◆気になる(オールド)ニュース (2009年)
◎表紙ページに随時掲載している「気になるニュース」の2009年分です。

気になるニュース

月にまとまった量の水発見(09/11/14)

 米航空宇宙局(NASA)は、LCROSSプロジェクトの成果として、月の南極近くのクレーター「カベウス(Cabeus)」でまとまった量の水を発見したと発表した。LCROSS(Lunar CRater Observing and Sensing Satellite)プロジェクトとは、NASAが2006年に採択した速成・低コストの月探査計画。まず、打ち上げロケット先端部ケンタウロスと無人探査機を合体させた機体を月に近づけ、そこで分離したケンタウロスを月面に激突させる。このとき舞い上がった塵の中に探査機を通過させて、月面に衝突するまでに得られたデータを地球に送信するというもの。10月9日に行われた2度の衝突の模様は、地上の望遠鏡からも観測された。
 解析された近赤外スペクトルのデータは、水分子の存在をはっきりと示している(詳細な分析にはまだ日数が掛かる)。水の起源は確定されていないが、彗星から供給された可能性が指摘されている。
 月面にはヘリウム3などの有用な物質が多量に存在すると推定され、商業的な採掘も視野に入れられている。今回の発見により、月面基地の近くで水を採取することも、夢ではなくなったと言えよう。
ウィニー開発者に逆転無罪(09/10/09)

 大阪高裁は、ファイル交換ソフト「ウィニー」を開発したとして著作権侵害幇助に問われていた元東大助手の控訴審判決で、罰金150万円という一審判決を破棄し、逆転無罪を言い渡した。
 このケースでは、ソフト開発を行った技術者に対して、そのソフトを利用して行われた犯罪の責任をどこまで問えるかが論点となる。一審の判断では、利用者が違法行為を行うことを認識していた場合に開発者の罪を問えるとしたが、今回の判決では、「可能性を認識していただけでは幇助罪は成立しない」とする判断を示した。ウィニーを開発した時点で、著作権侵害に利用される可能性が高いと開発者が認識していたことは、掲示板での発言などから充分に伺える。また、ウィニーには、摘発を免れるのに効果的な工夫が凝らされており、どのように利用されるかを承知した上で作成したものと推定される。しかし、ウィニー自体はあらゆるファイルの交換に利用できるソフトであって、必ずしも違法コピーのために特化されているわけではない。発信者を分かりにくくする工夫も、ファイル交換における匿名性の確保という一般的な目的を実現するためとも言える。そもそも、開発者自身が法に触れないようにきわめて慎重な態度をとっており、道義的にはともかく法律的に罪を問えるかどうか、かなり難しいケースであることは間違いない。
 現在、インターネット上には、違法コピーされた音楽や動画のファイルが数多く出回っており、CDやDVDの売り上げに悪影響を与えている。こうした状況に対処するために、来年1月から改正著作権法が施行され、アップロードだけではなく、違法コピーと知りながらダウンロードする行為が禁止されることになった。ただし、違反者に対する罰則規定がないため、実効性を危ぶむ声もある。今回のウィニー開発者逆転無罪の判決が、違法コピーの蔓延にどのような影響を及ぼすか(あるいは及ぼさないか)はっきりしないが、ネット上の著作権問題を考える一つのきっかけにはなるだろう。
H-IIB の打ち上げ成功(09/09/11)

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、11日午前2時に種子島宇宙センターから国産の新型ロケット H-IIB を打ち上げ、国際宇宙ステーション(ISS)に物資を運ぶ無人補給機 HTV の軌道投入に成功した。HTV は1週間かけて ISS に接近、18日にドッキングする予定。アメリカのスペースシャトルが引退すると、HTV は ISS に大型機材を運ぶほとんど唯一の手段となる。
 H-IIBの特徴は、日本で初めてロケットエンジンのクラスタ化を実現したこと。クラスタ化とは、複数のエンジンを束ねて推力を増強する方式で、H-IIB では、H-IIA と同型の LE-7Aエンジンを2基束ね、推進薬を約1.7倍積み込むことで、打ち上げ能力を12トンから16.5トンに向上させている。この結果、重量10トン、最大積載量6トンという HTV の搭載が可能となった。
 日本の宇宙開発は、H-II の相次ぐ打ち上げ失敗で停滞した時期もあったが、H-IIA 開発後は順調に成果を上げている。H-IIA は15回打ち上げを試みて14回成功(2003年の6号機のみ失敗)しており、成功率は93%。商業化に必要なラインとされる90%を越えている。今回成功した H-IIB とあわせて、民間衛星打ち上げの受注拡大を目指す。
メキシコ湾で巨大油田発見?(09/09/04)

