質問 プラズマ・ディスプレイ・パネル(PDP)について質問します。
(1)PDPのパネル表面から発生する電磁波は、ブラウン管や液晶に比べて多いと聞きました。人体に対する影響はどうなのでしょうか。
(2)PDPを明るく発光させるためには、強い紫外線を放射することが必要と言われています。このとき、紫外線の波長が長いほど紫外-可視光変換効率が高くなるのはなぜでしょうか。【その他】
回答
 PDPの構造や原理に関しては、別の箇所で説明していますので、ここでは、直ちに質問の回答に移りたいと思います。と言っても、残念ながら直接お答えすることはできません。PDPは発展途上の技術であり、そのスペックが急速に書き換えられているからです。
 PDPが「プラズマ中の電子を加速して原子に衝突させ、そこから発せられる紫外線を蛍光体に当てて可視光に変換する」という荒っぽい技術を用いている以上、液晶や有機ELと比べると、多量の不要な電磁波が発生することは避けられません。こうした電磁波の中には、人体に有害な紫外線や、生体効果が未解明なELF波も含まれているはずです。実際、2001年の時点で、投入電力を紫外線に変換する効率は数%程度であり、多くのエネルギーは熱や不要放射に変換されてしまいます。さらに、紫外線の利用効率も60%そこそこで、投入電力に対する表示出力は、0.3%程度でしかありません(『よくわかるプラズマテレビ PDP』(河村正行著、電波新聞社)。投入電力あたりの光束でいうと、1[lm/W]ほどです。しかし、この値は急速に改善されており、1995年の文献には0.025〜0.15[lm/W]となっています。近い将来には2〜3[lm/W]になると予想されており、これに伴って、発熱や不要放射の量も減ってくると期待されます。
 紫外−可視光の変換効率は、使用する蛍光体素材によって決まります。 qa_119.gif 例えば、青の蛍光体として用いられる Ba Mg Al10O17:Eu は、入射波長147nm付近で量子効率がピークになることが知られています。一般に、変換効率(量子効率)は、素材ごとに入射波長に対する特徴的な曲線となります(右図;正確ではありません)。ただし、これは量子効率(発光光子数/入射光子数)を考えた場合のことであって、量子効率に大きな差がないならば、エネルギー効率(発光エネルギー/入射エネルギー)は、入射波長が長いほど高くなります。例えば、波長140nmの入射光子1個が蛍光体に当たって波長525nmの光子を1個放出する場合、量子効率は100%になりますが、光子1個当たりのエネルギーは、アインシュタインの関係式 E=hc/λより波長に反比例するため、エネルギー効率は、
  140[nm]/525[nm] = 27[%]
にしかなりません。量子効率を高くすることは技術的に難しいため、結果的に、入射紫外線の波長が長いほどエネルギー効率が高くなるのです。

