◆気になる(オールド)ニュース(2004年)
◎表紙ページに随時掲載している「気になるニュース」の2004年分です。
スマトラ沖地震で津波被害(04/12/27)

 インドネシア・スマトラ島沖で26日に発生したM9.0の巨大地震に伴う津波は、インド洋・アンダマン海・ベンガル湾周辺の地域を直撃し、1万人を越す死者を出した模様。マグニチュードが9を越える地震は、全世界でも1世紀に数回しか起こらず、日本付近で観測されたことはない(マグニチュードの定義は複数あるが、巨大地震の実態を正しく表すものとして使われるのはモーメント・マグニチュードである)。観測史上最大の地震は、1960年に起きたモーメント・マグニチュード9.5のチリ地震で、このとき発生した津波は日本にも到来し、三陸沿岸を中心に百人を越える死者を出している。
 津波(英語でも"tsunami"と呼ばれる)は、水の表面波である通常の波とは全く異なり、かなり深い範囲の水まで動くため巨大なエネルギーを伴う。波長は地震の規模によって異なり、外洋の巨大地震によるものは波長が100kmを越す。振幅は外洋で数cmからたかだか1m程度であり、周期が10分以上のゆっくりした上下動になるために、船に乗っている人でも気がつかないほど。こうした波が、平均深度4000mの太平洋では時速700km以上のジェット機並の速度で周囲に伝わっていく。しかし、陸地に近づくにつれて、津波の様相は一変する。水深が浅くなると伝播速度が遅くなる(水深15mでは時速45km程度)ため、狭い範囲にエネルギーが集中し、波の高さも増してくる。海岸の地形によっては、高さ30〜50mの波が押し寄せることもある。
 津波が予想される地震が起きると、津波警報センターから津波警報・注意報が発せられる。太平洋全域はハワイにある太平洋津波警報センターが受け持つほか、日本・アメリカ本土などに地域センターがあるが、今回の地震で大きな被害を受けたインド洋沿岸は、もともと津波が少ない地域であるため、警報のシステムが整っていない。遠地津波(震源から600km以上離れた地域に襲来する津波)の場合、地震の揺れが感じられないため避難が遅れて被害が拡大しやすいことから、警報システムの拡充が必要である。
日本の子供たちに学力低下傾向(04/12/20)

 日本の子供たちの学力低下傾向を示す調査結果が、相次いで報告されている。
 経済協力開発機構(OECD)が行った主要41カ国・地域の子供(15歳)の学習到達度に関する2003年の調査結果によると、数学的リテラシー・科学的リテラシーで、日本は香港・フィンランド・韓国などとともに1位グループにあるが、総合的読解力では、フィンランド・韓国など1位グループの得点と比べて有意差のある2位グループに留まった。こうしたグループ分けでは、日本は2000年調査と同じで、学力低下はさほどでもないように見えるが、得点の変化(平均500点、標準偏差100点)を見ると、一目瞭然である(下図、数値は文部科学省のホームページより)。
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 一方、国際教育到達度評価学会による小学校4年生と中学校2年生を対象とした国際数学・理科教育動向調査によると、日本の場合、中学生の数学と小学生の理科の得点が前回の調査よりも有意に低下している。中学の数学の場合、得点の高い順にシンガポール・韓国・香港・台湾・日本となっているが、日本の成績は、上位4カ国より有意に低い。また、前2回の点数と比較すると、国際的に見ても、経済混乱のさなかにあるロシアを別にすれば、日本の低落傾向は目立っている(下図、数値は文部科学省のホームページより)。
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米IBM、パソコン事業を売却?(04/12/06)

 米ニューヨークタイムズ紙は、IBMがパソコン事業の売却を検討していると報じた。世界シェアではデルやHPに水をあけられて3位に留まっているが、事業用パソコンを産業として育てた老舗の撤退だけに、時代の流れを感じさせる。
 1980年代初頭、パソコン分野におけるアップル社の牙城を崩すためにIBMが積極的に採用したのがオープン・アーキテクチャ戦略。これは、ハードウェアやBIOSなどの内部情報を公開するもので、他社の参入を容易にする。一方のアップル社は、以前には同じ戦略を採用していたが、マッキントッシュ以降は、利益を確保するために自社による囲い込みを行っていた。この方針はパソコン産業を発展させる上で成功を収め、部品や周辺機器の技術開発に伴う機能向上と低価格化が急ピッチで進むとともに、一般家庭にもパソコンが普及する。しかし、結果的に完成品の組立・販売企業の利幅は小さくなり、IBMの首を絞めることにもなった。
 家庭用パソコンの将来性は、必ずしもはっきりしていない。現在すでに携帯電話やAV機器のパソコン化が進み、インターネットの閲覧やDVDの編集にはパソコンを必要としない時代になりつつある。家庭でのパソコンは、IT家電を結ぶハブとしての役割を果たすようになるとも考えられるが、いずれにせよ、ユーザが相性を気にしながら周辺機器を接続したり、説明書片手にドライバのインストールを行うことはなくなるだろう。
HIV感染者、世界で4000万人(04/11/24)

 国連エイズ計画は、今年末のHIV感染者が全世界で推定3940万人に上ると発表した。感染モデルに基づく推計であるため、値の信憑性に疑問を投げかける向きもあるが、一部で実施された感染の実態調査データと比較すると、誤差はたかだか10%程度だと思われる。感染者の2/3が集中しているサハラ以南のアフリカでは、若い女性が年輩の男性をパートナーとする習慣があるため、15〜19歳の若年層で、女性の罹患率は男性の3倍以上になる。東アジアの感染者は110万人に上り、2年間で45%も増加している。
 エイズを完治する薬はいまだ完成していない。HIVの増殖を阻害して発症を遅らせる薬は開発されているが、高額であるせいもあって、途上国でこれを服用している患者は4%以下にすぎない。エイズの予防に最も効果があるワクチンに関しては、すでに何種類かの候補薬で臨床試験が行われたものの、期待したほどの成果は上げられず、有効なワクチンが販売されるまでには、まだ何年もかかりそうである。1984年にウィルスが単離されて以来、多くの医学者の地道な努力にもかかわらず、ワクチン開発が遅れているのは、レトロウィルス(自身のRNAから作ったDNAを宿主のDNAに組み込んで増殖するウィルス)特有の素早い突然変異によって、免疫系の働きを巧みにかいくぐっていくためである。現時点では、エイズに関する知識を普及させ、危険因子を避けるように指導するのが、エイズの感染拡大を回避する最善の方法のようだ。
首都直下型地震で石油タンク共振?(04/11/19)

