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§3.再生可能エネルギー

 化石燃料をこのまま利用し続けることができず、原子力にも放射性廃棄物の処理やプルトニウムの扱いに関して懸念があるとなると、これらに代わる代替エネルギー源の開発が急務となる。現状では、文明社会を維持するだけのエネルギー供給が困難であるため、化石燃料や原子力に頼らざるを得ないが、将来的には、自然界に広く存在し持続的に使い続けられるエネルギーに置き換えていくことが好ましい。

 資源エネルギー庁では、今後開発を進めるべき新エネルギーとして、次の3つを挙げている。このうち、後の2つは厳密には“新しい”エネルギーではなく、利用効率の向上や廃棄物のサーマルリサイクルによってエネルギーの無駄使いを減らしていこうという試みである。

  1. 太陽光発電・風力発電・バイオマス発電などの再生可能な(=持続的に使い続けられる)エネルギー
  2. 燃料電池・コジェネレーションシステムなど従来エネルギーの効率的な利用形態
  3. ゴミ発電などのリサイクル型エネルギー

 これらの新エネルギーは、従来エネルギーに比べてコストが高いという問題がある(表参照)。しかし、各分野とも技術改良が進められており、いくつかは、近いうちにコスト的に見て従来エネルギーと拮抗すると期待される。

発電コスト【円/kWh】
太陽光発電 70-100 石油火力 10
風力発電 16-25 LNG火力 4-6
地熱発電 15-20 水力発電 13
ゴミ発電 9-15 原子力発電 9 (*)
(*)放射性廃棄物の処理費用は含まない

 この節では、再生可能エネルギーの代表格である太陽光発電・風力発電・バイオマスを取り上げる。


■太陽光発電(太陽電池)

L14_fig11.gif  太陽電池(光エネルギーを電気エネルギーに変換する半導体素子;右図のような種類がある)を利用して発電を行うシステム。太陽光発電は、1980年代から環境負荷の小さい次世代エネルギーとして期待する向きもあったが、当時は、(1)製造段階でカドミウムや砒素のような有毒物質を利用するため、工場周辺での化学汚染が懸念される、(2)製造時に(シリコンの純度を上げる過程などで)膨大なエネルギーを要するにもかかわらず発電量が小さいため、製造エネルギーのペイバックもおぼつかない──などの理由で、むしろ環境に悪影響を与える発電方法だった。しかし、1990年代にはいると、有毒物質をほとんど使用しないシリコン太陽電池が普及し、長寿命化や変換効率の向上によってエネルギー的にも有利になってきた。現在、エネルギー回収年数(=製造に要するエネルギー/太陽電池が1年間に作るエネルギー)は、太陽電池の種類・生産規模によって異なるが、多結晶シリコン太陽電池の場合、2.1〜2.4年程度になる。太陽電池の普及が遅れている最大の要因はコストが高いことであり、この点が改善されれば、環境負荷の小さい再生可能なエネルギー源として最も有望である。

