質問 スペースシャトルはあんなに高速で円運動しているのに、なぜ遠心力が働かずに内部は無重力なのですか。また、宇宙線を大量に浴びているのに、地球に帰ってきても環境に影響がないのですか?【その他】
回答
qa_085.gif  地球の周囲で円運動しているスペースシャトルには、地球の重力と(見かけの力である)遠心力が同時に働いています。この2つが釣り合っているので、シャトルは(重力によって)地球に引き寄せられることも、(遠心力によって)遠くに飛び去ることもなく、地表から一定の距離を保つことができるのです。この釣り合いは、シャトル内部の全ての物体に関しても成立しており、あたかも無重力状態になっているように見えます。
 遠心力のことを「見かけの力」と書きましたが、これは、遠心力という概念を使わずに、地球に固定した座標系で考えることもできるからです。この場合、スペースシャトルは、重力の作用を受けて落下していきますが、慣性によって前方に進みながら落ちていくので、結果的に地表との距離が一定に保たれる円運動になると見なせます。よく知られているように落下中は重さを感じないという性質があるので、シャトルと一緒に落っこちている他の物体も、やはり無重量になります。 qa_086.gif
 また、スペースシャトルが浴びている宇宙線ですが、そのほとんどが、高速の陽子または電子の流れであり、船体にぶつかっても、ほんのわずかの水素ガスになったり電流を流したりするだけで、放射能を作ることはありません。むしろ、船体を突き抜けてくる宇宙線が、宇宙飛行士の体にあたって健康に悪影響を与えることの方が心配ですが、ガンを引き起こすような高エネルギー宇宙線を浴びる確率はかなり小さいので、それほど気にする必要はないようです。

【Q&A目次に戻る】

質問 円形電流が中心軸から外れた点に作る磁場の求め方を教えて下さい。【古典物理】
回答
qa_080.gif  半径aの円形電流が作る磁場を求めるには、よく知られたビオ・サバールの法則(右図)を利用します。ただし、中心軸を外れると、磁場の大きさを初等関数で表すことはできません。
 線素dlを流れる電流Jが作るベクトル・ポテンシャルは、次の式で与えられます(cgs単位系;太字はベクトルを表す)。
  qa_079.gif
対称性より、このベクトル・ポテンシャルはφ成分しか持ちません。
  qa_081.gif
この積分は、変数
  qa_082.gif
を使って、
  qa_083.gif
と表されます。ただし、KとEは、それぞれ第1種および第2種の完全楕円積分で、その定義は、数学公式集に与えられています。これを使えば、磁場Bの各成分は、
  qa_084.gif
を使って求められます。詳しくは、電磁気学の教科書をご覧ください。

【Q&A目次に戻る】

質問 2次元の世界は実際に存在し得るとのことですが、では、時間という要素の無い純粋3次元の世界も存在し得るのでしょうか? また、存在し得るのならば、現実の世界(空間3次元+時間1次元)とはどのように異なるのでしょうか?(SFなどから連想するイメージでは、時間の流れが止まった世界という印象があるのですが)【現代物理】
回答
 われわれが生きている世界が、なぜ空間3次元+時間1次元になっているかということは、いまだに物理学で解決できない謎です。1つの考え方として、本来、世界の次元はかなり高い(10次元あるいはそれ以上)のだが、余分な次元が小さく丸まって、3+1次元だけが巨視的な拡がりを持っているという説もあります。このとき、他でもない3+1次元に落ち着かなければならないという明確な物理的根拠はありませんが、これ以下の次元数では、生命体のような複雑な構造は発生できないことから、3+1次元未満の“低次元宇宙”が無数に存在する中で、たまたま3+1次元になったこの世界に、人類をはじめとする知的生命が宿ったとも考えられます。
 こうした“低次元宇宙”の中には、時間次元のない空間だけの世界がある可能性も否定できません。しかし、こうした世界には、“変化”と呼べるものは何もなく、当然のことながら、生命体が生まれるべくもありません。時間のない世界に“変化”がないことは、次のような議論から明らかです。特殊相対論が成立するミンコフスキ時空の場合、3+1次元時空の重力場は次の対角行列の形で表されます。
  qa_077.gif
こうした重力場の対角成分で、符号がマイナスのものが時間、プラスのものが空間と呼ばれているのです。この符号の違いは、運動方程式において重要な役割を果たします。例えば、3+1次元ミンコフスキ時空での場の量φの波動方程式は、
  qa_078.gif
という形になっていますが、この微分項の符号を決めているのが重力場の対角成分の符号なのです。この式から読み取れるように、時間的変化と空間的変化は、互いに相手を引き起こすような相互依存関係になっており、微分項に符号の差のない「空間だけ」の世界では、物理的に面白い現象は何も存在しません。ちょうど、特異点が存在しないという条件の下で静電場に関する方程式を解いても、トリヴィアルな解しかないのと同じです。「時間の流れが止まった」というよりは、「時間がないために何の変化も起きない」と思った方が良いでしょう。

