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§1.地球温暖化

 地球温暖化は、世界的な規模で進行する環境破壊の中でも、早急な対策が必要なものの一つである。国連環境計画(UNEP)は、1999年9月に発表した『地球環境概況2000』で、専門家200人の意見をもとに、21世紀に深刻になる環境問題の第1位に地球温暖化を挙げた(以下、淡水資源の不足、砂漠化・森林喪失、水質汚染の順)。この報告書は、「90年代後半の大気中の二酸化炭素濃度は過去16万年間で最高」になったことを指摘し、「温室効果ガスの放出増加の結果、地球温暖化の防止はおそらく手遅れだろう」「京都議定書で合意された多くの目標も達成されない可能性がある」と悲観的な見通しを述べている。

■二酸化炭素(CO2
 二酸化炭素は、生物に対する毒性がほとんどない。きわめて高濃度になれば中毒を起こすが、大気中濃度が現在量の2倍程度になっても生体への悪影響は小さく、むしろ、植物の光合成を促進する作用がある。このため、公害問題が叫ばれるようになった1960年代以降も、産業活動によって生じる二酸化炭素は、自由に大気中に放出してもかまわないと考えられており、ベンゼンのような有害物質も、高温処理によって二酸化炭素と水に分解できれば、無害化できたと見なされてきた。
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 近代的な産業社会が成立してから大気中に放出された二酸化炭素は、膨大な量に上る。推計では、1850〜1985の間に工業活動を通じて(主として化石燃料の燃焼により)2000億トン、森林開墾によって1150億トンが放出された。20世紀初頭まで、海水に吸収されたり光合成により植物体として固定される分があるため、大気中における二酸化炭素濃度の上昇は顕著ではなかったが、その後、産業の発展に伴う化石燃料の使用量の増大と、森林伐採による光合成量の減少というダブルパンチにより、大気中に蓄積される量が急増した。大気中の二酸化炭素濃度は、産業革命前には280ppm前後で安定していた(過去のデータは、主に南極の氷床中に封じ込められた大気の組成を分析することで調べられる)が、19世紀半ばから有意に増加し始め、第二次大戦以降にその傾向をさらに強める。1990年代には360ppmに達し、現在なお急ピッチで増加を続けている。
 二酸化炭素自体が生態系にさしたる悪影響を及ぼさないことは事実である。しかし、大気中濃度がこれほど急増すると、大気システムに影響が現れ気候変動をもたらす。現在では、二酸化炭素・メタン・亜酸化窒素などの「温室効果ガス」は、大気中濃度が1%以下という微量であるにもかかわらず、放射赤外線を逃さないようにして地球を暖める効果があることが判明している。温室効果は地球上の生物にとって不可欠であり、温室効果ガスが全くないと、地上気温は平均で-18℃になって全地球が氷結してしまう。しかし、過剰に増加すると、微妙なバランスを保ってきた気象のシステムが崩壊し、気温や降水量が急変してさまざまな影響を生態系や人類に及ぼす危険性がある。
 生物にとって毒性がないので安全だと考えて大量に大気中に放出した結果、濃度の上昇に伴って大気システムが激変し、人類に大きな影響を与えるようになったという点で、二酸化炭素は、オゾン層を破壊するフロンのケースと良く似ていると言えよう。

