質問 スイングバイ航法における加速メカニズムについて教えてください。惑星から見て同一重力ポテンシャルにある接近前後の2点で、宇宙船のスピードに差が生じるのでしょうか?また、惑星の公転及び自転の影響の有無についても教えていただけないでしょうか?【古典物理】
回答
 スイングバイ航法とは、天体の重力と公転運動を利用して宇宙船を加速するやり方で、燃料の補給が困難な惑星探査において重要な役割を果たします。1977年に打ち上げられたボイジャー2号は、最初に与えられた速度では木星に到達するのがやっとでしたが、木星・土星・天王星に次々と近づいてはスイングバイを行い、最終的には太陽系の脱出速度にまで加速してカイパーベルトの彼方へと飛び去って行きました。
 スイングバイの過程を重力による惑星と宇宙船の2体運動として考えると、互いに重心の周りをケプラー運動して2次曲線の軌道を描くだけなので、加速される理由が掴みにくいかもしれません。 qa_039.gif しかし、惑星探査の場合には、太陽に固定された座標系で考えなければならず、惑星の公転が重要な意味を持っています。地球から発射された宇宙船は、地球の公転速度とほぼ等しい初速でもって太陽の重力に束縛された運動を始めます。その後、宇宙船が適当な惑星に接近すると、(太陽からの重力は共通の加速度しか与えず影響を消し去ることができるので)近似的に惑星を焦点とする双曲線運動を行います。ここで、太陽から見た速度を求めるために惑星の公転を考慮して速度ベクトルの足し算を行うと、接近するときの向きが適切な場合は、惑星から遠ざかるときに加速されていることがわかります(右図;もちろん、向きが不適切な場合は減速されます)。
 スイングバイの過程では力学的エネルギーが保存されるので、宇宙船加速の反作用で惑星の方がほんのわずかに減速されているはずです。つまり、惑星の公転運動のエネルギーを少しもらって、宇宙船の運動エネルギーを増やしているわけです(自転については、考慮されていないと思います)。

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質問 もし、ハッブルの赤方偏移が特殊相対性理論でいう縦ドップラー効果だとすると、運動する物体の時間はゆっくり進むので、遠い星の、すなわち過去の宇宙の時間は、現在の宇宙の時間よりもゆっくり進んでいたということになる!? これは、一般相対性理論を適用するべきところに、無理やり特殊相対性理論を適用したための誤解でしょうか。【現代物理】
回答
 相対性理論を紹介する書物の多くで「運動する物体の時間はゆっくり進む」と説明されていますが、これは必ずしも正確な言い方ではありません。ある座標系で時間と空間の座標を定義したとき、これによって運動している時計の刻み(より一般的には物理現象の周期)を記述すると、静止している時計よりも遅れるように表されるということです。しかも、こうした記述は文字通り相対的です。例えば、10億光年彼方にあるうみへび座銀河団は、秒速数千キロメートルという後退速度で天の川銀河から遠ざかっており、天の川銀河に固定した座標系では「うみへび座銀河団の時計が(1万分の1程度の割合で)遅れる」ように記述されますが、逆に、うみへび座銀河団の方から天の川銀河を見れば、こちらの時計が遅れていることになります(この程度の距離と後退速度ならば、特殊相対論を適用してもかまいません)。これは、天の川銀河とうみへび座銀河団のどちらかで時間がゆっくり流れているということではなく、一方で他方の状態を記述するときに、時間座標の取り方が相対的に異なることを意味しています。
qa_042.gif  ここで注意していただきたいのは、、こうした座標変換(ローレンツ変換)は、通常は、一方の座標系における「いま」という瞬間に関して行なうものであるという点です。地球で観測されるうみへび座の姿は10億年前であっても、理論的に座標計算を行うときには、(その光が西暦10億年になってようやく到達するような)「いま現在」のうみへび座銀河団に置かれた仮想的な時計を使います。右図の記号を用いれば、Aにある天の川銀河ではB’のうみへび座銀河団の姿を観察していますが、通常のローレンツ変換を考えるときには、AとA’、BとB’の時計を比較し、それぞれにおいて、「うみへび座銀河団にある時計は速度Vあるいはvによるローレンツ因子の逆数のファクターでゆっくり進む」と主張されます。
 もっとも、宇宙全体の進化を扱うときに特定の銀河系に結びつけられた時間座標を使うのは不便なので、一般相対論に基づく宇宙論では、大局的には宇宙全体が一様に変化しているように記述される「宇宙時間τ」を採用するのが一般的です。この時間座標を使えば、時空の不変間隔ds2は、時間部分と空間部分が分離されて、
  ds2 = c22 - a2(τ)gijdxidxj
という形で表されます。