 中央防災会議の地震ワーキンググループは、首都直下型地震における想定震源別の震度分布を作成した。想定された地震のうち、M6.9の直下型地震は、首都圏のどの地域でも起きる可能性があり、都心東部で発生すると、23区の広範な地域で震度6強以上、震源の直上では震度7も予想される。地震による人的被害の多くは家具の転倒や落下物によるものであり、日頃の備えが重要になる。
 さらに、神奈川県中西部にある断層帯でM7.5クラスの地震が起きると、長周期の地震動が東京や千葉まで及ぶことが示された。2003年9月の十勝沖地震では、貯蔵タンク内のナフサが長周期地震動に共振、空気から遮断する浮き屋根が沈んでしまい、気化したナフサに電気系統からの火花が引火して全面火災(石油の上面全てに火炎が発生した状態)からタンクの倒壊に至った。こうした全面火災は、以前には想定されていなかったものであり、多くの地域で対応できる消火設備が整っていないのが実状である。大規模建築物の耐震基準は、短周期の振動を想定して決められたものであり、高層ビルや石油タンクの長周期地震動に対する安全性は、必ずしも確立されていない。今回の報告により、静岡県駿河湾付近を森厳とする東海地震だけではなく、より小型の地震でも、こうした危険性があることが明らかになったわけであり、大規模建築物の地震対策を進める必要がある。
温暖化ガス削減対策が急務に(04/11/08)

 11月4日、ロシアのプーチン大統領が地球温暖化防止のための京都議定書批准法に署名、ロシア国内の批准手続きを終えた。これで、来春にも議定書が発効する見通しとなり、改めて、日本における温暖化ガス排出の削減対策に厳しい目が向けられている。議定書では、2008-12年に温暖化ガスを90年比で6%削減することが義務づけられているが、2002年時点で90年比+7.6%となっており、現状では、目標達成はきわめて難しい。
 環境省は、温暖化対策の目玉として、化石燃料の消費全般に課税する炭素税の導入を画策している。ただし、国際競争力を削ぐとの理由で産業界からの批判が強く、これに配慮して、5日に発表した具体案では、これまでガソリン1リットル当たり2円程度としていた税額が1.5円程度に減額された。一般家庭における年間負担額は3000円程度となる見込み。税収は、省エネルギー機器の購入や環境関連事業の育成に充当する。国の環境政策が風力発電という新たな産業を創出したデンマークのケースもあり、環境分野で基礎技術を持つ企業に資金がうまく流れれば相当の効果も望めるが、税収配分に不透明さの残る日本で果たしてどこまで有効に機能するか、疑問視する向きもある。
 一方、民間では、排出削減をビジネスに結びつける動きが活発化しつつある。トヨタ自動車や東京電力など35社は、「日本温暖化ガス削減基金」を創設、将来、企業ごとに排出枠が割り当てられることを想定して、海外から排出権を獲得するための準備を始めた。各企業に温暖化ガス排出量の報告を義務づける法案も浮上しており、企業レベルでの対策も急務となっている。京都議定書では、先進国間で排出枠を売買する排出権取引や、先進国が途上国で削減事業を実施して排出権を得るクリーン開発メカニズムなどが認められており、温暖化対策の実施をビジネスチャンスとして捉える企業も少なくない。
【参考】地球温暖化
地震で新幹線が脱線(04/10/24)

 震度6強が観測された新潟県中越地震で、上越新幹線とき325号の10両中8両が脱線、1号車は40度程度傾いた。新幹線の脱線は、乗客を乗せていない回送中に数回あったものの、営業運転中には初めて。
 地震列島を走行する高速鉄道にとって、地震対策は欠かすことができない。新幹線の場合、沿線にほぼ20km間隔で加速度計を設置し、一定値以上の揺れを観測したときには、直ちに非常ブレーキをかけることになっている。震源がある程度離れていれば、危険が回避できるスピードまで減速できる。しかし、走行中の新幹線の直近で強い地震が起きたときには、時速250km(秒速70m)のトップスピードで動いている列車を安全に停止させることは難しい。今回のケースでは、転覆せず乗客にけが人を出すこともなかったが、これは、たまたま運が良かったからなのか、あるいは、設計通り車両の安定性が高かったためか、きちんと検証する必要がある。
【補遺】その後の調査で、とき325号は時速200kmで走行中に地震に遭遇、運転手が手動ブレーキをかけたが、停止するまで約1.6km進んだことがわかった。転覆を免れたのは、(1)現場付近の線路が直線だったこと、(2)上越新幹線特有の「雪落とし」の溝に車体がはまったこと──が大きな理由となっており、幸運に恵まれたと言える。
漸近自由性の研究者にノーベル物理学賞(04/10/07)

 2004年のノーベル物理学賞は、素粒子論の強い相互作用に関して理論的な研究を行ったグロス、ウィルチェック、ポリツァーの3人に授与された。3人は、1973年にヤング・ミルズ理論の漸近自由性に関する論文を発表し、陽子や中性子の構成要素とされる粒子のクォークが単独で観測できないことに理論的な裏付けを与えた。
 2つの粒子の間に働く力は、重力やクーロン力などに見られるように、通常、粒子が近いほど強く、離れるほど弱くなる。これに対して、ヤング・ミルズ理論によって与えられるクォーク間の力は、離れているほど強く、近づくにつれて弱まっていく。これが「漸近自由性」(短距離極限で自由粒子のように振舞う性質)であり、「自発的な対称性の破れ」とともに、20世紀後半の素粒子理論における最大の発見と言って良い。
 もっとも、この性質を最初に発見したのは誰かという点を巡って、少々ややこしい話がある。漸近自由性を研究するためには「くりこみ群」と呼ばれる数学的な手法が用いられる。あるシンポジウムでくりこみ群の専門家であるジマンチックが発表を行った際、「理論中に現れる特定の係数は通常プラスだが、これがマイナスになると奇妙なことが起きる」と述べたところ、出席していたオランダの物理学者トフーフトが、ヤング・ミルズ理論ではマイナスになるとコメントした(らしい)。この話を耳にしたポリツァーとグロスが確認のために計算を開始、当初、グロスは正しい結果を得られなかったが、ウィルチェックと共同で再計算をして漸近自由性を確かめた(らしい)。結局、トフーフトは論文を発表せず、ポリツァーとグロス/ウィルチェックの論文がフィジカル・レビュー・レターの同じ号に掲載され、公式には、この3人が同時に漸近自由性を発見したことになった。物理学者の間では、トフーフトの先見性を高く評価する人も少なくなかったが、彼が(師のベルトマンとともに)ヤング・ミルズ理論全般に関する研究で1999年のノーベル物理学賞を獲得したこともあって、今回の3人の授賞に障害がなくなったようだ。
京都議定書、発効へ(04/10/01)