■地球温暖化
 地表付近の気温は、さまざまな要因の影響を複雑に受け、地球全体の年平均気温も数年〜数十年以上のスケールで変動するため、全球的に平均気温が増加しているかどうかは簡単にはわからない。例えば、都市化が進めば、植生の減少とエネルギー消費量の増大に伴って高温になる(ヒートアイランド現象)ことが知られている。このため、気象観測所の周辺が都市化するにつれて局所的な温暖化が観測されることになり、この気温上昇と地球規模での温暖化を区別することは難しい。しかし、1880〜1990年のデータを慎重に検討した結果、多くの気象学者は、この100年間に全地球の平均気温が0.4〜0.6℃だけ上昇したという点で、ほぼ意見の一致を見た(下図)。
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 この図からわかるように、19世紀には気温が安定していたが、20世紀初頭から温度が上がり始める。その後、必ずしも明らかでない理由により、1940〜70年代にかけて、気温が低下する傾向が見られた。当時は、工場からの煤煙が太陽光線を遮って地球の寒冷化をもたらすという説が提出され、地球規模の環境問題として真剣に論じられたほどである。しかし、1980年代にはいると気温は急激に上昇、特に、80年代後半のアメリカをたびたび熱波が襲うようになり、温暖化問題が議会で取り上げられるようになった。気温の騰勢は90年代に入って激しさを増し、南極大陸から棚氷が漂流し出したり、シベリアの永久凍土が融け始めるなど、はっきりとした影響が現れつつある。
 21世紀末までに気温がどの程度変化するかは、温室効果ガスの排出規制がどの程度励行されるかによって変わってくる。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、2100年までに1.4〜5.8℃ほど温暖化が進むと発表しており(2001)、今後100年間に2〜3℃の上昇があるとする見方が一般的のようだ。平均気温が2℃上昇すると、東京は今の鹿児島並の気温になる。全地球的な影響を考えた場合、気温上昇が1℃でとどまれば何とか対応ができるだろう。2℃になると相当厳しいが、被害を受ける地域に対して国際的な援助を行うことにより、危機を乗り切れると期待する。しかし、3℃も上昇すると、貧困の拡大に伴って地域紛争が多発し、文明の基盤が揺らぐ危険がある。気温上昇が5℃以上になると、恐竜全盛期の気候に逆戻りすることになり、本気で人類の滅亡を心配しなければならないだろう。
 地球温暖化の影響は、さまざまな方面に現れる。ここでは、ごく一部を列挙するにとどめる。
◇土壌の乾燥
 気温が上昇すると、土壌からの水分蒸発量が多くなるため、一部地域での渇水傾向は今後さらに強まる。北米南西部・地中海周辺・中央アジアで穀物生産地域となっている半乾燥地帯では、降水量が増大しないまま土壌水分の3割が失われ、乾燥化・砂漠化が進行する。
◇降水量の変化
 平均気温の上昇に伴って降水量が大幅に変化する。海水の蒸発量が増えるため、地球全体での降水量は増加すると予想されるが、局地的には降水量が減少する地域も多い。過去100年のデータによれば、全世界の降水量は1%増大、高緯度地方で降水量が増加したが、熱帯では逆に減少して砂漠化が進んだ。今後、東アジアでは、雨期の降水量が増大し、日本では梅雨が長引いて洪水の発生も増えるようだ。ただし、台風の発生数は減少するというシミュレーション結果も提出されている。
◇海面の上昇
 温暖化が進むと、極地の氷が溶けて海に流れ込むほか、海水自体が熱膨張するため、海面が上昇する(南極の氷床が崩壊した場合には、上昇幅が最悪数メートルになるという説もある)。平均海面水位は、過去100年間で15〜20cm上昇、2100年までにさらに9〜88cm上昇する見込みである。これまでの調査では、極地での氷の溶け方が予想以上に早く進んでおり、この幅の大きい方になる可能性が高い。この結果、海岸線が変化して沿岸部の生態系や都市に多大な影響が及び、島嶼部では水没するところも見られる。環境庁の予測によると、海面が30cm上昇すると日本の砂浜の57%が消失する。国土の1/4が海抜下にあるオランダでは、2050年までに国土の3%に当たる1100km2を人工湖などの水吸収地帯とする国家的プロジェクトに着手した。
◇生態系への影響
 気温や降水の変化によって、一部地域の森林が失われたり、環境変化に適応できない種が絶滅することも予想される。世界各地で報告されているサンゴの白化現象は、サンゴ虫と共生関係にある藻類が失われて起きるもので、藻類は海水温度に敏感で高温になると数が減少することから、地球温暖化の現れではないかと考えられている。ただし、生物の中には気温の上昇で勢いを増すものも多く、支配種が交代することはあっても、地球全体のバイオマスが激減することはないだろう。
◇人間社会への影響
 人類は、地球温暖化によって甚大な被害を被る。最も深刻なのは、農業への影響である。人間が育成している作物は、大規模単作化を進めてきたために適応力が弱く、病害虫・雑草の大量発生や高温障害・水不足による収穫量の減少が懸念される。ただし、耕作可能地域の増加・二酸化炭素濃度の増加に伴う光合成の活性化などの増収要因もあり、農業生産がどの程度変動するかは定かではない。北米南西部・地中海周辺・中央アジアでは水不足による減収が著しいが、東アジアではそれほどでもないという見方がある。
 これまで熱帯地方に限局されてきた伝染病が、高緯度地方に拡散するという説もある。マラリアの場合、病原体を媒介するハマダラカが生息可能な地域が広がり、抗生物質に耐性を持った原虫が増加したことと併せて、深刻な事態になるかもしれない。
 このほか、洪水・渇水や浸食・地滑べりなどの自然災害が多発し、経済的な損失は巨大なものとなるだろう。また、海面上昇に伴い、沿岸地域や島の住民の移住、港湾施設の作り直しなどに多くの費用が必要となる。農業生産が低下して飢餓が増大すると、地域紛争の引き金になる危険性がある。