 イギリスの石油大手BPは、メキシコ湾で推定埋蔵量30億バレル(可採量はその20〜30%)に上る巨大油田を発見したと発表した。世界最大の油田は、サウジアラビアにある推定可採量800〜1000億バレルのガワール油田だが、すでに老朽化が始まり生産量は減少しつつある。可採量が50億バレルを越える超巨大油田(稼働中のもの)は世界中で50あまりしかなく、可採量5億バレル以上で巨大油田と呼ばれる。ちなみに、湾岸戦争の際に失われたクウェートの石油は20億バレル以上になる。
 現在と同程度の石油生産がいつまで続けられるかについては、埋蔵量の推定値に曖昧さがあるため、はっきりした予測が難しい。アメリカでは、現在の採算ベースで採掘できること確率が90%以上の量を確認埋蔵量と見なしているが、多くの産油国では、こうした厳密な定義を採用していない。例えば、旧ソ連の石油埋蔵量に関して、World Oil 誌は1900億バレル、Oil and Gas Journal 誌は570億バレルと大幅に異なる数値を掲載している。(「安い石油がなくなる」 (日経サイエンス 1998年6月号20ページ)より)。未発見資源を含めた究極可採量に関しては、さらに大きく意見が分かれている。ピークオイル論者は、新油田の発見による埋蔵量の増加はすでにピークアウトしており、今後の増加も期待できないとしている。一方、中東、シベリア、メキシコ湾などに膨大な未発見資源があり、かなりの長期にわたって現在と同程度の石油生産が可能だという楽観論も根強い。
 メキシコ湾における今回の油田発見は、楽観論者を力づけるものではある。メキシコ湾に豊富な石油と天然ガスが存在することは、以前から知られていた。海底からは年間数万バレルとも推定される石油が自然に湧出しており、海面に形成される薄い油膜は人工衛星で観測可能だ。湧出口の周辺には、炭化水素を栄養源とする生物群のコロニーが見られる。メキシコ湾石油の商業的な採掘は、20世紀初頭に始まった。当初は沿岸地域に限られていたが、次第に採掘地点が沖合へと移動、現在では、水深1000メートル以上の深海での油田開発が進められている。今回の新油田も、テキサス州ヒューストンの南東400キロの深海底にある。このような深海油田の発見は世界的に相次いでおり、ブラジル・カンボス沖では、水深1700メートル以上の深海で総埋蔵量が100億バレルを越えるとも言われる油田が見つかった。
 もっとも、埋蔵量は豊富であっても、従来と同じように安価な石油生産ができるとは限らない。深海での採掘はそれだけコストがかさみ、石油価格に跳ね返ってくる。たとえ巨大油田の発見が続いたとしても、20世紀後半のような石油の大量消費が続けられると期待しない方が良いだろう。
米韓にサイバー攻撃(09/07/11)

 7日夜から9日にかけて、韓国とアメリカで政府機関や銀行・新聞社などのインターネットサイトがサイバー攻撃を受けた。攻撃方法は、あらかじめ多くの(韓国では3万台ほどの)パソコンにボット型のコンピュータウィルスを感染させておき、そこから特定サイトに一斉にアクセスさせてでサーバをダウンさせるD-Dos(Distributed 'Denial of Service')というもの。機密資料の漏洩といった深刻な被害はなかったようだが、一部で接続困難となる状態が続いたほか、ウィルスが感染したパソコンでデータが消去される被害も発生した。
 今回のケースでは、事前に周到な準備が行われていた模様。まず、一般ユーザのパソコンにダウンローダと呼ばれるウィルスを仕掛ける。その際には、フィッシング詐欺と同じように偽サイトに誘導したり、ウィルスが添付されたメールを自動収集したアドレスに送信したりするなど、複数の方法が使われた。ダウンローダが仕掛けられたシステムは自由に操られるゾンビ・コンピュータとなり、ホストサイトから攻撃ツールを自動的にダウンロード、犯人の指示に従ってD-Dosを実行する。相手側の動向を見ながら攻撃パターンを変更することも可能。攻撃拠点が分散されているため、背後にいる犯人を特定するのが難しい。
 韓国・国家情報院は、今回のサイバー攻撃に北朝鮮がかかわっているとの見解を示したが、確証はない。ボットを用いて多数のパソコンをゾンビ化しD-Dosを仕掛けるという手口は、アメリカ・中国・ロシアなどの民間クラッカーが実行することが多く、国家が関与したテロというよりも、劇場型犯罪の一種と見た方が良いかもしれない。
車椅子を脳波で操作(09/07/03)

