質問 私たちが住んでいるのは多くの星の中の一つですが、太陽系や銀河系のような星の集合体は、他にいくつぐらいあるのですか?また、その中で一番大きいのは、何という集合体ですか?それは、どのくらい星が集まっていて、どのくらい離れていますか?【現代物理】
回答
 宇宙における物質の集まりには、さまざまな階層性が見られます。最もはっきりした構造を持つのは、星や塵、ガス、それに正体不明の「暗黒物質」などから成る「銀河(galaxy)」で、典型的な渦巻銀河(私たちがその中に住んでいる「天の川銀河」を含む)は差し渡しが数十万光年に及び、その中には数千億個の恒星が含まれています。銀河には、天の川銀河やアンドロメダ銀河のような渦巻銀河のほかに、楕円銀河や矮小銀河、暗い銀河などがあります。
 1988年から1994年にかけて行われた宇宙地図作製プロジェクトでは、2万6000個以上の銀河の位置(地球からの距離を含む)が記録されました。また、ちょうこくしつ座を中心に天球の15%程度を覆う宇宙地図には、300万個の銀河の方位が記載されています。こうした宇宙地図作りは現在なお精力的に進められており、各国の研究者が利用できるようにデータベース化されています。しかし、人類に観測可能な半径約150億光年の宇宙空間には、数十億個の銀河が存在すると推定されており、それらが全て記録されるにはまだ相当の期間が必要でしょう。さらに、人類の観測が及ばない「宇宙の地平線」の彼方にも膨大な数の銀河が存在しているはずで、宇宙全体でいったい何個の銀河があるのかは、推測することも困難です(「無限にある」と言う人もいます)。
 銀河の集まりにもさまざまな階層があり、数十個の銀河のグループである「銀河群」や数百から数千個の銀河から成る大きさ300万光年以上の「銀河団」(これまで1万個以上発見されている)のような大規模な構造が観察されています。天の川銀河は、すぐそば(8万光年)のいて座矮小銀河(天の川の陰になっていて1994年まで発見されませんでした)や200万光年ほどの距離にあるアンドロメダ銀河などとともに「局所銀河群」を形成しており、銀河群全体が秒速600kmでうみへび座の方向に運動しています。天の川銀河から1億光年以内の距離には、おとめ座銀河団・とも座銀河団・ろ座銀河団などがあります。
 1億光年以上のスケールで見ると、銀河団が集まった「超銀河団」という構造が現れます。例えば、地球から約2億光年の所にペルセウス座うお座超銀河団と(正体が必ずしもはっきりしていない)グレートアトラクタと呼ばれる超銀河団があり、局所銀河群はこの2つの巨大質量(太陽質量の数京倍?)に綱引きよろしく引っ張られているという説が唱えられています。これらの超銀河団は、銀河の塊として宇宙空間に一様に点在しているのではなく、フィラメント状に集まったり、巨大な「壁(ウォール)」を形成しており、それらの間には「ボイド」と呼ばれる銀河がほとんど存在しない空隙が広がっています。中でも、グレートウォールと呼ばれる銀河の集まりは、長さは7億5千万光年、高さは2億5千万光年以上、厚さは2000万光年にも及びます。
 しかし、宇宙の大規模構造は、これで終わるわけではありません。最近、銀河分布を数学的に分析することにより、30億光年というスケールの構造が存在する証拠が見いだされました。こうした研究は、最もホットな話題を提供し続けており、明日にも新たな大発見がなされるかもしれません。

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質問 情報・通信革命後の社会において、人間の認識能力・情報処理能力が抱え込む問題にはどんなものがあるのでしょうか。【技術論】
回答
 歴史的に見て、技術革新によって人間の認識能力に変革が迫られた例は、これまでにもいくつかあります(例えば、印刷の普及によって視覚的な識字能力の向上が必要になったことなど)。しかし、現在進行中の情報・通信革命は、いまだその全貌が見えていないこともあって、人間にどのような影響を与えるのか、はっきりしたことはわかっていません。ここでは、思いつくままにいくつかのポイントを指摘してみます。
