★★ プチ回答(旧)2 ★★

表紙を表示する

 このページには、プチ回答の中で古くなったものを移動しています。


質問 よく、ダブルスリットの干渉実験で光や電子の波の性質が証明されると聞きます。でも、水面ではスリットを通らなくても干渉しますよね? 光や電子もスリットを通らなくても干渉するのですか。違うのであれば、水面の波と光や電子の波を同じように捉えるべきではないと思えますが。【古典物理】
回答
 光や電子の運動は、ダブルスリットの実験に限らず、すべて波動力学に支配されています。しかし、波を遮る物体のスケールが波長(光の場合は電磁波としての波長、電子の場合はコンプトン波長)に比べて充分に大きいと、光も電子もほとんど直進しているように見えてしまい、回折や干渉のように典型的な波動性は顕著には現れません。ダブルスリットの実験は、回折波の干渉がはっきり観察できるように実験装置をあつらえているので、波動性が観察しやすいというだけのことです。しかも、初学者に量子論の不思議さを教える際に、「2つあるスリットのどちらを粒子が通り抜けたのか」という印象的な謎が提示できるので、啓蒙書では、ダブルスリット実験を用いた説明が好まれるのです。
 ただし、水面波と量子論の波を同じように捉えるべきではないでしょう。前者は、水という物理的実体の運動を直接表しているのに対して、後者は、あくまでシュレディンガーの波動関数という数学的な表現にすぎないからです。

【Q&A目次に戻る】

質問 プロジェクターでは白色光をRGBに分光し、それを再合成するという手法をとりますが、この際、もともと持っていた白色光の熱エネルギーはRGBに三等分されるのでしょうか? 例えば、200Wの超高圧水銀ランプとXeランプでは分光特性が異なりますが、RGBのそれぞれに66Wずつ振り分けられるのか? それとも波長によって異なるとすれば、分光したおのおのの波長部分での理論的な熱エネルギーの計算は可能でしょうか?【古典物理】
回答
 フーリエ成分に関する基本定理によって、波が持つエネルギーは、各要素波のエネルギーの単純な和に等しいことが示されます。例えば、電磁場のエネルギー密度 E2/4π を時間平均した量は、フーリエ級数の成分 En を使って、
  〈E2/4π〉= Σ|En|2/8π
となります(係数はフーリエ展開の定義に依存します)。仮に、RGBへのスプリッティングが波長の一定範囲ごとにスッパリと分割されるものとすれば、エネルギーの分配は、もともとの(超高圧水銀ランプとXeランプなどの)スペクトルを単純に区切ったものになるはずです。

【Q&A目次に戻る】

質問 現在の宇宙空間は99%プラズマで満たされていますが、いつ、どのようにしてプラズマが生まれたのでしょうか?【現代物理】
回答
 プラズマとは、電離した正イオンと電子をほぼ同じ割合で含む物質状態のことであり、温度が充分に高くなれば、あらゆる物質はプラズマに変化します。ビッグバン直後の高温状態では、陽子・中性子・電子がバラバラになって飛び交っていたので、宇宙に存在する全物質が完全なプラズマ状態にあったと言えます。ビッグバンから30万年ほど経つと、温度が4000度まで下がって水素やヘリウムの原子核と電子が結合を始め、大部分の物質はいったん中性になりますが、その後、重力によって凝集した物質の内部で核融合反応が始まると、発生する熱によって温度が局所的に上昇し、その周辺で再びプラズマ化が進行します。太陽をはじめとする通常の恒星は、核融合の熱によって天体全体がプラズマ状態になっています。また、高温になった表面から重力を振り切って放出される恒星風(太陽からのものは太陽風)は高速のプラズマ流であり、その一部は、惑星の磁場にトラップされて磁気圏を形成します。このほか、宇宙空間に漂う中性のガスが、恒星からの紫外線などによって電離され、プラズマとなったものもあります。

【Q&A目次に戻る】

質問 なぜ生物は後世に子孫を残そうとするのでしょうか?【その他】
回答
 確かに、生物には子孫を残すための巧みな仕組みが備わっており、高等動物になると、戦略的な行動を通じて、交尾・出産・育児などを効果的に行っています。しかし、これは、何か原因があってそうなったというよりも、結果的な現象だと言うべきでしょう。生物が進化する過程でさまざまな変異が生じますが、その中で、子孫をより多く残せる仕組みの備わったものが、生存競争に勝利して生き残ってきたわけです。子孫を残そうとしない個体は、そうした特徴をプログラムしている遺伝子を後世に伝えることがそもそもできないのです。

【Q&A目次に戻る】

質問 アニメなどで、核ミサイルを撃ち落とすとその場で大爆発──というシーンを見かけますが、実際に核ミサイルなどを撃ち落とした場合、その場で爆発することはあるのでしょうか?【その他】
回答
 アニメやSF映画では、視覚的な派手さを演出するために、爆発しないはずのものを爆発させることがよくあります。例えば、石油コンビナートで怪獣が石油タンクを踏みつぶした途端に爆発するというシーンを見かけますが、実際には、せいぜい漏れた部分が通常の火災のように炎上する程度で、よほどのことがなければ爆発には至らないはずです。
 アメリカなどの軍事大国で用いられている核弾頭の場合、起爆装置が正常に働かない限り、めったなことでは核爆発を起こしません。プルトニウムを核爆発させるには、均一に圧縮して瞬間的に全体を臨界密度以上にする必要がありますが、そのためには、“爆縮”と呼ばれる高度な技術が必要になります。起爆装置の火薬が誘爆したときには、プルトニウムに不均一な圧力が加わるため、最悪の場合でも、核反応していないプルトニウムが飛び散るだけで済みます(それはそれで危険ですが)。
 ただし、爆縮技術を持たない小国がウラン爆弾を核弾頭に使用した場合は、それほど安全ではありません。ウランを核爆発させるには、火薬を爆発させてその勢いで2つのウラン片を合体させ、全体で臨界質量以上にしてやれば良いため、起爆剤が誘爆を起こすと、それがきっかけとなって核爆発に至る可能性もあると考えられます。