 ロシア政府が京都議定書の批准を決定したことにより、来春にも発効することが確実となった。1994年の京都会議で採択された京都議定書は、地球温暖化防止のため、2008-12年までに1990水準に比べて全体で5%以上のCO2排出削減を先進諸国に課すものである。しかし、「経済に悪影響を及ぼす」「中国・インドなどに削減義務がないためアンフェア」などの理由で2001年にブッシュ米大統領が離脱を表明し、発効が危ぶまれていた。
 地球温暖化は、21世紀における最も深刻な環境問題と言われるが、その防止に必要なCO2の排出削減が経済成長を阻害しかねないため、実効的な対策が難しい。太陽光・風力など自然エネルギーの導入を推進するEUで比較的順調に排出削減が進んでいる一方で、経済発展の著しい中国では排出の増加が続いており、近い将来、アメリカを抜いて世界最大の排出国になることが確実視されている。日本は、京都議定書で6%の排出削減を義務づけられているものの、原子力発電所の増設が進まないこともあって2002年時点で7.6%増となっており、このままでは達成は困難である。排出権取引・クリーン開発メカニズムに加えて、環境税のような強制的な施策の導入も検討すべきである。
 ただし、温暖化対策を経済にとってのマイナス要因と決めつける必要はない。デンマークのように、積極的な優遇政策によって風力発電を有力な輸出産業に育てた国もある。巨大マーケットに成長することが確実な燃料電池関連技術や、中国・インドへの輸出も期待される省エネルギー技術など、日本企業が得意な分野も少なくない。アメとムチを使い分けながら、積極的に対策を進めていくことが望まれる。
【参考】地球温暖化
スパコン競争、IBMが首位奪還か(04/10/01)

 米IBMは、スーパーコンピュータ「ブルージーン(青い遺伝子)/L」の試作機が毎秒36兆回強の演算に成功したと発表した。ローレンス・リバモア国立研究所に納入される完成機は、毎秒約360兆回の演算を達成すると言われる。
 スーパーコンピュータの性能に関しては、米独の研究者グループが年2回発表するトップ500の番付が知られている。毎秒35兆6800億回の演算が可能な地球シミュレータは、2002年6月にIBMのマシンを抜いて以来、2位以下に大きく差を付けたまま5回連続で首位を守ってきたが、IBMの記録が認められれば、2005年6月の番付でトップの座を譲ることになる。ちなみに、2004年6月発表の最新番付では、トップ10のうち6台がアメリカ、2台が日本、1台がイギリスのマシンだが、第10位に中国 Dawning社の "Opteron" (毎秒8兆回)が入っていることが注目される。
韓国ウラン転換実験の目的は?(04/09/17)

 韓国が1980年代に行ったウラン転換実験が、国際的な波紋を拡げている。
 韓国が国際原子力機関(IAEA)に対して行った報告によると、未申告のまま行った実験は、(1)1982年のウラン転換実験、(2)2000年のウラン濃縮実験、(3)1982年のプルトニウム抽出実験の3件。このうち(3)は、核反応物質の組成を調べる化学分析に近く、IAEAに申告しなかった点を除けば、さして非難するに当たらない。(2)の実験は、韓国原子力研究所で濃縮ウランを 0.2グラム生産したものだが、確立された技術である遠心分離法やガス拡散法ではなく、実用段階にないレーザー分離法を利用していることから、本格的な核開発とは無関係の学術的な実験だと考えられる。ただし、核燃料として利用できる濃縮ウランを密かに生産したことは、核拡散防止の理念に反する。(1)の実験は、そのままでは利用できない天然ウランから濃縮可能な状態に転換した金属ウランを150kg生産したというもので、一部が放射線遮蔽容器の製作実験や(2)の実験などに使用されたが、134kgが未使用のまま保管されている。この転換実験は目的がはっきりせず、容器製作実験の過程で12.5kgが損失したとされるなど疑問点も多い。今後の調査・報告が待たれる。
 韓国は電力の40%を原子力発電に依存しているが、核拡散を恐れるアメリカの方針により、国内では核燃料の生産や再処理が行われていない。ウランの濃縮やプルトニウムの抽出を進めている日本と比較して、自国の状況に苛立ちを感じている関係者も少なくないと言われる。今後、自前の核技術開発を進めていくだろうが、少なくとも、兵器に転用されないように透明性だけは確保してほしいものである。
【参考】核燃料サイクル
BSE検査、20カ月齢以下は除外か(04/09/05)

 政府の食品安全委員会は、「20カ月齢以下の若い牛では感染牛を検出することが困難である」との理由で、BSE(牛海綿状脳症、狂牛病)の検査対象から外す報告書案をまとめた。これにより、全頭検査を義務づけてきた国内のBSE対策が大幅に変更される見通しで、若い牛に限って米国産牛肉の輸入が再開される可能性もある。
 BSEを巡るすったもんだは、危険を回避するためのコストをどこまで負担すべきかという問題をわれわれに突きつける。異常プリオンを含む感染牛の肉を食べると、変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)と呼ばれる致死的な病気に罹患する危険性が高まるが、感染牛が18万頭発見され、実数はその10倍以上と推定されるイギリスでも、vCJD患者は146人(2004年2月時点、今後の発症者は推定で数十人程度)となっており、感染率はかなり低いようだ。さらに、脳や脊髄などの危険部位を除去すれば、感染の危険性は大幅に低減できる。低コストで短期間(屠殺から出荷までの間)に確実な検査ができるならば全頭検査が望ましいのは間違いないが、EUや日本で実施されている免疫測定法では異常プリオンが高濃度に蓄積されていないと検出できず、20〜30カ月齢以下では感染牛の発見が難しい(2003年に日本で生後21カ月と23カ月の感染牛が発見されたが、このときは、当初の検査結果が明瞭でなかったため、試料を濃縮して再検査を行い、感染を確認している)。このため、EUでは30カ月齢(ドイツでは24カ月齢)以上の牛しか検査していない。低濃度の異常プリオンを速やかに検出する方法も開発中で、近い将来、生体から採取した血液を検査するだけでスクリーニングできるようになると期待されているが、導入するまでにまだ時間が掛かりそうだ。現時点では、「20カ月齢以下」と条件を付けた食品安全委員会の方針は、やむを得ない妥協案ではないだろうか。
 ただし、日本や韓国など多くの国が米国産牛肉の輸入を禁止してアメリカに圧力を加えたのは、好ましいやり方だと言えよう。アメリカでは、最近まで、BSEの検査に、サンプルを顕微鏡でチェックするという旧式な方法を用いていたため、大規模なスクリーニングが行えなかった。また、今年はじめに規制が導入されるまで、自力で立てない“へたり牛”を年間20万頭も出荷しており、BSE対策は世界最低水準だった(にもかかわらず、米農務省は、日本の全頭検査を「非科学的」として非難していた)。米国産牛肉の輸入再開に当たっては、どこまでBSE対策を強化するかを見極める必要がある。
【参考】プリオンに関するQ&A
メダル数とGDPの関係は?(04/08/30)