 最も基本的な問題は、伝達される情報の質が、常にメディアによる制約を受けるという点です。マルチメディア通信の拡充が図られているとは言っても、現在の端末は、長大な学術論文や彫心鏤骨の芸術作品を見るには不向きであり、どうしてもパターン化された断片的な情報ばかりが大量に流通する傾向が強くなります。また、出版社や放送局のように、情報を精選し整理する仲介者がいる場合には、そのランクに応じて(「NHKのニュースなら確かだろう」というように)信頼の度合いを変えることができますが、高度な学術情報から誹謗中傷めいたクズ情報まで、あらゆる内容がデモクラティックに飛び交っているインターネットでは、良くも悪くも情報のランクが失われてしまいます。この結果、端末を通じて人々が受信する情報には、往々にして、重要な要素が欠落している一方で、不必要な内容が過剰に含まれてきます。
 メディアを介して情報交換を行う場合に重要な要素が欠落しやすいということは、主張の異なる者同士が妥結を求めて交渉を進めるケースを考えるとわかりやすいでしょう。他者と膝を交えて話をするときには、発話された文章の内容だけではなく、相手の顔つきや視線、間の取り方や言い間違え、選ばれた交渉場所の雰囲気など、入手可能なあらゆる情報を総動員して状況を判断することになり、その過程で、相手はここまでなら妥協するが、この線は譲らないという「交渉の落としどころ」が見えてきます。ところが、Eメールなどを通じて交渉していると、文面上で互いに建て前を主張するばかりで、いつまで経っても話がまとまらないという結果になりがちです。インターネットのニュースグループで立場を異にする相手との議論が剣呑になりやすい、日常生活では慎重な人がEコマースで簡単に詐欺に引っかかってしまう──などのケースも、メディアを介した情報から人間が判断の際に利用する多くの要素が失われているためだと思われます。取りあえず実用化できた技術を逐次投入していくという場当たり的な情報・通信革命に翻弄されないためには、端末に表示された情報を鵜呑みにするのではなく、そこに欠落した要素を補いながら解釈する能力が必要となるでしょう。
 現在のように通信にコンピュータが利用されるようになると、クズ情報の拡大再生産という問題も無視できなくなります。かつて深夜ラジオを通じて中高生を中心に拡がっていった「都市伝説」は、今やインターネットを発信源としていますし、大量のジャンクメールもEメールユーザの悩みの種となりつつあります。日常生活では、一般に、繰り返し提示される情報は重要なものだという経験則がありますが、コンピュータを使って簡単に複製が作り出せるネット上の情報には、この法則は当てはまりません。さらに、携帯端末が生活の中に入り込み、常に内容の薄い断片的な情報に曝されるようになると、思考の画一化や文化的な多様性の喪失についても心配しなければならないでしょう(若者が携帯電話を使って友人と“まったりした”会話を止めどなく続けているのも、その現れなのでしょうか)。クズ情報と有用な情報を自律的に選別して情報にメリハリをつける能力も、情報氾濫の時代を生きる上で重要になってきます。
 このほかにも、考えておかなければならない問題がいくつかあります。例えば、仮想現実(virtual reality)を作り上げる技術に磨きがかかり、ナマのデータと作られたデータの識別が困難になったことも、懸念される点です。かつてのソ連では、政府要人が一堂に会した写真から、後に失脚した人物だけが修整によって消されてしまったことがありましたが、現在では、こうした写真の修整はもちろん(卒業写真の欠席者も、別枠ではなく集合者の列の中に紛れ込ませることができます)、実際には起こらなかったことを映像で表現する手法もますます巧妙になっています。映画『ジュラシック・パーク』の恐竜なら作り物だと見当がつくもの、ニュース映像の中にCGを混ぜられると、誰も気がつかないままマインド・コントロールされてしまう危険があります。もちろん、テレビなどでは、こうした情報操作は放送法によって禁じられていますが、通信メディアによって配信される映像の場合、充分な規制はありません。人間には、目で見たことは簡単に信じ込んでしまう性向があるので、「事実のように見えるからといって事実とは限らない」ということを常に念頭に置いておく必要があるでしょう。

