◆気になる(オールド)ニュース (2010年)
◎表紙ページに随時掲載している「気になるニュース」の2010年分です。

気になるニュース

リニア時代に向け始動(10/10/30)

 JR東海が計画するリニア中央新幹線のルートが南アルプス地下を貫く直線ルートに決着したことで、車両の発注などの動きが本格化してきた。JR東海は、2013年度中に試運転を開始、14年にも着工し、27年の東京−名古屋間、45年の東京−大阪間開業を目指す。事業費は5兆円以上となるが、駅建設などに関する政治介入を避けたいJR東海が全額を民間から調達する予定。
 磁気浮上方式リニアモーターカー(マグレブ)による中央新幹線を建設しようという案は40年近く前から存在した。当初は、南アルプスをトンネルで貫くことは技術的に不可能だとされ、北側に迂回するルートが検討されていた。また、大都市圏ではすでに地下鉄網が張り巡らされ、都心部に新線が乗り入れるのは難しいと予想された。このため、新幹線と航空機が競合する中で、航空機よりも遅く新幹線よりもアクセスの悪いリニア中央新幹線を建設しても黒字は見込めないという意見も強く、日本国内でのリニア開業は無理ではないかと言われた。しかし、掘削技術の向上により、2007年頃には南アルプスを貫くことが可能との見解がまとまる一方、都心部でも大深度地下を利用した地下路線が建設できるようになり、東京−名古屋−大阪をほぼ直線で結ぶ路線が現実味を帯びていた。
 JR東海の計画によると、東京−大阪間の所要時間は1時間7分、料金は1万5000円程度になる予定。東海道新幹線は所要時間2時間25分、料金1万4000円程度、航空機は所要時間1時間5〜10分(他に搭乗待機時間が必要)、料金2万2600円(各種割引あり)なので、計画通りに行けばリニアはかなり有利。東京・名古屋・大阪が、フルタイムでの就業が可能な日帰り出張圏内に入る。
原油流出の油井封鎖(10/09/20)

 アメリカ史上最悪となったメキシコ湾での原油流出事故で、原因となった油井がセメントで完全に封鎖されたことが確認され、4月20日の事故発生から5ヶ月でようやく事態が収拾した。事故は、ルイジアナ州沖合の水深1500m地点で英石油会社BPが掘削していた油井で掘削リグ「ディープウォーター・ホライズン」が爆発、事故当初は最大で1日1万m3に及ぶ軽質低硫黄油が海中に流出した。流出原油の総量は80万m3とも言われる。このほか、メタン・プロパンなどの天然ガス成分も漏れだし、その多くが高い圧力の下で深海にとどまっている。ちなみに、これまでの最大事故は53万m3の原油が流出した1979年のメキシコ湾イストクI油井事故で、それ以外の人為的なケースとしては、推定流出量が380万m3に達する湾岸戦争がある。
 原油には、ナフタレンやベンゼンなど、動植物に有害な芳香族炭化水素が含まれる。一部は海面から揮発したりタールボールとなって沿岸に漂着したりするが、大量の油がプルーム(柱状の塊)となって水深800〜1400m付近を漂っており、そこから有害成分が拡散して生態系に打撃を与えると予想される。沿岸の湿地帯に達した場合は、堆積物に補足され数十年にわたって影響が持続する。
 温暖なメキシコ湾では微生物の活動も活発で、人間による除去作業よりも遥かに効率的に油を分解する。6月に行われた調査では、プロパンやエタンなどの天然ガス成分を分解する微生物の活性化が確認されたが、時間が経過すると、より複雑な炭化水素を分解する種も増加すると見られる。ただし、微生物による油の分解がさかんに行われるのは海面近くに限られており、今回のように深海から流出し漂っている油に対しては必ずしも効果的ではない。また、微生物が油を分解する際には酸素を大量に消費するため、海棲動物にとって致命的な低酸素水域を作り出す危険性もあり、生態系への影響は諸刃の剣である。
組み換えサケの安全性を評価(10/09/06)

