子数と反粒子数の差)が保存され、反粒子と出会って対消滅しない限りは存在し続けるので、いかにも粒子であるかのように見えます。しかし、個数の保存はフェルミオン場の性質から導き出される物理法則であり、粒子としての実体を有しているからではありません。電子やクォークは、電子場やクォーク場の励起状態に他ならないのです。
 こうした状況に関しては、私の著書『光の場、電子の海』第7章で解説していますので、参照してください。

【Q&A目次に戻る】

質問 水と油が混ざらないで分離する理由を調べていたんですが、「極性分子と無極性分子だから」と「比重が異なるから」という2つの説明が出てきます。どちらが正しいんでしょうか? もし後者が正しいのなら、宇宙ステーションの中のように無重力状態なら混ざり合うということでしょうか?【その他】
回答
 「混ざらない」理由としては前者が正しいと思います。
 水分子は、電子が酸素原子の周囲に引き寄せられた極性分子です。近くにある水分子同士は、酸素原子の負電荷と水素原子の正電荷の引力による水素結合で結びつき、多数の水分子が一種のネットワークを形成します。これに対して、油の分子は、水素原子と炭素原子の間で電気陰性度にあまり差がないため、電子の分布に大きな偏りがない非極性の分子になっています。非極性の油分子同士はファンデルワールス力によって緩く結びついていますが、水分子とはほとんど引き合いません。水分子同士、油分子同士に引力が作用する結果、これらだけで集まった方が全体のエネルギーが低くなるため、両者は混じり合わず自然と同じ分子同士の集まりが形作られるのです。
 ただし、水と油が上下にはっきりと分離するのは、比重が異なるためです。無重力状態の場合、水の中に少量の油を入れて良く攪拌すると、油が小さな液滴になって水中に懸濁した状態になるはずです。

【Q&A目次に戻る】

質問 アメリカのサンタクルーズに重力が異常な方向に働く地帯があるということです。この現象について科学的にどのような説明が成り立つのでしょうか?【現代物理】
回答
 初めて聞いた話なのでネット検索してみました。実際に行った人の紹介記事や写真がいろいろ掲載されていますが、どうやら観光客目当てのアトラクションのようです。写真で見る限り、床や壁が微妙に傾いているために平衡感覚が失われることを利用した良くあるタイプの施設で、ボールが坂を転がり上るように見えたりするとのことです。ガイドは大まじめで「ニュートンの重力法則が成り立たない超常空間だ」と説明しているそうですが、そこはそれ、本家ディズニーランドのジャングルクルーズで「槍が飛んでくるぞ!」とガイドが叫ぶと乗客が悲鳴(歓声?)を上げて伏せるというお国柄ですから。

【Q&A目次に戻る】

質問 ある本に、ブラックホールの合体によってより大きなブラックホールが出来ると書かれてありました。ですがブラックホールに近づくにつれ時間の進みも遅くなり、第3者からの観測においては合体後のブラックホールを見る事は出来ないように思えるのですが。【現代物理】
回答
 「ブラックホールに近づくと時間の進みが遅くなる」効果は、ブラックホールに落下する物体から放出される光の速度が遅くなるという形で現れます。物体はブラックホールにまっすぐ落ち込んでいくのですが、光の速度が遅くなってなかなか観測者に到達しないのです。特に、事象の地平面(その内側からは光も脱出できないという境界面)を通り過ぎる瞬間に出た光は、いつまでも地平面上に留まり続けます。ただし、地平面の直前で物体が止まって見えるという訳ではありません。落下中に放出される光量は有限であり、これが長い時間を掛けてゆっくりと観測者の所まで伝わっていくため、遅れてやってくる光の量はわずかになります。さらに、光の波長が引き伸ばされ、もともと放射量の少ない紫外線が可視領域に移行するため、目に見える光量はいっそう減ります。この結果、ブラックホールに落下する物体は、事象の地平面を通過する少し前から暗くなり、消えていくように見えるはずです(波長の変化のせいで赤い残像を残します)。落下する過程そのものは観測できませんが、ブラックホールに吸い込まれたという事実は見て取れます。
 ブラックホール自体は光を発しないため、ブラックホール同士の合体では「消えていくように見える」ことはありませんが、合体前後に周辺の重力場に関する測定を行うことは可能です。もっとも、多くの場合、ブラックホールの周囲には降着円盤と呼ばれる物質の集まりが形成されており、2つのブラックホールが近づくと降着円盤の衝突によって激しいエネルギーの放出が起きるため、ブラックホール同士の合体を観測することはかなり困難でしょう。

【Q&A目次に戻る】

質問 LHCのほうが宇宙線より強いと聞きましたが本当ですか? 重心系換算するとLHCのほうが強くなると聞きました。【現代物理】
回答
 2008年に稼働し始めた大型ハドロン衝突型加速器(LHC)は、陽子ビームを7×1012eVまで加速して衝突させるので、重心系での最大衝突エネルギーは1.4×1013eV(14兆電子ボルト)になります。一方、宇宙線のエネルギーは、108eV(1億電子ボルト)から1020eV(1垓電子ボルト=1兆電子ボルトの1億倍)まで広く分布しており、1020eVを超える極高エネルギー宇宙線の観測も始まっています。
 もっとも、宇宙線の場合、入射直後の素粒子反応を測定するのは困難です。1015〜1016eVの宇宙線(過半は高速の陽子)の場合、大気上層部に入射した際に気体分子との相互作用を通じて素粒子の“シャワー”が生成されるので、地表(チベット高原などの高地)でシャワーに含まれる粒子のエネルギー分布などを調べることによって元の宇宙線のエネルギーや方向を推定していますが、1014eV以上の宇宙線は頻度が少ないこともあって、データはまだ不十分です。
 LHCの利点は、制御されたの素粒子反応を精密測定装置の下で繰り返し引き起こすことができるという点です。単にエネルギーの大きさで比べるならば、宇宙線の方が圧倒的に巨大なエネルギーを持っています。

【Q&A目次に戻る】

質問 最近、HPなどで、“ゼロ磁場”という言葉を見かけます。“S極とN極が交わった場所にできる中性波動(ゼロ磁場)空間”だそうですが、そんなものが本当にあるのでしょうか?【古典物理】
回答
qa_pt23.gif  磁石のS極同士、あるいはN極同士を近づけると、磁力線同士が反発しあうため中間地点付近に磁場の強度がゼロになる領域が生じますが、S極とN極を近づけただけで磁場が打ち消されることはありません。質問の内容に近いセッティングは4つの磁極を交互に配置したもので、こうすれば、確かに磁極を結ぶ線の交わる地点に磁場がゼロの領域が生じます。しかし、これは重ね合わせの法則が成り立つという磁気の性質の現れにすぎず、珍しくも何ともありません。「異なるソースから発生した逆向きの磁場がたまたま打ち消しあって磁場が弱くなる」というだけのことなら、至る所で起きているごく普通の自然現象です。
 インターネットで“ゼロ磁場”を検索すると、何やら怪しげなページが数多くヒットします。マイナスイオンの発生するパワースポットらしいのですが、科学的な説明はどこにも見あたらず、何を言っているのかよくわかりません。「磁場」という言葉は、物理学的な意味から離れて、単に理解困難な遠隔作用を意味するオカルト用語として使われることがあります。どうやら、このオカルト用語としての「磁場」に強度ゼロという物理学的な粉飾を行ったのが、“ゼロ磁場”の由来のようです。パソコンの有害電磁波を打ち消す“ゼロ磁場マウスパッド”や身体の疲れを癒す“ゼロ磁場ベッド”なるものも販売されていますが、科学的な根拠は全くなく、効果は期待できないと言って良いでしょう。

【Q&A目次に戻る】

質問 LHCのブラックホールの実験で地球が飲み込まれるって本当ですか? +2eの電荷を持ったブラックホールが地球にとどまり、すべてを飲み込むと聞いたのですが…【現代物理】
回答
 この質問に関しては、別の回答でも答えています。インドでは16歳の少女がLHCの実験で地球最後の日が訪れるとの報道にショックを受けて自殺したとか、アメリカやフランスで実験中止を求める訴訟が起きたとかいう話もありますが、全く心配はありません。物理学的な詳細は、LHC安全査定グループが行った安全性評価に記されています(高エネルギー加速器研究機構が翻訳した「LHCの安全性について」で読むことができます;http://www.kek.jp/ja/news/topics/2008/LHCsafety2.html)。
 LHCのような大型の実験装置を製造するには、莫大な資金が必要であり、科学のことを知らない人に実験の重要性を納得させなければなりません。LHCプロジェクトを立ち上げた物理学者たちは、「ビッグバンの状態を再現する」とか「神の素粒子を発見できる」とか大仰なことを言いながら予算獲得に奔走していたのですが、どうもその手のヨタ話に尾鰭がついて、ブラックホールによる地球滅亡騒動になったようです。

【Q&A目次に戻る】

質問 色々調べた結果、タイムマシンは、今の時点では実現不可能であるとわかりました。そこで自分なりの単純な考えなのですが、後世に残るように本気で「もしタイムマシンを人類が作り上げたならば○○○○年○月○日○時○分○秒○(場所)に行きなさい」と伝えたとすると、その指定した日時に指定した場所に未来人が来てもおかしくないのではないでしょうか? もし指定したのに未来人が来なければ、タイムマシンは出来ないという結論に至るのではないのでしょうか?【その他】
回答
 現在の物理学では、過去に戻るタイムマシンを作ることは現実問題として困難だと考えられています。ただし、(ありそうもないことですが)もし負のエネルギーを持ちながら安定した状態を維持できる物質が発見されれば、それを利用してワームホールを安定化し、タイムマシンを建造できるかもしれません(もっとも、ワームホールを使う場合、いつの時代にも戻れるというわけではなく、到着時刻が建造時より後であるという条件が付きますが)。そこで「タイムマシンが建造された暁にはいつどこへ来るように」というメッセージを後世に託したならば、指定された時刻に未来人が現れるかもしれない−−そう考えるのは実に楽しいことです。
 もし未来人が現れたら、多くの物理学者が卒倒するだけで、めでたしめでたしとなります。しかし、未来人が現れなかったら、そこから何が結論されるでしょうか? タイムマシンが作れなかったのかもしれませんし、メッセージが届かなかったのか、あるいは、届いたけれども実行しなかったのかもしれません(ポール・アンダーソンのSF小説にあるようなタイム・パトロールがいるのかも…)。結局、何もわからないままでしょう。
 タイムマシンのケースに限らず、「ありそうもないが、もしかしたら…」という仮説を検証するのは、かなり難しい作業です。ありそうもないことが起これば話は簡単ですが、起こらなかったときには、仮説は検証も反証もされなかったと言わざるを得ません。

【Q&A目次に戻る】

質問 軌道エレベータの実現性についてどのようにお考えですか? 【技術論】
回答
 軌道エレベータにはいくつか種類があるようですが、最もポピュラーなものは、赤道上空3万6000kmの静止衛星から地表付近までケーブルを垂らし、これを伝って昇降するケージによって人間や物資を運搬する装置です(力のバランスを取るために、ケーブル自体は衛星よりもさらに上空に伸ばす必要があります)。もし実現すれば、スペースシャトルのように打ち上げに膨大な化学燃料を消費するロケットを使うことなく、宇宙ステーションまで安価に移動・運搬が可能になるので、宇宙開発に大いに役立つと考えられます。
 もっとも、軌道エレベータを実現するための障害はきわめて大きく、数十年以内に実現するとは考えられません。
 最大の問題は、巨大な張力に耐えるケーブルをどうやって作るかです。静止軌道上では重力と遠心力が釣り合っていますが、それより下では重力の方が勝っています。単純に同じ太さ(断面積S)のケーブル(密度ρ)に加わる重力と遠心力の作用だけを考えると、静止軌道の位置でケーブルに加わる下向きの力は、地球中心から距離rに位置するケーブルに加わる単位長さ当たりの重力 ρSGM/r2 (G:万有引力定数、M地球の質量)と 遠心力 ρSrω2 (ω:地球の自転の角速度)を rについて地表から静止軌道まで積分した値になります。G,M,ωの値を代入して計算すると、単位断面積当たりの張力は、約50ρ'GPa となります(GPa[ギガパスカル]とは、1平方メートル当たり10億ニュートンの力、ρ'は水に対する比重)。ケーブルの太さを静止軌道付近で太く、地表近くなるにつれて細くすれば、最大張力はこの何分の1かで済みますが、それでもピアノ線が耐えられる限界の数百倍という巨大な値です。
 現存する物質でこの張力に耐えられるものは、カーボンナノチューブしかありません。カーボンナノチューブは比重が2程度で、数十GPaの張力に耐えられます。しかし、現在の技術ではせいぜい数mmのものしか合成できず、軌道エレベータに使用する長大なケーブルを作る方法は見当すらつきません。仮に合成法が開発されたとしても、その製造コストは莫大になると予想されます。
 さらに、安全性の問題があります。軌道エレベータのケーブルには風や太陽風などさまざまな力が作用し、その結果として振動が生じると考えられます。もしケーブル全体が共振するようなことがあると、ケーブルの破断につながります。特に、カーボンナノチューブの原子配列が完全ではなく、ところどころに格子欠陥があると、その部分での強度が小さくなるため、破断の危険性が大きくなります。また、航空機や人工衛星、スペースデブリがケーブルにぶつかることもあり得ます。目立つ建造物だけに、テロの標的になる可能性も無視できません。
 こうした問題が全てクリアされるまでにどれだけの期間が必要なのか、想像もつきません(正直な話、戦争すら回避できないようでは無理だという気がします)。しかし、いつの日にか軌道エレベータを建設し宇宙を身近にするという目標は、1つの理想として掲げ続けてほしいと思います。