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質問 熱伝導率と熱容量についてわかりやすく教えてください。これらの関係はどうなっているのでしょうか?【古典物理】
回答
 熱伝導率も熱容量も、もともとの定義は現象論的に与えられています。固体の熱伝導率K は、温度勾配dT/dx を持つ長い一様な棒を流れる熱の流れを使って定義されます:
  Q = K(dT/dx)
ただし、Q は単位時間に単位面積を通過する熱エネルギーを表します。一方、現象論的に与えられる熱容量は、(体積ないし圧力を一定にするという条件下で)物質を単位温度だけ上昇させるのに必要なエネルギーを意味し、熱力学的関係式を使って、エントロピーSの変化と結びつけられます:
  CV = (∂E/∂T)V = T(∂S/∂T)V
  (添字のVは、体積一定を表す)
単位量あたりの熱容量(比熱)がどのように決まるかは、別の回答をご覧ください。
 熱伝導率と熱容量の関係は、気体分子運動論が適用できる系については、簡単な考察をもとに導けます。 qa_038.gif x軸方向に温度勾配がある細長い容器に気体が閉じこめられている場合を考えます。この容器内でx軸に垂直な面を一方から通過する単位面積・単位時間あたりの分子数は、分子密度をn 、x方向の速度をvx(簡単のため、一定の大きさとします) と置くと、
  n|vx|/2
となります。また、平均自由行程l の間に生じている温度差は
  (dT/dx)l = (dT/dx)vxτ
  (τは平均の衝突間隔)
であり、分子1個の熱容量をc とすると、2回の衝突を通じてネットで
  c(dT/dx)|vx
のエネルギーを吸収することになります。したがって、単位面積を通過するエネルギー流Q は、両側からやってくる分子の寄与を考慮し、さらにvxが一定でないことによる平均操作を行うと、
  Q = n<vx2>cτ(dT/dx) = n<v2>cτ(dT/dx)/3
と求められます。これを、熱伝導率の定義と比較すれば、
  K = Cvl/3
となります。ただし、C=nc(比熱) 、l=vτ(平均自由行程)で、v は分子の2乗平均速度を表します。
 上で導いた熱伝導率と熱容量の関係式は、気体だけではなく、熱伝導がもっぱらフォノン(量子化された格子振動)によって行われる絶縁性結晶に対しても当てはめられます。この式は、最初にデバイが導きました。
 金属の場合には、熱伝導が主に自由電子によって担われているのに対し、熱容量は結晶格子と密接に関係しているので、上で示したような簡単な関係式は成立しません。純粋な金属の熱伝導率は、常温では、誘電体より1桁以上も大きくなります。