【Q&A目次に戻る】

質問 量子コンピュータが開発されたとき、突如そこに意識が発生するということはあるのでしょうか?【その他】
回答
 意識の存在を「空間内部を物体が運動する」という古典力学的な世界観の下で解明するのは困難であり、何らかの形で量子効果が関与していることは間違いありません。それでは、量子力学的な重ね合わせの状態を利用して計算を行う量子コンピュータに意識が生まれる可能性はあるでしょうか。
 結論から言うと、その可能性はまずありません。量子コンピュータで情報の基本単位としてよく使われるのは、補足された原子の量子力学的な状態(例えば、カルシウム原子の S1/2状態とD5/2状態)であり、原子同士の相互作用によって状態が遷移する過程を利用して、特定の計算を行わせるというものです。現在は数個の原子を用いて基礎的な実験が行われていますが、将来的には、数十個の原子を用いた量子素子を開発することが計画されています。2つの状態を取る50個の原子が相互作用している場合、可能な状態の総数は、250(=約1000兆)となり、これをフルに活用すれば、現在のスーパーコンピュータをはるかに凌駕する能力が発揮できるはずです。しかし、そうは言っても、その実態はたかだか数十個の原子の相互作用でしかなく、しかも、計算のアルゴリズムは、人間が外部からインプットしているのであり、自発的に複雑な相互作用を遂行しているわけではありません。
 意識の本質は、多くの情報を内包するその複雑さにあるわけで、現在の科学者が想定している程度の量子コンピュータでは、意識のかけらも生まれないでしょう。

【Q&A目次に戻る】

質問 地球上の自分が立っている地点(A地点とする)から地球の中心を経由し、地球の反対側(B地点とする)までまっすぐトンネルを掘り、A地点からトンネルに飛び込んだ場合、B地点まで行けるでしょうか? また、地球の中心を通過する瞬間の時速はどのくらいになるでしょうか?【古典力学】
回答
 簡単のため、地球は密度が一定値ρの静止した球体と仮定し、空気抵抗を無視します。この場合、地球中心からrの地点でトンネル内部にある質量mの物体に加わる重力fは、ガウスの法則によれば、半径rの球の内側にある質量が中心に集中したときと等しく、
  f(r) = GmM(r)/r2
となります。ただし、M(r)は半径rの内側にある質量で、
  M(r) = ρ×4/3 πr3
です。したがって、
  f(r) ∝ r
となり、地表(r=R)での重力がmg(重力加速度)に等しいことを使えば、
  f(r) = mgr/R
が得られます。これは、比例係数k=mg/Rの線形復元力なので、トンネル内の物体は単振動を始めます。周期Tは、単振動の公式を使って、
  T = 2π(R/g)1/2
となるので約83分。中心速度vは、エネルギーの保存則より、
  kR2/2 = mv2/2
となり、
  v = 秒速7.8km
が得られます。
 ただし、現実には、コリオリ力によって軌道が曲げられトンネルの内壁にぶつかったり、空気抵抗のせいで急激に減速したりするため、単振動にはならず、最終的には地球の中心で止まってしまいます。

【Q&A目次に戻る】

質問 0!=1 を直感的に理解したいと思い、階乗を数列的に並べてみました。
 n! = (n+1)!/(n+1)
 …
 1! = 2!/2
 0! = 1!/1 = 1
この考え方では、いけないのでしょうか?
また、負の数の階乗をイメージしたいので、高校の教科書の定義を無視して、単純に並べ続けると
  n! = n×(n-1)!
  …
  0!=0×(-1)!      
  (-1)!=(-1)×(-2)!
となります。この並べ方にならえば、一般的にはm>0で
  1 = 0×(-1)×(-2)×…×(−(m-1))×(-m)!
   = 0×(-1)(m-1)×(m-1)!×(-m)!
と書けそうです。ゼロを極限で表すと
  (-m)!=limt→0(1/t)×(-1)(m-1)/(m-1)!
このように負の数の階乗をイメージすることはナンセンスなのでしょうか?ガンマ関数とのギャップを教えてください。【その他】
回答
 上の考え方は、おおむね正当なものです。もともと階乗は、
  n! = n×(n-1)×…×3×2×1
という形で定義されたものですが、この定義は、自然数に対してしか適用できません。階乗を任意の複素数にまで拡張したのがガンマ関数Γ(z)であり、z=n(自然数)のときは Γ(n+1)=n! 、それ以外の領域には、関係式:
  Γ(z+1) = zΓ(z)
を保つように解析接続されています。この式にz=1を代入すれば、
  Γ(2) = Γ(1)
すなわち、
  1! = 0!
が得られます。引数が負の整数のときガンマ関数の値は無限大になりますが、整数から少しずらすことによって、きちんと定義することができます。ガンマ関数の関係式より、
  Γ(t+1) = t×(t-1)×(t-2)×…×(t-(m-1))×Γ(t-m+1)
右辺の係数部分で両辺を割ってから t→0 の極限をとれば、質問にある式と同じものを得ます。

【Q&A目次に戻る】

質問 キャビテーションに興味が有ります。このキャビテーションで発生する小さな気体の成分は、何なんでしょうか?単なる水蒸気とは思えません?収集すると結構な量になります。【その他】
回答
 キャビテーションとは、高速で流れる液体中にベルヌイの法則に従って圧力の低い部分が生じ、飽和蒸気圧以下になって一時的に気化する現象です。従って、キャビテーションの空洞にある気体の大半は液体の蒸気(水の場合は水蒸気)で、それに、液体に溶けている気体がわずかに混じっています。
 ただし、液体中に大量の気体が溶け込んでおり、圧力低下によってその気体だけが過飽和になる場合は、少し事情が異なります。例えば、ビールの栓を抜いたときに内部に気泡が発生しますが、その成分は主に二酸化炭素です。

【Q&A目次に戻る】

質問 CPUは何GHzまで作れるのでしょうか?【その他】
回答
 CPUの高速化には、ICの集積度を上げるのが最も効果的です。現在、最高速CPUの動作周波数は1GHzを越えていますが、1GHzとは、1サイクルの間に光が30cmしか進まない周波数であり、速やかに電子を移動させるためには、動く距離を短くしなければならないからです。ICの集積度に関しては、「18ヶ月ごとに2倍になる」という「ムーアの法則」がほぼ成り立っており、それとともに、CPUの高速化も続いています。しかし、半導体内で電子を移動させる現在の素子を利用している限り、いつまでも高速化が続くとは考えられません。微細化を進めていくと、電流によって生じる面積あたりの熱量が膨大なものになるからです。すでに、CPUの熱密度はホットプレートを遥かに上回っており、間もなく、核反応炉なみになると言われています。革新的な放熱技術が開発されない限り、動作周波数の向上は頭打ちになり、代わって、1クロック当たりの実行可能命令数を増やすなど、別の方法によってCPUの性能向上を図ることになるでしょう。また、CPUばかり高速化させてもメモリ速度が追いつかないという問題も浮上しています。
 CPUがどこまで高速化するか、はっきりしたことはわかりません。Intelの最高技術責任者 P. Gelsinger は、2001年の講演で「10年後、マイクロプロセッサは10〜30GHzに達する」(MYCOM PC WEB ニュース 2001/2/6)と予測していますが、その辺りまでは、何とかなるのではないでしょうか。