【Q&A目次に戻る】

質問 光を100%反射する鏡で球体を作り、内部を真空にして中心に置いた光源を発光させると、ある時点で発光を止めても、球体の中は明るいままになるのでしょうか。 【その他】
回答
 反射率が100%の鏡が実在するならば、球体内部はいつまでも明るいままなのでしょうが、現実にはそんな鏡は存在しません。電磁気学の理論によると、真空中から複素誘電率εの媒質(透磁率μ=1とする)に垂直に入射した光の反射率Rは、
  R = |(1-ε1/2)/(1+ε1/2)|2
で与えられます。εが負の実数ならば反射率は100%になりますが、金属電子論などに基づいて計算すると、εは振動数がきわめて大きくなると1に近づく関数になることが示されます。このため、多くの金属は、赤外領域で100%近い反射率を示したとしても、可視光になると反射率が大幅に低下します。どんなに磨いた鏡でも、反射が起きるたびに光の強度は何%かずつ減衰してしまうのです(金の場合、波長700nmの赤色光の反射率は97%)。光はきわめて速く、1mの間隔で向かい合わせに置かれた鏡では0.01秒間に300万回も反射が起きるので、明かりを消した瞬間に球体内部は暗くなってしまいます。

【Q&A目次に戻る】

質問 脳と心臓だけでも生命活動は維持できるのですか?【その他】
回答
 「生命活動」とは何を意味するのでしょうか? 培養されている細胞も代謝や増殖などの活動を行っているのですから、培養可能な一部の組織だけでも生命活動を維持できると言えるかもしれません。「それでは生命活動の名に値しない」と主張するのなら、「脳と心臓だけ」というのも同じような気がします。
 脳は特別であり、体の他の器官は脳を生かすためだけに存在するという考え方もあるでしょう。そうだとすると、心臓すら必要ありません。脳を含む中枢神経系は、血液脳関門を介して血液といくつかの限られた物質を交換することで生理的機能を維持しています。したがって、グルコースやアミノ酸などの生化学物質を含む血液を脳に至る動脈に送り込み、静脈を通って送り返されてきた血液から老廃物を除去するシステムを開発すれば、「脳だけで生命活動を維持する」ことも可能になるでしょう。ただし、脳は感覚器官から情報が恒常的に送り込まれていないと、すぐに眠り込んでしまう性質があります。「脳を眠った状態のまま生かしておく」ことが生命活動なのかどうかは、人によって判断が分かれると思います。

【Q&A目次に戻る】

質問 電子のスピンのエネルギー源を教えてください。誰がコマを廻したのでしょうか? あるいは廻し続けているのでしょうか?【現代物理】
回答
 電子が持つスピンは、ちょうど電子が自転している場合と同じような磁気的な相互作用を生み出しますが、だからと言って、電子がコマのように実際に回転している訳ではありません。電子(あるいはその他の素粒子)が行う相互作用をスピンという数学的形式によって表しているだけです。スピンとは、電荷と同じように、素粒子を分類する際の基準となる基本的な素性であり、例えば、スピン3/2の“活性電子”が自転のエネルギーを失ってスピン1/2のふつうの電子に変化するということはないのです。

【Q&A目次に戻る】

質問 昔の科学雑誌でニュートリノに質量がある場合には宇宙空間は膨張から縮小に転ずると書いてあったの記憶していますが、本当ですか?【現代物理】
回答
 現在では、この説は正しくありません。物質による重力は宇宙空間を収縮させる側に作用するので、ニュートリノやその他の未知の素粒子に質量があると、その重力で宇宙が膨張から収縮に転じるかもしれないと考えられた時期もありました。しかし、こんにち測定されているニュートリノの質量程度(大きな誤差がありますが上限はほぼわかっています)では、宇宙の膨張を止めることはできません。ニュートリノ以外の暗黒物質がどの程度あるかが宇宙の未来を決定する重要な鍵となっていますが、今のところ、宇宙の膨張は永遠に続くのではないかと推測されています。

【Q&A目次に戻る】

質問 NHKの番組で、お湯と普通の水を冷蔵庫で冷やした場合、お湯の方が早く凍りました。まだ謎だそうですけれど、どのように解釈されますか?【その他】
回答
 どうせいかがわしい話だと思いながら念のためネットで検索すると、結構な件数がヒットしました。「ムペンバ効果」という項目名で Wikipedia にも解説されています。何でも、タンザニアの高校生ムペンバ君がアイスクリームを作る調理実習中に発見したもので、「同じ体積の35度の水と100度のお湯を冷凍庫に入れたら100度のお湯が先に凍る」ということだそうです。
 簡単に実験できるようにも思えますが、20数年前購入した我が家の冷蔵庫は冷凍室が霜でいっぱいで2つの製氷皿を並べられませんし(←霜取りをしろ)、製氷皿の熱伝導度や庫内での位置などいろいろなファクターが絡んできて何回も実験をやり直すことになりそうで、考えているうちに面倒くさくなりました。学術雑誌に掲載されたデータとしては、J.Walker による1977年のものがあります(M. Jeng, 'Hot water can freeze faster than cold?!?,' arXiv:physics/0512262v1 に再録)。ただし、実験条件によって結果にばらつきがあるので、直ちに結論を出すことはできません。
 仮にこの効果が現実に存在するならば、物理学的にはどのように説明できるでしょうか? 最もありそうなのは、お湯の方が初期の段階で盛んに蒸発するため気化熱を奪われて急冷されるとともに質量が減少し、表面積に対する質量の比が小さくなって氷結しやすくなったという説明です。この説明が正当かどうかは、氷結後の2つの水の量を精密測定すれば確かめられます。この他にも、水に溶けている気体量の変化が関係している可能性も否定できません。また、摂氏4度以下になると氷の結晶が徐々に形成され氷結する瞬間を決定するのが難しくなるため、「水温が××度になるまで」という設定で実験を行った方が良いでしょう。いずれにせよ、答えを出すには制御された条件下での実験による検証が必要です。

【Q&A目次に戻る】

質問 ギネスブックに掲載された記録に「世界一高い音」という項目がありましたが、意味が分かりません。また、空気を振動させることができる周波数は、どれくらいまでですか? 【古典物理】
回答
 『ギネスブック世界記録事典'96』と『ギネス世界記録2007』をパラパラとめくってみましたが、「最も高い温度(核融合炉内の5億1000万度)」や「最も高い圧力(ダイヤモンドアンビルによる170GPa)」などはあったものの、「世界一高い音」という項目は見あたりませんでした。似た項目としては、「歌」に関する記録として上げられていた「人の出した最高音」がありました。フランスのソプラノ歌手マリー・ロパンがドニゼッティの歌劇『ルチア』で、高いCの上のBを出し続けたそうです。
 人間の耳に聞こえる周波数の最高値は、2万ヘルツだと言われています。ただし、これより高い周波数でも何らかの効果を及ぼしているらしく、被験者に生理的な応答を引き起こすという報告があります。
 空気で実現可能な最高音の周波数がどれくらいなのか、詳しいことは知りません。しかし、空気が連続媒質ではなく、ある速度分布を持った分子の集まりであることから、上限は存在するはずです。大気における気体分子の平均自由行程は7×10-8メートル程度であり、平均速度は毎秒450メートル程度なので、平均的な衝突間隔は、7×10-8÷450≒1.5×10-10秒となります。これより速い変化には追随できないと考えると、空気で実現できる最高周波数は、この時間の逆数となる約60億ヘルツということになるでしょうか。
質問 質問の元になった原文(ギネスブック93の127ページ)を掲載いたします。
「もっとも高い音」60ギガヘルツの音で、米国マサチューセッツ工科大学で1964年9月サファイアの結晶にレーザー光線をあてて出した。
これに関して出版社に質問状を送ったら回答が返送されてきたのですが、もうありません。60ギガヘルツは音ですか? ミリ波の電磁波では?【古典物理】
回答
 60ギガヘルツは600億ヘルツであり、空気中を伝わる音波ではあり得ません。サファイアの結晶表面を振動が伝わっていく現象だと思われます。音は媒質中を伝わる縦波として定義されますが、表面波も縦波成分を持っているので、音の一種だと見なすことができます。結晶は気体と異なって原子同士の相互作用が密に行われるので、ギガヘルツ(10億ヘルツ)以上の音を伝えることが可能なのです。
 現在では、生体組織を伝わる超音波の回折を利用した超音波顕微鏡や、結晶の密度変化を利用してバンドギャップを調整する光素子などにおいて、液体や固体を伝わるギガヘルツ帯の超音波が実用に供されています。

【Q&A目次に戻る】

質問 磁石を完全な球体に加工すると、N極とS極は存在せず磁力はなくなるのでしょうか?【古典物理】
回答
 適切に加工すれば、球体の磁石ができあがります。
 磁石を構成する原子は、それ自体が小さな磁石です。結晶内部では、近くにある原子磁石は同じ向きに揃う性質があるので、球体全体で向きを揃えることができれば、球体の一方の半球面に原子磁石のS極ばかりが顔を出し、他方の半球面にN極ばかりが顔を出している状態になります。全体で向きを揃えるには、まず高温にして熱運動で磁石の向きをバラバラにし、その後、外部から磁場を加えたまま冷やしていけば良いはずです。
 インターネット通販を利用すれば、半径5mm程度の球形のネオジム磁石を1個数十円で入手することができます。

【Q&A目次に戻る】

質問 よくテレビで千里眼の能力を持つという人が出てきます。「残留思念」を読み取ることで実際の事件や事故の解決にも繋がっているようですが、物理学的にはどう説明がつくのでしょうか。【その他】
回答
 もし残留思念というものが実際にあるとすれば、物理学的には全く説明がつきません。
 思念の内容は情報ですが、物理的世界では、情報は、何かに記録することで初めて読み出しが可能になります。人間の場合、脳神経細胞のネットワークにおける結合パターンと結合強度という形で情報が記録されています。このように記録された情報は、神経細胞の膜電位の変化を通じて読み出され、おそらく前頭前野に投射される過程で意識化されています。脳の中枢神経系に記録された情報を外部に伝達する経路として知られているのは、脳から内臓や筋肉に向かう神経だけであり、それ以外の方法で情報を外部に伝えることはできません。例えば、中枢神経系の活動に応じて脳表面の電位が変化しますが、これを電位計で読み出しても、多数の神経細胞による集団的な活動が伺えるだけで、考えている内容まではわかりません。電磁波を利用したテレパシーや思考読み取り機は不可能だと考えられています。
 物理学者が知らない何かに情報が記録されている可能性は、絶無ではないもののきわめて小さいと思われます。従って、人間がいた場所に思念の内容が情報として残っていることは、まずないでしょう。いわゆる千里眼の人は、たぶん連想能力が人並み優れて高く、プロファイリングを通じて得られた膨大なデータを現実の光景と結びつけ、最も適合する組み合わせを選び出すことができるのでしょう(単なる当てずっぽうかもしれませんが)。

【Q&A目次に戻る】

質問 量子力学のスピンについてなのですが、電子のスピンを鏡に映すと逆回転になりますよね? すると磁場の向きはひっくり返ります。しかし、鏡に映った磁場は反転していません。このような場合、量子力学が破綻しているということにならないのでしょうか??【現代物理】
回答
 スピンを電子の自転によるもの考えるならば、鏡に映したときに自転する向きは反対になります。しかし、鏡の中では、角運動量の向きは「右ねじの法則」ではなく「左ねじの法則」に基づいて定義するので、自転の向きが逆になってもスピン角運動量の向きは(定義が反対になっているので)変わりません。角運動量や磁場は真のベクトルではなく、ともに軸性ベクトル(あるいは擬ベクトル)と呼ばれる量であり、鏡に映したときの変換法則は共通しています。
 ここで「鏡に映す」というケースを考えましたが、物理学で議論するときには、通常の鏡のイメージとは少し違う扱い方をします。x軸に鏡面が直交する鏡に映した場合、鏡の中の虚像は、元の物体がx軸方向に反転した形になっていますが、物理学では、x軸の方を反転させたときに元の物体がどのように表されるか考えます。さらに、1つの軸だけを反転させると記述がややこしくなるので、3軸を全て反転させてしまいます。通常の座標系は、x軸、y軸、z軸を順に右手の親指、人差し指、中指の向きとして定義する「右手系」ですが、3軸を反転させたものはもはや右手系ではなく、x軸、y軸、z軸が順に左手の親指、人差し指、中指の向きになる「左手系」に変わります。右と左が入れ替わるので、3軸を全て反転させた「空間反転」は鏡に映したときの鏡像変換と実質的に同じ結果になります。
 角運動量Lは、位置ベクトルrと運動量ベクトルpの外積r×pとして、
  Lx = ypz - zpy
のように定義されます。このときLの向きは、rの向きからpの向きに回転させたときに右ネジが進む向きになります。ここで空間反転を行うと、座標が反対になるのでベクトルの成分は符号を変えて、r-rに、p-pに変換されます。これを上のLの定義に代入すれば、空間座標が反対になっているのに、Lは成分の符号が変わらないことがわかります。これは、外積で作られるベクトルの向きが、空間反転後は、右ねじではなく左ねじの進む向きで与えられることを意味します。こうした性質は、スピンにも共通するものです。量子力学や電磁気学の法則は、空間反転に対して完全に対称的であり、物理法則を使って現実の世界と鏡の中の世界を区別することはできません。
 ちなみに、ベータ崩壊などの核反応では、空間反転をすると物理法則が変化することが判明しています。われわれの住む世界では、右と左がほんの少しだけ違っているわけです。こうした空間反転の議論は、時間反転および荷電共役(粒子・反粒子の入れ替え)と併せて、場の量子論の枠組みで統一的に扱われています。