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質問 子供に対する簡単な内容の「しつけ」は、コンピュータに命令文を入力するようなものだと考えられるのでしょうか?【技術論】
回答
 こんにち使用されているコンピュータは、どんなに複雑な作業をこなしているように見えても、所詮は膨大な論理演算を高速に処理しているだけであり、「求められた値を変数に代入する」とか「変数がある値以上の時には指定されたサブルーチンを実行する」といった単純なプロセスに分解して考えることができます。これに対して、人間の中枢神経系は、デジタル的な情報処理を行うだけではなく、アナログ的なパターンマッチングや身体反応を利用した報償系など、さまざまな機能を複雑に絡み合わせながら行動方針を決定しています。熱い物体に触ったときに手を引っ込めるといった脊髄レベルでの反射を別にすると、人間の行動は、「ある条件の下で決まった応答を行う」という単純な要素に分解できるものではありません。当然のことながら、行動規範を身につける過程でも、コンピュータへのコマンド入力とは比べものにならないほど高度な作業が行われているのです。
 ご質問にあった幼児のしつけのケースを考えてみましょう。幼児が特定の規則に従った行動をとれるようになるには、与えられた規則をいったんモデル化し、自分が置かれている状況に応じて適切な規則を適用する方法を身につけることが必要です。例えば、「友達をぶってはいけません」という教えは、大人にとっては簡単な規則であっても、経験の乏しい幼児は、「友達とはいかなる対象か」「ぶつとはどのような行為か」「この規則が適用される状況はどんなときに発生するのか」を理解することから始めなければなりません。さらに、こうした教えを実際に守るには、内的モデルに変換された抽象的な行動規範を具体的な局面に適用する能力が要求されます。幼児が何か行動するときに──「友達をぶっちゃいけないんだよ」などと──独り言を言っていることがありますが、これは、抽象的な学習記憶を呼び出して具体的な行動方針に再構築している最中だと考えられています。
 幼児が行動規範を守る過程でどのような能力が必要とされるかは、規範を守れない子供の研究を通じて解明されつつあります。近年注目を集めているのが、「注意欠陥多動性障害(attention-deficit hyperactivity disorder;ADHD)」と呼ばれる症状です。ADHDの子供は、日常生活において極端に不注意で、与えられた指示に従うことができず、じっとしておれずに手足をせわしなく動かし、不適切な状況で走り回ったり過度におしゃべりをしたりします。ADHDには複数の要因が関与していることが知られており、その中には、課題遂行中に情報を脳裏に留め置くためのワーキングメモリーや規則の適用を自分自身に了解させるための内的発話機能の障害が含まれています。さらに、こうした障害が生じる原因として、右前頭前皮質や大脳基底核の発育不全などが指摘されていますが、完全には解明されていません。
 何かを学習しているときに幼児の頭の中でどれほど複雑な作業が行われているかを考えれば、しつけが単純なものではないということがわかると思います。心理学者や教育学者の間で、効果的なしつけとは何かという点でコンセンサスができていないのも、無理からぬことでしょう。ただし、一般的に言えるのは、しつけにおいては論理的な一貫性が重要だという点です。しつける者が、ある時は「ゴミを散らかしちゃいけませんよ」と言い、別の時には自分で平然とゴミを投げ捨てていたのでは、子供が行動規範としての適切な内的モデルを形成できないからです。

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質問 全宇宙に存在する元素の生成過程について教えてください。元素の存在はわかるのですが、生成過程がわかりません。【現代物理】