■温暖化対策
L14_fig04.gif  二酸化炭素を中心とする温暖化ガスが大気中に蓄積されたのは、現代的な産業活動を盛んに行ってきたアメリカ・日本・EUなどの先進諸国の責任である。二酸化炭素排出量の国別データを見ると、中国・インド・ロシアも上位にランクされる(右図)が、前二者は人口が多く一人あたりの排出量はそれほど多くない。また、ロシアやカナダでは暖房燃料の必要量が多いことを考慮しなければならない。こうして先進国に対して温暖化ガスの排出削減を求める声が高まり、1997年12月に京都で開催された国際会議(第3回気候変動枠組み条約締約国会議;COP3)によって、排出削減の目標を定めた「京都議定書」が採択された。この議定書では、先進国は2008〜2012年までに温暖化ガス(二酸化炭素・メタン・亜酸化窒素・HFC・PFC・SF6)の排出量を、1990年の水準に比べて5%以上削減することが定められている(下表)。削減の数値目標は国/地域別に定められており、日本-6%、米国-7%、EU(共同達成)-8%、ロシア±0%(いずれも対1990年比)などとなっている。
  CO2排出量 排出量/人 削減目標 GDP[ドル]
アメリカ 14億4677万t 5.37t ▲7% 7兆4187億
中 国 9億1799万 0.76t 対象外  8265億
ロシア 4億3109万 2.91t ±0%   4405億
日 本 3億1868万 2.54t ▲6% 4兆5993億
インド 2億7221万 0.29t 対象外  3577億
EU15国 8億4002万 2.51t ▲8% 8兆6054億

 京都議定書の目標達成のために、先進各国が以下の政策を国情に応じて講じることになっている。
  1. エネルギー利用効率の向上
  2. 新エネルギーや革新的技術の研究・開発
  3. 森林等二酸化炭素吸収源の保護