 アテネ・オリンピックでは日本勢の活躍が目立ったが、その背景には、選手育成にこれまで以上の資金を提供したことがあると言われる。それでは、1国の経済力とメダル数はどれほど深い関係にあるのだろうか。
 依存関係の本格的な分析には手間がかかるため、ここでは、表計算ソフトを使ってできる簡単なデータ解析を考える。メダル数が少ないと誤差が多くなるので、金メダル数1個以上、総メダル数2個以上を獲得した54カ国を選び、やや恣意的な重みをつけて、
  換算メダル数I = (金メダル数)×3 + (銀メダル数)×2 + (銅メダル数)
とする。米ドルベースの国内総生産をG[百万ドル]、人口をP[千人]とし、
  logI 〜 a{logG + b*logP}
なる関係を仮定して、実際に数値を入れてみたところ、b = 0.5 のときに比較的強い相関が見られた。そこで、 news005.gif
  X = log G + 0.5*logP
  Y = logI
として散布図を描くと図のようになり、ピアソンの積率相関係数は0.69となった。恣意的なパラメータを多く含んでいるために、必ずしも強い相関があるとは言えないが、GDPとメダル数は確かに何らかの関係がありそうだ。
 なお、このグラフを見る限り、日本が今回の大会で獲得したメダル数は、GDPと人口から見て“適正な”数値となっている。
 国内総生産と人口のデータは、主に、総務省統計局「世界の統計2004」を参照しましたが、最新のGDPが判明していない国もあり、異なる年次のものを混ぜたり、別の資料を利用したりしています(従って、グラフにおける横軸の値は厳密なものではありません。)。また、散布図の描画と相関係数の導出には、第一システムエンジニアリング作成のフリーソフト『相関/経路ミニ解析ツール Ver1.0』を使用しました。
諫早湾干拓に差し止め命令(04/08/27)

 諌早湾干拓の差し止めを求め有明海沿岸の漁民が起こした仮処分申し立てに対して、佐賀地裁は、工事の差し止めを命じる決定を出した。進行中の公共工事を差し止める司法命令は、きわめて異例である。
 国営の諫早湾干拓事業は、当初は農地拡大のために計画され、後に主目的を防災機能の強化に切り替えて進められてきたもので、1997年には7kmの潮受け堤防により湾内を閉鎖した。事前のアセスメントでは環境への影響は小さいとされていたが、潮受け堤防の工事中から高級二枚貝タイラギの漁獲量が激減、堤防完成後の2000年には養殖ノリの大規模な色落ち被害が発生した。こうした漁業被害の原因は必ずしも明らかではなく、都市化に伴う生活排水の流入や黒潮の蛇行による海水温上昇なども寄与していると見られるが、潮受け堤防閉鎖後の潮流の変化に関する調査結果などから見て、諫早湾干拓が要因の一つであることは間違いない。農水省は、防災効果による“収益”が工事費を上回るとして、事業は“黒字”であると主張しているが、漁業資源と海水浄化機能の喪失という“コスト”を加算した環境経済学的な評価では、大幅な赤字になることは間違いない。国はメンツを捨てて引き返す勇気を持つべきだろう。
【参考】湿地干拓
高エ研、標準理論からのズレをほぼ確証(04/08/21)

 高エネルギー加速器研究機構のBelleグループは、粒子・反粒子の振舞いの差異が標準理論から有意にずれているという昨年の発表をほぼ確証するデータを提出した。同様のデータは、米スタンフォード大のグループも得ており、未知の素粒子が存在する可能性が高くなった(高エネルギー加速器研究機構プレス・リリース04-07)。
 粒子と反粒子の振舞いが異なる現象はCP対称性の破れと呼ばれ、クォーク間の違いを定める行列式が複素数を含む特定の形になるとする小林・益川理論によって説明される。今回の実験では、B中間子・反B中間子がφとK0中間子に崩壊する際の時間分布の差をもとに、理論に現れるパラメータの値が求められた。新しい物理法則や新粒子がない場合、このパラメータは、BがψとK0に崩壊するときと同じく、0.736±0.049 になるはずだが、今回の実験で得られた175個のデータを用いると、
  0.06±0.34
となる。さらに、φ-K0と同種の他の実験データを併せると、
  0.43±0.11
となり、99%の信頼度で標準理論からずれていることが示された。
 このデータは、標準理論を越えた理論が必要であることを意味するが、それが何であるか、現時点では判然としない。超対称性粒子(素粒子の世界に超対称性があるとした場合に存在が要請される粒子)の関与を示唆する研究者が少なくないものの、それ以外の可能性も排除できず、理論・実験双方のさらなる進展が望まれる。
美浜原発で死亡事故(04/08/10)

 関西原発の美浜原発3号機で2次系のパイプが破断、高温の蒸気を浴びた作業員11名が死傷する事故が起きた。日本の原発で通常運転中に発生した事故としては、最悪のものである。破断箇所が2次冷却水のパイプだったため、放射性物質の漏洩はない模様。
 今回の事故は、放射線被曝こそ起こさなかったものの、原子力発電の持つ潜在的な危険性を浮き彫りにした。破断したパイプは27年間交換されておらず、高温・高圧の水流によって炭素鋼の摩耗が進んでいたと推定される。これが製造ミス・点検の手抜きなどこの原発固有のものでないとすれば、同様の材質劣化は、稼働後20〜30年が経過して老朽化が進んでいる他の原発でも起きていると考えられ、同型原発の総点検が必要となる。これまで大きな事故が起きていなかったことから、原子炉の設計寿命30年を越えて原発を長く使い続けようとする動きもあるが、経年劣化の問題に対してもう少し慎重に構えるべきである。
 加圧水型原子炉の2次系は、放射性物質を含まない冷却水が循環しているだけなので、原子炉本体を含む1次系に比べて、事故が起きても深刻な事態になりにくいと言われる。しかし、2次系のトラブルが発端となってメルトダウンに至ったスリーマイル島原発事故の前例もあり、安全対策を甘くすることは許されない。設計では、今回のように2次冷却水が大量に失われる事故が起きたとしても、2次系が複数系統用意されているために、1次系が過熱することはないとされる。万一、過熱状態に陥ったとしても、原子炉を緊急停止してECCS(緊急炉心冷却装置)を立ち上げれば、メルトダウンのような深刻な事故にはならないはずである。ただし、それはあくまで、システムが正常に作動し、オペレータが不適切な操作をしなかった場合である。今回の事故に際してどのような対応が取られたか、きちんと公開すべきだろう。
【参考】スリーマイル島原発事故
官庁にサイバー攻撃(04/08/06)