 理化学研究所とトヨタ自動車などが設立したしたBSI−トヨタ連携センターは、短時間で脳波を解析して車椅子を操作するシステムを開発した。
 このシステムでは、操作者は、運動野の脳波を測定するための5個の電極(右手用・左手用各2個、足用1個)を頭髪越しに装着する。操作者が右手・左手・足のいずれかを動かすイメージを思い描くと、脳波の振幅変化のパターンが脳波計で捉えられ、その結果に基づいて、125ミリ秒という短時間で右旋回・左旋回・前進のうちのどの指令かが判定されるというもの。ただし、正確な判定のためには、事前の訓練が欠かせない。操作者は、動作をイメージしたときの判定結果をリアルタイムで見ながら、これが「自分の意思」と一致するようにイメージの仕方などを学習する(その一方で、脳波の信号処理におけるパラメータも、操作者の特徴に合わせて微調整する)。1日3時間の訓練を1週間にわたって行ったところ、3つの指令を95%の信頼度で弁別できるようになった。さらに、頬の筋電位を測定する電極も取り付けておき、緊急時には頬を膨らませることで車椅子が停止するようにしてある。
 頭で考えたことを機械に伝えるブレイン・マシン・インターフェイスの開発は、世界中の研究機関で進められている。ここで問題になるのが、機能の高さと使いやすさの兼ね合いである。例えば、歩行のような複雑な動作を制御する神経の活動を捉えるには、空間分解能が数十mm程度しかない脳波計では機能的に不十分だが、かといって微小電極を脳に埋め込む方法では患者の負担が大きくなりすぎる。しかも、動作制御に関与する1000以上の神経細胞をモニタするには大規模なシステムが必要となり、日常生活での使用は困難だ。fMRI(機能的磁気共鳴イメージング)を用いれば、外科手術なしに 2〜4mm程度の空間分解能で血流の酸素量を測定できるが、時間分解能が数百ミリ秒程度しかなく、敏速な応答ができない。空間分解能は低いが時間分解能はかなり高い脳波計(あるいは脳磁計)を用いて、ごく単純な制御だけを行うシステムを開発するのが、より現実的な選択肢である。
 今回開発されたシステムの最大の特長は、従来のシステムで数秒掛かっていた応答時間を125ミリ秒まで短縮した点である。制御のパターンが3つしかなく、操作者が具体的な動作をイメージしなければならないという不便はあるものの、車椅子のような機械を現実に使用する状況を想定すれば、時間短縮によるメリットの方が大きいだろう。考えただけで日常的な作業を代行してくれるシステムの開発には相当の年月が掛かる見通しだが、取りあえず役に立つものならば製品化の目処が立ったと言えそうだ。
遺伝子組み換えサル誕生(09/05/29)

 実験動物中央研究所など7つの研究機関の研究チームは、サルの一種であるコモンマーモセットを用いた遺伝子組み換えに成功した。まず、増強型緑色蛍光タンパク質 EGFP (下村脩が発見してノーベル化学賞受賞に結びついた緑色蛍光タンパク質 GFP を改変したもの)の遺伝子を胚に導入したところ、外来遺伝子が発現した遺伝子組み換えサル5匹が誕生した。4匹は前足や血液などさまざまな組織で、1匹は胎盤でEGFPの発現が見られた。このうち、生殖細胞でEGFPが発現しているマーモセットから採取した精子によって人工授精が行われ、1匹だけ誕生した子ザルが外来遺伝子を受け継いでいることが確認された。2世代にわたる遺伝子組み換え霊長類の誕生は、世界初である。
 動物の遺伝子組み換えは植物に比べると格段に難しいとされてきたが、近年は、遺伝子のベクター(運び手)として運搬能力に優れたウィルスを使用することにより、さまざまな動物の遺伝子組み換えが可能になっている。霊長類の遺伝子組み換えは、2001年に米オレゴン健康科学大学でアカゲザルに GFP の遺伝子を導入したことに始まる。遺伝子組み換え動物を作る目的は、主に人間の医療に役立てるためである。移植用臓器の供給源とするため(主に拒絶反応を抑制する遺伝子操作を行ったブタ)、あるいは、体内で医薬品の成分を製造するため(血友病治療薬となるヒト血液凝固因子を乳汁中に分泌するヒツジなど)の遺伝子組み換え動物の開発も進められているが、今回の実験は、中枢神経系疾患の研究で使われる実験動物の作出に役立つだろう。遺伝性のアルツハイマー病のように、中枢神経系の疾患で遺伝子が関与していると考えられるものが少なくないが、人間と中枢神経系の構造が似通っているサルにこうした遺伝子を導入して、発症の具合や医薬品の効果を調べることができると考えられている。
(考えようによっては、ずいぶん残酷な研究ですが…)
日本の論文生産性は低くない?(09/05/22)