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質問 第二次大戦末期に広島・長崎にそれぞれウラン原爆、プルトニウム原爆がアメリカ軍によって投下されましたが、それから半世紀以上経った今でも、当時の爆発による放射能は残っているのでしょうか? 核分裂生成物の中には半減期の長いものがあり、土壌汚染や生物濃縮などによっていまだに人体や環境に悪影響を及ぼしているとしても不思議ではないのですが。【環境問題】
回答
 広島・長崎の爆心地付近における残留放射能は、現在なお測定可能ではありますが、その量はごくわずかで、人体や環境に悪影響を及ぼすほどではないと考えられます。ただし、一部に不明な点も残されています。
 原爆がもたらす放射性物質には、
  1. 放射性降下物(フォールアウト;核分裂生成物+未分裂のプルトニウム・ウラン+誘導放射能を帯びた原爆器材)
  2. 誘導放射能を帯びた地上物質
の2種類があります。誘導放射能とは、爆発時に放出された中性子を吸収した物質が放射性物質に変わることで生じるもので、放射化された物質は、主にβ線を放射する強力な線源となります。広島・長崎で生じた誘導放射能の強さは、原爆から放射された中性子線量の推定値をもとに、かなり正確に計算されています(1)。放射性物質うち、アルミニウム28(半減期2.3分)、マンガン56(2.6時間)、ナトリウム24(15時間)は、いずれも半減期が短く、短期間に強い放射線を出して消滅する(別の核種に変化する)ので、爆発後2週間以上経ってから爆心地付近に到着した人にはほとんど悪影響を与えなかったと考えられます。一方、スカンジウム46(83.9日)、コバルト60(5.26年)、セシウム134(2.05年)は半減期が長く、広島・長崎の定住者に長期的に放射線を浴びせているはずです。ただし、爆発2週間後から現在に至るまで爆心地から500mほどの地点で放射線を外部から浴び続けたとしても、被曝量はせいぜい1rad(=0.01Gy)程度となり(2)、一般人の被曝許容線量以下となって健康上問題はないと推定されています。コバルト60などいくつかの核種が持つ残留放射能は1990年代に実測されており、爆心地付近では理論的な計算値とよく一致していることが示されました(爆心地から1km以上離れた地点では数倍から数十倍の開きがあり、その理由の解明が続けられています)。
 誘導放射能に比べて、放射性降下物の放射能については、不明な点が多々あります。核爆発によって生じる放射性同位元素には、ストロンチウム89(半減期52.7日)、ストロンチウム90(29年)、バリウム140(12.8日)、ジルコニウム95(65.5日)、セリウム144(284日)、セシウム137(30年)および分裂しなかったプルトニウム239(24000年、α崩壊)などがあります。これらの物質が、爆発後にどのように気流に運ばれ、どの地区にどれだけ降下したかは、必ずしも明らかにされていません。しかし、放射線総量は短命な核種の崩壊とともに急速に減衰する(1日経てば1/3000になる)上に、表層部の埃に混じっていた放射性降下物はいつまでも滞留せずに雨で洗い流されてしまったはずですから、放射能が異常に強いホットスポットを別にすれば、爆発2週間後以降に広島・長崎に長期滞在しても、健康上の問題を生じるほどの外部被曝を生じることはないと推定されます。
 問題となるのは、放射性降下物が体内に入り込み長期にわたって内側から肉体を蝕むような内部被曝の有無です。雨で流された放射性降下物の一部は飲料用水として、あるいは生物に取り込まれた後に食料として人間に摂取されたはずですが、放射性物質は消化器からはあまり吸収されないので、飲食に起因する重大な体内被曝は生じないと考えられています(DDTなどの塩素系有機化合物と異なって脂肪組織に蓄積されないので、食物連鎖による生体濃縮は起こりにくい)。1969年に長崎・西山地区(山の陰になって放射線が遮られ放射性降下物だけが到達した地域)で行われた調査によると、住民の体内に蓄積されているセシウム137の量は他地区住民の約2倍となっており、農作物中の量も有意に多くなっていることが判明しましたが、絶対量はごくわずかで、健康に悪影響が認められるほどではないようです(3)
 「呼吸を通じて肺に入り込んだストロンチウム90やプルトニウム239が、長期的に何らかの悪影響を及ぼす」という可能性を指摘する学者もいます。吸飲した放射性降下物による内部被曝はごく軽微だとのデータもありますが(4)、不定要素が多く、結論を出すのは難しいようです。1945年9月23日に長崎に入市してクリーンアップ作戦を展開したアメリカ海兵隊員の中に、1970年代に入って多発性骨髄腫を発症した人が複数いたことに関して、埃が舞い上がる中で作業した際に吸飲したプルトニウムの影響を疑う学者もいます(5)
【参考文献】
(1)『広島・長崎の原爆災害』(広島市・長崎市 原爆災害誌編集委員会編、岩波書店、1979)§5.2
(2)『ヒロシマ・残留放射能の四十二年』(NHK広島局・原爆プロジェクトチーム、日本放送出版協会、1988)p.122-123のグラフをもとに推定
(3)『原爆被害の実相』(NGO被爆問題国際シンポジウム長崎準備委員会、1977)
(4)『ヒロシマ・残留放射能の四十二年』(前掲書)p.222
(5)『広島・長崎 原爆被害の実相』(沢田昭二ほか著、新日本出版社、1999)