【Q&A目次に戻る】

質問 古代ローマの水道技術のうち、初期のものにトンネル型が多いのはなぜですか?【その他】
回答
 私は専門ではありませんが、この分野に関しては、
塩野七生 著『ローマ人の物語10 すべての道はローマに通ず』(新潮社)
に、かなり詳しい記述があります。それによると、最初期の水道は財務官アッピアが紀元前312年に着工した「アッピア水道」で、全長16.617kmのうち実に16.528kmが地下に作られ、地上にあるのは89mにすぎないとのことです。ローマが大帝国になった後の水道でも、総延長で地下の方が地上の数倍はあるそうですが、それでも、初期ほど地下のトンネル型に偏ってはいません。
 従来の研究者が、地下トンネルが多くなったのは来襲した敵に破壊されるのを防ぐためだと指摘しているのに対して、塩野氏は、衛生面を強調しています。消毒薬がない時代なので、腐敗防止のためには温度上昇の抑制が重要であり、強い日差しを避ける目的で地下水路にしたとのことです。ローマには、近くにティベレ川も流れており、また、雨水を蓄える貯水槽も設置されていたので、水量は不足していなかったのですが、飲料に適した良質の水は、必ずしも多くありませんでした。地表に貯まった水ではなく地下水を地下の坑道内に取り込んで供給していたローマ水道は、当初は飲料用の上水道として機能したようです。

【Q&A目次に戻る】

質問 強磁性体の磁区が生じる原因は何ですか?【古典物理】
回答
 強磁性体では、スピンを互いに平行に揃えるような相互作用が働いており、キュリー温度よりはるかに低温の領域では、この作用が熱による擾乱に打ち勝って、近隣の磁気モーメントは同じ方向を向いています。しかし、マクロなスケールで見ると、結晶全体で同じ向きに揃うことはなく、通常は、異なる方向に磁化した領域(磁区)に分かれています。こうした磁区は、スピンの方向が遷移する薄い遷移層(ブロッホの壁)によって隔てられています。ブロッホの壁の厚さは、スピンが平行でないことから生じる交換エネルギー(壁が薄いほど大きい)と、磁化しやすい結晶軸からスピンの向きがずれることによる異方化エネルギー(壁が厚いほど大きい)のバランスによって決まり、鉄の結晶の場合は、約300の原子層を含む厚さになります。
qa_pt11.gif  強磁性体の結晶が複数の磁区が併存するような構造を取るのは、その方がエネルギー的に安定するからです。図の左のように、結晶全体が単磁区構造になると、外部に磁力線が漏れ出るため、∫H2dV に比例する静磁場エネルギーはかなり大きな値になります。しかし、図の右のように、磁区構造によって結晶内部での磁束の回路が閉じるようになると、静磁場エネルギーはほぼゼロになります。実際の結晶では、異方化エネルギーやブロッホの壁の寄与などを考慮する必要があるため、かなり複雑になりますが、静磁場エネルギーを小さくするために磁区が生じるという原則は同じです。

【Q&A目次に戻る】

質問 アボガドロ数についてお聞きします。「標準状態であれば、どの気体も22.4リットルの中に同数の分子が存在する」ということですが、日常的な感覚で行くと、小さい物は大きい物より多く詰めることが出来そうです。そこのところがどうしてなのか、具体的に水素と酸素で分かりやすくお願いします。【古典物理】
回答
 気体分子運動論から理想気体の状態方程式を導く場合には、分子は大きさのない粒子として扱われています。水素や酸素などの典型的な気体分子の大きさは、原子間隔が1オングストローム(10-10メートル)程度、占有体積はたかだか10-29m3程度です。この分子が、6×1023個集まったとしても、22.3リットルの空間の中で占める割合は数千分の1以下ですから、その程度の誤差を無視してかまわない場合は、酸素でも水素でも、大きさのない分子として扱うことができるのです。
 分子の大きさを含めた状態方程式を考案したのは19世紀の物理学者マクスウェルであり、その理論によれば、分子によって標準状態にわずかな違いが生じることが示されます。ただし、酸素分子が水素分子の16倍の質量を持つからといって、16倍分の差が出るわけではありません。酸素原子核は水素原子核の8倍の電荷を持つため、一番内側の電子の軌道は、水素の1/8程度に小さくなっていますが、電子の個数が水素よりも8倍多いので、結果的に分子の大きさは同じオーダーになります。例えば、酸素分子の O-O 結合間隔は1.20Å、水素分子の H-H 結合間隔は 0.74Åです。

【Q&A目次に戻る】

質問 大学で物理の授業が多いのですが、特に物理学実験の授業がさっぱり解りません。実験の考察などに何を書いて良いから分からないときは、どんな参考書を見れば良いのでしょうか?(先生に聞きに行く前に自分で調べたいときなど) 最近の実験のテーマは、「光の回折・干渉」「回折格子」「電流と磁場」「磁場中の荷電粒子の運動」などでした。【古典物理】
回答
 大学の学生実験は、教科書に載っている公式を確認させるためのものが大半で、はっきり言って、あまり面白くありません。原理そのものがわからなければ始まりませんが、実験の素材は、ほとんどの場合、公式がそのまま適用できるような典型的なものが選ばれているので、教科書(日本のものよりアメリカの教科書の方が概して説明が丁寧で役に立ちます)や参考書(大学図書館なら一通りそろっているはずです)に目を通せば、解説が見つかるはずです。理論的な考察を要するような曖昧な結果が出る実験を学生にやらせることは、まずありません。物理に興味を持つ学生にとっては、日常的な現象──例えば、砂を落下させてできる山の形がどうなるか──から法則性を考察したり、最先端機器を使って極限の世界のデータを求めたりする方が、遥かに得るものが多いはずですが、そうした実験は準備に手間がかかることもあって、なかなか実施できないのが実状です。担当教官も、どうせ大したレポートは期待していないのですから、手順通りさっさと実験を行ってデータを求め、教科書にある文章を少し変えてレポートに書けば、それで良いような気もします…
 …と言ってしまっては回答になりませんので、ひと味違った考察を書くコツを記しておきます。多くの場合、実験は手順書にあるようにはスムーズに進みません。セットアップの変更やキャリブレーションを繰り返さなければならないのですが、そのとき何がトラブルの元かを考察すると、面白いレポートになるはずです。例えば、電気的な測定でノイズが混入するときには、発生源の特定とノイズを避ける方法についての考察など(装置の配置を変えるだけでうまくいくことがあります)。データが理論値からずれた場合には、その原因を考えてみましょう。回折格子の実験では、公式がきちんと成り立つ中心付近だけではなく、それ以外のフリンジについても測定し、公式が成り立たなくなる限界と、ズレの原因について考えてみてください。
 実は、プロの実験家でも、こうした考察が不十分で誤ったデータを発表してしまうケースが、稀ではありません。例えば、「この理論を実験的に実証すればノーベル賞確実」などという場合には、強い心理的なバイアスが加わるため、ネガティブな結果が出たときには、実験装置に不備がある、キャリブレーションが不十分だったなどと判断して実験を続行し、ポジティブな結果が出ると、うまくいったと打ち止めにしがちです。このため、きちんとしたデータが提出されているにもかかわらず全くの実験ミスだったという例が無数にあります。