【Q&A目次に戻る】

質問 熱核反応では反応後に欠損した質量がエネルギーとして観測されるそうですが、その質量は反応前には何だったのでしょうか? 核分裂だと核子等の結合エネルギーなのでしょうか?【現代物理】
回答
 原子核が持つエネルギーは、近似的に次の各項の和として表されます。 qa_pt22.gif
 (1) 核子(陽子と中性子)の質量エネルギー。Σmc2と略記することにしましょう。
 (2) 核力による結合エネルギー。最も大きな寄与は、1個1個の核子が原子核の外より一定の値だけ低いエネルギーを持つとことによるもので、その値は負で大きさは質量数Aにほぼ比例します。これをUbと書きましょう。さらに、原子核の表面付近に位置する核子は内部の核子に比べてゆるく結合しているため、結合エネルギーの絶対値は小さくなります。この補正項をUsと書くと、Usの符号は(負の結合エネルギーの絶対値を小さくする方向に作用するので)正で、大きさは(表面積に比例することから)質量数Aの2/3乗に比例します。このほか、陽子と中性子の個数が等しく、ともに偶数になる原子核ほど安定性が高いことなどを考慮した補正δが必要になります(さらに正確にするためには、殻模型などに基づく量子力学的な計算を遂行しなければなりません)。
 (3) 陽子同士のクーロン力による電気的エネルギーECoul。これは、原子核の結合を妨げる方向に作用するので、符号は正になります。その値は、電磁気学の法則に従って、陽子の個数の2乗に比例し、原子核のサイズに反比例しますが、陽子の個数が質量数Aにほぼ比例する(Aが大きいところでは頭打ちになる)のに対して、原子核のサイズはAの1/3乗にほぼ比例するので、全体ではAの5/3乗に近い質量数依存性を示します。このため、たかだか質量数に対して1乗でしか増えない結合エネルギーの大きさと比較すると、重い原子核になるほどECoulの相対的な寄与は大きくなります。
 原子核の質量Mは、質量とエネルギーの間のアインシュタインの関係式によって、
  Mc2 = Σmc2 + |ECoul| + |Us| - |Ub| + δ (図ではδは省略)
と表されます。核分裂や核融合などの核反応が起きる場合、反応の前後でMc2の総和が変化しますが、核子の質量エネルギーΣmc2は変わらないので、変化の原因は、核力による結合エネルギーとクーロン力による電気的エネルギーにあると言えます。重い原子核の核分裂では、主に、表面積の増大による|Us|の増加を|ECoul|の減少が凌駕することで質量欠損が起きているので、電気的エネルギーがその起源だと言っても良いかもしれません。

【Q&A目次に戻る】

質問 質量を持った物質同士に働くのは引力だけでしょうか? 万有引力の公式によると、物質同士をどこまでも近づけたときに引力が無限大に増加してしまいますが、この引力を打ち消すほどの斥力が生じるのではないのでしょうか?【現代物理】
回答
 通常の物質は、正の電荷を持った原子核と負の電荷を持った電子から構成されています。物質同士が原子の大きさに比べて充分に大きな距離だけ離れていると、正電荷と負電荷の寄与が打ち消しあうために万有引力だけが表に現れます。しかし、接近するにつれて電気的な力が作用し始め、表面が接触した段階で、主に原子核の正電荷同士が反発することによる強い斥力が支配的になります。原子の内部がほとんど隙間だらけであるにもかかわらず、2つの物質を同時に同じ場所に存在させることができないのは、そのためです。
 ただし、物質の量がどこまでも増えていく場合、万有引力の効果が質量に比例して増大するのに対して、物質全体を押し広げようとする電気的な作用は、正電荷と負電荷がほぼ等量含まれることから頭打ちになります。この結果、質量がある臨界量を超えると、万有引力が他のあらゆる作用を凌駕し、物質は自分自身の重力によってどこまでもつぶれていくことになります。これがブラックホールです。アインシュタインの一般相対論によれば、臨界量を超えた物質集団の“重力崩壊”を食い止めることは理論的に不可能です。
 それでは、ブラックホールの内部で物質を構成する素粒子たちが無限に凝集していくのかというと、おそらくそうではありません。素粒子のスケールでは、未知の物理作用が働いて一般相対論自体が成り立たなくなり、ある程度以上の接近が妨げられる(あるいは、そもそも接近するという概念が意味をなさなくなる)と予想されるからです。もっとも、この未知の物理作用に関しては、いくつかの仮説があるものの、実質的には何もわかっていません。

【Q&A目次に戻る】

質問 地表付近(地上0m〜1000mの範囲内)では重力加速度が一定と見なせるとされていますが、その理由がわかりません。【古典物理】
回答
 話を簡単にするために、地球は自転しておらず、完全な球対称だと仮定してみましょう。このとき、地表での重力加速度gは、次の式で表されます(この式の右辺は、地表に置かれた質量1kgの物体に加わる地球からの重力を、ニュートンの重力理論によって求めたものです)。
  g = GM/R2 (G : 万有引力定数、M : 地球の質量、R : 地球の半径)
地表からhメートルだけ離れた場合は、右辺の R を R+h に置き換える必要があります。ここで、近似式
  1/(R+h)2 ≒ 1/R2 × (1 - 2h/R)
を使えば、高度hメートルでの重力加速度g(h)は、地表での重力加速度gに対して、
  g(h) ≒ g×(1 - 2h/R)
となります。地球の半径は6400キロメートルなので、h=1000[メートル] の高さでも、重力加速度は地表での値から0.03%程度小さくなるだけです。
 実際には、地球は自転しており、その結果として回転楕円体に近い形となっているため、低緯度になるほど(中心からの距離が大きくなるために)万有引力が弱くなり、(回転半径が大きくなるので)遠心力が強くなります。その結果、両者の差となる見かけの重力(地球とともに回転する物体に加わる重力)は緯度が低いほど弱くなり、重力加速度の値も小さくなります。国際的に採用されている標準重力加速度は 9.80665m/s2 (北緯45度付近での値)ですが、国土地理院が発表した測定値によると、稚内(北緯45度)の重力加速度がほぼ標準値なのに対して、石垣島(北緯24度)では9.79006m/s2となっており、標準値より0.17%小さくなっています。こうした差を無視して日本国内の重力加速度は一定だとしてもかまわないという程度の議論ならば、高度(1000メートル以下)による重力加速度の違いに目をつぶることも許されるでしょう。

【Q&A目次に戻る】

質問 2008年に稼動予定のCERNのLHCで検出が期待されているヒッグス粒子は、その寿命が非常に短いので、多量のデータを解析する必要があると言われています。一方、ヒッグス粒子の存在を予言する理論は、「ヒッグス場がこの宇宙に充満しているので質量が生まれる」というものだと理解しています。ヒッグス粒子は直に消滅してしまう話と、ヒッグス場が常にあるという話は矛盾しているようなのですが、どう解釈すれば良いのでしょうか?【現代物理】
回答
 この問題を理解するためには、場と粒子の関係を知っておく必要があります。場とは、あらゆる物理現象を引き起こす元になるもので、全空間にわたって存在しています。エネルギーが与えられていないとき、場は、最低エネルギー状態でおとなしくじっとしています(正確に言えば、零点振動だけをしています)。しかし、エネルギーを注入されると、場は激しく振動する励起状態に移行します。量子論に従うシステムの場合、一般に振動のエネルギーは離散化しますが、拡がりを持つ場では、離散化したエネルギーの塊が場を伝って移動するようになります。このエネルギーの塊が(素)粒子です。つまり、粒子とは、場の励起状態として派生的に現れたものなのです。
 通常のスカラー場φの最低エネルギー状態は、φ=0に相当します。ところが、ヒッグス場は、スカラー場であるにもかかわらず、ビッグバンの高温状態から宇宙が冷えていく過程で全空間にわたって凝結したため、φ=φ0という値を持っています(正確に言えば、ゲージ自由度のある成分が値を持つ)。「ヒッグス場が宇宙に充満している」とは、「ヒッグス場が全宇宙で値を持っている」という意味です。値を持ってはいますが、あくまで最低エネルギー状態なので、粒子を生み出してはいません。ヒッグス粒子が生み出されるには、ヒッグス場にエネルギーを注入して励起状態に移行させなければなりません。ところが、ヒッグス場は、他の多くの場と相互作用しており、励起状態になったかと思うと、すぐに他の場にエネルギーを与えて、自分は最低エネルギー状態に戻ってしまいます。これが、「ヒッグス粒子の寿命が短い」ということです。

【Q&A目次に戻る】

質問 重力というのは、ベクトル値でしょうかスカラー値でしょうか? たとえば、2つのブラックホールが接近した場合、はさまれた空間の重力は、ベクトル値であれば相殺されますが、スカラー値であれば合計されます。【現代物理】
回答
 ニュートンの重力理論の場合、力の作用という意味での重力はベクトルですが、エネルギーを表す重力ポテンシャルはスカラーです。ブラックホールのような巨大な重力源にはさまれた領域では、重力の作用は両側からの引力になるので相殺されますが、重力ポテンシャルは加算されます。
 ニュートンの理論よりも正確なアインシュタインの重力理論(一般相対論)では、重力はスカラーやベクトルよりも1つ階層の高いテンソルgμνで表されます。重力作用が弱いときに、空間と時間は、近似的に「3次元のユークリッド空間+独立した1次元の時間」という形になりますが、このときの重力ポテンシャルに相当する量は、時間のスケールを意味するg00の定数からのズレになります。

【Q&A目次に戻る】

質問 ド・ブロイの物質波の概念は核子にも適応できるのでしょうか?【現代物理】
回答
 物質波とは、量子論に見られる波動性を具象的に表現したものです。こんにち、あらゆる物理現象は量子論に従うと信じられているので、全ての物資に物質波の概念が適用されます。核子は質量が電子の1800倍もあり、物質波の波長(=h/mv)が短くなるため、電子に比べて波動性が現れにくいという性質がありますが、現在では、中性子回折を利用した分子構造の解析など技術的な応用も進められています。

【Q&A目次に戻る】

質問 宇宙スケールでは距離を○光年と言いますよね。○km と表現しないのは、時空の歪みを考慮しているからなのですか?(もちろん○に入る数字が小さくなるうえ、比較的イメージしやすいというメリットもありますが)【現代物理】
回答
 天文学において距離を光年単位で表すのは、数字を小さくするための慣習と言って良いでしょう。1光年とは、光が重力のない空間を1年間に進む距離で、9.4605284×1015メートルに相当しますが、この関係は、1坪が3.3平方メートルだというのと同じく、ただの単位の変換です。光が出てくるからと言って、相対論が絡んでくるわけではありません。
 宇宙論のスケールになると、距離を光年単位で表すと誤解を生むことがあります。例えば、ある天体から100億年前に放出された光が現在の地球に届いたとしても、その天体と地球(になる元のガス雲)の間の距離は、現在も100億年前も100億光年ではありません。これは、光が伝わってくる過程で宇宙が膨張しているためで、100億年前には100億光年よりずっと小さく、現在はずっと大きい値になります(具体的な値は宇宙がどのように膨張しているかに依存します)。こうした誤解を避ける意味もあってか、専門家は、光年よりもパーセクという単位を好んで用いています。パーセクとは年周視差が1秒になる距離で、1パーセクは3.26光年です。
 もっとも、「自然科学の分野では国際単位系を用いるべきだ」という正論からすると、光年もパーセクも不適切な単位であり、全てメートルで表さなければならないのでしょうが。

【Q&A目次に戻る】

質問 √2について質問があります。三角形で目に見える長さがあるのに、√2=1.41…と永遠に続きます。矛盾しているように思うのですが、この先ある数字に行き着くのでしょうか?【その他】
回答
 小数で展開したときにどこまでも続く数は「実数」と呼ばれていますが、これは、人間が考案したもので、現実の世界には存在しません。そもそも、現実世界の物質は非連続的な原子から構成されているのですから、目に見える三角形の辺は滑らかな線分ではなく、ピタゴラスの定理などの幾何学の法則に従うということもありません。実数とは、現実に測定できる何かを表しているのではなく、人間が考えやすいようにあつらえたモデルに適用されるものなのです。
 小数点以下の桁数が無限大になるのは、実数を扱いやすくするための方便です。小数第何位で展開が終わるという数の体系を作ることもできますが、これを使って運動する物体の速度や加速度を求めようとすると、その桁のところで必ず現実とはそぐわない結果になってしまいます。数の体系によけいな限界を設けずに「小数がどこまでも続く」と仮定したからこそ、かえって、現実をシミュレーションするために便利だと言えるのです。

