拡がった空間の知覚と世界像の成立

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概要

 科学哲学の課題の一つは、人間が作り上げた科学的世界像が、現実の「自然そ のもの」(そのような表現が許されるとしての話だが)とどのような関係にある かを解明することにある。現在、科学が客観的事実の表明であるというオプティ ミスティックな見解は、哲学者のみならず物理学者からも否定されている。しか し、科学がとりとめない夢類と本質的に異なることは明らかであり、ハード,ソ フト両面における人間的な要素が科学的世界像をどこまで拘束しているかは、個 別的に解明しなければならない問題である。本章では、特に計量空間の問題に的 を絞り、計量の認識に人間固有の認知的方略がどのように影響しているか、また 科学はこれにどのように対処しているかを考察していく。

 本章は、大きく三つの部分に分けられる。初めに、一般論として、科学的世界 像を制約する物理的・心理的諸条件を提示し、対象とする自然現象以外の要因に 科学理論が拘束される可能性を示唆する。次に、その具体例として、心理学的見 地から計量がどのように把握されるかを分析し、これが、一般相対論のモデルを 構築する過程でどのような役割を果たしているかを論じる。最後に、この問題が 科学に対して原理的な限界を画定するものではないことを示すため、固有の計量 を持たない科学理論の可能性を路じる。


この論文は、論文集『空間・時間・精神 〜科学的認識論の最前線〜』に収録されたものである。アップロードするに当たって、専門的な部分を短縮しているので、全文を知りたい人は、メールを送ってほしい。


©Nobuo YOSHIDA