 首相官邸や外務省など政府機関のサーバに大量のデータが送りつけられ、一時的にホームページへのアクセスが困難になった。香港紙の報道によると、これは、中国のハッカー集団が約1900人を組織し、日本と台湾の約200のウェブサイトに対して行ったサイバー攻撃だという。
 日本の官庁が受けた大規模なサイバー攻撃としては、2000年2月に科学技術庁・総務庁・外務省のウェブサイトが侵入され、南京大虐殺を非難する中国語の文章に書き換えられた例がある。このときは、侵入者の技術レベルはあまり高くなく、基本的なセキュリティ対策を怠っていた官庁の方がお粗末だと批判された。今回の攻撃は、正当な接続要求を大量に送りつけるDoS(Denial of Service) と呼ばれるサービス妨害だが、ウィルスなどによって攻撃用プログラムをばらまき一斉に送信する分散型DoSではなく、人海戦術に頼っているようだ。官庁側が電子政府構想にあわせてセキュリティを強化していたこともあって、短時間で復旧し被害は軽微だった。
 重要な社会的インフラとなるコンピュータを攻撃するサイバーテロは、理論的には可能だとされるものの、現実に起きる蓋然性がどれほどなのか、識者の見解は分かれている。イラク戦争の際、イラクのハッカーがアメリカのコンピュータにサイバーテロを仕掛けるという噂があったが、実現はしなかった。今回の攻撃も、本格的なサイバーテロと言うよりは、ハッカー予備軍による度の過ぎたイタズラに近い。しかし、今後の再攻撃も予想されるため、防御を怠るわけにはいかない。
【参考】IT社会の脆弱さ
自動車リサイクルの消費者負担分決まる(04/07/12)

 自動車各社は、2005年から自動車リサイクル法が施行された際に消費者が負担するリサイクル料金の水準を決定した(2004年07月11日付日本経済新聞)。軽自動車・小型乗用車が1万円前後、普通乗用車が1万5千円前後とし、消費者が新車購入時または購入済み自動車の車検時に支払うことになる。
 すでに一定の成果を収めている家電やパソコンのリサイクル法に加えて、フロンやシュレッダーダストなど有害廃棄物を多く含有する自動車のリサイクル法が施行されることにより、本格的な循環型社会への道筋が見えてきた。特に、消費者が支払う料金が、現時点で実際に掛かっているリサイクル費用よりもかなり低く抑えられたことは、好ましい傾向と言えよう。工業製品のリサイクルを効率的に進めるためには、あらかじめ「リサイクルしやすい」ように設計しておくことが必須条件となる。リース契約が中心となり製品が返却されるのが一般的である複写機の場合、企業の負担を減らす目的で部品の再使用や金属・プラスチック類の再資源化を徹底したために、大手複写機メーカはいずれも90%を越える高いリサイクル率を達成している。今回の自動車リサイクルのように、消費者負担分が低く抑えられると、メーカ負担となる差額を圧縮するために積極的にリサイクルしやすい製品設計を行うようになるため、結果的にリサイクル率が向上すると期待される。
【参考】拡大生産者責任
青バラ誕生(04/07/01)

 サントリーは、パンジーの遺伝子を組み込むことによって、世界で初めて「青いバラ」の開発に成功したと発表した。バラには青色色素を作る遺伝子が存在せず、通常の交配で青バラを作ることは困難であり、英語で "blue rose" と言えば「ありえないもの、できない相談」を意味していた。
 バラでは先行したものの、農業分野の遺伝子ビジネスにおいて、日本企業の将来は決して明るくない。基礎技術の実用化でアメリカに大幅に遅れを取った上に、植物の遺伝子を提供しあう国際取引の前提となる植物資源保護条約に参加していないからだ。この条約は、遺伝子資源が豊富な開発途上国と遺伝子ビジネスを実践する企業を仲介するための枠組みを作るもので、国連食糧農業機関が推進し、ヨーロッパと途上国を中心に54カ国が批准したものの、アメリカとともに日本は参加していない。コメの遺伝子が海外に流出するのを防ぐためだが、将来的には、新品種の開発に遅れをとる懸念がある。
【参考】遺伝子組み換え作物
民間有人宇宙飛行に初成功(04/06/22)

 国家機関からの支援を受けない民間による有人宇宙飛行に、アメリカのベンチャー企業チームが成功した。飛行士1人が乗り込んだ宇宙船「スペースシップ・ワン」は、高度14kmで飛行機の機体から切り離された後にハイブリッド・ロケットエンジンに点火、高度100kmに到達して3分あまりの宇宙飛行を達成した。
 民間宇宙飛行へのチャレンジが盛んになったのは、1995年に賞金1000万ドルのロケットコンペ「X賞」が発表されてからである。賞金獲得には、乗員3人を乗せて100kmのサブオービタル(地球を周回せずに帰還する軌道)に到達後に帰還、それから14日以内に再度同じ飛行を繰り返すことが条件。今回の飛行は、賞にエントリーしている20社あまりのうち、最初に100kmに到達したケースとなる。ただし、スペースシップ・ワンの開発には2000万ドル以上掛かったと言われており、賞金目当てと言うよりは、民間宇宙ビジネスへの突破口とすることが目的である。
 10万ドル払ってでも数分間のサブオービタル飛行を体験したいという希望者は、北米だけで10万人以上いると見られており、小型宇宙船によるミニ宇宙旅行は有望なマーケットである。さらに、重さ10kg以下の軽量ペイロードを低価格で高度数百kmの低軌道に投入するビジネスが開始できれば、短期間の無重量実験や気象観測などを希望する研究機関から相当数の引き合いが来るはずである。大型ロケットに頼る現在の宇宙ビジネスは、1回あたりの打ち上げ費用が数千万ドルに上り、打ち上げの間隔が長くなる上に、事故が起きたときのリスクが大きい。民間の小型宇宙船による低コストの定期打ち上げが実現されれば、宇宙は遥かに身近なものになるはずである。
歩行支援のロボットスーツ、実用化へ(04/06/17)