 米食品医薬品局(FDA)は、バイオベンチャーが開発した遺伝子組み換えサケについて、食べても安全性に問題はないとの評価結果をまとめた。近く公聴会を開催して、承認の是非を検討する予定。
 問題のサケは、AquaBounty Technologies社が開発したもので、成長速度の速いキングサーモンの成長ホルモンの遺伝子をアトランティック・サーモンに組み込み、成長期間を半分に短縮した。サケ養殖での利用が期待されるという。成長ホルモンの遺伝子を近縁種間で組み換える実験は、動物の遺伝子組み換え研究が始まった初期にラットからマウスへという形で行われたことがあるが、今回のケースは、この技術を食用動物に応用したものである。
 商用の遺伝子組み換え生物としては、医薬品(インスリン・成長ホルモンなど)を製造する組み換えバクテリアや、除草剤耐性・害虫抵抗性を与えた組み換え農作物が有名。組み換え動物では、ミルクに医薬品成分が含まれる組み換えヤギが承認されているものの、食用動物が認可されたことはなく、今回のサケが認められれば初めてのケースとなる。遺伝子組み換え生物の危険性として科学者が指摘するのは、主に組み換え生物が自然界で繁殖した場合の生態系への影響だが、組み換えサケは不妊になるため、その危険性はきわめて小さいという。ただし、遺伝子組み換えペットとして販売された「光るメダカ」に関しては、不妊化措置が施されていたにもかかわらず野生のメダカとの間で受精が行われ産卵に至った(孵化はしなかった)という報告があり、必ずしも万全とは言えないため、今後、議論を呼びそうである。
ホメオパシーに否定的見解(10/08/31)

 日本学術会議会長がホメオパシーに関して「科学的に治療効果が否定されている」との談話を発表したのを受けて、日本医師会・日本医学会・日本助産師会・日本薬剤師会もこの見解に賛意を示し、会員に同療法を使わないように呼びかけた。厚生労働省は、ホメオパシーを含む代替療法について、利用実態の調査に乗り出す方針。一方、日本ホメオパシー医学会は、ホメオパシーは「ぬくもりある医療」となる代替療法の一つという立場をとっている。
 ホメオパシーとは、19世紀初頭にドイツで提案された療法で、ヨーロッパでは少なからぬ信奉者が存在する。病気と同じ症状をもたらす物質を希釈して投与することにより抵抗力を引き出すという発想に基づいており、薬理効果のメカニズムが明らかでなかった時代の模索的な医療としては、必ずしも根拠がないわけではない。アレルギーの減感作療法に類似しており、方法論的に整備すれば、力ずくで症状を押さえ込む対症療法とは別種の治療法を切り開く可能性もあった(例えば、慢性的な胃酸過多症の場合、症状を中和剤で緩和するのではなくホメオスタシスの設定をリセットすることができれば根本的な治療となるのだが、そうした方法は現在なお開発できていない)。しかし、こんにち民間で行われているホメオパシーには、そうした方法論的な整備は見られず、19世紀よりもむしろドグマの色合いを強くしている。ホメオパシーで投与される薬剤は、本来の成分が含まれなくなるほど希釈を繰り返しているため、薬理効果が生じるとは考えられず、何らかの効果があるとしてもプラシボ効果以上のものではない。
 民間療法においてプラシボ効果の有用性は否定できないが、それはあくまで患者と親しい人が行う補完的なものであるべきだろう。日本医師会など医療を行う専門家の団体がホメオパシーに対して否定的な見解を表明したのは、妥当なことだと言えよう。
Windows 2000、サポート終了へ(10/07/12)

