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 問  題   解  答   解  説 

出題のねらいと解法のカギ



第1問

 なめらかな水平面上の2つの物体の相互作用に関する設問で、力学的エネルギー保存則とx 方向の運動量保存則が成立することさえわかれば、基本問題と言える。台が立体的になっていることを別にすれば、1次元の弾性衝突と同等のプロセスである。


I. 小球+台という物体系に加わる外力は、z 軸方向下向きの重力と上向きの水平面からの垂直抗力だけである。x 方向には外力は加わっていないので、この方向の運動量は保存される。したがって、ある瞬間の小球の速度のx 成分をvx 、台の速度(題意からx 成分しか持たない)をV とすると、次の運動量保存則が成立する。

  mv = mvx + MV     …(1)

一方、この相互作用を通じて摩擦力が作用していないので、力学的エネルギーも保存される。小球の高さがh になったときの速度のx,z 成分をそれぞれvx , vz とすると、次の式が成り立つ。

  1/2mv2 = 1/2mvx 2+vz 2) + 1/2MV 2 + mgh …(2)


(1) 小球が高さh まで上ってから引き返す場合を考える。 figure 小球が高さh にあるときには、台に対する相対速度は0になるので、

  vx = V

  vz = 0

となる。これを、(1)と(2)に代入すれば、

運動量保存則:

  mv = (m + )V     …(答)

力学的エネルギー保存則:

  1/2mv 2 = 1/2(m + ) V 2 +mgh     …(答)


これからV を消去して整理すれば、

  figure     …(答)


(2) 小球が台を乗り越えるギリギリの条件は、(1)で求めたh が、台の最高点の高さH と等しくなることである。したがって、

  figure

これを解けば、

  figure    …(答)

を得る。


II. 小球と台が離れた後のそれぞれの速度(いずれもx 成分のみを持つ)を、それぞれv'V' と置く。このときも、運動量保存則と力学的エネルギー保存則が成り立つ。

  mv = mv' + MV'     …(3)

  1/2mv 2 = 1/2mv' 2 + 1/2MV' 2     …(4)


(3)をV' について解いたものを(4)に代入して変形すれば、

  (v - v' ){Mv + v' )- mv - v' )}= 0   

を得る。これより、2つの解のセットが得られる。

解1: figure  figure

解2: v' = v, V' = 0


解1では、台の速度が正になるのに対して、(m <M という条件より)小球の速度は負になっている。これは、v <v0  という条件が満たされ、小球が斜面の途中から引き返すことを意味する。一方、解2では、台が停止して小球が正速度で右向きに運動しているので、v >v0 となって小球が台を越えていく運動を表している。

 以上をまとめると、vに対するv'のグラフは、解答欄に記したものになる。

 なお、解1の場合、台に対する小球の相対速度が

  v' - V' = -v

となるので、衝突前後の相対速度の絶対値は等しい。これは、通常の弾性衝突の場合と同じく、跳ね返り係数が1になることに相当する。一方、解2の場合に形式的に跳ね返り係数を計算すると、-1になる。


III. 小球が粘着テープに捉えられる際には、力学的エネルギーが(熱エネルギーや音エネルギーになって)失われるので、力学的エネルギー保存則は成り立たない。しかし、粘着テープを介しての相互作用は、小球+台という系の内力であり、系の外側から加わる外力にはx 成分はないので、この系での運動量のx 成分はやはり保存されることになる。小球と台が一体となって運動するときの速度をV0 とすると、運動量保存則は、

  mv = (m + )V0

となる。これより、

  figure        …(答)

を得る。テープにくっつく際に失われた力学的エネルギーΔE を求めるには、最初と最後の力学的エネルギーの差を取ればよい。

  ΔE = 1/2mv 2 - 1/2(m + ) V 0 2 - mgh'  

   figure          …(答)



第2問

磁界の中を運動するコイルに関する出題である。コイルに生じる誘導起電力や、誘導電流が磁界から受ける力の計算は、いずれも公式を適用するだけの基本問題である。物理的なセンスが問われるのは、十分に時間が経過したときの運動状態を答えさせる設問で、コイルを貫く磁束が変化するときに運動を妨げるような力が働くことが直観的にイメージできれば、ほとんど計算せずに正答が導けるはずだが、公式を丸暗記しただけの人は、IIIやIVにかなり手こずるだろう。