システム
 こんにち実用化されている太陽電池の多くはシリコン半導体(単結晶/多結晶)で、住宅用のもので変換効率は14〜17%になる。ただし、吸収帯域を拡大するなどの技術改良により、実験段階では変換効率が35%に達するものもある。アモルファス(非結晶)のものは、薄膜(厚さ数ミクロン程度)に加工できるためさまざまな場所に設置可能で、コストダウンも期待されるが、変換効率が低く改良が必要である。
 通常の住宅に用いられる容量3kWのシステムは、設置面積約20〜25m2、重さは太陽電池モジュールだけで250kg程度になる。太陽電池の耐用年数は、表面が強化ガラスで保護されているモジュールの場合は20年以上とされる。
発電量
 電池容量1kWシステムで年間約1000kWh(東京地区で太陽電池を水平に対して30度傾け、真南に向けて設置した場合)となる。平均的な4人家族での消費電力は年間4500kWhであり、屋根に3kWシステムを設置すれば68〜75%程度を太陽光発電でまかなえる。売り用・買い用の2つのメータを介して電力会社との電線に接続することにより、昼間に多く発電して余った電力は自動的に電力会社に送られ(売電)、夜間や雨の日は電力会社から供給を受ける。
 CO2の削減効果は1kWシステム当たり年間で約180kg、原油削減量は1kWシステム当たり年間で243リットルになる。
経済性
 生産コストは、人工衛星など特定用途にのみ使用されていた30年前と比べて数百分の1に下がり、設置コスト・発電コストの低下も続いている(下図)。それでも電力会社から購入する場合と比べて数倍〜10倍程度の価格になるため、公的な補助がなければ普及は難しく、さらなるコストダウンと変換効率の向上が望まれる。近年開発された球状マイクロ太陽電池は、従来のものに較べて生産コストが10分の1以下になり、将来的に有望である。
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 日本の場合、標準的システムの設置費用は1kWあたり70万円程度であり、3kWシステムの場合は210万円必要となる。年間の電力料金節減額は約8万円になるが、メンテナンス費用が掛かる上に、太陽電池の寿命が20年そこそこなので、金銭的に有利になるとは考えにくい(ただし、ガスを使わないオール電化住宅の場合は償却が可能となる)。個人住宅で太陽光発電システムを設置している人は、多少高くついても、二酸化炭素や放射性廃棄物を出さないクリーンな電力を使いたいという環境意識の高い市民であると言えよう(メーカーのセールストークに騙されていなければの話だが…)。メーカの努力により1kWあたりの設置費用が40万円以下になれば、コスト的に見合うため住宅用太陽電池システムが急速に普及すると期待される。
導入状況
アメリカ : エネルギー省を中心に1990年から導入施策を推進している。2000年のカリフォルニア州電力危機以来、市民の関心も高まっているが、コスト高のせいで必ずしも順調に普及しているとは言えない。
EU : EUとヨーロッパ太陽エネルギー工業会は、2010年までに累積390万kWの導入プランを策定。ドイツのアーヘンでは、電気料金に1%を上乗せして、この財源で太陽光発電等の新エネルギーの普及を進める政策が進められている。
日本 : コストダウンおよび国庫補助の効果で国内での設置数は増加しており、1992年にはトータル出力容量約0.4万kWだったものが、2001年には設備容量で45万kW(出力換算で約20万kW)に達し、世界の46%を占めるに至った。設備容量・生産実績ともに世界1であり、住宅用・工場の予備電源用の需要が大きい。政府は、2010年までに480万kWに増やすという目標を掲げている(ただし、具体的な施策があるわけではない)。
その他の地域 : 太陽光はエネルギー密度が低いため、太陽電池による発電は、日射量が多く人口密度が低い低緯度乾燥地帯に向いている。配電網が全くない赤道直下地域でマイクロウェーブの電源として、草原地帯などでは数十〜百Wの小規模可搬型システムが電灯やラジオの電源として使われている。
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■風力発電

 風力発電は、かつては一部地域で限定的に利用される補助的なエネルギー源と考えられていたが、システムの長寿命化や変換効率の向上によって、21世紀の主要なソフト・エネルギーとして期待されるようになった。ただし、広い空き地があること、強い風がコンスタントに吹いていることが条件となるため、日本での普及は難しい。