【Q&A目次に戻る】

質問 今、えらい人達の間で議論されている慣性力について質問したいのですが、慣性に力はないのに、「慣性力」という呼び方は正しいのですか? 例えば、教科書には、次のような実験がありました。
 (1)ペットボトルに、水・発泡スチロール・ビー玉を入れて、横にする。
 (2)発泡スチロールとビー玉が真ん中に来るようにした後、右または左に一気に動かす。
 (3)発泡スチロールとビー玉が逆向きに動くのを観察する。
このときに、慣性質量の違いから動きが違うのに、それを慣性力の違いからと説明している塾の先生や参考書があるので、どうなのか?と思ってお尋ねしました。【古典物理】
回答
 慣性とは、「外から力を加えなければ物体の速度は変化しない」という性質を表しており、日常的に使われる“惰性”と似た概念です。例えば、自転車に乗っているとき、充分にスピードが出ている場合は、ペダルに力を加えてこがなくても走り続けるというのが、慣性の現れです。さらに、質量が大きいほど速度を変えにくい(重い荷物を載せている自転車は、急に止まれない)という性質があり、慣性の大きさは、質量に比例していることがわかります。
 ペットボトルに発泡スチロールとビー玉を入れた実験は、慣性を調べるには少しわかりにくいものかもしれません。ペットボトルを急激に動かすと、各物体には水の粘性によってほぼ同程度の力が加わりますが、慣性が大きい(=質量が大きい)ビー玉は、速度が変化しにくいのでほとんど動かないままなのに対して、慣性の小さい発泡スチロールは、小さな力でもすぐに加速されてペットボトルと同じ向きに動き出すわけです(ただし、このセットアップでは、質量や粘性の大小に応じて運動の仕方が変わるため、実際に試してみてもあまりうまくいかないと思います)。
 このように、慣性とは力とは異なる性質のはずですが、慣性があたかも力のように見える場合があります。 qa_076.gif 止まっていた電車が急に発車することを考えてみましょう(右図)。経験したことがあると思いますが、乗っている人は、進行方向と逆向きに倒れそうになります。これは、電車が動き始めたにもかかわらず、中にいる人は慣性によって静止し続けようとするからですが、実感としては、まるで体全体にどこからか“力”が加えられたように感じられるはずです。こうした“力”は、電車が急停止するときは前方に働きますし、右にカーブしたときには左側に作用します。このように、システム全体が運動している場合、内部の物体は慣性の法則に従って動いているにもかかわらず、あたかも“力”が作用したかのように見えることがあります。こうした(実際には存在しない)“見かけの力”を「慣性力」と呼ぶのです。
 初等力学で「慣性力」なる概念を用いるのは、その方がわかりやすいケースがあるからです。例えば、地球を周回するスペースシャトルの内部を考えるとき、わざわざ全ての物体が地球の周りを円運動しているとして運動法則を当てはめるよりも、各物体に加わる(見かけの力である)遠心力と(真の力である)重力が釣り合って無重量状態になっているとした方が、はるかに簡単に理解できるでしょう。慣性力を導入してかえって話が難しくなるならば、そんなものを使う必要はありません。
 もっとも、本当のことを言えば、慣性力にはもう少し深い意味があります。遠心力は《見かけの力》で重力は《真の力》だと書きましたが、これらは必ず区別できるものなのでしょうか。地球も太陽系も銀河系も回転しているのですから、宇宙全体が回転していることだってあり得ます。そうなると、何を基準にして「これはシステムが回転していることに起因する見かけの力だ」と主張すれば良いのでしょうか。
 実は、慣性力と重力の厳密な区別が原理的に不可能であるというのが、アインシュタインの相対性理論の帰結なのです。この理論によると、慣性力はもはや単なる「見かけの力」ではなく、重力と絡み合って現れる現実的な力だと言えます。慣性力と重力の区別は本質的ではなく、慣性力が現れない基準系を使った方が現象の記述が簡単になるというだけの相対的なものです。大学教授が物理学の教科書を執筆する場合、なまじこうした知識があるために、わかりにくい「慣性力」の記述を削除できないのかもしれません。