I. X <0 の範囲では、導線が磁界に掛かっていないので、コイルの運動は、質量m の物体がバネ定数k のバネに取り付けられたときの単振動になる。題意より、振幅d の単振動において、変位が-1/2d のときの速度v を求めればよい。力学的エネルギー保存則より、

  1/2kd 2 = 1/2k (-1/2d )2 + 1/2mv 2

これを解いて、

  figure     …(答)


II. コイルの一部が磁界に掛かった形で運動するときは、コイルを貫く磁束が変化し、誘導起電力E が生じる。誘導起電力の大きさは、次のようにして求められる。

【解法1】正方形コイルのうち、磁力線を切りながら動いているのは、右端の1辺だけである(問題の条件より、左側の辺が磁界内に進入することはない)。この部分の導線(長さd )は、磁束密度B の磁界に直交する向きに速度v で運動しているので、誘導起電力の大きさは、公式より、

  E = Bvd

となる。

【解法2】コイルが速度v で動いているとき、微小な時間間隔Δt の間にコイルを貫く磁束Φ は、

  ΔΦ = BvdΔt

だけ増加する。したがって、誘導起電力の大きさは、

  figure

となる。

 誘導起電力E が生じているとき、全抵抗R の回路に流れる電流i は、

  figure       …(答)

となる。また、レンツの法則より、誘導電流i によって生じる磁界がコイルを貫く磁束Φの変化をうち消そうとするので、誘導磁界は鉛直下向きとなり、i

figure   「上から見て右回り(時計回り)」   …(答)

に流れる。

 磁界から電流i に作用する力f の大きさは、公式より、

  figure

となる。その向きは、右ねじの法則(電流から磁界の向きに回したとき右ねじが進む向きに力が働く)より、x 軸の負の向き(速度v と逆向き)になる。したがって、力のx 成分は、

  figure

と表される。fv と逆の向きになることは、「電磁誘導は変化を妨げるように生じる」という性質からも明らかである。


III. 速度v で運動する物体に対してf = -ρv (ρは比例係数)という形で作用する力は、ゆっくり動いているときにはあまり大きくないが、速く動かそうとするほど大きな抵抗となって現れる。これは、粘性のある流体の中を運動するときに生じる「粘性抵抗」と同じタイプの力で、水中で体を動かそうとするときに実感されるものである。コイルの一部が磁界に掛かっているときは、この「抵抗」が作用して力学的エネルギーが失われることになる。

 バネに取り付けられたコイルが磁界に進入すると、コイルの運動とともに力学的エネルギー(バネの弾性エネルギー+コイルの運動エネルギー)が失われる。電界と違って磁界は仕事をしないので、力学的エネルギーの減少分は、すべてジュール熱となって散逸する。こうしたエネルギーの散逸は、コイルの一部が磁界に掛かっているときには必ず生じるため、十分時間が経過した後には、磁界内での力学的エネルギーは、取り得る最小の値になるはずである。これは、バネの変位が最小になり、かつ、運動エネルギーが0になる状態なので、コイルの右側の辺が磁界の境界にあるとき(X =0)に速度が0でなければならない。X <0での単振動を考えると、この条件は、X =0が単振動の端になることを意味する(下の図を参照せよ)。

figure

したがって、コイルが最終的に行っている運動は、

  X=-1/2d を中心とする振幅1/2d の単振動  …(答)

となる。この単振動の力学的エネルギーは、1/2k (1/2d2であり、これと、運動を始めたときに持っていた力学的エネルギー1/2kd 2 との差が、コイルで発生したジュール熱Q になる。よって、

  figure     …(答)


