前ページへ 次ページへ 概要へ 表紙へ

第3章.日本版PL制度の成立

 §1.PL制度とは何か
 製造物責任(Product Liability; PL)制度:欠陥責任(厳格責任、無過失責任)論
 使用した製品に欠陥があったために、生命/身体/財産に被害が生じた場合、その被害の賠償を製品の製造者等が負担する損害賠償責任
 従来制度:不法行為責任論を採用
 「故意又は過失に因りて他人の権利を侵害したる者は之に因りて生じたる損害を賠償する責に任ず」(民法709条)
 無過失責任の論拠
 (1)危険責任(製造者は危険についての情報を持ち、その発生を制御できる)
 (2)報償責任(製造者は製造・販売を通じて利益を得ている)
 (3)信頼責任(製造者は広告を通じて製品の安全性を訴え、信頼感を高めている)
 PL制度のメリット
 (1)メーカーにとっては安全な製品を作った方が得なので、安全性が高められる。
 (2)事故のコストが製品価格に上乗せされるので、危険な製品が淘汰される。
 (3)被害者個人の立証責任が軽減され、救済を受けやすくなる。
 (4)専門家を擁する企業が組織的に安全対策を講じるようになる。
 PL制度のデメリット
 (1)予想できない欠陥の存在を恐れて、新製品開発意欲が減退する。
 (2)コスト(安全対策費用、紛争処理費用、賠償費用)が嵩み、価格が上昇する。
 (3)過剰な安全対策が講じられ、利便性が損なわれる。
 (4)その他:PL倒産、保険危機、モラル・ハザードなど

 §2.日本におけるPL法の成立
 PL法成立の要因
 (1) 非自民政権の誕生
 1993年8月に細川内閣が誕生、規制緩和とともに消費者重視政策の目玉に
 公明党、社会党はすでに独自の法案を作成していた
 (2) 世界の潮流
 1960〜アメリカにおけるPL制度の広がり
 1985 PLに関するEC指令
 EC加盟国のみならず、北欧・東欧諸国、オーストラリア、ブラジル、フィリピン、韓国、中国などで立法化
 国内向け製品と欧米向け製品の扱いの差に消費者の反発もあった
 (3) 製品事故の多発、被害者救済対策の不備
 (4) 消費者運動の高まり
 1990 日弁連と消費者団体が協力して「欠陥110番」開設
 勉強会、集会、署名運動などが行われる
 PL法成立までの経緯(○はPL導入賛成、×は反対)
 1975.8. ○製造物責任研究会(我妻栄ら)「製造物責任法要綱試案」
 1991.1. ○東京弁護士会 「製造物責任法試案」
 6. ×日本産業協会 「製品安全研究会報告」
 9. ×自民党PL制度小委員会 中間とりまとめ
 1992.5. ○公明党 PL法案を国会提出
 6. ○社会党 PL法案を国会提出
 6. ○行革審 「国民生活重視の行政改革に関する答申」
 7. ○国民生活審議会(海部首相の諮問機関) PL法導入を提言する答申案
 9. ×関西経済連合会 「総合的な消費者被害予防・救済制度の充実に向けて」
 「新製品開発などの企業活動を著しく妨げ、米国のような濫訴社会を招くおそれがある」
 9. ×中部経済連合会 PL法に反対する意見書提出
 11. ×国民生活審 「消費者政策部会報告」PL法先送りを提言
 「民事責任ルールの変更については…産業界でその必要性、経済・社会に対する影響等について疑問や懸念が強い」
 12. ×経団連 「製造物責任に関するガイドライン」
 1993.1. △国民生活審 PL制度導入問題の検討を再開
 10. ○細川内閣 PL制度に前向き
 11. ○産業構造審議会(通産相の諮問機関) メーカー寄りのPL法を提言
 「(答申にあるPL法のガイドラインは)我が国の経済実態に沿った合理的なもの」(塩野宏・産構審安全部会会長)
 ○中央薬事審議会 医薬品もPL法の対象に
 12. ○国民生活審議会(細川首相の諮問機関)EC型PLの法制化を提言
 「推定規定」採用せず、「開発危険の抗弁」を認める
 「経済界への影響はきわめて大きい。この答申の趣旨が受け入れられるぎりぎりのものだ」(歌田勝弘・経団連副会長)
 「欠陥概念を不当に狭くし、推定規定や証拠開示の規定を導入せず、被害者の証明負担の軽減がはかられていない」(阿部三郎・日弁連会長)

 △法制審議会(法相の諮問機関) PL法と民事責任ルールの関係を検討

 「欠陥の定義など細部は規定せず、裁判官の裁量にまかせるべきだ」(法務省関係者)
 1994.4. ○PL法に関する連立与党プロジェクト 早急に法制化すべきだと提言
 4.12.細川内閣、PL法案を閣議決定
 国民生活審の答申を軸に作成
 (推定規定は不採用、開発危険の抗弁を認める)
 欠陥概念は法制審の答申を踏まえて幅広く変更
 血液製剤や生ワクチンもPLの対象に
 6.22.羽田政権の下でPL法成立
 1995.7.1. PL法施行


©Nobuo YOSHIDA