【Q&A目次に戻る】

質問 太陽質量の7%以上ない天体は、恒星とはなれず褐色矮星になるとの記述を読みましたが、恒星となれる質量の上限はあるのでしょうか?【現代物理】
回答
 「恒星」を核融合によって光を発する天体と定義するならば、太陽質量(Msun)の40万倍というのが恒星になれる質量の上限とされています。しかし、現実には、これに近い超大質量恒星はもちろん、100Msun以上の質量を持つ恒星も、ほとんど見つかっていません。
 巨大な質量を持つ星間ガスが、重力によって収縮していく場合を考えましょう。通常は、ガス雲内部に渦動が生じて、小さな天体が多数形成されるはずですが、理論的には、Msunの数十万倍になる物質が、一様性を保ったまま1点に集まってくることもあり得ます。このとき、一般相対論に基づく補正をした上で状態方程式を求め、内部の圧力が自己重力を支えきれなくなって重力崩壊が起きるときの中心温度を計算すると、質量が40万Msun以上の場合には、水素の核融合を起こすには温度が低すぎるという結果が出てきます(参考文献:『岩波講座・現代物理学の基礎12 宇宙物理学』)。つまり、質量が大きすぎて、核融合によって光り始める(=恒星になる)前に、天体全体がつぶれてブラックホールになってしまうというわけです。
 もっとも、こうした「恒星になれなかった」超大質量天体は、現実には存在しそうにありません。収縮を始めたガス雲は、まず重力不安定性によって平板状につぶれ、さらに細かく分裂が進んで多数の星形成コアが作られるからです。天の川銀河を含む多くの銀河系の中心部には巨大なブラックホールが存在していますが、これも、いきなりガス雲が凝縮して(恒星段階を経ずに)形成されたのではなく、恒星が合体することによって次第に大質量を獲得したという説が有力です。
 質量が40万Msun以下の天体は、核融合を開始して主系列星(熱核反応によって安定的に光り輝く星)になるはずです。ただし、100Msun以上の恒星がこの状態を維持するのは困難であり、輻射圧がガス圧を上回ることに起因する不安定性などによって表面からの質量放出が生じ、短期間でたかだか数十Msunまで痩せ細っていくと考えられています。
【追記】この質問に対しては、最新の研究をふまえて回答し直していますので、そちらも読んでください。

【Q&A目次に戻る】

質問 僕の友達で、凄く体が細く、筋肉も脂肪もないといった感じの奴がいます。今、高校3年で、もうすぐ受験を控えているのですが、その友達は筋肉を付けたがっています。僕は、昔からスポーツをやっていて、高校でも筋トレをしてきました。しかし、友達は、スポーツの経験がなく、家で腹筋や背筋などをやっているという話なのですが、なかなか結果に現れていないようです。友達は、どういったことから取り組んでいけば良いのでしょうか?【その他】
回答
 トレーニングの効果を上げるには、科学的な知識の裏付けされたプログラムを作成し、それを継続的に実行していくことが必要になります。むやみに運動するだけでは、ただ疲れるだけでしょう。
 筋肉は、限界ぎりぎりまで負荷を加えると、その後の2〜3日の間に以前よりも筋線維の断面積が増加する「超回復」を示すことが知られています。ただし、この超回復の期間中にさらにトレーニングを行わないと、すぐに元の太さに戻ってしまいます。したがって、筋肉増強を実現したい場合は、充分な負荷を加えるトレーニングを継続的に(少なくとも週3回以上)行わなければなりません。トレーニングとしては、ジョギングやエアロビのような有酸素運動ではなく、無酸素運動(と言っても呼吸を止めるのではなく、体内で無酸素的なエネルギー代謝を行う運動のことです)によって短い時間に強い負荷を筋肉に与えるのが効果的です。
 具体的にどのようなトレーニングをすれば良いかは、フィットネスの参考書を読んでください(ちなみに、この文章を書くに当たって私が参考にしたのは、『ウイダー・フィットネス・バイブル』(森永製菓・健康事業部,2000)です)。筋肉増強を目的とするプログラムとして、スクワットや腕立て伏せなど、自宅で簡単にできるエクササイズを毎日15〜20分程度行う方法が紹介されているはずです。効果が目に見えて現れるまでには数ヶ月掛かりますが、ひとたび筋肉の増強が実感されると、トレーニングにも気合いが入ってくるでしょう。
 ついでに一言。体作りに適量のタンパク質を含む食事が欠かせないことは確かですが、ボディビルダのようにプロテインを摂取するのは好ましくありません。必要以上に摂取されたタンパク質は、肝臓で分解されて一部が脂質となるため、かえって脂肪太りの原因になるばかりか、肝臓や腎臓に負担を掛けることになります。