 マイクロソフト社は、かねてからの予告通り、2010年7月13日をもって同社製品 Windows 2000 のサポートを終了する。Windows 2000 は2000年に発売された業務用OSで、現在なお多くの企業などで使用されている。マイクロソフトは、サポート切れOSはサイバー攻撃に対して脆弱になるとして最新OSへの乗り換えを勧めているが、実際には、このままかなりの数が使われ続けると予想される。トレンドマイクロ社が2010年3月に企業・団体の情報システム担当者に対して行ったアンケート調査によると、Windows NT のようなサポート切れOSを1台でも使用していると回答した企業は42.2%に上る(「ない」39.3%、「不明」18.5%)。この時点で Windows 2000 はサポート切れOSに含まれておらず、今後の使用動向は明らかではない。
 マイクロソフト社の Windows シリーズは1985年に始まるが、初期バージョン(Ver.1とVer.2)は実用性が低く、広く使用されるようになるのは1990年発売の Ver.3.0 から(日本では、日本語が使用可能な1993年発売の Ver.3.1 がヒットした)。Ver.3 はまだ独立したOSではなく、MS-DOSから立ち上げるプラットフォームにすぎなかったが、1995年に発売され Windows 95 の製品名で知られる Ver.4.0 は MS-DOS を統合して安定性を増し、世界的に人気を呼んだ(Windows 98 と 98SE は、Ver.4.1 および Ver.4.2 というマイナーバージョンアップ製品)。個人向けOSでヒットを飛ばしたマイクロソフトは、さらに、業務用OSとして一般に使われていた UNIX の置き換えを目指して、1993年にWindows NT 3.1 を発売する。これは、Windows Ver.3.0 とは全く異なった安定性の高いカーネルを持つOSだが、なぜか番号だけは受け継いでおり、個人向けOSと企業向けOSでバージョンが分かれてしまう。その後、NT 3.5 および NT 4.0 で UNIX の牙城に迫ったマイクロソフトは、Windows 95 の親しみやすさと Windows NT の安定性を兼ね備えたOSの開発を目指すが失敗、2000年に個人向けの Windows Me (Ver.4.9 ←5.0未満という意味か?)と企業向けの Windows 2000 (NT 5.0)として別々に発売する。ところが、重い上に不安定だった Windows Me の評判がきわめて悪かったため、9x系(Windows 95, 98, Me)とNT系の統合を急ぎ、2001年、Windows 2000 のカーネルにマルチメディア機能を強化した Windows XP として発表、個人向けと企業向けに分かれていたバージョンを NT 5.1 に統一した。この後も、セキュリティ機能を強化するため API を一新するOSの開発を目指すが挫折、2007年にはいろいろな機能を継ぎ接ぎした Windows Vista (NT 6.0)を発売したものの評価はさんざんで、早くも2009年に Vista のカーネルをもとに改良した Windows 7(NT 6.1)を売り出す。Windows のバージョンと製品名の数字が食い違っているが、これは、ラッキーナンバーにあやかって Vista の悪夢を払拭しようとしたためだと思われる。
 Windows のバージョンからわかるように、Windows 2000 は XP と同等のカーネルを持つ堅牢な OS である。必要とされるスペックも低く動作も XP より軽快なことに加えて、よけいなマルチメディア機能を持たないため社員が音楽や動画にうつつを抜かさないで済む。企業には実にありがたい製品とも言える。その一方で、マイクロソフト側から見ると、ライセンス認証のためのアクティベーション機能がないため二重使用を取り締まりにくいという短所があり、できれば早々に消えてほしい OS だったろう。古い Windows 2000 は新製品へのバージョンアップができないため、今回のサポート終了で OS の買い換えが進めば、マイクロソフトにとっては喜ばしい限りである。
グーグル、選挙情報を公開(10/07/05)

 グーグルは、参院選情報をまとめたサイト「未来を選ぼう 参院選2010」を公開した。トップページには検索ランキング上位者がグラフで示されており、一般市民がどの候補に注目しているかが一目瞭然である。また、選挙区ごと・比例区の政党ごとの候補者一覧のページにリンクが張られており、ここに移動すると、候補者の氏名・所属政党・年齢・肩書き・顔写真などの一覧表を見ることができる。さらに候補者ごとのページもあり、ウィキペディアの記事に基づく簡単な紹介、候補者のホームページ・ブログ・ツイッターへのリンクの他、グーグル独自の検索でヒットしたと思われるニュース・ブログ・動画・ツイッター(候補者を批判するつぶやきも少なくない)へのリンクが見出しや写真とともにある。グーグルブックスの検索に基づく関連書籍も掲載されているが、中には関連が不明なものも混じっている。興味深いのはタイムライン表示という項目で、ニュースサイトなどに掲載された記事が日付順に並べられており、数年来の注目度の推移も明らかになる。
 選挙の際にネットを利用しようとする動きは数年前から盛んになり、今回の参院選からはネットを使った選挙運動が解禁される見通しだったが、鳩山首相退陣に伴うゴタゴタで審議未了のまま公職選挙法改正は見送られた。法改正が実現していれば、候補者および政党によるホームページとブログの更新が容認される予定だった(ただし、なりすましが危惧されるためにメールの利用は禁止)。また、“炎上”を避けるために掲示板の書き込みは会員に限定するといった個別の対策も練られていた。それだけに、新聞やテレビよりもネットを多用している利用者からは残念がる声も聞かれる。グーグルによる選挙情報サイトの立ち上げは、こうしたネット利用者の意向を反映したものと言えよう。
 もっとも、こうした第三者によるページは、記載内容の正確さや中立性という点で問題を生じやすい。インターネットは、いまやテレビをも凌駕する巨大な情報ソースとなっているが、放送法による規制が厳しいテレビに比べて、不正確な記述や一方的な主張が垂れ流しにされる危険もある。ネットからの情報をどのように扱うかが、選挙の場で試されることなる。
はやぶさ、還る(10/06/14)