【Q&A目次に戻る】

質問 今絶え間なく進み続けている時間は、いつ始まったのですか? この瞬間がゼロといった取り決めはあるのですか?【現代物理】
回答
 相対論的宇宙論で使われる多くの宇宙模型では、約150億年前のある瞬間が、形式的な「時間の始まり(時刻ゼロ)」として定義されています。単純なビッグバン模型では、温度と圧力が無限大になって物理法則が成り立たない瞬間が、時間の始まりです。ホーキングらの宇宙模型では、特殊な量子状態として始まりの瞬間が定義されています。このほか、必ずしも主流ではありませんが、「宇宙は永遠に膨張と収縮を繰り返しており、始まりの瞬間はない」とか「ある宇宙は別の母宇宙から生まれるものであり、宇宙の系図は無限に遡れる」とする宇宙模型もあります。また、たとえ「時間の始まり」があるとしても、時間以外に生成消滅を支配する座標軸があり、この座標軸は、より巨大な世界の中に無限に伸びているという考え方も可能です。

【Q&A目次に戻る】

質問 電力用変圧器の2次側の1線が接地してありますが、そこから漏電することはないのですか。【古典物理】
回答
qa_pt10.gif  変圧器から何らかの電気機器に接続して閉回路を構成した場合、故障がなければ、電荷がどこかに溜まることはなくループ電流が流れます。どこか1箇所を接地しても、閉回路全体の電気容量はきわめて小さいため、地面と等電位になるように電荷が移動するだけで、漏電は起きません。ただし、地面との間に電位差を持つような部分で絶縁が破れ、筐体などを介した電流の通り道ができると、ここから接地点まで地絡電流が流れてしまいます。これが漏電です。
 漏電が起きているときには、ループ電流だけが流れている場合とは異なり、変圧器から出ている2本の導線を流れる電流の和が(地絡電流の分だけ漏れて)ゼロではなくなるので、2本の導線の周囲の磁場を測定することにより、漏電を検知できます。これが漏電遮断器の原理です。
 変電所などのような巨大施設では、電気機器の接続が複雑になるため、どの部分を設置すべきかについてのシステマティックな接地設計が必要になります。

【Q&A目次に戻る】

質問 ボルタ電池が出来るまでの歴史的背景を教えて下さい。【その他】
回答
 ボルタをメインテーマとした書籍は、日本では出版されていないようで、まとまった資料は見あたりません。通り一遍の内容ですが、「サイエンスチャンネル」(科学技術振興機構)のサイトで、ボルタの紹介ビデオが配信されていますので、参考にしてみてください(「研究者・技術者−偉人たちの夢 −(1)ボルタ」)。

【Q&A目次に戻る】

質問 ゴム風船の圧力を普通の圧力計で計ると、ほとんど読めないほど圧力計の値は小さいが、それを針で指して割ると大きな音がします。その理由がどうしてもわかりません。【その他】
回答
 これは、使用した圧力計のレンジの問題だと思われます。風船内部の気圧は、大気圧よりも0.1〜0.3気圧程度高いだけなので、数MPa(数十気圧)の圧力を測定する通常の圧力計では、ほとんど針は振れません。微小な圧力差が測定できる圧力計を用いれば、正確な測定ができます。
 圧力差がわずかであっても、割れた直後には圧力が非連続的に変化する領域が存在するため、小規模ながら衝撃波が発生します。人間の耳はきわめて高性能なので、小さな衝撃波でも大きな破裂音として聞こえるのです。

【Q&A目次に戻る】

質問 蒸留水とイオン交換水の成分について教えてください。【その他】
回答
 イオン交換水は、イオン交換樹脂を使ってほとんどの電解質を取り除いたもので、電気伝導度のきわめて低い水が得られます。しかし、有機高分子などの非電解質は原理的に取り除けません。一方、蒸留水は、沸点の違いを利用して電解質・非電解質ともに除去できますが、沸点の低いアンモニアなどは完全には除去できません。

【Q&A目次に戻る】

質問 ペットボトルロケットの理論を調べて疑問に思ったのですが、ペットボトルロケットを水と空気でとばす場合、中に入れるものは「水」でなければ飛ばないのでしょうか?(水銀などでは飛ばないのでしょうか)【古典物理】
回答
 学校教材としてペットボトルロケットを作成するための指導書の注意書きに、しばしば「水以外のものを入れないでください」と書かれていますが、これは、主に安全性を考慮してのことであって、他の液体でも飛ばないことはないと思います(ただし、水銀は比重がきわめて大きいので、重すぎてだめでしょう)。有機溶媒の中には、比重や粘性係数が水とそれほど違わないものもありますが、有機溶媒には可燃性・中毒性のものが多いので、子供が扱うのは危険です。また、炭酸水などは、圧力が高くなりすぎてボトルが破裂する危険があります。

【Q&A目次に戻る】

質問 地球のマントルも、海水同様に潮汐力を受け流動しているらしいですが、GPSなどの座標系や地表高度系は精密観測の場合、どのように補正しているのでしょう?【その他】
回答
 GPS(全地球測位システム)において座標の基準になるのは、地球を周回する人工衛星の軌道です。潮汐力によって地殻がcmのオーダーで変位しても、そのせいで軌道が変化することはほとんどありません。また、この変位は、1日の平均を取れば打ち消されるので、高度の精密観測においても、補正することは可能です。