 文部科学省科学技術政策研究所は、第3期科学技術基本計画のフォローアッププロジェクトの1つとして、「日本と主要国のインプット・アウトプット比較分析」を行った。それによると、高等教育部門の論文生産性は、アメリカやイギリス・ドイツと比べても極端に低くはなく、理工農系における研究開発費あたりの論文生産性はアメリカやドイツを上回るという。
 これまで実施されてきた調査では、日本はアメリカ・イギリス・ドイツに比べて論文生産性が大幅に低いという結果が得られていた。今回の報告は、それと大きく異なるものだが、その理由は、従来の調査報告の多くがOECDが公表する各国データをそのまま用いているのに対して、データ収集の前提を見直して同一の基準で国際比較を行うようにしたためである。日本の高等教育部門では、教育に専念し実質的に研究を行っていない人も研究者としてカウントされ、それに伴って、教育のための人件費が研究開発費に加算されてきた。これでは、研究者数ないし研究開発費あたりの論文数が実態よりも低い値になってしまう。そこで、今回の報告では、業務時間のうち研究に費やした時間などに基づいて、この点を補正した数値を導いている(例えば、大学の実際の教員数に対して0.465を乗じた値が、大学教員の換算研究者数となる)。また、論文数に関しては、Elsevier社がウェブページで公開しているデータベース SCOPUS を利用した。
 細かなデータは、科学技術政策研究所のウェブページに掲載されているので、ここでは、日本・アメリカ・イギリス・ドイツにおける論文数・TOP10%論文数と、これを研究者数(換算値)で割った一人当たりの論文数をグラフ化して示すことにしよう。ただし、TOP10%論文とは、論文を被引用数の順に並べたときに上位10%に入るもので、質の高い重要な論文を指す。これを見ると、確かに日本の研究者が示す論文生産性は、科学技術政策研が分析するように、欧米に比べて「極端に低いことはない」と言えるが、質の高い論文に関しては、必ずしもそうではないことが伺える。
news020.gif
新型インフルの解明進む(09/05/06)

 メキシコから世界に広まった新型インフルエンザの正体が、少しずつ明らかになってきた。今回のウィルスはH1N1型で、パンデミック(世界的大流行)が警戒されていた高病原性鳥インフルエンザ(H5N1型)ではなく、豚インフルエンザに分類される。この型は季節性のAソ連型と同じだが、既存のワクチンは効かない。米コロンビア大学の解析によると、ウィルスが持つ8本のRNAのうち、2本が92年に欧州・アジアで流行したユーラシア型豚ウィルス由来、6本が98年に北米で流行した2種類の豚インフルエンザ由来である。北米由来のうち1種類には人や鳥に感染する遺伝子も混ざっており、その結果として人間への感染力が増大したと考えられる。幸い重症化しにくい弱毒性のウィルスであり、死亡率は0.1%〜0.5%程度と予想される。ただし、同じく弱毒性だったスペインかぜも、流行の第2波で死亡率が高いウィルスに変異しており、油断は禁物である。インフルエンザ治療薬・タミフルの有効性は、米疾病対策センターによって確認された。
 今回の新型インフルエンザ流行における最大の謎は、「なぜメキシコでこれほどの被害が出たか?」という点。6日午前0時現在で全世界の感染者は22カ国1536人。感染者が100人を越したのは、メキシコ(866人)、アメリカ(403人)、カナダ(140人)の3カ国で、あとはスペイン(57人)とイギリス(28人)を除けば感染者数は一桁に留まる。死者は、メキシコで26人を記録した以外は、アメリカでの2人(うち一人は渡米中のメキシコ人男児)のみであり、メキシコでの死亡率が突出している。そもそも、4月27日にメキシコ保健相が行った最初の発表では「死者152人」とされ、パンデミックへの恐怖が一気に高まるきっかけになった。その後、この数字は疑わしいケースを含めたものと判明、正式な統計で死者数は訂正されたが、それでも死亡率の高さは尋常でない。一つの見方として、検査態勢が不十分で感染者数が実数より大幅に少なく報告されており、死亡率が嵩上げされているという説が提出されている。今後は、感染源とともにメキシコでの感染の実態を解明する必要があるだろう。
「グーグル図書館」巡って批判相次ぐ(09/04/26)