 小惑星「イトカワ」への着陸を果たした宇宙航空研究開発機構の探査機「はやぶさ」が地球に帰還した。2003年5月に打ち上げられたはやぶさは、スイングバイ航法で小惑星帯に接近、05年11月にイトカワへの着陸(重力が弱いので実質的には接触)を実現した。この間、姿勢制御エンジンが次々に故障、通信も途絶して一時は絶望視されたが、通信再開後に一部機能を復旧させ、07年4月から地球への飛行を開始、予定より3年遅れて7年ぶりに地球に帰ってきた。大気圏突入後、本体は燃え尽きたが、分離した耐熱性カプセルはパラシュートでオーストラリア南部の砂漠地帯に着陸した。カプセルには、イトカワで採取した塵が入っていると期待される。月以外の天体に接触した探査機が地球に帰還するのは世界初で、宇宙開発史上、画期的な出来事である。
イカロス、翼を広げる(10/06/11)

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、太陽帆船「イカロス」が帆の展開に成功したと発表した。イカロスは、先月21日に金星探査機「あかつき」と共にH-IIAロケットで打ち上げられたソーラー電力セイル実証機。打ち上げ時は缶詰のような形状をしていたが、宇宙空間で回転しながら遠心力で膜を広げていき、最終的に一辺14メートルの正方形に伸張した。アルミを蒸着したポリイミド樹脂製の膜面には、厚さ25μmの薄膜太陽電池(発電を確認済み)や、反射率を変えることで姿勢制御を行う液晶デバイスが取り付けられている。10日現在、イカロスは地球から約770万km離れた地点を航行中で、今後は半年間を掛けて、ソーラーセイルによる加速と軌道制御の試験を行いながら金星へと近づいていく。
 自前の動力源を必要とせず、太陽から照射される光の圧力(放射圧)で航行する太陽帆船は、すでに1世紀前からSFなどに描かれてきたが、いざ実用化となると技術的なハードルがきわめて高い。これまで各国が実証実験を試みてきたが、実用的な帆を宇宙空間で広げるのに成功したのは今回が初めてである。1990年代には欧米に比べて出遅れ感が否めなかった日本の宇宙開発だったが、今回のイカロスの成功は、イオンエンジンを見事にコントロールした小惑星探査機「はやぶさ」のケースとともに、小型の精密装置を操るという本来の得意分野で日本の宇宙開発技術が独自の地歩を占めつつあることを示している。 はやぶさは還り、イカロスは翼を広げ、あかつきはヴィーナスのもとに向かう。いいですね〜♪
PCウィルス作成者を逮捕(10/05/27)