【Q&A目次に戻る】

質問 ニュートンの重力理論とアインシュタインの重力理論が逆の時期に発表されていたとしたら、ニュートンの重力理論は棄却され、ゴミとなっていたのでしょうか?(高校物理にニュートンの重力理論がなかったら相当物理が楽になるだろうと思い、ついつい考えてしまったのですが…)【古典物理】
回答
 アインシュタインの重力理論(一般相対論)は、ニュートンの理論を土台にして作られています。発表の順序が逆になることはあり得ません。
 一般相対論とは、時間や空間がダイナミックにゆがんだりねじれたりする理論ですが、「一般相対性」(座標変換に対して基礎方程式の形式が変わらないという性質)だけを前提としたのでは、理論の形は1つには決まりません。そこでアインシュタインは、時間・空間のゆがみが小さいときに、ニュートンの重力理論が再現できるという条件を付けることで、基礎方程式を決定しました。発表された直後から、多くの物理学者によって一般相対論が支持されたのも、すでに天体観測を通じて信頼性が確立されていたニュートンの重力理論を含んだ理論だったからです。
 アインシュタインの重力理論はきわめて難解で、ブラックホールや宇宙模型のような特別なケースを別にすれば、簡単には方程式を解くことができません。そこで、多くの場合、ニュートンの理論からのズレを求めるという形で計算を進めていきます。こうしたことを考えれば、ニュートンの重力理論がベースとして存在していたからこそ、アインシュタインが1歩進むことができたと言えるでしょう。

【Q&A目次に戻る】

質問 学校で電磁気を学んでいて疑問に思ったことがあったので、質問させていただきます。長方形の棒磁石を用意して平面上に置きます。次に、その磁石を、平面から離れないように平面に対し平行に曲げてドーナツの形にし、N極とS極を隙間が無視できるまでくっつけます。このとき、磁石が作る磁場はどのようなものになるのですか?【古典物理】
回答
qa_pt21.gif  1本の棒磁石の場合、N極から出る磁力線とS極に吸い込まれる磁力線の本数は同じなので、N極とS極を近づけるにつれて、磁力線は隙間に集中するようになります。理想的な棒磁石ならば、両極をくっつけると磁力線は漏れなくなり、磁石の外側で磁場は消失します(実際には、側面から少し磁力線が漏れてきます)。このとき、磁石の内部では、磁力線が輪になってつながっていると考えられます。

【Q&A目次に戻る】

質問 デシベル(dB)を算出する計算式は、なぜ係数が10のものと20のものがあるのでしょうか。【古典物理】
回答
 デシベルは、音の強さや電力などパワーや強度が基準量に対してどの程度になるかを表すための単位です。基準量との比の常用対数値がベルですが、これでは値が小さすぎて不便なので、10倍してデシベルとします(「デシ」は1/10を表す接頭語です)。音の強さや電力などの値を X、比較したい基準量を X0 とすると、デシベルLは、
  L = 10 log10 ( X/X0 )
となります。
 これと同じ量を、音の強さや電力ではなく、音の振幅や電圧・電流の比の関数として表したい場合もあります。このとき、音の強さ(電力)は音の振幅(電圧・電力)の2乗に比例するので、前者をX、後者をYで表すことにすると、
  L = 10 log10 ( X/X0 )
   = 10 log10 ( Y2/Y02 )
   = 20 log10 ( Y/Y0 )
となり、係数が20に変わります。

【Q&A目次に戻る】

質問 もし地磁気が存在しないと生体はどうなるんですか?【その他】
回答
 同じ質問に対する回答があります。

【Q&A目次に戻る】

質問 「地球から見た太陽と月の大きさがほぼ同じ」「月の公転が自転と同じ周期」というのは、天文学的見地からすると、どの程度の自然さ(確率)なのでしょうか。他の惑星と衛星の関係などを見ると、この2つがどうしても「あまりに不自然でできすぎている」と妙に違和感を感じてしまうのですが。また、「大昔、1つの星が分かれて月と地球ができた」という説と、「月の石を調査した結果、地球のどの岩石よりも古いことがわかったので、月は地球より前に存在していた」という説は、どちらが信憑性がありますか?【その他】
回答
 「月の公転が自転と同じ周期」であるのは、月に作用する潮汐力の影響です。月と潮汐力については、月と地球の運動変化についての回答海水に作用する潮汐力についての回答などでも触れていますので、参照してください。月以外にも、潮汐力によって公転と自転の間に整数比が成り立っている天体が、太陽系内部にいくつもあります。例えば、水星は太陽の周りを2回公転する間に3回自転しています。
 「地球から見た太陽と月の大きさがほぼ同じ」というのは、全くの偶然だと思われます。この質問に関しては、別の回答でも答えています。
 月の成因に関しては次の4つの説がありますが、最も信憑性が高いのは、ジャイアント・インパクト説です。
  1. 双子説 : 月と地球は近接した公転軌道を回る連星のようなもので、同じように成長してきたという説。月が鉄や揮発性元素に乏しいことを説明できない。
  2. 捕獲説 : 離れた場所で形成された月が地球の近くを通りかかったとき、地球との摩擦で減速され、そのまま重力で捕獲されたという説。2つの天体が近づいても双曲線軌道を描いて再び離れるはずで、捕獲されるように減速するのは難しい。
  3. 分裂説 : 原始地球が高速で回転しているうちに、一部がちぎれて月ができたという説。微惑星が集積して形成される惑星が、自分がちぎれるほど高速で自転することはありそうにない。
  4. 衝突説(ジャイアント・インパクト説) : 原始地球に火星サイズの小天体が衝突し、吹き飛ばされた粉塵が集積して月となったという説。コンピュータ・シミュレーションで現在の月の状態を再現できるので、最も信憑性が高い。

【Q&A目次に戻る】

質問 『奇想、宇宙をゆく』(マーカス・チャウン著、春秋社)という本のクエーサーに関する原注(29)に、次のような記述がありました。「現在ではクエーサーはほとんど存在していない。…天文学者はクエーサーを問題にする場合は『現在形』を使うのだが(それは、夜空に浮かぶ他のあらゆる天体についてもそうなのだが)、それはクエーサーの姿を見ているのが『現在』だからだ…。」 そこで教えていただきたいのは、「いま宇宙の膨張は急速に加速しつつある」と『現在形』で言われていることは、上記の解釈と同様に『過去』のことを言っているのだと思ってよろしいのでしょうか? 私は天文学をスキップしていきなり宇宙論の本を読み始めたので、何億光年も彼方の情報を『現在形』で表現されるのにとまどっています。【現代物理】
回答
 宇宙論では、天文学的な観測と相対論に基づくモデルを結びつけながら、ビッグバンの瞬間から永劫の未来に至るまでの宇宙の変遷を記述しています。観測によって『過去』のデータが得られると、これをモデルに当てはめることで、『現在』や『未来』について語ることが可能になるのです。
 相対論によると、運動する時計では時間の進み方が異なっているので、互いに遠ざかっている銀河ごとに時間がバラバラになってしまいそうですが、われわれの住む宇宙では、全ての銀河が宇宙の膨張にあわせて整然と運動しているので、それぞれの銀河に固定した時計で時間を定義することが可能です。この「宇宙時間」で計ると、宇宙の『現在』は、全ての銀河で共通してビッグバンから137億年が経過した時刻になります。この意味での『現在の宇宙』を直接観測することははできません。1億光年離れた天体から出た光が地球に到達するのに1億年掛かるので(*)、われわれは常に『過去の宇宙』しか観測できないからです。しかし、ビッグバンで生まれた宇宙がどのように膨張していくかは、理論的なモデルによって大枠が決まっているので、観測によって得られた『過去』のデータから外挿して『現在』の状況を推定することができます。例えば、『現在』の宇宙が加速膨張しているという主張は、数十億年も『過去』のデータに基づいて推定されたものです。もしかしたら、すでに加速膨張期は終わっているかもしれませんが、データと合致するモデルをもとに計算すると、収縮に転じていることは考えられません。
(*)厳密に言うと、光が伝播する間も宇宙が膨張しているので、1億光年彼方の天体から放出された光が地球に到達するには、1億年以上掛かります。

 観測されている多くのクエーサは、数十億年以上も『過去』に活動的だった銀河だと考えられています。銀河は、宇宙の初期から存在していた球状星団が重力で凝集して形成されたものですが、形成されてしばらくの間は、中心部にある超巨大ブラックホールに物質が流れ込む過程で爆発が起き、外部に強力な電磁波を放出します。これが、クエーサとして観測されているわけです。しかし、形成されてから数十億年も経つとブラックホールに流入する物質が底をついて、あまり活動的でない穏やかな銀河へと変貌します。ビッグバンから137億年が経過した『現在』では、天の川銀河の近くにはもうクエーサはほとんど残っていません。

【Q&A目次に戻る】

質問 よく「物質に電子を入射すると、物質中の電子と弾性散乱したり、原子を励起したりする」と説明されますが、量子力学的には「弾性散乱」とはどのような現象をさしているのでしょうか?個人的には、衝突された方の電子はエネルギーを獲得しているので、準位励起以外の何らかの過程でエネルギーを受け取っていると思うのですが、それがどのような微視的過程を経ているのかがわかりません。良い説明はないものでしょうか?【現代物理】
回答
 弾性散乱とは、一般的には、力学的エネルギーが保存される散乱過程のことです。物質に束縛されていない電子同士が衝突する場合は、まるでビリヤード球がぶつかったときのように、互いに運動量とエネルギーを交換して速度と向きを変えるだけです。
 物質に電子を撃ち込む場合の弾性散乱は、少し話がややこしくなります。原子内電子と入射電子が相互作用している過程は非定常状態になるので、原子に束縛されていた電子の波動関数はエネルギーの固有状態では表されません。入射電子が彼方に飛び去って相互作用が無視できるようになると、原子内電子は再び時間的に変化しないエネルギー固有状態になります。弾性散乱とは、このときの固有状態が入射前と同じ場合を指します。散乱の前後で、原子内電子の束縛エネルギーに変化はありません。
 厳密に言えば、この過程は入射電子と原子(あるいは結晶格子)との散乱となり、両者の間でエネルギー・運動量のやり取りを行っているので、入射電子の運動エネルギーは入射前と変わっているはずです。しかし、原子の質量は電子に比べて圧倒的に大きいので、運動エネルギーの変化は無視することが可能です。ちょうどビリヤード球が壁に跳ね返されるとき、壁からの力積によって運動の向きだけが変化して、運動エネルギーは変化しないと見なせるように、物質に入射した電子も向きだけ曲げられたと言えるのです。

【Q&A目次に戻る】

質問 物質からできたブラックホールに同量の反物質からできたブラックホールをくっつけるとどうなりますか? 真空から物質と反物質が対で生じ得ることを考えると対消滅しそうな気もしますが、ブラックホールが蒸発する際に物質・反物質の区別無く放出するという説明を考えると、より大きな1つのブラックホールになりそうな気もします。【現代物理】
回答
 ブラックホールは、飲み込んだ物質の質量によって空間が極度にゆがんだ領域なので、その性質は、飲み込む物質の種類によりません。ただ、飲み込まれた質量だけが、ブラックホール全体の質量に名残をとどめるだけです(厳密に言えば、電荷とスピンもブラックホールの性質に影響を及ぼしますが、その程度は、相対的にごくわずかです)。物質からできたブラックホールと反物質からできたブラックホールをくっつけると、ほぼ2倍の質量を持つブラックホールになります。
 電子の反粒子である陽電子の存在を予言したディラックが、「真空とは電子が詰まった状態で、陽電子は真空中の電子が欠けた空孔である」というアイデアを提出したせいもあって、反物質を「物質に対する負の存在」のように理解する人がいますが、これは正しくありません。粒子と反粒子いずれも、真空に対してプラスのエネルギーを持つ励起状態です。「粒子と反粒子は、互いに逆向きの“ねじれ”であり、ぶつかると“ねじれ”が解消されて光子などのエネルギーの塊となる」とイメージした方が、わかりやすいでしょう(正確ではありませんが)。
 ただし、宇宙の観測可能な領域に反物質が凝集してできたブラックホールは存在しないでしょう。ビッグバンの直後に存在していた反物質の大部分は、宇宙が高温スープの状態にあった初期の段階で消滅したと考えられ、人間が観測できる宇宙の大部分は、物質だけからできているからです。もしかしたら、人類が観測できない彼方(何兆光年?何京光年?それより何十桁も何百桁も遠く?)に反物質ばかりの世界があり、そこには反物質が凝集したブラックホールも存在するかもしれませんが、想像の域を出ません。

【Q&A目次に戻る】

質問グレートアトラクタって存在するのでしょうか?【現代物理】
回答
 宇宙に無数に存在する銀河が銀河群や銀河団と呼ばれる集団に属していることは古くから知られていましたが、ここ数十年の観測の積み重ねによって、こうした銀河の集団が、さらに差し渡し1億光年以上の巨大な超銀河構造を形作っていることが判明しつつあります。グレートアトラクタとは、こうした超銀河構造の研究の過程で1986年に提唱された未知の巨大重力源で、天の川銀河を含む局所銀河群やおとめ座超銀河団、ペルセウス超銀河団などをケンタウルス座の方向に引き寄せていると推定されました。1990年代初め頃までは、関連論文も数多く執筆されていました。
 しかし、その場所が天の川銀河の中心核に隠された観測困難な領域にあるせいもあって、グレートアトラクタの存在を裏付けるデータは、今なお充分ではありません。単一の巨大重力源としてグレートアトラクタを捉えるよりも、むしろ数億光年のスケールで超銀河構造を解明しようとする動きが中心になっているようです。

【Q&A目次に戻る】

質問水はなぜ泡立たないのでしょうか。【古典物理】
回答
 泡が生じるためには、液体に溶けている物質が膜弾性と呼ばれる性質をもたらすことにより、薄い膜が安定になる必要があります。膜弾性に関しては、消泡剤に関する回答あるいは水中シャボン玉に関する回答で触れておきましたので、そちらを参照してください。