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質問 量子論的にいう光子数−位相状態において、光子数が全くでたらめである場合、その不確定性関係から位相に関する情報は完全に得ることができますよね? もしそうなら、実際に位相というものを測るためにはどうしたらいいのでしょうか? 【現代物理】
回答
qa_118.gif  量子化された電磁場は、量子論的なゆらぎのせいで、振幅や位相が古典的な電磁場のように確定されていません。シングルモードの古典的電磁場ならば、振幅がゼロになる点を位相の原点とし、あとは最大振幅と測定された振幅との比から位相を求めることができますが、量子論的電磁場では、通常の光源で単色波を作った場合、振幅や位相には不確定性が伴います。
 量子力学の一般論を使うと、位相の演算子φと光子数の演算子nの分散の間には、次の不確定性関係が成り立つことが示せます(詳細は省略します):
  (Δn2)(Δφ2)≧1/4
レーザー発振などで実現されるコヒーレント状態では、光子の個数はポアッソン分布に従っており、値は確定していなくても分散は有限な値になるので、位相は確定していません。
 光子数の分散が無限大になる場合、位相が確定する可能性があります(不確定性関係は不等式で表されているので、常に確定するわけではありません)。不確定性関係で等号が成り立つような状態をスクイーズド状態と呼びますが、Δn2=∞のスクイーズド光が実現できれば、位相は完全に確定するはずです。これを位相スクイーズド光と言います。ただし、光子数−位相の不確定性関係で等号が成り立つスクイーズド状態を実現するのは技術的に難しく、また、光子数を完全に不確定にすると振幅のゆらぎも非常に大きくなって位相が定義できなくなるため、完全な位相スクイーズド光を考えるのは、あまり現実的ではありません。代わりに、電磁場をサイン波とコサイン波の重ね合わせで表し、一方の振幅を確定する代償として、他方の振幅が大きなゆらぎを持つようにしたものを考える方が、わかりやすいと思います。この「直交位相スクイーズド光」は、
  E(t) = A sinωt + B cosωt (A,Bは演算子)
と表したとき(シングルモードの場合)、理想的な極限で、
  ΔA → 0
  ΔB → ∞
  Δn2 → ∞
となります。こうした状態は、位相のわずかな違いで利得が大きく変化するような非線形共振器を用いることによって、近似的に実現することが可能です。
 スクイーズド状態を検出するには、高度な技術が必要になります。検出器自体が雑音を出さないことが必要ですし、さらに、分散が小さくなっている部分だけを選択的に捉えなければなりません。ここでは、検出器の詳細に踏み込む余裕はないので、「量子光学」の教科書を参照してください。

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質問 真に実在に近いものは何ですか? 自分なり考えてみて、不変性を持つものがそうだと思うのですが? たとえば光速。【その他】
回答
 物理学者は、常に「実在」を追い求めているのですが、その夢がいつか叶えられることはないような気がします。科学的な議論をする際には、どうしても人間に理解できるような形で対象をモデル化しなければならないからです。例えば、19世紀には、世界の基本的な構成要素として真空中を飛び交うビリヤードボールのような原子を想定する科学者が少なからずいましたが、こうした“素朴な”描像が成立しないことは、20世紀以降の物理学の発展が明確に示しています。現時点では、時空多様体の各点に存在するさまざまな場(クォーク場・電磁場など)の自由度が、最も基本的な要素と見なされていますが、今後さらに重力場を統合した理論を作ろうとするとき、これらがなお基本的な地位を保てるかどうかは、かなり疑わしいでしょう。最新のM理論では、場の自由度に代わる幾何学的な自由度が導入されていますが、これとても、22世紀まで信奉される理論であるとは思えません。「人間に理解できる」という制限は、実在を捉えるにはあまりに厳しすぎるのではないでしょうか。
 「不変性を持つ対象が実在に近い」という発想はなかなか面白いのですが、必ずしも正当化できる主張ではありません。「常に変わらない」ものは、物理的な実在と言うよりは、人間が何かを記述するための前提として導入されていることが少なくないからです。「光速」の場合、時間と空間を別々の対象として扱うときには、確かに「不変な物理量」として本質的な役割を演じているように見えます。しかし、時間と空間を1つの幾何学的対象と見なす相対論の立場に立つと、光速の不変性は、「地球上で水平方向と鉛直方向の長さを別の単位で測ることにした場合、両者の換算定数は常に一定である」というのと同じく、人間が余分な仮定をしたために必要になったコンベンションに過ぎないのです。詳しくは説明しませんが、実は、エネルギーや運動量の保存も、自然界の本質的な性質と言うよりは、人間が自然を記述する仕方と密接に関わるものなのです。
 科学の知見によって、人は「何が実在ではないか」をかなり理解することができるようになりました。しかし、さらに進んで「何が実在か」を明らかにできるほど、人間の知性は高度なものではないのかもしれません。

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質問 透水実験で、水の流れがきれいな曲線を描いてますが、交わる事はないのですか?【古典物理】
回答
 「水の流れ」とは、多数の水分子の動きを平均化したものを指しています。個々の水分子に着目すると、すぐそばの分子が全く異なる速度を持っていたり、分子同士が衝突したりするため、その動きを、なめらかに変化する速度ベクトルの場で表すことはできません。しかし、ある範囲にわたって水分子が持つ速度ベクトルの平均を取ると、こうしたミクロの乱雑さが打ち消されて、連続的な流れの曲線を描くことが可能になります。流体力学における「ある点での流速」とは、言うなれば、その点を中心とする適当な大きさの球の内部で水分子の速度を平均したものを意味するわけです。球の半径は、(考えているのが海流か血流かというように)議論の対象によって異なりますが、ほとんどのケースで、10-9mという分子のスケールよりも遥かに大きく、その内側に膨大な(例えば1020個以上というような)分子が存在していると仮定できるので、これらについて平均すると、なめらかな流速ベクトルの場が得られます。
 流速ベクトルは、その周囲で水分子の運動を平均したものですから、流体の各点で一意的に決まります。 qa_117.gif 流れを表す曲線は、その接線が流速ベクトルの向きになるように定義されており、これらが交わると、交点では2つの速度ベクトルがあることになってしまうので、両者が交わるように見える流れでも、拡大すれば流れの曲線はすれ違っていることになります(水分子の動きは交差しているかもしれませんが、流れの曲線は、あくまで平均化された動きであることに注意してください)。例外は、流体中に吸い込みや湧き出しがある場合で、このときは、その点に流れの曲線が集まってきます。