 警視庁ハイテク犯罪対策総合センターは、コンピューターウイルスを使って現金をだまし取った詐欺容疑で、男性二人を逮捕した。ウィルス作成者の逮捕は2例目。
 今回使われたのは、アダルトゲームをトロイの木馬とするウィルス。P2Pファイル交換ソフトでゲームを入手して実行すると、ゲーム実行時に登録した住所・氏名などが流出、犯人が作成した「P2P違法利用者掲載サイト」に掲載される。さらに、掲載された人に対して著作権侵害などと言いがかりをつけ、サイトから削除するための和解金(一人あたり5800円)を請求していた。ウィニーやシェアなどのファイル交換ソフトで海賊版ソフトと知りながらダウンロードすることは、今年1月から施行されている改正著作権法で著作権侵害に該当する。海賊版だと知っていたことを証明するのは難しく罰則規定もないため、いまだにファイル交換ソフトを利用して海賊版を入手するユーザは多いが、著作権法が厳しくなったという認識は広まっていた。今回の犯行は、そうした微妙な状況につけいったものと言える。
 コンピュータウィルスと言えば、かつてはハッカーの腕試しや愉快犯的な犯行が多かったが、近年、営利目的の犯罪が急増している。特に、感染したコンピュータを外部から操れるようにするボットウィルスが蔓延しており、国際的なサイバー攻撃にも利用されている。昨年7月に起きた韓国・米国の政府および金融機関のコンピュータをねらったサイバー攻撃にも、ボットが利用されていた。その一方で、ウィルス犯罪は、犯人の特定やウィルス作成と被害の結びつきの立証が難しく、また、ウィルス作成だけで有罪にできる法律もないため、ウィルスを作った当事者が捕まるケースはほとんどない(ウィルス作成の結果としてデータが損壊されたと立証できた場合は刑法が適用できる)。政府は、2001年に締結されたサイバー犯罪条約の要件を満たすために、ウィルス作成だけで有罪とする刑法改正を勘案しているが、実現には至っていない。2008年には「原田ウィルス」亜種の作成者が逮捕されたものの、これは、ウィルスに感染した際に表示されるアニメ画像が無断で使われていたことによる著作権法違反容疑で、ウィルス犯罪の逮捕例とは言い難い。今回のケースは、現金を請求していたためにすんなりと詐欺容疑が適用できたが、ウィルス作成自体が罪に問われたわけではない。ウィルス犯罪をどのように取り締まればよいのか、現代社会に突きつけられた大きな問題である。
アドビvsアップル  フラッシュを巡り対立(10/05/15)

 フラッシュを巡って、アドビとアップルの対立が続いている。アップルのiPhone や iPad はネット上でコンテンツ再生技術として広く使われているフラッシュに対応していない。同社CEOのスティーブ・ジョブスは、非対応の理由としてオープン性・信頼性・電池寿命などに問題があると指摘し、「フラッシュはパソコンとマウスの時代に作られたもの」と批判する書簡を公開した。これに対して、フラッシュを提供しているアドビシステムズ(開発元のマクロメディアを買収)は、「WE LOVE APPLE」と題した皮肉たっぷりの全面広告を掲げ、アップルこそオープンでないと反撃した。
 WWWドキュメントを記述するための基本言語であるHTMLは、もともと学術文献を共有するために開発されたもので、引用タグや著者タグなど一般には用いられないタグが定義されている一方、商用ページで重要になる「見た目」はあまり重視されていない。見た目を重視するコンテンツ制作者は、テーブルタグを使ってレイアウトするといった本来の仕様から逸脱した方法を採らざるを得なかった。このようなHTMLの弱点を補強し、見た目の華やかさとインタラクティブな機能を実現するための技術が、HTMLの標準仕様を定めるW3Cとは別に、ソフトウェア会社によって独自に開発されてきた。例えば、こんにち広く利用されているJava Script は、ネットスケープが開発した言語がベースになっている。OSとブラウザの独占を図るマイクロソフトは、同社製品でしか満足に動かない activeX の技術を推進している。こうした中で大きな存在感を示しているのがアドビで、環境に左右されず印刷物と同じレイアウトで表示できるPDF文書は官公庁でも採用される標準規格となっているが、PDFとともに同社の目玉商品と言えるのがフラッシュである。
 フラッシュ(Adobe Flash)は、画像・アニメ・音楽などのコンテンツをスクリプトで制御しながら再生する技術で、インタラクティブなウェブページを作るのに適している。フラッシュの仕様は公開されており、アドビ社製のソフトを使わずに制作することも可能。ただし、フラッシュを利用したウェブページを表示するには、アドビから無料で提供されているフラッシュプレーヤーをブラウザソフトとは別に起動しなければならない。インターネット・エクスプローラ上では activeXコントロールとしてプレーヤーが起動されるため、セキュリティやスピードを重視して activeX 機能そのものをオフにしているユーザは、フラッシュを使ったページを見られないばかりか、多くの場合、そこから先のページに進むことすらできない(フラッシュ再生をスキップしてブラウザの機能だけで先に進めるページもあるにはあるが…)。また、再生方法はアドビが完全に規定しており、バッテリーを消耗しないハードウェア・デコードの技術を開発したくても思うようにできない。これまでアップルは、パソコンにせよ携帯端末にせよ、ハードからソフトまで統合された一つのシステムとして提供してきており、コンテンツ再生の要を別の会社に握られるのは、社の基本方針に反するといったところだろう。
 HTMLの新バージョンであるHTML5(2008年に草案発表、2012年頃正式に勧告される予定)が普及すれば、プラグイン(activeXコントロール)を起動しなくてもブラウザからマルチメディア再生ができるようになり、フラッシュは不要になるとの見方もある。アップルは、基本的な仕様に則ってさえいれば自由裁量の余地が大きいHTML5を広めたい意向だが、すでに多くのページで使われているフラッシュが淘汰されるかどうか微妙なところだ。
ネアンデルタールは現生人類と交わったか?(10/05/07)

