現代科学の方法論

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概要

 この章では、科学における認識論を論じるための準備として、現代の自然科学の枠内でどのような学問的方法論が採られているかを議論する。具体的には、現代科学が、単に理論の数理的なモデル化を行うのみならず、機能主義的なシステム哲学を援用することにより、研究体制の分業化を進めながら学問全体を組織化していることを指摘し、これを直観的・全体的方法論と対置する。
 本論にはいる前に、以下で用いる論法について一言注意しておこう。議論を展開するに当たって実際に行われている研究内容をしばしば引用するが、それはあくまで科学哲学の説明力の貧弱さを補い、理解の一助とするためのものであって、論述自体は決して実証的ではない。何となれば、科学研究のようにきわめて広範な内容を有する現象を論じる場合、ほとんど如何なる命題に対しても、それに合致する、あるいは反する実例を見いだすことは可能であり、帰納的に議論を進めることが事実上困難だからである。従って、ここでは確固たる基盤の上に立った論証は諦め、代わりに現代科学の実像を理念型として提出することを目的とする。その妥当性は、当該理念型を用いる学問が有効か否かで判定される。
 議論の構成は、以下の通りである。はじめに、第1節から第3節までを使って、現代科学の方法論的な特徴を、順に、理論の構築法、運営法、評価法の各観点から論じ、さらに、第4節でこんにち実現されている研究体制を考察する。また、第5節では、科学的方法論の他の領域への普及という観点から、現代における人文科学の「科学化」の傾向を示す。第6節では、現代科学への批判とそれに対する方法論的な反論を提示する。
この論文は、論文集『空間・時間・精神 〜科学的認識論の最前線〜』に収録されたものである。


©Nobuo YOSHIDA