【Q&A目次に戻る】

質問 コピー携帯電話が出回っているとドコモのホームページで見たのですが誰がどのようにして作っているのですか?また、防ぐ手段はありますか?【その他】
回答
 正規加入者の端末が同じ番号を持ついわゆるクローン携帯の問題は、1年ほど前からマスコミを賑わしていますが、NTTドコモをはじめとする携帯各社は、技術的な理由から、その存在を否定しています。ドコモのホームページには、「極めて複雑・高度な技術を用いたセキュリティ対策が幾重にも施されているため…(中略)…クローン携帯を作ることは技術的に考えられません」と明記されています。
 クローン携帯が技術的に可能かどうかは、具体的にどのようなセキュリティ対策が施されているか(安全上の理由から)公表されていないため、何とも言えません。ROMに電話番号が直接格納されているならば、これを読み出して他の端末にROMライタで書き込んでしまえば良いのですが、実際には、おそらくチップのIDなどを利用して暗号化しているでしょうから、単純にデータをコピーすればクローン携帯を作れるということはないと思います。また、携帯電話は、位置を知らせるために断続的に基地局と交信しているので、同じ番号を持つ2つの端末が存在した場合、異なるエリアで同時に電源がオンになっていれば、直ちに電話会社に感知されます。電話会社内部からセキュリティ情報が漏れているのでなければ、クローン携帯を作ることはきわめて困難だと考えて良さそうです。
 パケット通信を行う場合、サイズの大きい写真や動画を受信したり、地図などを表示する案内サービスを利用すると、1回で数十円〜百数十円の通信料が掛かります。毎日数枚の写真を見るだけで、月に何万円もの通信料が請求されることもあります。クローン携帯騒ぎの火元は、そんなところにあるのかもしれません。

【Q&A目次に戻る】

質問 5つ並べた椅子の1つにフェロモンをたらしておき、部屋に入った女性がどの椅子に座るか実験した所、10人の被験者全員がフェロモンをたらした椅子に座った……フェロモンは、無味・無臭らしいのですが、こういう結果になったそうです。科学で説明がつきますか?【その他】
回答
 マウスや蛾を使った実験により、フェロモンが社会行動や繁殖行動に大きな影響を与えることが解明されていますし、人間にも同じタンパク質受容体をコードしている遺伝子があるので、フェロモンが人間の行動に何らかの影響を与えていることは、充分に推測されます。しかし、人間を対象としたフェロモン実験の多くは、厳密な制御が困難な場合が多く、必ずしも信憑性が高くないという問題があります。質問にある実験のケースでも、実験室内に「椅子の選択」に影響を与え得る要因が他になかったか明らかではなく、被験者の数も少ないため、にわかに真に受けるわけにはいきません。
 イノシシに対してフェロモン効果を持っており、人間の汗や尿にも含まれている androstenone がヒト・フェロモンの1つではないかという説はかなり有力ですが、科学的に確定した結論は得られていません。androstenone の匂いは、尿や汗に似た嫌な匂いだとも、花の香りに似た良い匂いだとも言われており、感じ方に個人差があるようです。また、何パーセントかの人は生まれつき androstenone の匂いを感じる能力を持っていませんが、繰り返し嗅がせているうちに匂いを感じるようになるとの実験結果もあり、感受性が後天的に変化すると考えられています。ただし、神経機構の細部については、ほとんど解明されていないというのが実状です。
 このほか、男性が発するフェロモンではないかと言われる androstadienone という物質に関しても、いくつかの実験が行われています。100人の被験者を使った実験では、その匂いを嗅ぎ取る能力の分布には2つのピークがあり、きわめて低濃度でも感じ取れる特殊な能力の持ち主(女性に多い)がいること、この能力は単なる嗅覚の鋭敏さとは別のものであることが判明しています(J.N.Lundstrom et al., Chem. Senses 28(2003)643-)。
 フェロモンの匂いを嗅いだとき行動にどのような変化が現れるかについては、統計的に信頼のできる結果を得るまで、もう少し研究を積み重ねる必要があるでしょう。

【Q&A目次に戻る】

質問 クローン人間と一卵性双生児について教えてください。一卵性双生児の兄弟はどこがどう違い、どう似ているのか、また、クローン人間が自分と同じ年齢になったら、どこがどう似ていてどこがどう違うか…。【その他】
回答
 クローン人間や一卵性双生児は、染色体上にある遺伝子のセットが同一であるため、遺伝的に決定されている形質は同一になるはずです。ただし、そうした形質で個人的な特徴として目立つものは、あまり多くありません。体格や相貌などは、遺伝子に制約されるものの、環境要因によって大きく左右されます。一卵性双生児の場合は、遺伝子だけではなく、母胎内から幼児期に至る生育環境がほぼ同一になるために、クローンよりは相似性が強くなり、(ザ・ピーナッツやマラソンの宗兄弟を思い浮かべればわかるように)外見上は区別が付かないほど似ることも少なくありませんが、後天的な影響を受けやすい免疫機能や性格・気質などにはかなりの差が現れます。先天的な形質でも、指紋の詳細パターンやほくろの位置など母胎環境に依存するものに関しては、生まれつき異なっています。
 クローン人間になると、細胞質や母胎環境も細胞核のドナーとは異なっているため、基本的な骨格や顔の造作は通常の兄弟以上に類似していても、ドナーの過去の映像などと比較したとき、見まがうほどにそっくりになるとは思われません。

【Q&A目次に戻る】

質問 小学校4年生のある日、校門を出た直後に田んぼの中で泣いている男の子を発見しました。男の子は、「抜けん、抜けん」と泣き叫んで、1歩目が抜けるまでにすごく時間がかかったのですが、2歩目からは、割と早く抜けて、無事生還しました。なぜ1歩目はあんなに時間がかかったのか、何か力学の関係でもあるのでしょうか?【古典物理】
回答
 類似した質問に回答したことがあるので、ここでは簡単に説明します。
 泥水は粘性抵抗が大きいため、(何秒というような)短い時間で足を引き抜くためには、かなり大きな力を加えなければなりません。ところが、実際に足に数キログラムの重りを載せて試してみれば分かるように、片足で踏ん張りながら、もう一方の足を持ち上げるような力を加えるには、たいへんな労力が必要です。人間は、蹴る力はかなり強いのですが、足を持ち上げる筋肉は、あまりたくましくないのです。特に、長靴の場合は、抵抗を小さくしようとしてつま先を下に向けると足だけがスポンと抜けてしまうので、つま先を上に向けたままにしておかなければならず、ふくらはぎがつりそうになります。足を下ろすときには、体重を乗せるだけで何十kgWの力を加えられるので、あっという間に泥の中に深く足がめり込んでしまいますが、引き抜く場合は、足場も悪く体勢も不安定で、どうにもままなりません。ただし、足が泥の中で固着してしまうことはないので、持続的に力を加えながらゆっくり足を持ち上げれば、(途中で力尽きない限り)いつかは抜けるはずです。
 田んぼに足を取られた少年は、おそらく1歩目で学習したのでしょう、2歩目からは、軸足が不安定にならないように注意しながら、足が深くめり込まないうちに体重移動をすばやく行ったのだと思われます。