 クロアチア・Vindija洞窟で発見されたネアンデルタール人化石の骨粉(3人分の骨から採取された400mgの粉末)を用いた遺伝子解析が国際研究チームによって行われ、40億ある塩基対の概要が判明した(R.E.Green et al., 'A Draft Sequence of the Neandertal Genome,' Science 328 (2010) 710 )。
 ネアンデルタール人は、2万数千年前までヨーロッパから西アジアに生息していたヒト属の一種で、70±30万年前に現生人類との共通祖先から分岐したと推定される。現代人の直接の祖先である可能性は否定されているが、ネアンデルタール人と現生人類の双方の特徴を併せ持つ化石が複数発見されたことから、両者が広く混血していたという説が提出され論争となっていた。ネアンデルタール人の染色体は、数万年の時を経て長さが200塩基対以下のDNA断片に壊れているため、かつては遺伝子のデータに基づく比較は困難だった。だが、近年、DNA断片から元の塩基配列を推定する技術が発展したことにより、現生人類との遺伝子の比較が可能となった。2006年には、解読できた6万5000の塩基対の統計的解析に基づいて混血の可能性はほぼゼロだとする結果が発表された(「ネアンデルタール人は現代人と交わらなかった?」(気になるニュース06/11/18) )が、今回は、一塩基多型(SNP)に関してネアンデルタール人と現代人を比較することにより、混血の可能性が高いという結論が得られた。
 SNPの比較を行ったのは、アフリカ人4人(アフリカ西部)と非アフリカ人4人(ヨーロッパ系アメリカ人2人、東アジア人2人)。アフリカで誕生した現生人類がユーラシアに拡がった後でネアンデルタール人と混血したとすると、ネアンデルタール人との間でSNPが一致する頻度が、アフリカ人と非アフリカ人で異なるはずである。解析の結果、ネアンデルタール人のSNPは、アフリカ人よりも有意に非アフリカ人に近かった(ヨーロッパ系アメリカ人と東アジア人の間に有意差はない)。研究チームは、この結果をもとに、非アフリカ人の祖先はネアンデルタール人と混血し、ゲノムの1〜4%は彼らから受け継いだと推測している。コンタミ(試料の汚染)の可能性もあるので即座に受け容れるわけにはいかないが、もし本当ならば、アフリカ単一起源説に若干の修正が加えられることになる。
カエルのゲノム解読(10/05/01)

 米国エネルギー省共同ゲノム研究所員などから成る国際研究チームが、両生類としては初めてとなるネッタイツメガエルのゲノム解読を完了した(Science 328 (2010) 633)。ネッタイツメガエルは、モデル動物として広く使われるアフリカツメガエルに比べて塩基対の総数が少ない(31億→17億)こともあって、遺伝学での利用が増えている。今回のゲノム解読により、ネッタイツメガエルの染色体にはタンパク質をコードする遺伝子が20000〜21000個あり、そのうち少なくとも1700個が、ヒトの病気関連遺伝子と相同性(共通祖先から分岐したと考えられる塩基配列の類似性)を持つことが判明した。これはヒト病気関連遺伝子の79%に当たり、分子レベルでの遺伝疾患の研究に(マウスよりも安価な)カエルが利用できることを示唆する。
 両生類が哺乳類・爬虫類・鳥類に至る有羊膜類の系統から分岐して約3億6千万年になるが、今回、分岐前から受け継がれてきたシンテニー領域(遺伝子の並び順が保存された領域)が発見された。研究チームは、この領域での遺伝子の並びをヒトおよびニワトリのゲノムと比べることで、共通祖先から染色体がどのように変化してきたかを推測している。今後、魚類を含む他の動物との詳細な比較が行われると、陸上動物へと進化する過程で何が起きたか明らかになっていくだろう。
アミノ酸の非対称性は宇宙由来か(10/04/09)