【Q&A目次に戻る】

質問 老化因子は不死化細胞には存在していないのでしょうか?【その他】
回答
 高等動物の体を構成する体細胞は、その存在が個体にとって不用ないし有害になったときに“自殺”することが知られています。これが「プログラムされた細胞死」または「アポトーシス(apoptosis)」と呼ばれる現象で、酸素の欠乏などによって細胞が傷害されたときに起きる壊死(ネクローシス)とは異なり、タンパク質分解酵素を産生する遺伝子の能動的な働きによって段階的に細胞が変化し、最終的には細胞がアポトーシス小体と呼ばれる断片に分解されていく過程です。オタマジャクシがカエルになるときに尻尾がなくなったり、感染症が治った後で免疫を司るT細胞が消滅したりするのも、アポトーシスの作用です。
 細胞が死に至るプロセスは多くの細胞で共通していますが、死のプログラムが実行されるきっかけはさまざまです。細胞の「老化(セネッセンス;senescence)」は、そうしたきっかけの1つです。 qa_075.gif 線維芽細胞のような分裂性の体細胞を培養すると、しばらくの間はさかんに分裂を繰り返しますが、分裂回数が40〜60回(ヘイフリックの限界)を超えると、増殖した細胞が一斉に死滅することが知られています(右図)。アポトーシスを引き起こす「老化」のメカニズムは完全に解明されたわけではありませんが、テロメアの短縮が重要な因子になっていることは確かです。テロメアとは、染色体の端にある特定の塩基配列であり、細胞分裂によって染色体を複製する際に一部が欠落していくという性質があります。「老化した細胞」とは、分裂を多数回繰り返したためにテロメアが臨界値を越えて短くなった細胞のことであり、通常は、何らかのメカニズムでアポトーシス機構が活性化されて生体組織から取り除かれていきます(テロメアの短縮以外にも細胞の老化を規定する因子があるらしいのですが、いまだ研究段階です)。
 細胞の老化は、染色体を複製する際に不可避的に生じる突然変異の悪影響を防ぐための仕組みだと考えられています。あまりに数多く分裂した細胞は、さまざまな突然変異を蓄積しており、そのまま活動を続けると、個体全体の生存にとって不利になるケースも出てきます。突然変異の多い少ないにかかわらず、「一定回数だけ分裂した細胞には自殺してもらう」というのが、地球生命の選んだ生き残り戦略でした。
 ところが、突然変異の起き方によっては、この戦略そのものがうまく機能しなくなることがあります。こうして自殺できなくなったのがいわゆる「不死化細胞(immortal cell)」であり、その中でも過剰な増殖によって生体にダメージを与えるのがガン細胞です。近年の研究によると、ガン細胞の90%近くは、老化因子であるテロメアの短縮そのものを回避して、“若さ”を保っていることがわかってきました。動物が生殖細胞を形成する場合、生まれながら細胞が老化している個体を生み出さないように、テロメアーゼ(telomerase)の作用で短くなったテロメアの修復が行われています。通常の体細胞ではテロメアーゼはほとんど産生されませんが、多くのガン細胞では、この酵素を作る遺伝子が活性化され、せっせとテロメアを修復しています(したがって、テロメアーゼ活性を調べることができれば、大半のガンを早期に発見できると期待されます)。こうして、ヘイフリックの限界を超えて分裂を繰り返すことが可能になるのです。
 なお、ガン細胞は、これ以外にも、さまざまな方法で“自殺”を回避しています。多くのガン細胞では、死のプログラムを発動させる p53タンパク質の遺伝子が不活性化されていますし、それ以外にも、自殺指令を伝達する Fas受容体の機能が阻害されていたり、自殺阻害作用を持つBcl-2タンパク質が過剰に生産されていたりすることがあります。高等生物の体は、多様なルートを通じてアポトーシス機構を活性化させ、異常細胞を自殺に追い込んでいるのですが、その全ての防衛網をかいくぐって増え続けるというのが、ガン細胞の恐ろしさなのです。

【Q&A目次に戻る】



©Nobuo YOSHIDA