【Q&A目次に戻る】

質問 太陽はあと何年ぐらい輝き続けるのですか。【現代物理】
回答
 恒星の輝きは、内部で進行する核融合反応(主系列にあるときは、主に、水素がヘリウムになる反応)によってもたらされていますから、その持続期間は、核融合の燃料がどれだけ保つかに依存します。一般に、恒星の質量が大きいほど、巨大な重力と釣り合う圧力を生み出すために早く燃料を消費してしまい、寿命は短くなります。理論的予測によると、太陽の寿命は約100億年、太陽の10倍の質量を持つ恒星では約3000万年になります。
 太陽が誕生してから現在まで46億年ほどが経過しているので、太陽の余命は、あと50億年ほどということになります。主系列星としての寿命が尽きると、しだいに膨張して赤色巨星となり、最後は外層部のガスを吹き飛ばして、輝きを失った小さな白色矮星となります。

【Q&A目次に戻る】

質問 なぜ、理論では一般に定積比熱を用い、実験では定圧比熱を用いるのでしょうか?【古典物理】
回答
 定積比熱は、物質の持つ内部エネルギーを温度で微分することによって得られるもので、モデルに基づく解析が比較的容易であることから、理論的な議論では好んで用いられます。しかし、実際に液体や固体の物質を用いて実験を行う場合、熱膨張に抗して体積を一定に保つのは困難であり、どうしても、定圧比熱を使わざるを得ません。固体では、定積比熱Cv と定圧比熱Cp の差は一般にきわめて小さい(Cv >> Cp - Cv > 0)ので、厳密な議論でなければ、両者を区別する必要はありません。

【Q&A目次に戻る】

質問 光は横波でも水中を伝わることができます。しかし、地震波のS波は、横波だから液体中は伝わらないと書いてありますが??【古典物理】
回答
 物質内部を伝播する波のうち、縦波は媒質に体積変化を引き起こす疎密波で、気体や液体中でも伝播しますが、媒質が進行方向に対して垂直方向に振動する横波は、ずれ変形を元に戻す復元力が作用する固体でしか伝わりません。地震のS波(Secondary Wave; P波の次に第2波としてやってくる波)は横波なので、地球の内核のような液体中を伝わることはできないのです。
 こうした“通常の”波に対して、光(電磁波)は、きわめて特殊な波動です。光が横波になるのは、電磁場の基本的な性質に由来しており、媒質のずれ応力に起因するものではありません。電磁場の振動が継続できる場所ならば、水中であろうと真空中であろうと、横波として伝わります。

【Q&A目次に戻る】

質問 磁気嵐が話題になりましたが、「磁気の雲」という表現を見ました。磁気に雲があるということは、磁界に実体があるということでしょうか。【古典物理】
回答
 「磁気の雲」という用語を Google で検索したところ、科学的な意味で用いていたケースは数件で、いずれも、2003年10月の太陽フレア現象に関するアメリカ海洋大気局(NOAA)の発表を引用したものでした。NOAA News Online で該当記事を調べたところ、"coronal mass ejection or CME - a huge cloud of electrically charged particles" という表現を見つけました。この件で "cloud" という語が使われている例は他に見あたらないので、この言い回しを「磁気の雲」と意訳したのではないかと思われます。
 真空中の磁場は荷電粒子に運動によって作り出されるものであり、それだけが塊となって移動してくることはありません。しかし、フレアなどによって宇宙空間に放出された荷電粒子の集まりは、粒子の相対運動によって内部に磁場を形成おり、惑星磁場と衝突するとさまざまな電磁現象を引き起こすので、「磁気の雲」と表現しても、あながち誤りとは言い切れないでしょう。ただし、あまり一般的な表現ではありません。

【Q&A目次に戻る】

質問 地球上で時速100キロで走る車の中から進行方向に時速100キロでボールを投げた時、そのボールのスピードはいったい何キロ出ているのでしょうか? 100キロなのでしょうか200キロなのでしょうか、それともどちらも間違っているのでしょうか。【古典物理】
回答
 「物体の速度」とは、ある基準に対する速度のことです。車の速度が時速100kmだと言うときは、通常、地面に対する速度を意味しています。密閉性の高い車がほとんど振動せずに一定速度で滑らかに走っている場合、車中では、車が動いていることを感じることなく、地面に立ってボールを投げるのと同じように投球することができます(もちろん、無蓋の貨物列車などでは、空気の流れがあるので、そうはいきませんが)。野球場で時速100kmで投球するのと全く同じ動作でボールを投げたとすると、ボールの速度は、(気圧の差など細かなことを問題にしなければ)「車に対して」時速100kmとなります。このとき、「地面に対するボールの速度」は、「地面に対する車の速度」に「車に対するボールの速度」を加えた時速200kmになります。ボールの向きが車の進行方向と異なっているときは、ベクトルの和として計算されます。
 厳密なことを言えば、相対論の効果によって、地面に対するボールの速度は、個々の速度の和からほんの少しだけずれます。時速100km(≒秒速30m)程度ではこのずれは問題になりませんが、これを100万倍して、地面に対して秒速3万kmで動く車の中で秒速3万kmのボールを投げたとすると、地面に対するボールの速度は、秒速5万9400kmになります。

【Q&A目次に戻る】

質問 乾電池に導線と抵抗を接続した回路で、電場は抵抗の部分にしかないのですか?【古典物理】
回答
qa_pt09.gif  抵抗のない導体内部では、わずかでも電場があると、そこから力を受ける電子が速やかに移動してしまうので、定常的な電場は存在できません。電池に導線を介して抵抗器を接続した場合、導線にはほとんど電気抵抗がないため、電池が作る電場を打ち消すように瞬間的に電子が移動するので、電場はなくなってしまいます。導線内部にある電子は、電場からの力も力学的な抵抗も受けずに、直観的な言い方をすれば、“滑るように”移動します。しかし、抵抗器内部では、力学的な抵抗のために電子の移動が充分にスピーディではなく、抵抗器の両端に導線から溜まってしまい、その結果として、内部に電場が残ることになります。この電場は、力学的な抵抗と釣り合うような電気的力を電子に与え、定常的な電流を作り出します。