 検索大手のグーグルは、書籍をデジタル化してネットで閲覧できるようにするネット図書館サービスを2004年から進めているが、これに対して批判的な意見が相次いでいる。
 ネット図書館とは、世界中で出版された書籍をデジタル化し、キーワードを入力することで関連する書籍を検索、本文の一部を閲覧できるようにするもの。書籍の一部をネットで閲覧できるようにしたサービスは、ネット通販大手のアマゾンがすでに開始しているが、このサービスに著作権者が同意した書籍に限られ、閲覧範囲も目次や冒頭部分だけである。これに対して、グーグルは各国の大学(日本では慶応大学)と提携して膨大な数の書籍(今のところ絶版本などに限る)をデータベース化しており、検索対象は全文に及ぶ。読むことができるは検索でヒットした部分の前後数行のみだが、シェークスピアの戯曲のように著作権が消滅した作品は全文が閲覧可能。書籍名からアマゾンなどネット通販へのリンクも張られており、購入者への便宜も図られる。
 ここで問題となるのは、データベース化する際に著作をスキャンすることが複製権の侵害にならないかという点である。グーグルは、あくまで図書館サービスの一環であり「フェアユース(複製が認められる公正な使用のことで、研究・教育など公共的な目的での使用などが含まれる)」に該当すると主張するが、グーグルがネット広告によって収益を上げているので、これには当たらないとの見方もある。アメリカでは、グーグルの計画に反発した出版業者や作家が2005年に集団訴訟を起こし、昨年秋に「閲覧サービスによる収益の63%を著作権者に配分する」などの内容を盛り込んだ和解案が成立した。アメリカ以外の著作権者も、米集団訴訟制度に基づいて自動的に原告団に組み込まれており、今年5月5日までに異議申し立てや和解からの離脱をしなければ、和解案を受け容れたことになる。日本では、日本文芸家協会や日本ペンクラブが抗議声明を出したほか、日本ビジュアル著作権協会が会員に和解からの離脱を勧告、4月25日までに全会員の半数に当たる174名が同調した。ただし、国内の大部分の著作権者は何もせずに和解を受け容れるもよう。
 グーグルのネット図書館サービスは、書物を利用する側からするときわめて便利である。一般的に言って、図書館を最も利用するのは、同時に最も本を購入する層であり、検索サービスはむしろ売り上げの増加につながると思われる。もっとも、ハウツー本のたぐいは、レシピや運勢など該当個所だけを抜き読みされる懸念がある。また、検索語の周辺だけを読んで早合点する人が現れる危険も考えなければならないだろう。例えば、「北方領土」のように政治的に微妙な内容を持つ語を検索し、前後の記述だけから内容を推測すると、著者の立場を曲解することになりかねない。
全国でミツバチが不足、受粉に支障も(09/04/13)

 昨年夏より全国的にミツバチの数が減少している。今年3月には前年同月比で個体数が半減したとの声もある。養蜂業者からのリース料も高騰し、ミツバチを使って受粉させるイチゴやメロンなどの果物栽培に悪影響が出始めている。
 原因は必ずしも明らかでないが、薬剤抵抗性を持つ「ヘギイタダニ」の大発生により国内での個体数が減少、さらに、セイヨウミツバチの主産国であるオーストラリアで監視伝染病の「ノゼマ病」発生が確認されたために2008年から女王蜂の輸入がストップしたことが追い打ちを掛けたと見られる。有機リン系殺虫剤に代わって使用量が増えている殺虫剤「ネオニコチノイド」が繁殖率を低下させたという説もある。農水省は、園芸農家への経営支援やアルゼンチンからのミツバチの輸入を検討中。
 ミツバチの個体数が短期間で激減する現象は「蜂群崩壊症候群(CCD)」と呼ばれる。アメリカでは、野生のミツバチが大幅に数を減らしたことは以前から知られていたが、2006年以降、商業養蜂家に飼育されるミツバチも顕著に減少し始め、CCDとして社会問題となった。ヨーロッパでも、CCD ではないかと見られるケースが報告されている。原因としては、ダニ・伝染病・殺虫剤などが上げられているが、いずれも確証はない。日本における今回のミツバチ減少は、CCD と呼べるほど激しいものではないが、養蜂業だけではなく生態系全般にかかわりかねない問題だけに、原因の解明が待たれる。
北朝鮮、テポドン2号発射(09/04/06)