L14_fig27.gif  ドイツのように、旧東ドイツの旧式な施設を改良したり、国内の石炭産業を利用して効率の高い発電所を建設することによって二酸化炭素の大幅削減(20%以上)が可能な国もあるが、多くの先進国(特にアメリカと日本)は、国内での努力でこの数値目標を実現するのは現実問題として困難だとされている(主要先進国における1990年に対する二酸化炭素排出量の増減率は、右のグラフの通り)。このため、京都会議では、アメリカの要請で目標実現のための柔軟な仕組み(すなわち、自国の産業を圧迫しない抜け道)が導入された。具体的には、次の3つである。
◇先進国間排出権取引の導入
「排出権取引」とは温暖化ガスの排出量を売買する仕組みで、国や企業が排出許容量よりも低く抑えた場合、余った枠を他の国や企業に売却できるというもの。京都会議では、アメリカの強い後押しにより、先進国間での取引が認められた。例えば、ロシアは国内の経済的混乱のために二酸化炭素の排出量が減少しており、90年比±0%という目標をかなり下回ることが予想されている。排出権取引が認められれば、目標達成が困難なアメリカは、ロシアの余った排出枠を金銭で買い取って自国で削減を達成したことにできる。ただし、国家間での取引は削減努力を鈍らせ、温暖化ガスの大量排出をもたらしているアメリカ的ライフスタイルの是正につながらないという批判もあり、取引量を制限すべきだという意見も強い。排出権取引がビジネスとして広く行われるようになれば、世界的な市場規模は20兆円に達すると言われる。
◇クリーン開発メカニズム(CDM)の導入
国際的な削減プロジェクトについて、その削減量を、一定の認証手続きを経て先進国が取得できる仕組み。植林をCDMの中に加えるべきかどうかは今なお議論の対象となっているが、これが認められれば、先進国が資金・技術を供与して開発途上国で植林事業を行った場合、森林が吸収する二酸化炭素量を、先進国の削減分にカウントできる。日本やアメリカでは、将来、二酸化炭素削減量を買い上げてくれるとの見込みから、諸外国で植林事業を立ち上げる企業が現れている。
◇先進国間共同実施の導入
先進国で共同プロジェクトを行った場合、それに伴う削減量を移転・取得できる仕組み。
 こうした譲歩をしたにもかかわらず、ブッシュ米大統領は、2001年3月、京都議定書の枠組みから離脱すると発表した。アメリカがこうした態度をとった理由は、 などの点を不満としたためである。これから二酸化炭素排出量が急増すると予想される開発途上国に対して、何らかの削減目標を設定すべきだという意見にも一理ある。しかし、20世紀における二酸化炭素濃度上昇の責任は、主に先進国にあり、まず先進国が削減努力をしなければ、途上国の参加は期待できないだろう。何よりも、アメリカは、二酸化炭素の総排出量・一人当たり排出量が世界最大、GDP100万ドル当たり排出量も多く(米211トン、独118トン、日61トン)、本来はリーダーシップを発揮すべき国の突然の離脱表明に対して、ヨーロッパを中心に批判的な意見が強い。京都議定書を順守した場合の経済的影響については、必ずしもはっきりしないが、国立環境研究所の試算によれば、アメリカのGDPをを0.3〜0.5%押し下げる効果があるとされる(数値の幅は、排出権取引の制限の有無による;2001年7月12日付日本経済新聞より)。ただし、画期的な技術が開発された場合には、それを中国やインドに輸出することができるため、経済的にプラスになる可能性もある。
 アメリカの離脱表明を受けて、EUはアメリカ抜きの議定書発効を目指して調整を続けているが、当初目標としていた2002年の批准が実現するかどうかは微妙な状況である(2001年10月現在)。

□日本での対策
◇政府の対策
 日本政府は、二酸化炭素排出削減のため、産業・運輸・民生の各部門ごとに対応を要請している。4割を排出している産業部門に関しては、生産設備や工程の改善によるエネルギー利用効率の向上を要請するほか、電力会社にも使用燃料の転換を求める。1/4を占める民生部門については、電気機器の省エネルギー化や建物の熱効率の向上に加えて、市民にライフスタイルの変更を求める。排出量の22%を占め、その増加が目立つ運輸部門では、自動車の燃費の改善・公共交通機関の利用率の増大を図る。こうした努力を最大限行うことにより、2010年時点で二酸化炭素排出量を1990年レベルに安定させることは可能だと説明されている。90年比で-6%という京都議定書の目標を達成するには、さらに革新的な技術開発を行わなければならないとされる。
 排出量(1998)90年比(%)
産 業 475 -3.2
運 輸 257+21.1
民 生 296+11.3
その他 160 +7.4
合 計1188 +5.6

 ただし、現実には、1998年度の二酸化炭素排出量は前年比で2.9%増、90年比9.7%増となっており、このままでは目標達成はおろか、90年レベルに安定させることも難しい。もともとの政府の削減見通しには電力分野における原子力発電の増設が含まれていたが、原発に対する国民の反感が高まって新設が進まないことが、大きく影響している。経済産業省の予測では、2010年度には90年比で7.1%増になる見通しで、先進国間排出権取引やCDMを活用せざるを得ない状況である。
 また、排出削減を強行すると、経済への悪影響が懸念される。通産省の試算では、1990年比5%減の排出削減を行うと、機械・鉄鋼・化学などで産業活動の縮小が避けられず、2010年には190万人の雇用が減るという予測もある。このため、温暖化対策より景気対策を優先させるべきだとの意見も根強い。
◇企業の対策
 日経新聞が1998年10月に333社に対して実施したアンケートによると、二酸化炭素排出抑制に効果のある方策として、次の選択肢が支持を集めた(1998年11月27日付け、第二部経済人サミット特集より)
低公害車の普及51.1%
新エネルギーの導入促進 43.5%
省エネ型家電製品の普及 35.4%
物流システムの効率化 34.2%