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質問 よく電圧をかけるといいますが、電圧というものがよくわかりません。電圧はどのようにしたら生じるのですか?【古典物理】
回答
 「電圧」とは「電位差」と同じ意味を持つ工学の用語で、主に電気回路を扱うときに用いられます。電位差は、電荷が存在したり磁場が変化したりするとマクスウェル方程式に従って自然に発生するものですが、電気回路では、電池や交流電源を使って人為的に電位差を発生させるので、「電圧をかける」という言い方が好まれるのです。また、交流回路のように電磁誘導が存在する場合、厳密に言えば電位差の定義に不定性が生じますが、A点からB点まで回路に沿って電場成分Esを積分したもの
  qa_037.gif
を電圧として定義するのが一般的です。
 電位差を発生させる最も簡単な方法は、中性の状態から正負の電荷を分離することです。正(負)電荷の近傍では遠方に比べて電位が高く(低く)なっているので、分離された電荷間に電位差が生じます。アルカリ乾電池電池などの化学電池では、化学反応によって電解質が電離し、陽極に正電荷、陰極に負電荷が集まることによって電位差が生じています。この電池を回路に接続すると、回路内部にも電位差が生じて電流が流れるといった電気的応答が引き起こされます。交流電源の場合、磁場中で導体棒に周期的な運動させることで自由電子にローレンツ力を作用させ、陰極側に電子を移動させる一方、陽極側に金属の陽イオンが露出するようにして電位差を発生させています。

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質問 水に溶けるものと溶けないものがありますが、その違いは何ですか? また、物質が水に溶けたときには、どういう状態になっているのですか?【古典物理】
回答
 「物質が水に溶ける」というのは、多くの場合、物質を構成している分子が正負のイオンに電離して、その周りに水の分子が集まった状態(水和)を指しています。塩化ナトリウムなどのイオン結晶は、イオン間の静電気力によって固体としてまとまっているものなので、イオン間隙に電気モーメントの大きい水分子が入り込んで電気をシールドすると、バラバラになって「水に溶けた」状態になるのです。一般に、物質が固体でいるときよりも、水分子がイオンの周辺に集まった方がエネルギーが低くなる場合は、水和が生じて物質は水に溶けます。こうした現象は、水酸基(-OH)やアミノ基(-NH2)でも生じるので、これらの基を持つ分子も水に溶けやすくなります。
 水和に関する解説は、別の質問に対する回答で行っていますので、詳しくはそちらをご覧ください。

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質問 定常宇宙論とビックバン宇宙論の正否が遠方を眺めることによってわかるのはなぜですか?【現代物理】
回答
 定常宇宙論とビッグバン宇宙論は、1946年に提唱されてから1960年代半ばに至るまで、宇宙における物質創成を説明する理論として、その優劣を巡る論争が繰り広げられてきました。現在では、ビッグバン宇宙論の方が定説として受容されていますが、定常宇宙論の信奉者が全くいなくなったわけではありません。
 この2つの理論は、いずれも「遠方の銀河が天の川銀河からの距離に比例する速度で遠ざかっている」というハッブルの発見(1929)に立脚しています。ビッグバン宇宙論では、現在遠ざかりつつある銀河は、時間を逆回しすると互いに集まってきて、遂には全ての物質が高温・高圧で密集する「出来たばかりの宇宙」になると仮定されています。これに対して、定常宇宙論では、物質は真空からじわじわと滲み出すように生成され、宇宙空間に次々に新しい銀河系が作られては互いに遠ざかっていくとされています。この場合、「宇宙の始まり」はなく、過去に遡っても宇宙の状態は現在と変わりないことになります。
 以前は、ビッグバン宇宙論を支持する観測データは、3Kの背景放射とヘリウム存在比だけだとされていました。前者は、ビッグバン直後の高温状態の余熱が今なお残っていることを示すものですし、後者は、物質が高温・高圧で密集しているときに核融合が起きたと仮定して計算した値とぴったり一致しています。これだけでも、ビッグバン宇宙論の信憑性はかなり高まったのですが、最近では、高性能望遠鏡を使って遠方を観測することにより、直接的な検証も可能になってきています。
 光の伝播に要する時間を考えればわかるように、1億光年彼方の宇宙を眺めることは、1億年前の過去を眺めることに相当します。定常宇宙論によれば、宇宙は時間によらずに定常的であるはずなので、数十億光年以上彼方の深宇宙の姿も、天の川銀河周辺の数千万光年の領域と大差ないはずです。しかし、実際に観測された深宇宙は、クエーサーのような活動的な天体を数多く含んでおり、現在の宇宙より遥かに荒々しいものでした。例えば、うみへび座の方位約百億光年彼方にある HE1013-2136 というクエーサーは、強力な重力で周辺の銀河を吸い込んでいることが欧州南天天文台の観測によって明らかにされましたが、これは、銀河同士の距離が小さく盛んに相互作用していた宇宙の若い頃の姿を示すものと考えられます。こうした観測結果は、宇宙が物質の密集状態から進化してきたというビッグバン宇宙論を裏付けるものと言えるでしょう。

