なお、一般的な用語法では、人間に対する「メディカルテクノロジー」と人間以外の動植物に対する「バイオテクノロジー」は区別されるが、ここでは、「実験室環境における工学的操作」という点で共通するという理由から、両者を併せて扱うことにする。
DNA(デオキシリボ核酸)は、4種類のヌクレオチド(A,T,G,C)がつながったひも状の高分子が二重らせんを形成したもので(右図)、細胞分裂の際には同じDNAが複製される。染色体において一定のDNA配列に挟まれた領域は、タンパク質のアミノ酸配列をコードしており、遺伝子と呼称される(下図)。人間には、約10万の遺伝子が存在する。染色体の特定部位に化学物質が結合して遺伝子が活性化されると、RNAの助けを借りてタンパク質が合成される。遺伝子は、言うなれば、生命の設計図であり、生命機能の大部分は、この遺伝子の活性化や不活化によって実現されている。
| 1953 | DNA二重らせん構造を解明(ワトソン/クリック) |
| 1964 | 塩基配列による遺伝暗号を解明(ニーレンバーグ/コラーナら)
アミノ酸に対応するコード配列(3塩基配列)を決定。 |
| 1970 | DNAを切断する制限酵素の作用を解明(ハミルトン/スミス) |
| 1973 | 遺伝子組み換えの基礎技術を開発(コーエン/ボイヤー) |
| 1975 | 遺伝子組み換えに関するアシロマ会議開催 |
| 1978 | 最初の体外受精児誕生 |
| 1978 | 細胞融合による植物体細胞雑種「ポマト」を作出(メレハース) |
| 1979 | ヒト・インスリンを大腸菌で発現させる(ゲッデルら) |
| 1980 | 米連邦裁判所、オイルを分解するバクテリアに生物特許を認可
それまで技術的な発明・発見に限られていた特許権が生物に対して適用された初めてのケースである。これ以降、生物特許を利用してバイオ・ビジネスを興そうという動きが加速される。 |
| 1982 | 組み換えDNA技術で大腸菌から生産したインスリンの市販をFDAが認可
これ以降、成長ホルモン・血栓溶解因子などを大腸菌で大量生産することが可能になる。 |
| 1982 | 遺伝子操作動物の作出に成功(ブリンスター/パルミター)
ラットの成長ホルモン遺伝子がマウスに導入され、正常の2倍の大きさにまで成長した。その後、動物の遺伝子操作技術は急速に進展し、1999年には、中枢神経系に関与する遺伝子を操作して「頭の良い」ネズミを作るという『アルジャーノンに花束を』(ダニエル・キースが書いたSF小説)を彷彿とする実験が行われた。 |
| 1985 | DNA断片を大量に複製する手法(PCR法)を開発(米シータス社) |
| 1986 | 米特許庁、遺伝子に対して特許を発行 米国には、自然界にもともと存在する物質であっても、新たに利用法を開発した場合は、開発者に対してその物質の使用についての独占的権利を与えるという「物質特許」の考えがある。EUや日本では、遺伝子そのものに対する特許は認められていない。 |
| 1990 | ADA欠損症の患者に世界最初の遺伝子治療が行われる(アンダーソン) |
| 1993 | ヒトの抗体を作る遺伝子操作マウスを作出(ロンバーグら) |
| 1994 | 遺伝子組み換え作物を世界で初めて販売(米カルジン社) |
| 1996 | ヒツジで体細胞クローンの作出に成功(ウィルムット) |
| 1998 | ヒトの体外受精卵からES細胞を分離することに成功(トムソンら) |
| 2000 | ヒト遺伝子をほぼ解読(米セレーラ社) |
©Nobuo YOSHIDA