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質問 電磁気の教科書によると、直線電流の周りには距離Rに反比例した大きさで直線電流を中心とした円周状に磁界(H=I/2πR)が生じます。何km離れても、大きさは小さいながらも発生することになるのですが、質問は、この磁界が発生するのは電流が流れてからある時間経ってからなのでしょうか。磁界そのものは波動ではないようなので、式の上では瞬時ということなのかなと思ってしまうのですが、本当でしょうか。【古典物理】
回答
 磁界H=I/2πR という公式が成り立つのは、あくまで一定の電流Iが流れている場合です。電流が流れ始める際には、時間に依存するマクスウェル方程式に従って、電磁界が変化していきます。
 特に重要なのは、電流の増加に伴って磁界が変化しようとすると、電流の変化を打ち消す向きに逆起電力が発生することです。このため、電流は、直流回路のスイッチを入れても瞬間的に流れるのではなく、逆起電力に抗しながら──単純なケースでは 、時間をtとすると(1-exp(-αt))に比例するような形で──増加していきます。このように、逆起電力が生じて瞬間的な変化が起きなくなることが、自己誘導と呼ばれる現象です。エネルギーの収支を考えると、磁界は H2/2 という場のエネルギーを持つので、磁界が形成に際してどこからかエネルギーの供給が行われなければなりません。自己誘導があるときには、電源が逆起電力に抗して仕事をする過程で、磁界にエネルギーを供給していることになります。
 電流が変化しているときに遠方の磁界がどうなっているかを計算するのは、やや高度な問題になります。電流だけが存在する場合には、次のような遅延ポテンシャルの公式が成立します:
 qa_116.gif
この式で、r/c秒前の電流が現れることからわかるように、電流の変化が遠方の磁界に伝えられるまでには、光が到達するのに要する時間が掛かります。従って、「相互作用は光速を越えられない」という相対論の要請は満たされていることになります。
(文中の式はMKSA単位系を用いましたが、面倒なので真空の透磁率μ0は省きました (^^ゞ)

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質問 低周波とは? 低周波地震が人体に悪い影響を与えると言っていたり、低周波治療器が売っていたりしますが、果たして低周波がどのような特性を持っているのか、教えて頂けないでしょうか?【その他】
回答
 「低周波」とは、文字通り周波数の低い波動を指す呼称で、必ずしも明確な定義があるわけではないのですが、「低周波騒音」「低周波公害」などと言うときには、周波数が100Hz以下の音波(低周波音)を指しています。人間の耳に聞こえるのはおよそ20Hz以上の音なので、低周波音の中には、ブォーンと唸るような低い音として聞こえるものと、可聴範囲外の超低周波となるものがあります。
 低周波音は物体に力学的な振動を引き起こし、建具がガタガタしたり固定していないものが少しずつ移動したりするといった物理的な効果をもたらすこともあります。人間が低周波音に曝された場合、その強度や振動数によって何らかの生理的影響が生じると考えられますが、必ずしも詳しく解明されているわけではありません。20Hzの音波では70〜80dBあたりから何らかの感覚を覚え、90dB以上になると圧迫感・振動感を感じるようになるというデータもあります(環境省「低周波音防止対策事例集・参考資料」(2002))。さらに、低周波音は、生理的に何らかの悪影響を与えると考えられています。真空ポンプやディーゼルエンジンの作動音や新幹線のトンネル進入時に発生する超低周波音などは、いわゆる低周波公害を引き起こしており、近隣住民の間にさまざまな不定愁訴(頭痛・不快感・不眠・動悸など)が見られます。ただし、こうした症例では個人差が大きく、どこまでが低周波音の生理的作用なのか、はっきりしていません。
 なお、低周波治療器とは、1〜数百Hzのパルス状電流を流して神経や筋肉に刺激を与え、マッサージ効果や鎮痛作用をもたらすものです。電気的な刺激を利用しているので、低周波音の作用とは全く異なり、適切な使い方をすれば健康の増進に役立てられます。

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©Nobuo YOSHIDA