IV. 上の考察からわかるように、コイルの一部が磁界に掛かっている(運動とともにコイルを貫く磁束が変化する)場合は、電磁誘導による「抵抗」のために、力学的エネルギーが最小になるように運動状態が変化する。

 磁界が存在しない場合、下の図に示されるように、コイルは、X 0-2d からX 0+d までの範囲で単振動する。この過程で磁界にどれだけ進入するかによって運動の変化が起きるので、次のように場合分けすることができる。

figure

(i)X 0+d < 0 のとき:この場合は、コイルが運動する途中で磁界に進入することがないので、電磁誘導による「抵抗」は生じず、当初の単振動をそのまま続けることになる。ジュール熱によるエネルギーの散逸は起きない。

(ii) X 0-2d > 0 のとき: この場合は、コイル全体が常に磁界内部に位置しており、コイルを貫く磁束が変化しない(あるいは、右側と左側の辺で生起する誘導起電力が打ち消しあう)ため、コイルに誘導電流は流れない。したがって、ジュール熱も発生せず、単振動が持続する。

(iii) X 0+d > 0 かつX 0-2d < 0 のとき:運動中に電磁誘導による「抵抗」が生じて、ジュール熱による力学的エネルギーの散逸が起きる。このケースは、さらに、バネが自然長になったときにコイルが磁界に掛かっているかどうかによって、次の3つに場合分けされる。

(iii-1) X 0 < 0 のとき:この場合のコイルの運動は、IIIで論じたケースと同じく、コイルの右端が磁界の境界に来る位置を折り返し点とする単振動に漸近していく。最終的な単振動の振幅は|X 0|となるので、ジュール熱Q として失われる力学的エネルギーは、

  Q = 1/2k (d 2 - X 02)

(iii-2) X 0 - d > 0 のとき:この場合も、コイルの一部が磁界内にあるときは電磁誘導による抵抗が生じ、コイル全体がスッポリと磁界の中に入ってしまうようになるまで運動状態が変化する。最終的な単振動の振幅は、バネが自然長になっているときのコイルの左端から磁界の境界までの距離なので、|X 0 - d | となる。したがって、ジュール熱Q として失われる力学的エネルギーは、

  Q = 1/2k {d 2 - (X 0 - d )2}

(iii-3) X 0 > 0 かつ X 0 - d < 0 のとき:この場合は、バネが自然長になったときに、コイルが磁界の境界をまたいでいる。したがって、力学的エネルギーが最小になるのは、変位が0になって運動が停止した状態である。発生するジュール熱は、初めに系が持っていた全力学的エネルギーに等しく、

  Q = 1/2kd 2

となる。


 以上の結果をまとめると、次のようになる。

X 0 の範囲 発生するジュール熱
X 0 < -d
-d
< X 0 < 0
0 < X 0 < d
d
< X 0 < 2d
2d
< X 0
    0
  1/2k (d 2 - X 02)
  1/2kd 2
  1/2k {d 2 - (X 0 - d )2}
    0


第3問

 理想気体の状態変化に関する問題で、自由膨張する過程以外はきわめてスタンダードな設問になっている。自由膨張のときに気体の温度が変化しないことは、温度が低下する通常の膨張と異なり直観に反しているのでわかりにくいかもしれない(現実の気体は分子間力があるのでわずかに温度が変化する)が、内部エネルギーと温度の関係が把握できていれば、解答は可能だろう。また、IVで無駄な計算をせずに正答に達することも、短時間で高得点を上げるために必要である。

I. 状態(i)のときの気体の圧力をP 1〔N/m2〕 とすると、コックが開いていたときにピストンが奥まで押し込まれていたことより、

  P 1 < P 0

でなければならない。

 ピストンを引き出して真空の領域を作り出す過程では、外力がする仕事は、すべて大気に対してなされるもので、容器内部の気体にエネルギーを与えることはない。外力が大気に対してなす仕事W 1は、大気圧P 0〔N/m2〕と釣り合う力を加えながら体積1/2V 〔m3〕 の大気を排除したことから、

  W 1 = 1/2P 0V        …(答)

となる。ストッパーに接触してからピストンは動かないので、それ以降に加えられる外力は仕事をしない。


II. コックが閉じられているので、(i)から(ii)への状態変化は、定積加熱の過程となる。単原子分子気体の定積モル比熱Cv〔J/mol・K〕 は、

  figure      …(1)