 国立天文台を中心とする日英豪米の研究チームは、アミノ酸に見られる左右の非対称性が宇宙に由来することを示す新たな知見が得られたと発表した(Fukue et al., 'Extended High Circular Polarization in the Orion Massive Star Forming Region: Implications for the Origin of Homochirality in the Solar System,' Origins of Life and Evolution of Biospheres, published online : 07 March 2010)。
 アミノ酸には互いに鏡像対称である「右型(D型)」と「左型(L型)」があり、地球の生物は左型のアミノ酸でできている。原初のアミノ酸は地表での化学反応によって生成されたという見方があり、1953年に行われたユーリー=ミラーの実験では、メタンやアンモニアを含む気体内部で放電を行うとアミノ酸が生成されることが示された。しかし、こうした化学反応では右型・左型が等量ずつできるため、生物のアミノ酸に偏りが見られる理由が説明できない。また、ユーリー=ミラーの実験で用いられた気体の組成は、原始大気とは大幅に異なることも判明した。このため、左右の非対称性を説明する実証的な理論が求められていた。その中で最も有望とされているのが、非対称性が宇宙に由来するという理論だ。
 隕石に付着したアミノ酸に左型・右型の非対称性が存在するという見解は1980年代から提唱されており、分析ミスではないかと疑いの目で見られたこともあったが、1990年代後半から確実視されるようになった。例えば、2009年3月、オーストラリアのマーチソン隕石など地球より古い起源を持つ隕石を調べていたNASAの研究者が、付着していたイソバリンというアミノ酸で左型の方が右型よりもずっと多いことを見いだしている。今回の研究成果は、非対称性が宇宙由来だという見方を支持するものである。
 研究チームは、南アフリカ赤外線天体観測所にある赤外線偏光観測装置を用い、2.14μmの波長でオリオン大星雲中心部の円偏光度を測定した。その結果、大質量星形成領域を取り囲むように、太陽系の400倍に及ぶ範囲で右回転と左回転の円偏光が交互に現れ、その円偏光度は、17%(左回り)から-5%(右回り)まで分布していることがわかった(それ以外の領域では、顕著な円偏光度の偏りは見られない)。円偏光は光化学反応(分解および生成)を通じてアミノ酸の非対称性をもたらす。したがって、太陽系が大質量星形成領域付近で作られ円偏光の照射を受け続けたとすれば、原始太陽系星雲内部で一方の型のアミノ酸が選択的に生成され隕石に付着して地球に持ち込まれるので、地球上のアミノ酸に非対称性が見られる理由が説明できる。
 生命誕生という科学最大の謎の一つが着々と解き明かされつつあると感じさせるニュースである。
ネット上での名誉毀損確定(10/03/18)

 ネット上で企業を中傷した男性に対する名誉毀損罪の上告審で、最高裁は罰金刑を確定する決定をした。
 このケースは、ラーメンチェーン店が売上金をカルト教団に上納しているという虚偽の内容を自分のホームページに書き込んだとして男性が名誉毀損罪で在宅起訴されたもの。一審の東京地裁は、個人が発信する情報は信頼性が低く、ネット上で反論も可能なので、罪は成立しないという判断を示した。ところが、検察側の控訴による二審で東京高裁がこの判決を破棄し罰金30万円を科したため、男性側が上告していた。
 論点となったのは、一般の個人が発信するネット上の情報はマスコミや専門家に比べて名誉毀損罪が成立する基準が緩くなるかどうかである。高裁と最高裁は、情報が不特定多数の間に瞬時に広まって被害が深刻化しうるというネットの特性を重視、さらに、閲覧者が信頼性の低い情報と受け取るとは限らないとして、たとえ個人による情報発信であっても、新聞や雑誌と同程度の基準が要求されると判断した。一方、男性を無罪とした地裁判決では、一般的にネット上の情報は信頼性が低いと受け止められているので、基準は緩くすべきだという解釈だった。信頼性の低いメディアで名誉毀損の基準が緩くなるという考え方は、大衆紙・東京スポーツの記事を巡って「東スポの記事を信用する人はいない」という東スポ側の主張を認めた東京地裁の判決でも示されている(ただし、控訴審で否定された)。インターネットの場合、2ちゃんねるのような掲示板、個人のブログ、個人ないし団体のホームページなどさまざまな情報発信の方法があり、信頼性にばらつきのある膨大な情報が垂れ流しにされているので、一律の基準を採用すべきかどうか難しいと言える。
 反論可能性についても、地裁と高裁・最高裁では判断が分かれた。地裁は即座に反論ができるという被告側の主張を認めたが、高裁・最高裁では、反論で直ちに被害回復が図られるとは限らないことが指摘された。実際、ネット上で自分が話題にされていると気がつかないうちに情報が一人歩きするケースもあるので、反論可能性があるからといって中傷被害が避けられるとは限らない。
 一般論としては、ネットの書き込みに関して、不特定多数の閲読者を前提とした責任が必要であることは間違いない。ただし、内部告発を含めたさまざまな情報を発信できることがネットの利点でもあるので、名誉毀損の基準を厳しくしすぎるのも問題だ。内部告発に関しては、公益性があり、さらに、情報が真実である、あるいは真実であると信じられる相当の理由がある場合は名誉毀損に該当しないとされるが、こうした基準の妥当性も含めて、さらなる議論が望まれる。
「プリウス」ブレーキ問題(10/03/01)