 北朝鮮は、5日午前、通信衛星を搭載したと主張する長距離弾道ミサイル「テポドン2号」を発射した。ミサイル1段目は秋田県西方280kmの日本海に落下、2段目以降は自衛隊のレーダーで日本の東2100kmまで追尾した後にロストしたが、アメリカから太平洋上に落下、軌道上への衛星投入はなかったとの発表があった。テポドン2号は多段式長距離弾道ミサイルで、2006年の実験では発射直後に空中分解したと推測されるが、今回は3000kmほど飛翔し、ミサイル実験としては一応の成功を収めたと見られる。
 北朝鮮は、ソビエト製スカッド・ミサイルを改良した射程1000km程度の1段式弾道ミサイル「ノドン」と、1998年に発射実験が行われた射程1500km程度の多段式中距離弾道ミサイル「テポドン1号」をすでに開発しており、今回の実験で、射程距離数千kmの長距離弾道ミサイルを手にしたことになる。ただし、2006年に行われたプルトニウム爆弾の実験が起爆装置の不良で失敗に終わったことから、ミサイルに搭載可能な小型核弾頭は当面開発できないとの見方が有力。北朝鮮の技術力では命中精度も低く戦術兵器としての有効性を欠くため、あくまで国威発揚を主目的としていると考えられる。
 日本政府は、ミサイルの一部が日本の領土内に落下する場合に備えて、自衛隊法に基づく「弾道ミサイル破壊措置命令」を発令、日本海のイージス艦に搭載した海上配備型迎撃ミサイルと、秋田・岩手県などに配備した地対空誘導弾パトリオット3による迎撃態勢をとっていた。これに対して、(1)弾頭を標的到達以前に爆破する場合と異なり、爆発物を搭載していないブースターなどは破壊しても破片が飛散するだけなので、迎撃する意味がない、(2)技術的に見て迎撃できる可能性はかなり低い(迎撃率の推定値は人によって数パーセントから数十パーセントまで分かれるが、高々度より本土に落下することが予測されてからの迎撃は、ほぼ不可能)−−との批判がある。そもそも北朝鮮側がよほどの技術的失策を犯さない限り、日本に機体が落下する危険性はほとんどなかったので、迎撃指令は内外に向けた単なるポーズだったと見られる。その一方で、発射前日に「北朝鮮から飛翔体が発射された模様」との誤情報を2回も発表しており、日本の防衛体制に大きな欠陥があることが露呈してしまった。
成田で貨物機炎上(09/03/24)

 米貨物機が成田空港で着陸に失敗して炎上、機長と副操縦士が死亡した。成田空港で航空機事故による死者が出たのは、開港以来初めて。事故当時、空港周辺では最大瞬間風速20メートルの強風が吹いていた。事故の7分前に着陸した旅客機が風向きや風速が急激に変化する「ウインドシア」に遭遇しており、事故機にも管制官から報告されていた。
 定点カメラで撮影された映像によると、事故機は着陸直前に急激に下降して後輪からハードランディングしており、ウィンドシアによる風速の急変で揚力が失われて失速したものと推測される。この後、バウンドした機体は前のめりの姿勢で前輪から着地する。これは、急降下ないしバウンドに対してパイロットが行った機首下げ操作の結果だと思われるが、揚力の加わる位置と重心の位置が近く機体が不安定になりやすい事故機(マクドネルダグラス社製MD-11型機)の特性が影響した可能性もある。2度繰り返されたバウンドの衝撃で前輪が破損して機体が傾き、そのまま裏返しになった。
 着陸間際の飛行機は、速度をギリギリまで落として失速直前の状態になっているので、大型機といえども風の急変に弱い。旅客機の場合、通常は衝撃を少なくするためにフワリと着地させるが、風が不安定なときにはドーンと着地させる方がトラブルが起こりにくい。乗客の中には操縦の技量が未熟だと誤解する人も出てくるが、安全には変えられないという。
iPS細胞研究、成果着々(09/03/02)