【Q&A目次に戻る】

質問E=mc2について、式と図のみの証明のプリントを学習したことがあるのですが、どうしても理解しがたい部分があるので質問させて頂きます。質量mの物体がxy平面上にあり、2つの光子を物体に衝突するようそれぞれ -x、x方向から放射すると、物体が得たエネルギーは、次のようになります。
  ΔE=2pc
次に、この一連の操作を -y方向へ速度vで移動する観測器で観測すると、放射された光の経路は x成分と y成分の合成になるので、この慣性系では光に y方向の運動量が存在し、次のようにして表せられるかと思います。
  Δp=2p×v/c
さらに物体もy方向に移動するので Δp=Δmv となり、以上の3つの式からΔE=Δmc2が導かれるということだと自分なりに解釈しました。疑問は、物体の運動量 mv は光子が衝突しなくとも mv であるはずなのに、光子のy成分の運動量を得て mv になったようにしている点です。解釈に根本的な誤りがあるのか、どうしても腑に落ちないのでお時間があればよろしくお願いします。【古典物理】
回答
qa_pt20.gif  質問にあるプリントの内容は、アインシュタインが1946年に技術者向けの雑誌に発表した「質量とエネルギーの等価性の初等的証明」という論文とほぼ同一です。この論文は、『アインシュタイン選集1』(共立出版)などで読むことができます。
 まず、物体が静止している座標系 K0 で考えましょう。このとき、両側から対称的に光子が衝突するので、光子を吸収した後も物体は静止したままです。光子の運動量を p とすると、エネルギーは pc となります。2個の光子が物体に吸収されてエネルギーを与えたので、物体のエネルギーは、質問文にある通り 2pc だけ増加します。
 次に、この過程を、-yの向きに運動する座標系 K で考えることにします。 K0 で物体は静止していたのですから、光子が吸収される前も後も、物体のy方向の速度は v のはずです。一方、光子の運動量は、v が光速cに比べて充分に小さい場合は、v/c の2次以上の項を無視することにより、K0 に較べて y方向に p×v/c だけ増加しています(光子が2個あるので、併せるとこの2倍です)。光子が2つとも吸収された後では、運動量の保存則によって、物体の y方向の運動量は 2pv/c だけ増加することになります。
 さて、ここで問題が生じます。Kで観測すると、物体は y方向の運動量を吸収したにもかかわらず、速度 v は変化していないのです。そこで、必然的に質量が m から m+Δm に増えたと考えざるを得ません。つまり、
  mv + 2pv/c = (m+Δm)v
となります。ここから共通項を除き、ΔE=2pc を代入すると、
  ΔE = (Δm)c2 となります。言葉で表せば、エネルギーの増加ΔE に対して質量の増加 ΔE/c2 が伴うということであり、質量とエネルギーの等価性が証明されたことになります。

【Q&A目次に戻る】

質問サイモン・シンの「ビッグバン宇宙論」上巻の130頁にある、亜高速で移動する列車中の時間が外から観測すると遅くなっていることの説明のところで、光が列車内の上下にある鏡間を移動する間に列車は2.4m移動するから、と当たり前のように書かれていますが突然出てくる数字で、小生は理解できません。翻訳の誤りなのでしょうか。【古典物理】
回答
qa_pt19.gif  どうも、著者のシンが混乱しているようです。ここでの議論は、車内で上下方向に光が1.8m進む間に、光速の80%で進む列車が何メートル進むかというものですが、計算しなければ答えが出ない類のものです。
 車外のボブから見ると、光源(下の鏡)から上の鏡まで進む経路と、同じ時間に光源が進む経路は、直角三角形の2辺をなしています。光源の速度が光速の80%なので、この直角三角形における斜辺と底辺の比は 5:4 、従って、これは3辺の比が 5:4:3 になる(有名な)直角三角形です。2つの鏡の間隔が 1.8m とあるので、斜辺は 3.0m、底辺は 2.4m と求められます。

【Q&A目次に戻る】

質問重力により星に物体が落下する場合、相対性理論でいうところの速度による質量増加が発生しても、質力増加による引力の増加と相殺して加速度が変わらないので、物体の質量に関係なく一定の加速度で落ちるはずです。大気の摩擦がなく重力が十分に大きい場合、落下速度が光速を超えるのではないでしょうか。【古典物理】
回答
 重力が一定であっても、物体の速度が光速に近づくにつれて加速度はしだいに小さくなり、超光速になることはありません。
 相対論によると、質量m、速度vの物体のエネルギー E と運動量 p は、
  E = mc2γ
  p = mvγ
  ただし、γ = 1/(1-(v/c)2)1/2
と表されるので、仮にmγを新たに質量として定義すれば、いろいろな式が簡単になるように見えます。v → c でγ→∞ となるので、新しく定義された質量も、物体の速度が光速に近づくにつれてどこまでも大きくなっていきます。相対論の解説書の中には、こうした状況を指して「運動物体の質量は増加する」という言い方をしているものもあります。
 しかし、mγを質量と呼ぶのは、あくまで式の形を簡単にするための便法にすぎず、物理学的に適切な用語法とは言いかねます。実際、重力理論で使われる質量は mγではなく m の方です。エネルギーや運動量の式にγが付くのは、質量が変化したためではなく、相対論的な力学の特徴と考えるべきでしょう。
 質量の増加がないとすれば、落下する物体が光速を超えないことは直ちにわかると思います。そもそも運動物体が光速を超えないのは、単に質量が増えるといった力学的な理由に起因する現象ではなく、時間と空間の幾何学的構造に由来する要請なので、どのような力学的セットアップを用いても破ることはできません。

【Q&A目次に戻る】

質問1日(24時間)の定義は、地球が自転で360度回った時間だと思ったのですが、これだと地球が太陽を公転した際に昼と夜が逆転してしまう気がします。実際の1日(24時間)とは、ある地点で、太陽の方向が最頂部に来てから次の最頂部に来るまでの時間となるのでしょうか。そうすると、地球の自転周期は(360度回転する時間とすると)24時間とは少しずれることになるのですか?【その他】
回答
qa_pt18.gif  1日(太陽日)とは、ある地点で太陽が正中(北半球では南中)してから次に正中するまでの周期であり、宇宙空間(遠方の天体に対して固定された座標を考えます)の中で地球が360度回転するときの周期(恒星日)とは異なります。地球が360度回転する間に公転によって太陽の見える位置がずれるため、前回と同じ方位に太陽が見えるためには、さらに、少し回転しなければなりません。この角度は、地球が太陽の周りを365太陽日で1周することから、360°÷365日≒1°となります。地球は約24時間で360°自転するので、約1°回るための時間は、24×60分÷360°≒4分となります。つまり、太陽日は恒星日よりも約4分長いわけです。
 正確な数字を記すと、
  1恒星日=23時間56分4秒
です。

【Q&A目次に戻る】

質問中学校の部活で「宇宙」について調べています。そのときにでてきたのですが、「宇宙は有限だが果てはない」とはどういうこと何ですか?【現代物理】
回答
 有限だが果てのない宇宙は、アインシュタインの一般相対論に基づく宇宙モデルの一種です。
 一般相対論では、エネルギーが存在すると空間・時間がゆがむと考えられています。この結果、ユークリッド幾何学が成り立たなくなり、直観的には想像しにくい時空構造を持った世界が形作られることもあります。現在では、さまざまな宇宙に関する幾何学的なモデルが考案されていますが、その最初の例としてアインシュタイン自身が提案したのが、宇宙が3次元の球面状空間になっているというものです。このモデルに関しては、「20世紀の宇宙像」−「アインシュタインの宇宙模型」で紹介してありますので、詳しくはそちらをご覧ください(原論文の紹介の部分はとばして、その後にある解説を読む方がわかりやすいでしょう)。また、私の著書『宇宙に果てはあるか』(新潮選書)にも解説があります (^^ゞ。

【Q&A目次に戻る】

質問次のような思考実験を行います。
 宇宙空間で双子の兄弟が一直線上を等速度で互いに近づき、ある点(原点と呼ぶ)ですれ違い遠ざかるとします。原点から見て兄弟の速度の向きは反対で、速さは同じであるとします。兄弟はこのこと(互いの速度)を認識しているとします。また、兄弟はすれ違ってからそれぞれの1時間毎に弓矢を原点に向かって同じ速さで射る約束をしています。矢には順番に番号が振られていす。そして、原点には風船が置かれています。
 さて、すれ違ってから、1時間後、兄弟は原点に向かって矢を射ます。射られた矢は原点にある風船に当り、風船を破裂させます。原点にいる観測者は兄弟の矢が風船に同時に当たり風船が破裂するのを目撃します。この原点での現象は双子にとっても同様に観測されます。兄弟は、2人の矢が同時に風船にあたり風船が破裂するのを目撃します。1時間毎に同じことを繰り返しても、兄弟は同じ番号の矢が同時当たり風船が破裂するのを見ることになります。
この現象を観測した兄弟は、2人の運動は進行方向が逆であることを除けば、原点からみて対称であることを知っているので、互いの時計が同じ時刻を刻んでいると認識します。
 もし、宇宙が周期的で兄弟が再び原点で会うとします。それまで兄弟は矢を射つづけます。再会したとき、兄弟は同じ数だけ矢を射ており、2人の時間に差がないことを知るでしょう。
 つまり、この思考実験からは等速度で運動している兄弟間の時間の進みには差がないと言えます。すなわち、特殊相対性理論で言われる時間の遅れは観測されず、双子のパラドクスも存在しないと結論されます。この思考実験どこに間違いがあるでしょうか?【古典物理】
回答
 相対論の出発点は、物理現象を記述するには座標を決めなければならないということです。どの座標軸で記述されているかを明確にしないで議論すると、おかしな話になります。
 上の議論の前半部(「再び原点で会う」の前まで)は、1つの物理現象が座標によって異なった記述になることの典型です。原点に固定した座標では、兄弟は共に速度Vで遠ざかる対称的な運動をしており、原点からの距離や矢の発射時刻などは全て同一になります。原点にいる観測者と連絡を取ることにより、兄弟は、自分たちが原点ではそのように観測されていると認識できます。しかし、兄弟が相手を直接観測する場合は話が異なります。例えば、兄の宇宙船に固定した座標系で観測する(光が到達するのに時間が掛かるので、目で見た結果とは異なります)と、原点は速度Vで遠ざかっていますが、弟の宇宙船が遠ざかる速度は(ニュートン力学で予想される)2Vよりも遅くなります。原点までの距離は弟の方が短くなりますが、弟の宇宙船での時間の進み方が遅くなり、矢の速さもニュートン力学での予想とは異なるので、結局、兄弟が射た矢は同時に原点に到達することになります。
 後半部の議論は、少し厄介です。「宇宙が周期的で兄弟が再び原点で会う」とありますが、兄弟が進む方向をx軸とし、原点に固定された座標系で x と x+L が同一視されるという周期性だとすると、兄弟はそれぞれの時計で同じ時刻に再開することになります。しかし、これは、双子のパラドクスが成り立たないことを意味しません。兄は、弟が後方に去って行った後、暫くして前方からやってくる弟と出会います。しかし、この前方からやってくる弟の時計は、兄の座標系から見て、後方に去って行った弟の時計と同期しているわけではありません。原点で弟とすれ違ったとき、兄と(後方に去る)弟は同じ場所・同じ時刻に居ると言えます。しかし、前方からやってくる弟は、そのとき距離Lだけ離れたところに居るのですから、時間の関係がどうなっているかは改めて考える必要があります。詳しい話は、「科学の回廊」−「周期的空間における双子のパラドクス」でしていますが、実は、原点を通る瞬間の兄と同時刻にある(前方からやってくる)弟は、そのときにすれ違っている弟よりも未来の時刻にいる弟なのです。弟の宇宙船では、兄から見て時間がゆっくり経過していますが、もともと未来にいたので、再開したときには別れてから同じ時間が経過したように感じられることになります。弟の側から見た兄についても、同じことが言えます。

【Q&A目次に戻る】

質問「皮膚の傷に弱い電流が流れると、傷の回復が早い」という現象が起きる仕組みを、秋田大学や英アバディーン大学などの国際研究チームが解明したという記事を見たのですが、どのような仕組みなのでしょうか?【その他】
回答
 こうした話題に関しては、私もそれほど詳しくないので、ここでは、論文の要点だけを簡単に紹介しておきます(Zhao et al., Nature 442 (2006) 457-460 )。
 生物の体には、損傷した部位を修復するシステムが遺伝的に備わっています。このシステムを指導するきっかけになるのが、上皮細胞に傷を受けたときに生じる内因性の微弱な電場です。この電場による電気刺激が、イノシトールリン脂質シグナル伝達系を介して損傷箇所への細胞の移動を促し、修復作用を促進するとのことです。このとき、ホスファチジルイノシトール-3-OHキナーゼ-γという酵素の遺伝子を破壊すると、電気刺激の信号伝達と傷の修復作用が低下することから、この酵素が、電気刺激をキューとする傷の修復過程を制御していると考えられます。
 傷の修復を促す電気刺激を人為的に与えることにより、治癒能力を高める可能性もありますが、実際の治療にどこまで応用できるかは、まだ明らかになっていません。

【Q&A目次に戻る】

質問身の回りで使われている永久磁石は何ですか。【その他】
回答
 永久磁石にはいろいろな種類がありますが、最も多く使われているのはフェライト磁石だと思います。フェライトとは、酸化鉄を主成分とするセラミックスの総称です。フェライト磁石には、安価で保磁力が高い、フェライト粉末を成形・焼結して作るので自由な形にできる−−といった特長があり、電子機器やスピーカなどさまざまな製品に用いられています。加工方法によって性質を変えることが可能であり、フェライト粉末をテープに吸着させた磁気テープや、ゴムに混ぜたゴム磁石(コピー機のロールなどに使われる)などもあります。
 永久磁石には、フェライト磁石の他、ネオジム磁石(主成分:ネオジム・鉄・ホウ素)・アルニコ磁石(主成分:アルミニウム・ニッケル・コバルト)・マンガンアルミ磁石などがあります。