システム
 現在の風力発電は、コンピュータ制御される風車とそれに接続された発電機、系統に連系するための電気機器から構成される。風車の羽は軽くて頑丈なグラスファイバー製で、長さは300kW級で15メートル、500kW級で20メートルになる。現在では、羽の長さが40メートル近い巨大風車や、コンピュータ制御で風向きに合わせて風車の向きを自動的に変えるハイテク風車も登場している。
経済性
 設置コスト・設備利用率(年平均風速により変わるが、20%以上が望ましい)・耐用年数(通常15〜17年とされるが、メンテナンスによっては20年以上使用可能)などによって変わる。現状では、建設コストは500kW級の風車の場合で25〜35万円/kW程度と比較的高く、大量生産による低価格化や公的な補助金の支給が望まれる。充分な設備利用率を得るには、年平均風速が6m/s以上あることが必要となり、地域がかなり限定される。日本での発電コストは、条件が整った地域で16円/kWh程度になり、火力・原子力発電よりやや高い。風力発電を行う一部のベンチャー企業が大手電力会社に電力を販売しているものの、購入価格が低く補助がなければ採算割れとなるケースが多い。しかし、欧米では各種優遇政策と電力買い取りの義務化によって、採算ベースに乗っている地域も多い。発電コストは、今後10年間で3〜4円/kWhにすることも技術的に可能だとされる。
導入状況
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アメリカ : 1980年代中に世界中で建設された166万kW分の風力発電施設の85%がカリフォルニア州にあり、その大部分をパシフィック電力ガス会社が運営していた。これは、税制面で優遇されたことに加えて、技術改良などによってランニング・コストがkWあたり数十セントから5〜6セント程度に下がり、火力発電(kWあたり約5セント)と拮抗できるようになったためである。カリフォルニア電力危機以降、市民の関心も高まっており、ここ数年、100万kW/年のペースで増えている。
EU : ドイツ・デンマーク・スペインなどコンスタントに偏西風が吹いている地域では、有効なエネルギー源となっている。世界全体の風力発電の7割をEU15カ国が占めるが、域内の電力需要総量に対する割合はまだ1%程度にすぎない。しかし、各国とも買取義務付けを課しており、2010年には全電力の1割に達する見込み。デンマークとドイツがまず先鞭を付け、ここ数年ではスペインが急進、イギリスでも1兆円を超す投資計画が固まっているほか、北欧・中東欧でも増設ラッシュが始まっている。風力発電機の生産は、大手10社のうち9社をデンマークやドイツなどの欧州企業が占めており、日米は出遅れている。
デンマーク : 風力発電を国策産業として位置付けており、世界の風力発電機市場の約5割をデンマーク製が占め、最大手のヴェスタス社は世界シェア35%に達する。80年代に始まる補助金と電力買取制度が、風力発電の普及を促進している。ユトランド半島南西部には、沖合20kmに2000kW級の風車80基が並ぶ世界最大の風力発電施設がある。
ドイツ : 90年代に入ってから、再生可能エネルギー電源の買取義務付けと補助政策によって急速に普及、一気に世界最大の風力発電大国となった。2003年には発電容量が1400万kWを越え、さらに、年200万kWのペースで増加している。風力発電は電力供給の安定性に欠けると言われ、個々の風車ごとに見ると発電量が上下しているが、偏西風の全風量は安定しているため、ドイツ全体で積算すると、総発電量はあまり変化せず、安定した電力源となる。
日本 : モンスーン地帯に位置する日本では、恒常的に風が吹いている地域が少ないため、欧米に比べて風力発電の導入が遅れていたが、各種の助成制度が整えられたため90年代に入ってから設置台数が急増し、1997年の1.7万kWから2003年には設備容量が68万kWに達した。北海道苫前町に出力3万kWの国内最大の施設がある。障害物がなく安定した風力を得られることから、洋上発電の計画も進められているが、東京湾での洋上発電計画は、漁業権の補償額が高く断念された。また、風車が景観を損なうことから、環境省は、自然公園に風力発電施設を設置することに対して慎重な態度を示している。
安全性
 最新の風車は、風速80m/sの風に耐えるように設計されているが、台風のように強い風雨が吹き付ける場合は、必ずしも安全とは言えない。2003年には、台風14号(最大風速74m/s)により宮古島の風車3基(400-500kW級)が倒壊している。

■バイオマス

 木材チップ・農業廃棄物・食品廃棄物・下水汚泥など不要なバイオマス(生物資源)を活用する技術の開が進められている。




©Nobuo YOSHIDA