 体に装着して歩行を支援する「パワーアシストロボットスーツ」の実用化に向けて、ベンチャー企業が設立される(2004年06月17日付日本経済新聞)。このロボットスーツは、人間が足を動かそうとするときに筋肉に流れる微少電流を外から感知し、次の動作を予測して腰と膝の付近にあるモータを駆動し動きを補助するもので、高齢者や障害者の介護やリハビリに利用できるという。個人向けの普及型は、100万円台で販売される予定。
 パワーアシストスーツやロボット車椅子の究極は、頭で考えただけで操作できるようなものであり、実現すれば、脊髄損傷やALSの患者にとって福音となる。もちろん、実用化までに乗り越えなければならない障害は多いが、基礎的な研究は、すでに一定の成果を収めている。デューク大学で行われた実験では、ヨザル(サルの一種)の脳に微小電極を刺入して、フルーツ片を掴んで食べるまでの脳の活動電位を記録し、手を動かす際にどの運動皮質ニューロンが興奮しているかが調べられた。その後、同じニューロンの活動を測定し、コンピュータ処理によってロボットアームを制御する指令に変換したところ、サルの手の動きとロボットアームの動きが、ほぼ同じになったという(Nature 408(2001)403)。サルが頭の中で考えた動作を、ロボットが実現したと言って良いだろう。ただし、人間の脳に電極を刺し入れる手術を行うのは危険であり、この技術を直ちに人間に応用するのは難しい。脳波を利用する研究も行われているが、脳波は多数のニューロンの活動を平均した結果なので、細かな制御には向かない。こうした問題があるにせよ、数十年後の未来には、思考で機械を操ることが当たり前になっていると期待される。
迷惑メールの規制強化へ(04/05/31)

 総務省は、相手の同意なしに送信される迷惑メールの規制を強化する方針を固めた(2004年05月31日付日本経済新聞より)。
 現在、迷惑メールは世界的な問題となっている。『電子商取引と開発』(国連貿易開発会議,2003)によれば、迷惑メールは全電子メールの過半数に達しており、受信者にとって迷惑になるだけでなく、インターネットのトラフィックを悪化させる。EUでは、広告メールを希望する消費者が登録を行い、それ以外の相手に一方的に広告メールを送信することを禁じるという厳しい規制が2003年10月に発効した。この規制が実効性を持てば、迷惑メールは根絶できるはずだが、あまりに厳しすぎるため、電子メールを利用した広告活動全般を阻害しかねない。インターネットの規制に対して消極的だったアメリカでも、2003年に規制法が成立、迷惑メールの受け取り拒否を希望する消費者は登録を行い、登録された相手に一方的に広告メールを送信した企業は刑事罰の対象になる。日本では、件名に「未承諾広告※」と表示することを義務づける特定電子メール法が施行されているが、取り締まりが不十分で被害は続いている。
 将来的に、電子メールは、世代や購買傾向に応じて選別されたターゲットに向けて、動画・音声付きCMをデジタルテレビや携帯電話に送付する強力な広告メディアになると予想される。それだけに、広告活動を阻害しない範囲で適切に規制することが必要であり、新たな規制案の策定に期待したい。
【参考】ネット上の悪意
病院内での携帯使用、禁止と容認が拮抗(04/05/22)

 病院内での携帯電話使用に関する調査によると、結果が得られた全国70病院のうち、通話やメール送受信を含めた「全面禁止」が50%だったのに対して、「館内一部で使用可」が20%となり、「現在は禁止だが使用解禁を検討中」の20%を含めると、容認派が禁止派とほぼ拮抗していることがわかった(2004年05月21日付日本経済新聞より)。
 病院内で携帯電話の使用が問題視されるのは、「他の患者に迷惑がかかる」という理由もあるが、主にマイクロ波による医療機器の誤作動が懸念されるためである。携帯電話が発するマイクロ波は、電磁干渉によって、ペースメーカ・輸液ポンプ・心電計・人工呼吸器などの医療機器に何らかの誤作動を引き起こす危険性がある。ただし、1996年に厚生省が「医療用具安全性情報」を出して注意を喚起したため、新しい機器では対応策が講じられている。また、ペースメーカでは15cm以上、その他の機器でも1〜2m離せば誤作動はほとんど起こらないと見られており、過剰に神経質になる必要はない。携帯電話は、緊急時の連絡や病床での慰めのために利便性が高いため、適切なルールの下に使用を容認する方向に向かうと考えられる。
【参考】携帯電話による医療機器の誤作動
Winny の開発者逮捕(04/05/11)

 京都府警ハイテク犯罪対策室は、ファイル共有ソフト「Winny」の開発者を、音楽や映画などの著作物の違法コピーを可能にしたとして、著作権法違反幇助の容疑で逮捕した。プログラム開発者が逮捕された例としては、画像にモザイクをかけたりはずしたりするソフト「FLMASK」の開発者が猥褻図画公然陳列の幇助罪に問われたケースがあるが、このときは、ホームページから猥褻画像を掲載したページにリンクして利益を得た点が問題視された。Winny 開発者は、その頒布によって直接的な利益を得たわけではなく、違法行為を行っていたユーザとの間に明確な意思の疎通もなかったと考えられることから、有罪に当たるかどうか微妙である。アメリカでは、2003年に、ファイル共有ソフトはビデオデッキと同じであり、その開発自体に違法性はないとの判決が出されている。
 インターネット上で音楽や映画などの著作物が違法にコピーされており、製作会社に損害を与えていることは事実である。しかし、この事態への対処法は確立されていない。現在のように、ユーザ同士が直接ファイルをやり取りする "peer-to-peer (P2P)" 方式が一般化している状況では、違反者をひとりひとり摘発するのは難しい。全米レコード協会が行ったように、大量の音楽ファイルをコピーした“悪質”ユーザに狙いを定めて多額な賠償金を請求するという方法もあるが、個人いじめになるとの批判も多い。そもそも、P2P方式によるファイル交換は、マイナーなアーティストがレコード会社などを介さずに作品を広める手段として利用できるため、技術の芽を摘むような対策は好ましくないだろう。遠回りにはなるが、有効なコピープロテクト技術と、リーズナブルな価格でのファイル配信システムを確立することが、期待される。
【参考】ネットワーク犯罪
マウスの単為発生に成功(04/04/22)