【Q&A目次に戻る】

質問光速に達した物質の質量は無限大になると聞いたことがあります。では、なぜ光速と同じ速さの光は質量が無限大にならないのですか?【古典物理】
回答
 相対性理論によると、静止しているときの質量が m の物体が速度 v で運動しているときには、運動方程式に現れる質量の項が
  m / (1 - (v/c)2)1/2 (c:光速)
に変化したかのように振舞います。速度が光速に近づく(m→c)と分母がゼロに漸近し、この値は無限大になりますが、これを「質量が無限大になる」と言い表すこともあります(「物質の量」としての質量が無限大になるわけではありません)。光の場合、常に光速で運動するので v=c ですが、光に静止質量はないので、上の式の分母・分子ともにゼロであり、式の値は不定になります。もっとも、光は通常の運動方程式に従わないので、もともと上の式を適用することはできないのです。
 そもそも、宇宙が誕生した当初、あらゆる相互作用は光速で伝わっていたと考えられています。ビッグバンから時間が経過して宇宙が冷却されると、一部の物質が凝結して空間の中に沈殿してしまうため、この物質に引っ張られるものは光速で動けなくなるのです。この“動きにくさ”を表す量が質量(静止質量)です。光は、沈殿している物質と何ら反応しないので、質量は定義上ゼロになります。

【Q&A目次に戻る】

質問光が光にぶつかるとどうなるんですか?【古典物理】
回答
 19世紀に完成されたマクスウェルの電磁気学では、光同士は相互作用しないことになっています。この理論によると、遠方から光線1と光線2という2本の光が伝わってくる場合、2つの光が重なったときの振舞いは、光線1だけ、あるいは、光線2だけのときの振舞いを単純に足し併せたものと等しくなります。つまり、2本の光線がぶつかっても、相手が存在しないかのようにすれ違ってしまうのです。
 ところが、20世紀半ばに作られた量子電気力学は、光同士がほんのわずかに相互作用する可能性を明らかにしました。量子の世界では、真空から電子と陽電子のようなペアの素粒子が生成されたり、ペアが合体して消滅したりすることが知られています。このため、2本の光が到達する地点で、真空から生まれた電子・陽電子(またはその他の)ペアというバーチャルな“物質”によって、光が散乱されることもあるのです。こうした素粒子のペアはすぐに消滅するので、全体としては、光と光がぶつかって波長や進行方向が変化したように見えます。この光光散乱は、マクスウェル電磁気学からのずれとなるごく微弱な効果しかもたらさず、実験によって簡単に検証するというわけにはいきません。現在、世界中のいくつかの研究所で、1兆ワット以上の超高出力レーザーを使って、光光散乱を検出する実験が試みられています(2005年に検出されたという報告があります)。

【Q&A目次に戻る】

質問純水はどんな物も溶かしますか?【その他】
回答
 純水とは、通常の水に溶けているもの(酸素などの溶存気体・不溶性の固体粒子・電解質のイオンなど)を可能な限り取り除いた純粋な H2O に近い液体のことです。いつもは溶け込んでいるはずのものがないのですから、通常の水よりは物を溶かす力は強いはずですが、所詮、水は水、水に溶けないものは純水にも溶けません。

【Q&A目次に戻る】

質問電子や光子などのごく小さな素粒子の形状は、球形なのでしょうか? 球形以外の可能性はありますか?【現代物理】
回答
 現在の標準理論では、電子や光子は内部構造を持たないと考えられているので、大きさも形もありません。これらは、「場の量子論的な励起状態」と見なすべきものであり、位置が確定できる古典的な粒子とは性質が全く異なります。
 ただし、電子や光子が素粒子ではなく、内部構造のある複合粒子である可能性は否定されていません。仮に複合粒子であるとすると、構成要素が拡がっている範囲として形を考えることは可能です。例えば、原子量の大きい原子核は、量子論で扱われる対象でありながら、多数の陽子・中性子から構成された複合粒子であり、はっきりとした形状を持っています。多くの原子核は球状ですが、中性子星の外殻底部では、巨大な重力に押し潰されて棒状や板状になった原子核が存在すると考えられています。

【Q&A目次に戻る】

質問ブラックライトプロセスで得られるエネルギーは、次世代の主力エネルギーになりえるでしょうか?【現代物理】
回答
 ブラックライトプロセスなるものは、この質問で初めて知りました。このプロセスは、常温での核融合を説明するものとしてアメリカのミルズという人が仮定したものです。ミルズの理論によると、水素原子は、「共鳴衝突(resonant collision)」を通じて、通常の量子力学で示される基底状態よりもエネルギーが低く電子軌道半径が小さい「ハイドリーノ(hydrino)」と呼ばれる状態になれるそうです。ハイドリーノ同士が相互作用すると、一方のハイドリーノはさらにエネルギーの低い状態に遷移し(これが「ブラックライトプロセス」だそうです)、最終的には、電子軌道半径がきわめて小さく、ほとんど中性子と変わらない水素原子となるため、電気的反発力を受けずに核融合できるということです。さてさて…
 私は、こうした理論を頭ごなしに否定するつもりはありませんが、いくつもの疑問がわいて、到底受け入れることはできません。ハイドリーノ状態になることが現実に可能ならば、物質の安定性を保証してきた基本原理が否定されるわけで、全ての物理理論を根本から見直さなければならなくなります。それほど本質的な過程であるにもかかわらず、これまで行われてきたほぼ全ての実験の網をくぐり抜け、理由不明のエネルギー放出過程として説明が棚上げされたいくつかのエピソード的報告例以外に何ら痕跡を残さなかったとは、どうしても納得いかないのです。
 こうした風変わりな学説については、説得力のある証拠が出てくるまでは、取りあえず無視しておくのが無難だと思います。余計な論争に巻き込まれて消耗せずに済みますし…。

【Q&A目次に戻る】

質問 dynamicsとmechanicsとの間にニュアンスの差があるのでしょうか?【その他】
回答
 言語学的な深い理解ではありませんが、dynamics は、dunamis (アリストテレス哲学での可能態)と語源が同じであり、変化を生じさせる原因を追求しているように感じます。一方、mechanics は、機械学と訳されることもあるように、さまざまな要素の関係や機構を考察の対象としています。
 面白いことに、古典物理学と現代物理学の間で、dynamics と mechanics の地位が逆転しているように感じられます。ニュートン力学(Newtonian mechanics)で dynamics と言えば、運動する物体を扱う一部門(動力学)にすぎません。空気力学(aerodynamics)、流体力学(hydrodynamics)も基礎理論である mechanics を特定の対象に応用したものです。また、熱力学(thermodynamics)が熱の流れなどを扱う現象論的な理論にすぎないのに対して、統計力学(statistical mechanics)は、微小な構成要素にエネルギーがどのように分配されるかを確率論的に論じており、熱とは何かを解明する根源的な理論です。どちらかと言えば、dynamics より mechanics の方が格上です。
 ところが、量子力学(quantum mechanics)になると、量子電磁力学(quantum electrodynamics)や量子色力学(quantum chromodynamics)などの dynamics の方が mechanics より根源的だとされています。mechanics の段階では、まだ表面的な関係だけを扱っており、dynamics になって、はじめて相互作用の起源が明かされたといった感じです。
 私の勝手な推測ですが、dynamics の格が上がったのは、電磁気学(electromagnetism)の応用を一部の学者が電気力学(electrodynamics)と呼んだせいではないでしょうか。electromechanics が電気的な機械についてのマイナーな学問であるのに対して、electrodynamics は、マクスウェル方程式を華麗に駆使した高度な学問といったイメージがあり、dynamics の地位向上に貢献したのかもしれません。

【Q&A目次に戻る】

質問 原子力発電が(ありていに言えば)水蒸気機関であることを考えると、核融合炉からも直接電力を得ることはできないような気がするのですが、どうなのでしょうか?【環境問題】
回答
 原子力発電は、固体核燃料の内部で起きる核分裂を利用しているため、エネルギーは熱の形で取り出すしかありません。水は最も容易に手に入る熱交換物質なので、通常の原子力発電では、核分裂の熱で水を蒸発させ、蒸気の流れでタービンを回転させて発電するという素朴な方法を採用しています。
 これに対して、核融合反応は、プラズマという電離気体の中で生じるため、熱によらないエネルギーの取り出しができる可能性があります。こんにち最も研究が進んでいる D-T反応(重水素とトリチウムの核融合反応)では、多くのエネルギーが中性子流の形で放出されるので、これを水に当てて水蒸気を作るという方法でしか発電ができません。しかし、ヘリウム3を核燃料として利用する D-3He反応では、高速の陽子の流れが生じるため、ここから電磁法則を使って電気的エネルギーに変換することができると考えられています。具体的には、電磁的制御によって陽子の流れを揃えた上で、これを減速させるような電場を加えることにより、電気的な反作用として起電力を得るというものです。
 完成すれば、クリーンで高効率な核融合炉ができると期待する人も多いのですが、たとえ持続的な D-3He反応が実現できたとしても、うまく陽子流を制御できるか疑問ですし、何と言っても、核燃料として使うヘリウム3を月面で採集するという難題を解決しなければなりません。こうした核融合炉が実用化されるのは、うまくいっても来世紀になるでしょう。

【Q&A目次に戻る】

質問 音の速度は 331.5+0.61t (tは摂氏温度)で表されます。では、絶対零度でもこの式は成り立つのでしょうか? また、温度をどんどん上昇させて、音速を光速まで引き上げることは可能なのですか?【古典物理】
回答
 質問にある音速の公式は、温度が常温付近での近似式です。熱力学に基づくより正確な公式は、
  音速 c = (κRT/M)1/2
となります(κ:比熱比(定圧比熱と定積比熱の比)、R:気体定数、T:絶対温度、M:平均分子量)。この式によると、絶対零度( T=0 )で音速はゼロになりますが、その前に、気体は液体か固体に相変化します。
 この音速の公式が高温極限でも成り立つとすると、どこかで音速が光速を超えてしまいますが、もちろん、そんなことは起きません。この公式は、理想気体の状態方程式から導いていますが、現実の気体では、高温になると気体分子が電離してイオンと電子の電気的相互作用を考慮しなければならなくなるため、通常の状態方程式が成立しなくなるからです。

【Q&A目次に戻る】

質問 グリセリンは20世紀初頭に突然結晶化するようになったと言われています。それまではどんなことをしても結晶化しなかったということです。どうしてなのでしょうか?【その他】
回答
 きれいな結晶を作るには、それなりのコツが必要です。常温でとろっとした透明な液体であるグリセリン C3H5(OH)3 はアルコールの1種であり、工業生産が始まった19世紀には、他の多くのアルコールと同じくバルクの結晶を作らないと思われていました。しかし、1920年代にアメリカの研究者が、いったん過冷却状態にまで冷やしてからゆっくりと温度を上げると、比較的簡単に結晶化することを見いだしました。ひとたび“コツ”がわかってからは、世界中の研究室で結晶化できるようになったということです。
 この真っ当な科学的発見のエピソードが、どういうわけか、「19世紀にはグリセリンは結晶化しない物質だったが、20世紀に入って、自然に結晶化する物質に変貌した」というまことしやかな話として伝えられたのです。科学の世界には、いくつもの研究室で同時期に同じような研究成果が報告されるという“シンクロニシティ現象”がしばしば見られますが、これは、研究分野が共通する科学者たちは、非公式なミーティングや手紙のやりとりを通じて頻繁に情報を交換しており、類似したテーマに関して考えを煮詰めているので、何らかのブレイクスルーが発見されると、いっせいに同水準の成果が上げられるからです。決して神秘的な出来事ではありません。1980年代には、ベドノルツとミュラーの報告をきっかけとして、それまで絶縁体だったペロブストカイト構造のセラミックスが世界中で突如として超伝導物質になりましたが、これも、グリセリンの結晶化と似た科学的なシンクロニシティです。
原典を確認していませんが、グリセリン結晶化に関するオカルトめいた話は、ライアル・ワトソンの『生命潮流』で紹介されているとのことです。