 アメリカにおけるトヨタ批判の動きには、収束の兆しが見られない。もともと、レクサスのアクセルペダルがフロアマットに引っかかるという不具合に端を発したものだが、トヨタがリコールで対処したにもかかわらず、他のトヨタ車の欠陥を指摘する声が相次ぎ、マスコミによるネガティブキャンペーンと相まって、社会問題化してしまった。技術的な観点からは、現在のトヨタ批判において主要な論点になっているプリウスのブレーキ問題が重要なので、ここで簡単に解説したい。
 プリウスは、通常の油圧ブレーキの他に、回生ブレーキを併用している。回生ブレーキとは、電力が供給されないときにモーターの回転を止める向きに働く抵抗力を利用したブレーキで、慣性によって車体が動き、その結果として抵抗力に逆らうようにモーターの回転が続いている間は、運動エネルギーを電気エネルギーに変換して充電する役割を果たす。環境性能の高さを誇るプリウスにとって重要なメカであり、燃費改善のためには回生ブレーキを最大限に利用したいのだが、これだけでは制動力が不十分なので、適切なタイミングで油圧ブレーキと切り替えながら使う必要がある。しかし、この制御が技術的に難しい。初期のプリウスでは、切り替えがスムーズに行われず、ブレーキを踏んでいる途中でカックンとする感じがあったという。トヨタの技術陣は、このカックン感をなくすような微妙な電子制御を開発したのだが、この制御法に今回の事態につながるトラブルの種が潜んでいた。回生ブレーキだけを緩やかに使った走行中に、路面の状態が急変してタイヤがロックしスリップしそうになったとき、回生ブレーキではABS(アンチロックブレーキングシステム)の機能を実現できないので、油圧ブレーキに切り替えられる。ところが、路面の摩擦係数やブレーキの踏み込み方などに関するいくつかの条件が重なると、この切り替えが瞬時に行われず、わずかな間だけブレーキが利かないように感じられるらしい(正確なところは不明)。回生ブレーキからの切り替えの際に、ペダルを踏んだときの感覚と実際のブレーキの利き具合に齟齬が生じると推測される。この不具合が重大な事故のきっかけになるかどうかは疑問だが、環境と安全を看板にしてきたトヨタのブランドに傷が付いたことは事実である。
 プリウスをはじめとするハイブリッド車が、環境性能を謳い文句にするいわゆるエコカーの一番手であることは確かだが、ここにきて対抗馬が続々と登場してきた。特筆すべきは電気自動車だろう。かつてはずっしりと重い鉛蓄電池を搭載するせいで燃費が悪かったが、90年代末に実用的な自動車用リチウムイオン電池が開発され、環境性能が著しく改善された。このほかにも、(粒子状物質の排出を大幅に低減させた安価な)クリーンディーゼル車、(高価すぎて普及には時間がかかりそうな)燃料電池車、さらには、(環境には必ずしもプラスではないがイメージだけは良い)バイオ燃料の利用など、エコカーを巡る争いは熾烈になりつつある。この段階でのトヨタの躓きは、エコカー争いの流れを変える可能性もあり、今後の動きが注目される。
(プリウスのブレーキに関して、GAZOO.comにある有馬康晴氏の解説を参考にしました)
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