 その一方で、「工場における一段の省エネルギー化」は、石油ショック以降、既に大幅な節減を進めてきているため、これ以上スリムにすることは困難だと回答する企業が多い。
◇地方自治体の対策
 地方自治体の中には、環境問題に積極的に取り組んでいることをアピールしている所もある。例えば、熊本市は「環境保全都市」を宣言し、2005年までに二酸化炭素排出量を90年比-20%にすることを目標としている。具体的な方策としては、太陽エネルギーの利用、電気自動車の導入、未利用エネルギーの利用促進、市営施設の省エネ推進、環境教育、公共交通機関の利用促進──などを掲げている。

□経済的施策の実施
 二酸化炭素の排出削減は、産業活動に直接的な影響を及ぼすものであり、政府が口先だけの削減要請を行っても、目標達成は難しい。市民一人ひとりの間に環境意識が芽生えて、環境先進企業に有利になるように消費行動を変更すればそれなりの効果があるが、一般に環境優良製品は割高になるため、不況下ではあまり期待できない。このため、痛みを伴う経済的思索を実施することによって排出削減を実現すべきだという強硬意見も多い。
◇炭素税
 日本やアメリカで二酸化炭素の排出削減が思うように進まない中で、実効性の高い「ムチの政策」として検討されているのが、二酸化炭素の主たる発生源となる化石燃料(石油・石炭・天然ガス)に一律に課税する「炭素税」の導入である。
 ここで問題となるのが、課税額による効果の見極めである。炭素1トン当たり3万円(ガソリン1リットル当たり20円)の税金を新たに課税した場合、化石燃料の消費量が抑制されて、京都議定書の目標を達成できるという見方もある。しかし、このとき、鉄鋼部門での年間税負担が1兆円を超えるほか、諸物価が高騰して経済全体に悪影響を与え、深刻な不況に直面する危険性が高い。
 楽観的な見方によれば、これより低い税率でも、増収分を省エネ技術開発の補助金として使えば、目標達成が可能だという。環境庁の「環境に係わる税・課徴金等の経済的手法研究会」は、排出削減に最も効率的な方法として炭素税を含む「環境税」を答申している。それによると、炭素1トン当たり3千円(ガソリン1リットル当たり2円)の炭素税を掛けると、価格が上昇することによる消費抑制の効果に加えて、1年で1兆円に上る税収を補助金として技術開発に充てることができ、その成果が充分に上がれば、2010年には二酸化炭素排出量を90年比で2%減らせる見通しである。ただし、予測通りに事が運ぶかどうかは定かではない。
 日経新聞のアンケート(1998年11月27日付け)によると、各企業は炭素税の導入に対して次のような反応を示している。
賛成32.1%
条件付き賛成30.9%
反対33.6%
無回答3.3%
企業別にみると、「賛成」と答えた企業が多い業種は、精密機器、非鉄金属・金属製品、医薬品など。一方、「反対」と答えた企業が多い業種は、石油、パルプ・紙、輸送機器、ガスなどであった。
 ヨーロッパでは、既に炭素税(環境税)を導入している国も多く、ドイツ、デンマーク、フィンランド、オランダ、ノルウェー、スウェーデンでは、化石燃料に対して炭素換算1トン当たり約2,500円(オランダ)〜約25,000円(ノルウェー)の炭素税を導入済みである。ただし、国益上重要なエネルギー多消費産業に対して税の軽減措置が設けられていることがあり、二酸化炭素排出抑制よりも財源確保の意味が大きいという面も無視できない。
 炭素税に関しては、炭素1トン当たりいくらという一律課税ではなく、きめ細かな税制にすべきだという意見も多い。具体的には、「グリーン度」に応じて税率を変える税制(燃費に応じた自動車税制など)や、懲罰的な税金を絡めた排出量の総量規制(排出許容枠の超過分に課税するなど)の方が有効だとの主張もあり、京都議定書の定める削減期限の2010年をにらんで、税制を巡る議論が紛糾することは避けられない。
◇排出枠と企業間排出権取引
 税制よりも直接的な削減方法として、各企業に二酸化炭素の排出規制枠を課し、その施行に際して排出権取引の仕組みを導入するというやり方も提案されている。規制枠以下に排出量を抑制できた企業は、その余剰分を、規制内に収められない企業に販売することができるというものである。この場合、低コストの削減技術を持つ企業(効率的な風力発電を行う電力会社など)が排出権の売却で資金を集めることができるようになるため、技術革新によって温暖化ガスの排出抑制が進むという期待もある。



©Nobuo YOSHIDA