【Q&A目次に戻る】

質問 本年度センター試験の問題について、考え出すと訳が分からなく問題がありましたので質問させていただきました。問題は「(天球上のほぼ同じ方向にある)星雲A、Bの後退速度はそれぞれ4000km/s、6000km/sである。BからAを見たときの後退速度はいくらか。ハッブル定数は1億光年につき2000km/sとする」というものです。選択肢は2000と10000です。単純に考えれば「A、Bの距離はそれぞれ2億光年、3億光年で、その間1億光年だから後退速度は2000km/s」ですが、3億年前のBから2億年前のAを見ることはできませんから、本当にBから見えるAの距離は1億光年なのか、またハッブル定数は宇宙のスケールに反比例する?というようなことも考えると、よくわからなくなります。さらに、問題にはいつの時点のBから見るのかが書かれていません。ハッブル定数が宇宙スケールに反比例するならいつ見ても同じのような気もしますが、その辺はどうなのでしょうか。【現代物理】
回答
qa_pt17.gif  センター試験地学の問題を確認したところ、ハッブル定数の値は、この後の小問の中で与えられていました。つまり、出題者の意図としては、ハッブル定数を使わずに、「宇宙の膨張がほぼ一様」という知識だけを使って答えさせたかったのでしょう。この考えに基づけば、天の川銀河から見たA、Bの後退速度が 2:3 なので、それぞれの位置関係は右図のようになり、Bから見たAの後退速度は、天の川銀河とAの中間点に当たるCを天の川銀河から見たときの後退速度に等しく、Aの後退速度の半分(2000km/s)と求められます。
 天の川銀河から見たAは2億年前、Bは3億年前のものです。一方、現時点でBに到達するのは1億年前にAから発せられた光ですから、Bから見たAまでの距離と速度は、天の川銀河で観測されたAB間の距離と相対速度とは異なっています。しかし、この差異は無視してかまいません。宇宙は百数十億年前の密集状態から膨張してきたので、1億年の間に銀河が移動する距離は、銀河間の距離の1%以下です。この設問では、せいぜい有効数字2桁で議論しているので、光が到達するまでの数億年程度では銀河は動かないと考えてかまいません。
 設問には、Bから見たAの後退速度がいつの時点のものかが指定されていませんが、宇宙論では、(固有運動が無視できる)全ての銀河で同じように時間が経過する時間座標が採用されており、特に断りがなければ、全銀河に共通する「現在」と考えて良いでしょう(ここでも、数億年程度の誤差は無視できます)。

【Q&A目次に戻る】

質問 光電効果は、電磁波や光を金属に当てたときに、光電子が金属表面から放出される現象だと聞きました。そこで質問ですが、光電効果は金属だけでなく、液体にも起こりうることなのでしょうか? また、そのような技術は確立しているのでしょうか?【現代物理】
回答
 光電効果が観測されるためには、仕事関数(物質表面から1個の電子を飛び出させるのに必要な最小エネルギー)が小さいことに加えて、ノイズとなる他の電気的現象が起きにくいことが必要です。イオン結晶の間隙を電子が自由に動き回っている金属では、紫外線照射によってこの自由電子を弾き出すことができるので、クリアな光電効果が観測されますが、表面物性が複雑な液体では、そう簡単にはいかないようです。
 自由電子の存在する水銀の場合は、1930年代に光電効果の精密な測定が行われています(液相と固相での比較もされています)。しかし、一般的な液体に関する光電効果のデータは、ほとんど見あたりません。光照射によって物質内部で電子が伝導帯に励起される「内部光電効果」(広い意味で光電効果の一種とされる)ならば、液体のメタンなどを用いた実験が行われています。

【Q&A目次に戻る】

質問 フォトンベルトとは何ですか?【その他】
回答
 フォトンベルトという言葉は、この質問で初めて知りました。インターネットで検索を掛けたところ、出てくる出てくる、5万件以上もヒットしました。いくつかの記事を読んでみると、フォトンベルトとは、銀河系内に存在するドーナッツ状の高エネルギー光子の帯で、1961年に人工衛星による観測に成功したとのこと。地球はまもなく2万6000年周期で起きるフォトンベルトへの突入を行うとされていますが、そうなると電子機器が使えなくなり、異常気象や火山噴火が頻発するとか。そこまでは、まあ科学的と言えないこともないのですが、さらに、フォトンベルトに突入すると、人類の存在形態も変わるといったオカルトめいた話まで登場します。
 どうやら、フォトンベルトの原典は、今から四半世紀ほど前にUFO研究者が書いた記事のようで、翻訳されたものを読む限り、擬似科学と言うよりはファンタジーに近い内容だと言えます。科学的に反論することは、いくらでも可能です(例えば、光子は常に光速で運動するので帯状に分布することはないとか、太陽系が2万6000年周期で何かの周囲を回転している可能性は天文学のデータによって否定されるとか)。しかし、フォトンベルトに対して肯定的な人たちの間でも主張に食い違いがあり、何を言いたいのか良くわからないところがあるので、もう少し内容がはっきりするまで遠目に眺めておいた方が無難なようです(仏ほっとけ、神かまうな)。

【Q&A目次に戻る】

質問 地球シミュレータや世界最速のスーパーコンピューターはいくらぐらいの費用で建設できるものでしょうか?【技術論】
回答
 地球シミュレータに関しては、地球シミュレータセンターのホームページに、いろいろと解説されています。それによると、「地球シミュレータは、640台の計算ノード(PN: Processor Node)を、640×640の単段クロスバネットワークで結合させた分散メモリ型並列計算機である。 各PNは、ピーク性能8Gflopsのベクトル型計算プロセッサ(AP: Arithmetic Processor)8台が主記憶装置16GBを共有する共有メモリ型並列計算機となっている。 全体ではAPが5120台でピーク性能は40Tflops、主記憶容量は10TBとなる」とのことです。
 このように、ハードウェアやソフトウェア、これまでの実績に関しては詳しく紹介されているのですが、建設費用や運営費用に関する記述は見あたりません。どこまで正確かはわかりませんが、「IT media News」には、NECが「システム開発部隊から半導体開発部隊まで延べ1000人を動員して5年がかりで開発・納入し」、「総費用は400億円にのぼる」とあります。
 また、2002年に米エネルギー省が、地球シミュレータを凌駕すべくIBMにスーパーコンピュータを発注したときの契約金額は、2億9000万ドルだったそうです(WIRED NEWS 2002年11月19日)。このクラスのスパコンの開発費用は、数百億円というところでしょう。

【Q&A目次に戻る】

質問 相対性理論によると光より速い物体は存在できないのでしょうか。例えば、それぞれ光速の70%の速さで2つの物体が互いに接近する場合には、一方の物体から見ると他方の物体は光速の140%で移動しているのではないでしょうか。【その他】
回答
 相対性理論では、速度に関して単純な加法則は成立しません。光速の70%で互いに接近する2つの物体がある場合、一方の物体から見たときの他方の物体の速度は、単純な加法則による
  0.7c + 0.7c = 1.4c (cは光速)
ではなく、
  (0.7c + 0.7c)/(1 + 0.7c*0.7c/c2) = 0.9396c
つまり、光速の93.96%で近づいてくることになります。
 上のような計算式が成り立つ理由は相対論の教科書で勉強してもらうことにして、私が気になるのは、なぜあなたが、速度の計算をするときに単純に加えあわせれば良いと考えたかという点です。速度は、ダイレクトに測定できる量ではありません。移動距離を移動時間で割るといった段階的な手続きによって導かれるものです。そうした量が単純な加法則に従っていると即断するのは、いささか性急でしょう。そもそも、自然界には加法則に従っていない量が山ほどあります。例えば、米100ccと塩100ccを加え併せても、200ccにはなりません(米粒の隙間に塩が入り込むため)。
 アインシュタインが相対論を構築した論文を読むと、彼が、こうした原理的な問題から考え始め、どのようにして時間や速度を定義できるかを熟考した末に、相対性というアイデアに到達したことが書かれています。論文の前半はそれほど難しくないので、一度読んでみてはどうでしょうか。

【Q&A目次に戻る】

質問 進化の行き着くところは、最終的にはエネルギー体ではないでしょうか。【その他】
回答
 地球上の生物の場合、進化は、主に遺伝子に対する選択によって実現されます。すなわち、与えられた環境下で子孫を残す確率が高い形質を作り出す遺伝子が生き残り、そうでないものは淘汰されていくというわけです。したがって、遺伝子とこれを維持するための器官のない生物が、進化によって誕生するとは考えられません。
 ある意味では進化の到達点とも言えるのが、ウィルスです。ウィルスは、遺伝子(DNAかRNA)とそれを覆うタンパク質だけ(その周りにエンベロープを持つものもある)の存在であり、これを機能させるための器官は、宿主となる生物のものを借用しています。不必要なものを全て捨て去ったという点では究極の進化ですが、ここまでくると、もはや生命とは言えないでしょう。

【Q&A目次に戻る】

質問 仮想粒子はふつうの素粒子と性質が異なるのでしょうか? もし対消滅せずに生き残ったら、エネルギー保存則が破られることになりますが、必ず対消滅するような条件下で生成されるのでしょうか?【現代物理】
回答
 「ふつうの素粒子」とは何でしょうか。初等的な理論では、他からの作用を受けない自由粒子を、素粒子の基本状態として扱っているので、これを「ふつうの素粒子」と呼んでいるのだと思います。しかし、完全に自由な粒子など、この世界に存在しません。ごく弱い重力場や電磁場はどこにでも存在していますし、クォークやグルーオンは、自由に解き放つことがそもそも不可能な素粒子です。
 仮想粒子(virtual particle)とリアルな粒子を厳密に区別することはできません。一般に、仮想粒子とは、エネルギーと運動量の間に相対論的な関係式:
  E2 = p2c2 + m2c4
が成り立っていないような状態を意味しますが、この関係式が成り立つのは、あくまで、全ての相互作用がシャットオフされた理想的な極限状態であり、現実には、多少なりとも「ずれ」が存在するはずです。不確定性関係(あるいは、この関係式をもたらす量子論の基本法則)によって、この「ずれ」が大きい状態は、継続時間(寿命)が必然的に短くなります。つまり、自由粒子(ふつうの素粒子?)とは、エネルギー・運動量の関係式が“ほぼ”満たされ、寿命が“きわめて”長くなった仮想粒子というわけです。一方、対生成・対消滅の中間状態に現れるのは、この関係式が大きく破れ、寿命がごく短い“いかにも仮想粒子らしい仮想粒子”です。

【Q&A目次に戻る】

質問 NHKブックスの『第5の力』という本を読んでいて、分からなくなったので教えて下さい。「物体間では、グラビトンと言う質量の無い素粒子をやり取りをする事で、重力と言う相互作用が発生する」と書いてありましたが、なぜ質量の無いグラビトンをやり取りをすると、重力が発生するのでしょうか。【現代物理】
回答
 場の量子論では、相互作用を行っている状況を「素粒子を交換している」と表現することがよくありますが、これは、一般の人には誤解を招く言い方だと思います。
 古典物理学では、電荷や質量の周りには電磁場や重力場が生じており、この電磁場や重力場が、他の電荷や質量に作用を及ぼすとされています。例えば、静止した電荷の場合、周囲には、電荷からの距離の逆2乗に比例するクーロン場が存在することになっています。これに対して、現代的な場の量子論は、電磁場や重力場の振舞いは、クーロン場に代表されるようなスタティックなものではなく、はるかにダイナミックで複雑になることを明らかにしました。
 場の量子論が古典的な理論と最も異なっているのは、場が波動性と粒子性を示すことでしょう。古典的な電磁場で作用が遠方に伝播する際には、電磁波という波としての姿しか現れませんが、量子論では、コンプトン散乱や光電効果に見られるように、電磁場の作用が粒子のように振舞うことが知られています。こうした粒子的な状態は、比較的簡単な数式で表されるので、場がどのように振舞っているかを表すときには、粒子的な状態の表現を利用する(数学で謂うところの「摂動論展開」を用いる)のが、最も簡便です。例えば、2個の電荷が電気的な力を及ぼしあう過程を量子論で表現するには、電磁場の粒子的な状態(光子状態)で展開します。これを文章で言い表すと、「電荷の間で光子が交換されている」ということになります。とは言っても、一方の電荷が1個の光子を放出し他方の電荷がそれを吸収するといった“光子のキャッチボール”が行われているのではありません。1個から無限個までの光子が存在する全ての状態を加えあわせたものが真の過程であり、何個かの光子が交換されているという言い方は、あくまで近似的な計算を表現しているにすぎません。
 もっとも、電磁気に関しては、光子を交換するというイメージは、全くの的はずれではありません。光子がある個数だけ関与する状態で展開して計算すると、光子の数が少ない方が計算上の寄与が大きく、コンプトン散乱や光電効果では、1光子状態の寄与分だけで現象の大半が説明できてしまいます(「くりこみ」と呼ばれる特殊な寄与分を除く)。これが、コンプトン散乱や光電効果で粒子性が顕著に現れる理由です。
 重力の場合は、電磁気と同じようにはいきません。そもそも、重力場に量子論を適用することは、まだうまくいっていません。たとえ重力場の量子論が完成したとしても、重力の相互作用を重力場の粒子的状態(グラビトン状態)で展開したとき、グラビトンの個数が少ない方が寄与が大きいわけではなく、数個のグラビトンを質量を持つ物体がやりとりするというイメージは、適切ではありません。場の量子論の研究者は、こうした事情を知った上で、言葉の綾として「グラビトンを交換する」という言い方をしているだけです。一般の人が、キャッチボールのようなイメージを抱いたりすると、大きな誤解の元になります。
 『第5の力』という本にざっと目を通してみましたが、全般的に記述がずさんで、不適切な表現が随所に見られます。あまり真に受けない方が良いでしょう。

