化 学 物 質

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概要

 20世紀の技術文明は、新しい化学物質の開発によって支えられてきたと言っても過言ではあるまい。われわれの身の回りには、自然界には存在しない各種の新素材で作られた製品が溢れているし、それらの製造・加工の過程でも、溶剤や洗浄剤などに化学物質が利用されている。これらの化学物質は、間違いなく産業の発展に大きな寄与をしてきた。しかし、その一方で、自然界にとっては、従前の物質循環システムの中に組み込まれていない“異物”であり、化学汚染や生態系の崩壊を引き起こす元凶となりかねないものである。
 こうした問題が注目を浴び始めた1960年代当時は、人間や動植物に直接傷害を及ぼす「有毒物質」の除去が最優先課題だった。しかし、近年では、身体への直接的影響が小さく、その危険性が充分に理解されないまま製品が普及した結果として、危機的な状況が表面化するに到ったケースが数多く見られる。化学物質を開発した科学者・技術者は、産業上の有用性に目を奪われて、こうした“周辺事態”にまで配慮していなかったのではないか。
 ここでは、開発された当初は「夢の物質」として高く評価されながら、現在では、技術文明の「負の遺産」として恐れられている化学物質について、産業社会で利用されるに至る経緯と、その環境毒性の実態を検証する。
  1. PCB(科学的な研究開発の方法論、環境問題の起源)
  2. フロン(低レベル汚染の予測不能性、オゾン層破壊の現状)
  3. 環境ホルモン(内分泌攪乱の機構、PL法は適用できるか)
  4. プラスチック(便益とリスクの相克、企業の責任範囲)
  5. 抗生物質・抗菌剤(病原体概念の狭小さ、耐性菌の発生)
  6. 化学物質とどうつきあうか(化学物質過敏症、テクノロジー・アセスメント)



©Nobuo YOSHIDA