回答
 天体や生命を構成している元素は、宇宙誌のいろいろなさまざまな局面で段階的に作られてきました。ここでは、その過程をかいつまんで紹介しましょう。
 最も軽い水素とヘリウムの大部分は、約150億年前に起きたビッグバンの高温の中で生まれたと考えられています。宇宙開闢直後には、陽子(p)・中性子(n)・電子・光子などの素粒子が熱いスープ状に漂っていましたが、宇宙が膨張して温度が下がってくると、核力が熱運動にうち勝って陽子と中性子を徐々に合体させるようになります。こうして、宇宙が始まって数分のうちに、水素(1p)・重水素(1p1n)・三重水素(1p2n)・ヘリウム3(2p1n)・ヘリウム4(2p2n)など、4個以下の陽子と中性子が合体してできる元素(およびリチウムの一部)が合成されます。しかし、陽子・中性子が5個集まった元素は不安定なためになかなか合成できず、そうこうしているうちに宇宙がどんどん膨張して物質密度が減少してしまって、これ以上の元素合成は行われませんでした。
 宇宙が冷えてくると、水素やヘリウムが重力で集まって天体を形成します。こうしてできたガス球の内部は1500万度以上の高温となり、高密度になった原子核同士が激しく衝突して、最終的に4個の陽子が(2個の陽電子と2個のニュートリノを放出して)ヘリウム原子核を形成します。ヘリウムの合成が進んで中心部に蓄積されると、圧力のバランスをとるために中心核が収縮する一方、水素の外層は数十倍の大きさに膨らんで、低温の赤色巨星へと進化していきます。
 赤色巨星の中心部は、それまで以上に高温・高密度になって、ヘリウム原子核が核融合を起こすようになります。2個のヘリウム原子核(2p2n)同士が衝突すると、一瞬ベリリウムの原子核(4p4n)形成されるものの、通常はすぐに分解してしまいます。しかし、分解する前に第3のヘリウムが衝突すると、安定な炭素原子核(6p6n)が作られます。炭素は、有機分子の骨格を形作る元素なので、この反応がなければ(地球型の)生命は発生できなかったわけです。炭素にさらにヘリウムが衝突すると、酸素の原子核(8p8n)になります。
 多くの赤色巨星の内部では、酸素と炭素しか合成されません。これらの星は、核反応を数百万年間続けた後、利用可能な燃料を使い尽くして、小さくしぼんで白色矮星となります。しかし、太陽より何倍も重い星では、中心部の密度がきわめて高いため核反応がさらに進んで、ネオン(10p10n)・マグネシウム(12p12n)・ケイ素(14p14n)から鉄(26p30n…陽子が陽電子とニュートリノを放出して中性子に変わっています)に至る重い元素が合成されていきます。ただし、鉄より軽い元素を合成する際にはエネルギーが放出されるのに対して、鉄より重い元素を合成するにはエネルギーを加えてやる必要があるので、星の内部における元素合成の系列は鉄で行き止まりとなります(ケイ素より重い元素の中で鉄が最も大量に存在するのはこのためです)。
 恒星内部に鉄が合成され始めると、核融合によるエネルギーが放出されなくなり、重力に抗して星を支える圧力が保てなくなって、中心核が急激に崩壊します。この過程で中心核は高密度の中性子星またはブラックホールになりますが、遅れて崩れてきた外層の物質は、固い中心核に跳ね返されて巨大な衝撃波を生み出します。この衝撃波によって星は大爆発(II型超新星爆発)を起こし、内部で合成されていた炭素から鉄に至る元素を宇宙空間に放出します。それと同時に、発生する熱エネルギーによって鉄より重い元素の核融合が進み、金や鉛、ウランなどの元素が作られていきます。
 超新星爆発は恒星の死を意味しますが、1つの星が死ぬことによって生命の源となる多くの元素が宇宙空間にばらまかれることは、宇宙における破壊と再生の不思議な連鎖を構成しているとも言えます。
 元素の宇宙存在度に関する項目がありますので、そちらも参照してください。

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©Nobuo YOSHIDA