【Q&A目次に戻る】

質問 いわゆるルイセンコ学説を反証した決定的な実験とかデータは存在するのでしょうか? それとも、単なる経験に基づいて偽説だと判断されたのでしょうか?【その他】
回答
 ルイセンコ学説とは、スターリン政権下のソビエトで支持された遺伝・進化に関する総合学説で、簡単に言えば、環境との相互作用によって代謝などの基礎的な生体機能が変化し、この変化が子孫に受け継がれるというものです。このような総合的な学説を、単一の決定実験によって反証するのは、現実問題として困難です。環境によって変化する形質はたくさんありますし、そうした形質の変化が遺伝するかどうかは、長期間にわたるデータの蓄積が必要だからです。そもそも、ルイセンコ学説自体が、確固たるデータに基づいて構築されたわけではありません。ルイセンコは、低温処理によって秋まき小麦が春まきに変わることを実験的に示したと言われていますが、実験方法もデータの解釈もかなりずさんなものです。
 ルイセンコ学説が支持を失ったのは、(1)1956年にフルシチョフによってスターリン批判が展開された際、スターリンに庇護されていたルイセンコも批判の対象になったこと、(2)対抗学説となるメンデルの遺伝学を支持する証拠が集まってきたこと、(3)ルイセンコ学説を応用した農法では収穫量が増えなかったこと−−などが原因でしょう。
 なお、ルイセンコ学説とは内容が異なりますが、バクテリアに関しては、獲得形質の遺伝が起こり得ることが知られています。バクテリアの場合、(腸球菌と黄色ブドウ球菌のように)種類が異なっていてもプラスミドを交換することが可能です。したがって、例えば、抗生物質がコンスタントに使用され、淘汰を通じて薬剤耐性菌が数多く生息している環境下では、耐性をもたらす突然変異を起こしていないバクテリアでも、かなり高い頻度でプラスミド交換を通じて後天的に耐性遺伝子を獲得し、抗生物質が存在するニッチに耐性菌として繁殖していきます。現象だけを見ると、特定の環境下で後天的に獲得された形質が子孫に伝えられるようになったわけです。これと似た現象がトランスポゾンなどを介して真核生物でも起きるかどうかは、わかっていません。

【Q&A目次に戻る】

質問 私は野球をやっているのですが、冬にキャッチボールをするときにグローブでボールをキャッチすると手が痛くなります。夏にはそのようなことはないので、温度によって痛みを感じる神経の感受性が変化するのでしょうか?【その他】
回答
 私はこの方面の専門家ではないので詳しいことはわかりませんが、おそらく、機械刺激と温度刺激の両方に応答する神経のせいだと思います。
 皮膚には触覚・圧覚・痛覚・温度覚などの受容器がありますが、そこからのシグナルを大脳皮質まで伝える神経線維は、必ずしも単一の刺激に対してだけ応答するわけではありません。機械刺激だけに反応するタイプもあれば、痛覚と温度覚の両方のシグナルを大脳皮質の特定部位に伝達するタイプもあります。このように異種の刺激に応答する神経が存在する場合、それぞれの知覚が相互に影響を及ぼしあうことが知られています。例えば、内臓からの痛覚性インパルスを伝える神経の一部は、脊髄視床路において皮膚痛覚と共通の神経線維に接続されているため、内臓に障害があるにもかかわらず、皮膚に痛みを感じたり、皮膚の一部が刺激に対して過敏になったりします。これと同じように、寒さの刺激にさらされていると、この感覚と神経線維を共有する痛みの感覚が過敏になると考えられます。
 この回答には、あまり自信がありません。専門知識がある方のご教授をお願いします。

【Q&A目次に戻る】

質問 僕は開いた宇宙という概念が理解できません。閉じた宇宙なら何となくわかるのですが、双曲面的な宇宙というのは、誕生初期の段階でもどこまで行っても違う景色の広がる果ての無い宇宙ということになるんですか? また、平坦な宇宙とはどう違うんでしょう?【現代物理】
回答
 「開いた無限宇宙」というアイデアは、ソビエトの数理物理学者フリードマンが1924年に初めて提案しました。「宇宙はどこでも均質である」という宇宙原理を仮定し、空間曲率が負であるとしてアインシュタイン方程式を解くと、過去のある瞬間に誕生し、永遠に膨張し続ける宇宙の解が得られます。この解は「開いたフリードマン宇宙」と呼ばれており、「閉じたフリードマン宇宙」が球面状であるのに対して、双曲面空間になっています。
 開いたフリードマン宇宙は、無限の拡がりを持つ空間です。宇宙全体が時間とともに変化しない静的なケースでは、無限大の世界をイメージすることは困難でしょう。同一空間内にある2点間の距離は、どうあがいても有限でしかあり得ないからです。しかし、フリードマン宇宙は、過去のある時刻に生まれた有限の年齢を持つ世界なので、(光速×宇宙年齢に近い)有限の距離の所に、その先は決して見ることのできない「宇宙の地平線」が存在します。宇宙の地平線が観測可能な世界の果てであり、その彼方には、窺い知ることのできない世界がなお無限に拡がっている−−そうイメージすれば、少しはわかりやすいのではないでしょうか。
 もっとも、開いたフリードマン世界が宇宙全体の適切な模型になり得るかというと、そんなことはないでしょう。無限の拡がりがあるにもかかわらず、その全ての領域で「密度や曲率が一定だ」という宇宙原理が成り立っているとは考えにくいからです。現実の宇宙は、たとえ部分的にフリードマン空間に近い領域があったとしても、(数兆光年か数京光年か彼方の)どこかで宇宙原理が破れていて、宇宙全体のトポロジーはずっと複雑なものになっていると想像されます。
 なお、平坦な宇宙は、開いたフリードマン宇宙の負の曲率(あるいは閉じたフリードマン宇宙の正の曲率)が限りなくゼロに近づいた場合に相当します。

【Q&A目次に戻る】

質問 ニュートリノが質量を持つこと、相互作用をしそうだということは、観測に基づきほぼ公認されているようですが、いわゆる「標準理論」に再考をせまることにはならないのでしょうか?【現代物理】
回答
 ニュートリノに質量があることは、スーパーカミオカンデなどで行われた実験の結果によって、ほぼ確実視されています。こうした実験は、直接ニュートリノの質量を測定するものではありませんが、質量がなければ起きないはずの「ニュートリノ振動」と呼ばれる現象を捉えており、質量の2乗の差についても(標準的な理論の枠内で)具体的な数値が示されているので、よほどのどんでん返しでもない限り、結論が覆されることはないでしょう。
 素粒子の標準模型では、ニュートリノは質量がないとされているので、質量があるとなると、当然、理論を再検討しなければなりません。ただし、標準模型は、ニュートリノの質量項を積極的に「禁止」するものではありません。あくまで、以前の実験データと合致するように質量項を入れない形で定式化しただけであり、質量項が必要となれば、(超対称性の導入のような)ドラスティックな変更をしなくても、マイナーチェンジによって付け加えることが可能です。もちろん、ニュートリノの質量が電子などに比べてきわめて小さいことを合理的に説明するには、それなりの理論を構築しなければなりません(今のところ、「シーソー機構」と呼ばれるものが有力候補です)。しかし、非可換ゲージ理論という標準的な理論の枠を壊さずに実験データと一致する模型を作ることができるので、多くの物理学者が次々に(ときには安直に)提案を行っては妥当性を検討するという作業が繰り返されています。

【Q&A目次に戻る】

質問 昨今、身に付けたゲルマニウムが体温により32度以上に温められるとマイナス電子を放出し、乱れた生体電流を整えるという宣伝文句をよく聞くようになりましたが、これは理論的に説明可能なメカニズムなのでしょうか? あるいは電磁波による悪影響と同様、「何らかの電磁作用による健康への統計的傾向がみられる」といった程度の説明しかできない作用なのでしょうか。【その他】
回答
 ゲルマニウムを使用した健康器具や健康食品の宣伝は至る所で見かけます。しかし、ゲルマニウムが生体に与える影響に関して、科学的な研究論文が信頼できる学術誌に掲載されたケースは見あたりません(インターネットでの検索では、無機ゲルマニウムに曝された労働者の健康被害についての論文1本がヒットしました)。疫学調査に基づく統計的なデータもないようです。
 ゲルマニウムが健康に良い影響を与えるというのは、理論的根拠のない憶説にすぎないと思います。ゲルマニウムは半導体で、常温でも自由電子と正孔(電子軌道から電子が抜けた穴)ができて電導性が生じます。しかし、これが生体電流を整えるという理論など聞いたことがありません。また、電荷の保存則があるので、電子を放出し続けることは不可能です(それとも、32度という低温で熱電子放出が起きると言いたいのでしょうか)。
 1989年、イギリス政府は、ゲルマニウムを含む健康食品に健康上のメリットはないとして、消費者に注意を喚起しています。当時は、有機ゲルマニウムの摂取によって活性酸素が破壊されるという効能が喧伝されたようですが、宣伝文句をあれこれ変えながら、いまだに怪しげな商品の売り込みを図っているのでしょう。

【Q&A目次に戻る】

質問 ガリレオやケプラーは、物理現象を代数的に考えたのでしょうか? 幾何学的に考えたのでしょうか? ニュートンは代数的に考えたと思って間違いないでしょうか?【古典物理】
回答
 現代の物理学では、物理法則は代数的な方程式で書き表されるのが一般的ですが、こうした方法が使われ始めるのは17世紀後半からで、それ以前は、数学と言えば幾何学の方がメジャーでした。
 ケプラー(1571-1630)が幾何学的な発想に基づいて研究していたことは、残された著作などから明らかです。彼は若い頃、(当時発見されていた)惑星が5つしかないのは、正多面体が5種類しかないことと関係していると考え、正多面体に惑星軌道が内接するモデルを考案しています。また、惑星軌道が円ではなく楕円であることを見いだしたときに、自然が完璧な幾何学的秩序に従っていないことに失望の念を漏らしています。代数では楕円は簡単な式で表現されますが、幾何学では「2つの点からの距離の和が一定である曲線」というややこしい定義になるので、ケプラーにとって不自然に思えたのでしょう。
 ガリレオ(1564-1642)も、かなりの程度まで幾何学に頼っていました。例えば、振り子の長さと周期の関係を調べた際の研究ノートには、いくつもの円が作図されており、それに基づいて「周期は長さの平方根に比例する」と結論しています。
 ニュートン(1642-1727)は、自身で微積分法を開発したことからも推測できるように、代数的な考え方をしていたと思われます。しかし、彼の生きた時代にはまだ代数的方法論はそれほど普及していなかったため、主著『プリンキピア』では、終始一貫して幾何学的な方法で物理法則を表現しています。

【Q&A目次に戻る】

質問 「絶対零度の世界ではあらゆる分子が結合力を失い崩壊する」とある書籍に書かれていましたが、本当でしょうか?【現代物理】
回答
 嘘です。通常の物質は、絶対零度に近づくにつれてエネルギーの低い結晶に移行して固体化します(ヘリウムのように、超高圧を加えなければ、絶対零度でも液体に留まる例外的なケースもあります)。

【Q&A目次に戻る】

質問 永久磁石のエネルギーの源は何ですか? エネルギー保存の法則との関係はどう説明できるのでしょうか?【古典物理】
回答
 永久磁石は鉄などの強磁性体を引き寄せますが、これは、永久磁石の中に蓄えられていたエネルギーが作用を及ぼしているわけではありません。磁気のエネルギーは空間全域に拡がっており、永久磁石と鉄が離れているときにはエネルギーの値が高く、近づくにつれて低くなります。磁石が鉄を引き寄せるのは、水が高いところから低いところへと流れるのと同じように、エネルギーが低い状態へと移行する自然な過程なのです(磁気エネルギーの減少分は、物体の運動エネルギーや摩擦熱などに変わります)。
 それでは、磁石と鉄を引き離したエネルギーはどこから来たかというと、宇宙の歴史まで考えなければなりません。ビッグバンで始まった宇宙は、最初の時点から莫大なエネルギーを有しており、そのエネルギーによって、物質(その構成要素である原子はそれ自体が小さな磁石です)が引き離され、構造が生まれてきたのです。

【Q&A目次に戻る】

質問 電子は電磁波でしょうか? 電磁波はラジオ波からγ線まで波の長さによって決まりますが、はたしてγ線が最後の電磁波でしょうか? もしγ線の波長がどんどん短くなり、波の間に空間がなくなると、質量が生じて電子になるとは考えられないでしょうか。【現代物理】
回答
 電子は電磁波と同じように波としての性質を持っていますが、多くの基本的な性質が電磁波と異なっており、短波長の極限で電磁波が電子になるとは考えられません。電子と電磁波(光子)の最も大きな違いは、電荷の有無(電子は -e だが光子はゼロ)とスピンの違い(電子は 1/2 だが光子は1)です。現在の理論物理学によれば、電荷のないものから電荷を作り出したり、整数スピンの粒子を組み合わせて半整数スピンの粒子を構成することは、原理的に不可能だとされています。むしろ、電磁波の方が、電子のような半整数スピンの粒子の複合体である可能性があります。

【Q&A目次に戻る】

質問 元素の宇宙存在度の特徴を具体的に教えてください。【現代物理】
回答
 この質問には、別の項目で回答しています。

【Q&A目次に戻る】

質問 自然界に存在する新しい物質(元素ではなく分子レベル)は1年でどれくらい発見されているのでしょうか? あるいはもう探し尽くして、新たなる発見がない状態なのでしょうか?【その他】
回答
 「自然界に存在する」という条件が、もはや曖昧になっていると思います。例えば、海水を分析装置にかけると、さまざまな種類の化学物質が含まれていることがわかりますが、ごく微量なものに関しては、人工物か天然のものかを区別することは不可能でしょう。自然界でも、有機物の燃焼などによって実に多彩な化学物質が生じ得るからです。
 また、生物が合成する生体高分子まで考えると、1次構造のわずかに異なる無数のヴァリエーションがあるので、数を特定することが無意味になります。
 ちなみに、chemical abstract service に登録されている化学物質(生体物質を除く)の総数は、すでに2000万種を超えており、毎年100万種以上のペースで増え続けています。

【Q&A目次に戻る】



以前に書いたプチ回答3

以前に書いたプチ回答2

以前に書いたプチ回答1


©Nobuo YOSHIDA