【Q&A目次に戻る】

質問 フェムトレーザーってなんですか? 何に使えるのですか?【技術論】
回答
 質問にあるのは、「フェムト秒レーザー」のことだと思います。これは、パルス幅がフェムト秒(10-15秒)のレーザーのことです。ちなみに、ミリが 1,000分の1、マイクロが 1,000,000分の1、ナノが 1,000,000,000分の1、ピコが 1,000,000,000,000 分の1を表すように、フェムトは1,000,000,000,000,000(=1000兆)分の1を表します。
 ピークパワーがメガワット(1,000,000W)と巨大な値になる高出力フェムト秒レーザーは、ピンポイントで照射することにより大半の物質を溶かしてしまうので、表面の高精度加工に利用することができます。例えば、ダイヤモンド薄膜で表面をコーティングした素材は、機械的に加工するのが困難ですが、フェムト秒レーザーを使えば微細な加工が可能になります。また、基礎化学の分野でも、単一パルスのフェムト秒レーザーによって、反応中の1個の分子をターゲットとした光電子分光実験を行うことができます。

【Q&A目次に戻る】

質問 運動量保存の法則について、学校ではビリヤードの玉の衝突により習ったのですが、壁にスーパーボールをぶつけて跳ね返る場合や、卵をぶつけた場合ではどようにして運動量が保存されるのでしょうか。【古典物理】
回答
 運動量保存則が成り立つためには、「外部から力が加わらない」という条件が必要です。外力が加わっているときには、加えられた力積(力×時間)の大きさだけ運動量は変化します。ビリヤードの場合、鉛直方向には重力と台からの抗力が加わっていますが、水平方向には大きさが有限の摩擦力しか働いていません。ビリヤード玉の衝突において両者が接触している時間はきわめて短く、摩擦力による力積は無視できるので、2個のビリヤード玉の運動量の和は保存されることになります。ちなみに、1個のビリヤード玉に着目すると、衝突する瞬間に玉の間に働く抗力はきわめて大きく、接触している時間が短くても力積は有限になるので、運動量は変化しています。
 壁に何かをぶつけるときには、壁を支えている周囲からの力が加わるので、運動量は保存しません。ボールをぶつけたときの影響は、壁をわずかに振動させるだけにとどまります。地球は宇宙空間に浮かんでいるので、ボールと地球を併せた運動量は保存しそうですが、地球の質量はきわめて巨大なので、その速度変化は誤差に紛れて測定できません。

【Q&A目次に戻る】

質問 エックス線の中でも、最近、電離作用利用の目的として用いられている、エネルギーが9.5keV以下の微弱エックス線と呼ばれるものがありますが、微弱エックス線は磁界(磁力)によって曲がるものなのでしょうか?【その他】
回答
 質問にあるのは、イオナイザなどで利用されるようなX線のことだと思います。浜松ホトニクスが販売しているフォトイオナイザ(光照射式静電気除去装置)のカタログを見ると、3〜9.5keVの微弱なエックス線を照射して帯電体近傍の分子をイオン化し、静電気の除去を行うとあります。
 光子あたりのエネルギー(hν)が9.5keVのエックス線は、波長が1.2nmの電磁波であり、紫外線や可視光線と同じく、磁界から力を受けることはありません。向きを変えるには、結晶格子による回折を利用するのが一般的です。なお、“微弱”というのは、光子数の密度が小さいことを表しており、光子のエネルギーがどの範囲にあるかを意味するのではないと思います。

【Q&A目次に戻る】

質問 精製水は飲めないと聞いたのですが本当ですか? もし本当ならばそれはなぜですか?【その他】
回答
 精製水とは、通常の水を蒸留・イオン交換・超濾過(逆浸透法/限界濾過)などで処理して、日本薬局方に定められた水質基準に適合させたものを指します。電解質や細菌などの不純物を含んでいないため、薬剤を溶かして服用する際などに用いられます。「精製水を飲むのは危険だ」という俗説が一部で囁かれているようですが、大量の精製水を継続的に飲み続けるのでなければ、危険性はないと考えられます。
 精製水は、細胞内の水と比べると電解質(イオン)がほとんど含まれていないため、組織から分離した1個の細胞を精製水の中に入れると、細胞の種類によっては、浸透圧によって水が急速に流れ込み、破裂してしまうことがあります(これは、ナメクジに塩をかけると水が流出して死んでしまうのと逆の現象です)。しかし、口から精製水を飲んでも、人間の体内でこうした現象が起きることはありません。消化管の内壁はリン脂質層や粘液などによって保護されていますし、細胞が破裂しないように水を輸送するメカニズムも備わっています。また、胃腸の内容物から電解質が溶け出してくるので、いつまでも精製された状態にあるわけではありません。ただし、蒸留によって精製した直後の水には、酸素などのガスが溶けていないため、大量に飲み続けると、何らかの体調変化をもたらすかもしれません。
 精製水にはミネラル成分が含まれていないので、ミネラル不足を心配する向きがあるようですが、人間が必要とするミネラルは、通常、食物から摂取されているので、飲用水に含まれていなくても、直ちに健康に影響が出ることはないでしょう。もっとも、ミネラルの含有は「水のおいしさ」と関係しているらしい(はっきりしたことは良くわかりません)ので、精製水は「不味い」と感じられる可能性があります。

【Q&A目次に戻る】

質問相対性理論では、観測者(運動の法則を考える者)が、「等速直線運動(特殊)」と「加速度運動(一般)」をしている場合しか考えられていないが、観測者が「等速円運動」、また「変速直線運動」をしている場合を考えることはできますか?【古典物理】
回答
 「等速円運動」や「変速直線運動」は、「加速度運動」の一種です。加速度とは、単位時間に(速さではなく)速度がどれほど変化しているかを示す量です。例えば、等速円運動の場合、速さは変化しませんが、速度の向きが変化しているので、加速度はゼロではありません。回転の半径をr、角速度をωとすると、加速度aは、中心に向かって、
  a=rω2
で与えられます。したがって、こうした観測者に結びつけられた系に座標変換する場合は、一般相対論の公式が適用されます。

【Q&A目次に戻る】

質問永久磁石は本当は永久ではないって本当ですか? 地球の磁場がある限りは永久ってことですか?【古典物理】
回答
 鉄などの強磁性体が磁力を持っているのは、原子の1つ1つが小さな磁石になっており、さらに、この小さな「原子磁石」たちが、同じ向きにそろっているからです。原子の磁力は、原子が壊れない限り失われることはありません。しかし、ある原子はN極が上に、別の原子はN極が下にというように向きがそろわなくなると、それぞれの原子からの磁力が互いに打ち消しあって、全体としては磁力がなくなってしまいます。
qa_pt08.gif  強磁性体の場合、近くの原子同士は互いに磁力の向きをそろえるような相互作用をしていますが、この作用は、遠方まで及びません。このため、通常の強磁性体内部には、原子磁石が同じ向きにそろった小さな磁区がいくつも形成されることになります。外部から強い磁場を加えると、多くの磁区で外部磁場の向きに原子磁石がそろうため、磁性体全体で1つの強力な磁石になります。しかし、温度を上げて原子レベルで激しい熱運動をさせると、磁石の向きがそろわなくなって、磁性体全体の磁力は失われていきます。特に、キュリー温度(鉄では1043K)以上になると、原子磁石は完全にパラパラの向きになって、磁力はなくなります。永久磁石といっても、加熱したり衝撃を与えたりすると、磁力はすぐに低下します。また、常温でも、地磁気やその他の外部磁場の影響で原子磁石の向きが変えられるので、磁力は弱くなっていきます。
 地球の磁場が強磁性体の磁力を保つということはありません。