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質問 血液の粘性係数はいくらくらいなのでしょうか? 値として算出できるのでしょうか?【その他】
回答
qa_035.gif  液体の粘性係数(血液の場合は「粘度」という語が多く用いられます)ηは、一般に、接線応力(ずり/ずれ応力)σと速度勾配(ずり速度)∂u/∂y=uyの比として定義されます:
  σ = ηuy
ニュートンの粘性法則が成立する理想的な粘性流体では、ηの値は液体によって決まる物質定数となりますが、血液のように高分子物質を多量に含む溶液では、ずり応力とずり速度の線形関係は成り立ちません。この場合は、
  σ/uy
を「見かけの粘性係数」として定義し、どのような条件下で測定した値かを付記するのが普通です。
 血液(全血)の見かけの粘度(粘性係数)は、ずり速度が減るにつれて増大する傾向があります。これは、赤血球が集合体を形成するためで、「血流が遅くなるほど流れにくくなる」という性質をもたらします。逆に、ずり速度が増すと、赤血球が扁平に変形して粘度は減少します。この傾向を再現するものとして、カッソンの経験式:
  ηuy = (σ1/2−f1/22
が使われることもありますが、必ずしも良い近似ではありません。血球を含まない血漿の粘度は、血球の凝集や変形がないため、ずり速度によらずにほとんど一定です。
 なお、粘度検査の際には抗凝固剤を添加するなどの前処理をすることが多いので、実測値を比較する際には測定条件を確認することが必要です。
 臨床の場で簡便に粘度を測定するには、毛細管粘度計が用いられます。毛細管(半径r、長さl)を単位時間に通過する質量(流量)Qは、ポアズイユの公式:
  Q = πρΔpr4/8ηl
   (ρ:密度、η:粘度、Δp:圧力差)
で与えられます(流体力学の教科書を参照のこと)。毛細管を鉛直に立てたときの圧力差がρに比例することを考慮すれば、一定体積Vの液体がこの毛細管を通過する時間をtとする(V=Qt/ρ)と、
  η/ρt
は粘度計によって決まった値になることがわかります(ただし、ニュートンの粘性法則を仮定)。したがって、蒸留水などの標準液体と通過時間を比較すれば、比粘度が求められます(同一圧力で吸引して移動量を測定する方法もあります)。
 蒸留水(粘性係数0.010 g/cm/sec)に対する全血の比粘度は4〜5(男女差や体調による変化、ずり速度への依存性が大きい)、血漿の比粘度は1.7〜2.0です。
qa_036.gif  絶対粘度を測定するには、落球粘度計、円錐・平板粘度計、回転円筒粘度計などが用いられます。例えば、回転円筒粘度計(右図)は、半径rとR(r<R)の同心2円筒の間に試料液体を入れて、内側の円筒を一定の角速度Ωで回転させるもので、回転を保つために必要な単位長さあたりのモーメントをMとすると、粘度は
  η = M(r-2−R-2)/4πΩ
で与えられます(これも、大概の流体力学の教科書に記されている有名な公式です)。粘度を厳密に測定するための装置は、医療検査用機器として市販されています。
 詳しくは、『新生理科学大系 第15巻 血液の生理学』(医学書院)などを参照してください。

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©Nobuo YOSHIDA