 メスの卵子だけを使ってマウスの子供を作る単為発生の実験に、東京農業大学などの研究グループが成功した(Nature 428(2004)860)。誕生した28匹の子供のうち2匹が正常に成長し、出産能力があることも確認された。
 受精を経ずに個体が発生する単為発生は、ミツバチやアブラムシなどの無脊椎動物をはじめ、一部の爬虫類や鳥類でも見られる。しかし、哺乳類の場合、父親/母親由来の染色体に機能的な差があり、両者が揃わないと初期の段階で胎児が死亡してしまう。この差は、もともとの遺伝子の違いによるものではなく、配偶子を形成する段階で、精子由来か卵子由来かが後成的(epigenetic)に「しるしづけ(imprint)」された結果だと考えられている。今回の実験では、遺伝子操作によって「しるしづけ」を変更した卵母細胞から採取した核を卵子に移植することにより、メスだけで子供を作ることができた。2つの一倍体(haploid)を使って擬似的な受精を行っているため、1つの生殖細胞から個体が発生する純粋な単為発生とは異なるが、哺乳類で単為発生を禁止しているメカニズムの解明につながるという点で、科学的な意義は大きい。
 クローン羊ドリーの誕生以来、体細胞クローン技術を製薬や畜産などに応用しようとする試みが続けられているものの、クローン個体が抱えるさまざまな健康上の問題が明らかになり、商業的利用は進んでいない。単為発生の技術は、家畜の品種改良に利用できるとの見方もあるが、 誕生する個体の健康状態について、まだ調べるべきことが多く、応用には時間が掛かりそうである。
【参考】クローン技術
テレビの長時間視聴は幼児に悪影響?(04/04/05)

 テレビの長時間視聴が幼児の発育に悪影響を及ぼすことを示唆する研究結果が、相次いで発表されている。日本小児科学会では、1歳半の子供を持つ親1900人を対象としたアンケートを元に、「長時間1人でテレビやビデオを見ている乳幼児は言葉や社会性の発達が遅れる」という報告がなされた(asahi.com, 2004/03/30)。また、米小児科学会機関誌PEDIATRICS4月号に掲載された論文では、長期間にわたって集められたデータ(National Longitudinal Survey of Youth)を元に、1歳と3歳のときのテレビの視聴時間と7歳での注意欠陥障害の発症の間に正の相関が存在することが指摘された(PEDIATRICS 113 (2004) 708)。
 特定の対象に注意を集中し、応答を予測しながら何らかの働きかけを行うという人間的な活動には、特定の課題への注意を持続しながらプランニングを行う前頭前野や、反射的な反応を抑制して合目的的な行為を可能にする大脳基底核の成熟が不可欠である。中枢神経系は胎児期から急激に発育していくが、こうした「人間的な」神経回路の形成には、インタラクティブな作業を通じて能動的に学習することが必要なため、幼児期の体験が本質的な重要性を持つ。ところが、映像や音声に含まれる情報を解釈する能力が未発達の幼児にとって、テレビは一方向的に視覚的・聴覚的刺激を与え続けるだけでしかなく、脳の成熟を阻害する可能性も無視できない。知能の発育を左右する要因は数多くあるので、テレビの影響をどの程度に見積もるべきか必ずしもはっきりしないが、「少なくとも2〜3歳まではテレビの長時間視聴は避ける」というのが妥当な線だと思われる。
NASA、太陽系最遠の天体を確認(04/03/16)

 米航空宇宙局(NASA)は、地球からの距離が冥王星までの3倍となる太陽系最遠の天体の存在を確認した。この天体は、昨年11月にカリフォルニア工科大学の観測チームによって発見されたもので、非公式に「セドナ」と命名されている。直径は冥王星の3/4程度(1290〜1770km)と推測され、小惑星(asteroid)と惑星(planet)の中間サイズになる(プラネトイド(planetoid)と呼ばれることもある)。表面は赤い色を帯びており、温度が零下240℃を越えることはないとされる。
 太陽系の辺縁の構造は、完全には解明されていない。太陽から40天文単位(1天文単位=地球公転軌道の長半径)以遠には、「カイパーベルト」と呼ばれる無数の(ある見積もりでは直径100km以上のものが少なくとも3万5千個はある)小天体がベルト状に集まった領域が存在する。その内縁に位置している冥王星は、惑星であると同時に最大のカイパーベルト天体である。その外側には、太陽の重力が及ぶ最外縁となる10万天文単位(最も近い恒星までの距離の半分近く)に至るまで、膨大な数(ある見積もりでは6兆個)の彗星の集まりである「オールトの雲」が球状に拡がっているとの見方が有力である。今回、存在が確認されたセドナは、このオールトの雲に属する天体だとの説もあり、今後の研究が注目される。
火星に大量の水の痕跡(04/03/04)

 NASAの火星探査研究チームは、火星探査車オポチュニティが送信してきた岩石の画像などを解析した結果、かつて液体の水に浸かっていたことを示す証拠が見つかったと発表した。火星に大量の水が存在していたことは、1999年にマーズ・グローバル・サーベイヤが衛星軌道上から水流に浸食されたと見られる地形の撮影に成功して以来、ほぼ確実視されていたが、地表での調査で直接的な証拠が得られたのは初めてである。
 生命の発生にとって、水はきわめて重要な役割を果たす。水分子は大きな電気モーメントを持っており、酸・塩・糖など他の極性分子や荷電分子と容易に相互作用する。また、タンパク質やDNAなどの親水基と疎水基を持つ分子は、親水基が外側になるように折り畳まれることによって、特異的な反応を実現している。水以外の溶媒で生命が発生する可能性は否定できないものの、水と生命を結びつける発想はごく自然である。太陽系の天体で過去・現在に大量の水を湛えていたと考えられるのは、地球以外には木星の衛星エウロパと火星であり、地球外生命の探査は、この2つをターゲットとして進められることになる。
ヒトクローン胚からES細胞を作成(04/02/15)