 再生医療の切り札といわれるiPS細胞を巡って、新たな研究成果の報告が相次いでいる。昨年9月、アメリカの研究チームがヒトの皮膚細胞由来のiPS細胞から膵臓の細胞を誘導しインスリンを分泌させることに成功、再生医療による糖尿病治療の道を拓いたが、日本でも、ここ1ヶ月ほどの間に「マウスのiPS細胞から角膜上皮細胞を作成(慶応大学)」、「ヒト皮膚細胞由来のiPS細胞から血小板を作成(東京大学)」などの報告がなされており、角膜移植や輸血など医療に応用可能な成果として注目される。
 iPS細胞は、レトロウィルスを運び手として数個の遺伝子を細胞に導入し、分化の過程で失われたはずの多能性を復活させたものだが、これをレシピエントに移植した場合、レトロウィルスまたは外来遺伝子の作用でガン化する危険性がある。この危険性を軽減するため、導入する遺伝子の数を当初の4個から3ないし2個に減らし、酵素阻害剤などを添加することでiPS細胞を作る研究が進められており、米スクリプス研究所や独バイエル社などで成果が上がっている。また、遺伝子の運び手としてレトロウィルスを用いないやり方も検討されており、英エジンバラ大学では4遺伝子を挿入したプラスミドを細胞に移す手法が開発された(3月2日付けネイチャー電子版)。日本では、産業技術総合研究所がセンダイウィルスを使う研究を進めている。
 安全性が確立されていないために臨床的な応用が始まるまでには時間が掛かるが、臨床以外でiPS細胞を利用する事業はすでに緒についている。バイオベンチャーのリプロセルは、ヒトiPS細胞を用いて新薬の副作用を調べる事業に乗り出した(2月27日付け日経新聞)。例えば、新薬が心臓に与える影響を調べるために、ヒトiPS細胞から誘導した心筋細胞に投与して変化を見る。人間を対象とした臨床試験の前に候補物質のふるい分けができるため、医薬品開発費を1〜2割軽減できる見通しという。
薬のネット販売、規制へ(09/02/09)

 医薬品のネット販売を巡って議論が錯綜している。厚生労働省は、薬事法施行規則改正に関する省令を公布、リスクの低いもの以外は医薬品の通信販売が6月から禁止されることになった。これに対して、ネット通販業者や電話注文を受け付ける伝統薬業者が反発しているほか、舛添厚労大臣も「議論を尽くさないといけない」と再検討する意向であることを表明した。
 6月から施行される改正薬事法では、リスクの高さに応じて一般用医薬品が第1類から第3類までに分類される。このうち、第1類と第2類は「副作用等により日常生活に支障を来す程度の健康被害が生ずるおそれ」があり、さらに、第1類は「使用に関し特に注意が必要」とされる。第1類には、ミノキシジル(育毛効果)やテオフィリン(気管支拡張効果)などを含有する医薬品が指定されているが、数はそれほど多くない。これに対して、第2類には、総合感冒薬や鎮痛剤など大衆薬の相当数が含まれており、今回の省令通り第3類以外の通販が禁止されるとなると、影響は大きい。第2類医薬品に関しては、販売に際して薬剤師または登録販売者による情報提供が努力義務とされるが、現状では、多くのドラッグストアで客の求めに応じて情報提供なしに販売されている。
 医薬品のリスクは、多くの人が想像するより大きい。例えば、失明や死亡の危険があるスティーブンス・ジョンソン症候群は、解熱鎮痛消炎剤の副作用として起こり得ることが知られている(発症率はそれほど高くない)。副作用に関する知識の有無が生死を分けることもあるので、医薬品の販売に際して、適切な情報提供がなされるのが好ましいことは言うまでもない。しかし、その一方で、さまざまな理由で薬局・薬店に赴くのが困難な人も多く、通販の禁止は医薬品購入の機会を奪いかねない。
news019.gif  安全性と利便性のバランスを考えた場合、通販を一律に禁止するのではなく、通販でも情報提供を行うことを義務づけるのが適当だろう。現在でも、ネット通販で何かを購入する場合、オンライン契約書のページが現れて、「(契約内容に)同意する」と記されたボタンをクリックしないと購入手続きが行えないことが多いが、これと同じように、医薬品をネットで購入する場合は、副作用を記したページが現れて「了解」をクリックしなければ先に進めない、あるいは、服用中の薬について質問し、併用すると危険な薬にチェックを入れたときには警告のページが現れるようにしておけば、ドラッグストアで買うよりもむしろ危険を避けやすくなるはずである。
2008年は温暖化が一服?(09/02/05)