【Q&A目次に戻る】

質問工学を勉強していると、たびたび「ベッセル関数」というものが出てくるのですが、これはどのようなものなのでしょうか。使用する経緯に全く触れずにいきなり導入する先生が多くて困ってます。【その他】
回答
 ベッセル関数は、ベッセルの微分方程式の解として定義される特殊関数で、物理数学できわめて役に立つものです。物理学に現れる微分方程式には、ジャンルを問わずに共通した形式になるものが少なくありませんが、ベッセル方程式(変形したものも含む)は、波動現象を扱う分野では、特に頻繁に登場します。
 ベッセル関数にはいくつかのタイプがありますが、Jn(x)と表記される「狭義のベッセル関数(第1種円柱関数)」は、遠方(x→∞)で減衰する振動の形になっているので、そうした現象を解析するときに有力な道具となります。また、nが半整数(整数+1/2)の「球ベッセル関数」は、3次元ヘルムホルツ方程式:
  Δf + κ2f = 0
の動径成分の厳密解となっており、球面波の性質を分析するのに好都合です。

【Q&A目次に戻る】

質問水素原子のまわりの電子のエネルギーはなぜ負になるのですか?【古典物理】
回答
 負電荷を持つ電子と正電荷を持つ水素原子核(=陽子)は、互いに電気的な作用で引力を及ぼしあっています。差し当たっては量子効果を無視し、クーロン力だけが作用する古典力学系であると仮定すると、電子は、太陽系における惑星と同じくケプラー運動をすることになります。(重心運動を分離して陽子を中心とする座標系で考えた場合の)電子のエネルギーは、クーロン・ポテンシャル
  -e2/r (r:陽子と電子の間の距離)
と運動エネルギーの和になります。電子の運動を、さらに、陽子に向かう方向(動径方向)とそれに垂直な方向に分けて考えましょう。垂直方向の速度成分は、角運動量保存則(面積速度一定の法則)から 1/r に比例することが示されるので、運動エネルギーには、c/r2 という形で寄与します。したがって、動径方向の運動エネルギーをKと書くと、電子の全エネルギーEは、
  E = K + c/r2 - e2/r
qa_pt07.gif となり、グラフでは右のように表されます。これより明らかなように、E>0 の場合は、r→∞でもK>0となって運動を続けることになるので、電子は陽子から無限に遠ざかっていきますが、E<0 では、K>0 となるのはrが上と下から制限された一定範囲に限られます。後者のケースが、電子が陽子に束縛されている状態を表します。
 この議論は、そのままの形で量子力学に読み直すことができます。この場合、エネルギーEの式の右辺が動径方向のハミルトニアンHを表しており、波動関数の動径成分ψ(r)についてのシュレディンガー方程式は、
  Hψ = Eψ
となります(ただし、運動エネルギーKをrに関する微分演算子に置き換える必要があります)。このとき、微分方程式の解の一般論より、E>0 のときには、一般にψがr→∞まで振動しながら伝播する解があるのに対して、、Eが特定の負の値(固有値)を取るときには、ψが無限遠で指数関数的に減少する束縛解になることが示されます。

【Q&A目次に戻る】

質問なぜ物質は引き合うのでしょうか(万有引力)、その逆はないのでしょうか(万有斥力)。【古典物理】
回答
 電気的な力が、異種電荷(+と−)間で引力、同種電荷間で斥力と、異なる向きに作用するのに対して、重力は、常に引力として作用します。もし、負の質量を持つ物質が存在し、ニュートンの重力法則に従って相互作用するならば、正の質量を持つ通常の物質との間に斥力が作用するはずですが、相対論と矛盾する点があるために、負の質量は存在しないと考えられています。
 それでは、全ての物質が引き合うことに物理学的な根拠があるのでしょうか。数学的には、電気的な力の担い手がベクトル(1階のテンソル)であるのに対して、重力が2階のテンソルになっていることが、同種粒子間の力が斥力になるか、引力になるかの違いを生んでいると説明されます。しかし、これは、必ずしも絶対的なものではありません。仮想的な世界として、物質同士が万有斥力を及ぼしあうような宇宙を考えることも、不可能ではないのです。ただし、そうした宇宙には、生命はおろか、天体すら存在しないでしょう。万有引力が作用しているからこそ、膨大な量の物質が凝集して天体を形成し、生命の発生が可能になる条件が整えられるからです。したがって、たとえ、万有引力が作用している世界が実際にあったとしても、その世界には、「なぜ物質は反発しあい、その逆はないのか」と悩む知的生命は、発生し得ないのです。

【Q&A目次に戻る】

質問X線回折の実験で格子定数を測定したのですが、NaClを試料として使ったときよりもKClのときのほうが値が大きくなりました。なぜですか。【古典物理】
回答
 ナトリウムとカリウムは、いずれも周期表I族に属するアルカリ金属で、化学的性質は類似していますが、ナトリウムが原子番号が原子番号11,原子量が23であるのに対して、カリウムは原子番号19,原子量39となっており、外殻電子軌道まで考えると、後者の方が一回り大きい原子だと言えます。NaClとKClの格子定数は、それぞれ 5.640A, 6.278A で、原子半径の差を反映した値になっています。

【Q&A目次に戻る】

質問とある文献に「メビウスの輪の上に這わせた電線に電流を流すと、輪の真ん中を通る磁気が無限大になる」と書いてありました。本当でしょうか。【古典物理】
回答
 嘘です。メビウスの輪が興味深いのは、面に表と裏の区別が付けられない──帯の中心付近に線を引いていくと、元の地点に戻ったときには、帯の両面に線が描かれる──という点ですが、面上を伝わる電流には、もともと裏表の区別がないので、メビウスの輪が持つ特殊性を反映させるべくもありません。周囲の磁場は、ビオ=サバールの公式に従って、全て有限の値となります。

【Q&A目次に戻る】



©Nobuo YOSHIDA