であることが知られているので、1モルの単原子分子理想気体を温度がT 〔K〕から2T 〔K〕まで定積加熱する過程で吸収した熱量Q 1〔J〕 は、

  figure       …(答)

となる。


III. コックを開いて気体を噴出させる過程は、自由膨張であり、ピストンに力を加えて押し出すことがないため、外部に仕事をしない。また、容器が断熱材でできているので、この過程で熱の出入りもない。したがって、熱力学第1法則より、気体の内部エネルギーにも増減はない。

 このことは、気体分子の運動を考えるとわかりやすくなる。分子間力が無視できる理想気体では、各分子は(壁や分子同士の衝突を別にすると)自由に容器内部を飛び回っていると考えてよい。自由膨張の過程では、分子が動き回るスペースが増加するだけで、個々の分子が持っている運動エネルギーには変化がなく、個々の分子の運動エネルギーの総和である気体の内部エネルギーも変わらない。

 n モル理想気体の場合、内部エネルギーU 〔J〕と温度T 〔K〕は、次の関係式で結ばれている:

  U = nCvT          …(2)

 これより、内部エネルギーの増減がないときには、温度も変化しないことになる。したがって、状態(iii)の温度は状態(ii)と等しく

  2T となる       …(答)


IV. 気体が状態(iii)になっているときに、パイプに流す液体の温度を変えて気体を冷却すると、次の3つの過程を経て状態(i)に戻ることになる。

 この過程を通じて気体が放出する熱量を求めるのに、(a),(b),(c)のそれぞれの段階での熱量を計算して足しあわせても良いが、熱力学第1法則を利用すると、ずっと簡単である。(iii)から(i)に変化するときの気体の内部エネルギーの変化ΔU〔J〕は、(1),(2)より、

  figure

しかるに、気体がされた仕事W 2〔J〕 (気体に加えられた力学的エネルギー)と気体が放出した熱量Q 2〔J〕 (気体から失われた熱エネルギー)を使えば、熱力学第1法則より、

  figure

となる。したがって、

  figure       …(答)

を得る。


V. 状態(i)(ii)(iii)のときの気体の圧力を、それぞれP 1, P 2, P 3〔N/m2〕 とすると、各状態での状態方程式は次のようになる:

  figure



 これより、

  figure      …(3)

となる。気体が状態(i)のときに、コックが開いたままでもピストンが奥まで押し込まれていたことより、

  P 1 < P 0              …(4)

でなければならない。また、気体が状態(iii)のときに、加えていた外力を取り除いてもピストンが動かなかったという条件から、

  P 3 > P 0            …(5)

であることがわかる。(3),(4),(5)をまとめると、

  figure           …(答)

を得る。

 参考のため、(i)→(ii)→(iii)→(i)という状態変化のpV 図を掲げておこう。

figure

VI. 装置内部の気体は、状態(i)から始まり、熱量Q 1〔J〕 を吸収、熱量Q 2〔J〕を放出、仕事W 2 をされて、また状態(i)に戻っている。最初の状態に戻ったことより、内部エネルギーの増減は0となるので、熱力学第1法則は、次の式で表される:

  Q 1 - Q 2 + W 2 = 0         …(答)

 この式が実際に成り立っていることは、IIIIIの解答を代入すれば直ちに確かめられる。

 一方、周辺大気と装置の間には熱のやりとりがないので、考慮しなければならない熱力学的な相互作用は、Bのピストンを出し入れする過程だけである。まず、ピストンを引き出すときに、外力が大気に対して仕事W 1〔J〕をしている。次いで、大気と内部の気体の圧力が釣り合ってピストンが押し込まれる過程で、大気が内部気体に対して仕事W 2〔J〕をしている(大気は-W 2〔J〕 の仕事をされている)。この2つの熱力学的作用によって最初のエネルギー状態に戻るので、熱力学第1法則は、

  W 1 - W 2 = 0       …(答)

と表される。

 こうしたエネルギーの流れは、次のように模式的に示すことができる。

figure


©Nobuo YOSHIDA