news017.gif  気象庁が2月3日に発表した最新データによると、2008年の世界平均気温は平年値(1971〜2000年の30年平均値)との差で+2.0℃となった。この値は21世紀に入ってから最も低く、ここ10年間で平均気温は横這いの傾向にある(右図では最近15年間の変化を示す)。
 2008年に温暖化が一服したように見えるのは、一時的な揺らぎのせいである。実際、産業革命以降では二酸化炭素濃度がコンスタントに増大しているにもかかわらず、平均気温は一様に上昇していないが、これは、熱容量の大きな海洋が大気と相互作用することで、数十年にわたるタイムスケールでの変動を生み出しているからだと考えられる。特に顕著なのは、1950年代半ばから1970年代後半に掛けてみられた低温側への揺らぎで、太平洋の十年規模振動(Pacific Decadal Oscillation; PDO)における低温化と関連している。この時期には、「地球寒冷化」への恐れが真剣に議論された。この後、1980年代から温暖化傾向が強まり、1990年代後半にはアメリカを中心に異常な熱波が記録され、当時のゴア副大統領が温暖化対策の必要性を訴えるきっかけとなった。長期的に見ると、この時期の異常熱波は高温側への揺らぎ(PDOにおける高温化と関連)によって嵩上げされたものと推測されるが、こうした揺らぎについては発生メカニズムも継続期間も充分に解明されておらず、はっきりしたことはわからない。過去100年間に0.67℃上昇したとされる世界平均気温に関しても、そのうち何度が二酸化炭素など温室効果ガスの寄与かを見極めるのは難しい。ただし、全体的に上昇傾向にあることは明らかで、今後100年間に2〜4.5℃の温暖化が進行するというIPCCの予測を大幅に修正する必要はないだろう。
news018.gif
太陽光発電に統一規格(09/01/06)

 政府や国内メーカが共同で住宅用太陽光発電システムの規格統一を目指すという(2009年01月06日付日経新聞)。住宅への普及を後押しするほか、この規格を国際標準とすることで世界市場での主導権を握る狙いもあると見られる。
 日本は2004年まで太陽光発電の累積導入量で世界1の座にあったが、ソフトエネルギー優遇政策によって普及を推進するドイツに抜かれた。2006年の設備容量では、ドイツ286万kWに対して日本171万kWとなっている(この2カ国で世界の太陽光発電の8割を占める)。巻き返しを図る日本政府は、2008年7月に閣議決定した「低炭素社会づくり行動計画」で、2020年に導入量を10倍、30年には40倍に増やすという目標を掲げたものの、実現は容易ではない。
 障害となるのはコストの高さ。住宅用システムの場合、1kW当たりの設置費用が60〜70万円程度かかる。パネル自体のメンテナンスはほとんど不要だが、寿命はパネルが20年程度、周辺機器が10年程度と見積もられている。一方、3.84kWシステムを設置した場合、東京で年間に節約できる電力料金は8.3万円程度(シャープ住宅用太陽光発電システム総合カタログより)。元を取るためには、設置コストが 8.3万円/年×20年=166万円以下でなければならないが、現在の価格では230〜270万円掛かるため、補助金が出ない限り費用面で設置者の持ち出しとなる。政府は、2005年にいったん打ち切った補助金制度を2009年度から再開する予定だが、1kW当たり7万円(3.84kWシステムで27万円)にすぎず、需要を喚起するにはインパクトに欠ける(自治体から上乗せ支給される場合もある)。やはり、システム自体のコストを大幅に(せめて1kW当たり40万円程度まで)下げる必要がある。
 現在、世界最大の太陽電池メーカはドイツのQセルズで、以下、シャープをはさんで、サンテック(中)、ファーストソーラー(米)と外国勢が続く。さらに、台湾のモーテック、韓国のサムソン、LG、現代、インドのモーザーベアが量産体制を整えつつある。日本勢は、高品質と新技術を武器に復活を目指すが、苦戦を強いられることは確実。今回の官民あげての統一規格策定は、こうした状況を憂慮してのことだろうが、かつて次世代テレビや携帯電話で日本ローカルの規格を作って国際競争力を失った前科があるだけに、あまり期待できそうもない。
◆気になる(オールド)ニュース
◆気になる(オールド)ニュース(2011年)
◆気になる(オールド)ニュース(2010年)
◆気になる(オールド)ニュース(2009年)
◆気になる(オールド)ニュース(2008年)
◆気になる(オールド)ニュース(2007年)
◆気になる(オールド)ニュース(2006年)
◆気になる(オールド)ニュース(2005年)
◆気になる(オールド)ニュース(2004年)
◆気になる(オールド)ニュース(2003年)
◆気になる(オールド)ニュース(2002年)
◆気になる(オールド)ニュース(2001年)
◆気になる(オールド)ニュース(2000年)


©Nobuo YOSHIDA