 韓国人研究者を中心とするグループが、ヒトクローン胚からES細胞を作成することに世界で初めて成功した。ヒトクローン胚に関しては、2001年にACT社が作成したと発表したが、このときは、短時間で細胞が死んでおり、実験は失敗だったとの見方が強い。サルのクローン作りも成功しておらず、霊長類には特別な困難があるのではないかと考える学者もいた。今回の実験で、研究者はホルモン治療を受けている健康な女性16人から無償提供された242個の卵子を利用、除核の際には、ピペットによる細胞の傷害を避けるために核をそっと押し出す方法を採ったという。この卵子に卵丘細胞の核を挿入、化学物質の誘導で分裂を開始させた後、胚盤胞の段階まで成長させたところで、胎盤になる部分を除去し、ES細胞株を作成した。複数回行った実験のうち、最も成功率の高かったケースでは、66個のクローン胚のうち19個が胚盤胞まで成長した。しかし、ES細胞株の作成に成功したのは、1例だけだったという。
 ES細胞は、さまざまな組織・臓器に分化する能力を持った「万能細胞」であり、再生医療の切り札的存在と言われる。特に、患者のクローン胚から作ったES細胞は、拒絶反応の起きない臓器移植を可能にするだけに、医療関係者の期待も大きい。その一方で、人間に育つ可能性のある胚を破壊して作成するものだけに、倫理的な観点からの批判も多く、ヒトクローンの問題と併せて禁止すべきだとの声も少なくない。ES細胞研究のためのヒトクローン胚作りに関しては、各国で対応は分かれており、ドイツとフランスは法令で禁止、イギリスは容認、アメリカでは禁止法案がたびたび提出されるが上院で可決されず、日本では、法律では禁止されていないが、「クローン規制法」の運用指針で当面禁止となっている。
【参考】人体改造時代の幕開け
【追記】ヒトクローン胚からES細胞を作ったとする研究結果は、後に捏造であることが判明した。
男女産み分けのため無申請で受精卵診断(04/02/05)

 神戸の産婦人科医が、日本産婦人科学会に申請せずに、3例の受精卵診断を行っていたことが判明した。うち2例は男女の産み分けが目的で、女児出産を希望する母親のケースでは、まもなく出産の予定だという。
 受精卵診断(着床前診断)は、体外受精によって得られた受精卵の染色体や遺伝子を検査するもので、受精卵が4〜8個に分裂した段階で1個の細胞を採取して調べることが多い(極体を利用する方法もある)。着床後に診断を行う胎児診断に比べて、妊娠中絶を行う必要がなく、母体に与える影響は小さいが、細胞を採取する際の胎児への悪影響を指摘する意見もある。日本産婦人科学会には、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの子供が生まれるのを防ぐ目的などで受精卵診断の申請が行われたことがあるが、承認されたケースはない。海外での対応も分かれており、アメリカではごく一部の医療機関で行われているが、ドイツでは禁止されている。ただし、実施が認められるにしても、重篤な遺伝病を持つ子供を産まないための医療行為に限定されるのが一般的で、今回のように、男児または女児を希望する親の意向に沿って行われるのは、きわめて異例である。
 受精卵診断の技術を発展させれば、理論的には、性別のみならず、目や髪の色をはじめ、先天的に決定される形質に関して、親の希望に叶う受精卵を選別することが可能になる。しかし、先天的な障害者を含めて、多様な人間の存在が社会の豊かさを生み出しているという紛れもない事実を考えれば、「親の希望」という限られた意志のもとでの選別が許されるべきものでないことは明らかだろう。今回の事件をきっかけに、受精卵診断に対する厳しい規制が実施されることを望む。
【参考】ヒトゲノム解読と遺伝子診断
青色LED発明の相当の対価は600億円(04/01/31)

 青色発光ダイオード(LED)を発明した対価として、中村修二氏が日亜化学工業に200億円を請求していた訴訟で、東京地裁は、請求全額の支払いを命じる判決を下した。2002年9月の中間判決で、青色LEDの特許権が会社に帰属することが認められていたため、論点になったのは、特許法35条で定められた「相当の対価」の金額。判決では、青色LEDで日亜が得た利益を1208億円と算定、中村氏は50%の貢献をしたとして、相当対価を600億円と認定した。職務発明に対する対価の認定額は、ここ数年の訴訟で高騰する傾向を示しており、1月29日の東京高裁判決では、光ディスク関連特許で1億6300万円が認められたばかり。今回の認定額は、この400倍になる文字通り桁違いの金額である。
 職務発明を行った技術者が欧米に比べて充分な報酬を得ていないことは、以前から指摘されていた。最近では、技術開発力向上のために報奨金の増額を行った企業も多いが、それでも最高1000万円程度のところが大半。社会に対する貢献度からすると、優れた発明を行った技術者がスポーツ選手のイチローや中田(英)なみの高収入を手にしても不思議はないはずなのに、実際には、会社の重役にすら遠く及ばないというのが現状である。今回の金額は、利益額と貢献度の数値がやや過大に思われ、控訴審でかなり減額されると予想されるが、それでも、技術者に夢を与える好判決として評価したい。
フェルミ凝縮系を実現(04/01/31)

 米国立標準技術研究局とコロラド大の研究チームは、カリウム原子のペアによるフェルミ凝縮相の実現に成功したと発表した(Phys. Rev. Lett. 92)。スピンが半整数のフェルミオンは、パウリの排他律によって同一の状態を取れず、そのままでは凝縮は起きないが、これがペアになった複合粒子はボソンになるため、ボーズ・アインシュタイン凝縮を起こすことができる。今回の実験は、フェルミオンであるカリウム原子気体を 2×10-11K まで冷却して、フェルミ凝縮相を実現した。原子気体フェルミ凝縮の物理的な性質についてはすでに理論的な研究が進められており、 超流動などの可能性が指摘されている。電子ペアによるフェルミ凝縮が高温超伝導と関係していることもあって、現在、この分野に関心が寄せられている。
スピリット、火星探査を開始(04/01/06)

 昨年6月にNASAが打ち上げた無人探査車スピリットは、1月3日に火星着陸に成功した。これから3ヶ月にわたって周辺を移動しながら土壌の調査などを行い、水の存在や生命発生の可能性について調べる。姉妹機のオポチュニティも、25日に火星に到達する予定。火星表面の探査は、1997年のマーズ・パス・ファインダーの成功以降、1999年に火星に激突したマーズ・ポーラー・ランダーなど失敗が相次いでいただけに、スピリットが収集するデータに期待する科学者は多い。
 1996年、1600万年前に火星から飛び出したと推定される隕石ALH84001にバクテリアの化石のようにも見える構造物が発見され、火星の生命に関する論争が起こった。その後の研究で、この構造物を生物の痕跡とする説はほぼ否定されたが、1999年に火星を周回した探査機マーズ・グローバル・サーベイヤーが、かつて液体の水が火星表面を流れていたことを示す地形の撮影に成功、生命発生も不可能ではないとの見方が広まってきた。強力な酸化物質や紫外線に晒されているため、土壌表面に生命の存在を示す直接的な証拠が残っているとは考えにくいが、今後の研究に資する何らかの手がかりが得られることだろう。
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