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§1.リサイクルの現状と今後

L14_fig22.gif  現在、多くの国で廃棄物問題は深刻な状況にある。過去数十年間にわたって、人口の増加や消費型産業の発展に伴ってゴミの量が増大してきたのに対して、ゴミ処分場の建設に対しては、環境の悪化を理由に地域住民が反対し、慢性的な不足が生じているからである。こうした中で、製品の再使用や再資源化など広い意味でのリサイクルを推進し、廃棄されるゴミの量を削減することが急務となってきた。

 ただし、すでに大量消費生活の便利さに慣れた市民を相手に、リサイクルの必要性を訴えるだけでは、実効性に乏しい。1991年のOECD(経済開発機構)理事会では、より有効な手段として、次のような「経済的手法」を勧告している。

 ここでは、各国のリサイクルへの取り組みを示すものとして、容器に対するデポジット制度を見ていくことにしよう。


■デポジット制度

L14_fig18.gif  OECD加盟国の都市ゴミに占める容器包装廃棄物の割合は平均で3割(重量比)に達し、各国ともデポジット制や課税措置の導入により、ゴミの減量化を図っている。日本の場合、一般廃棄物に占める容器包装の割合は、容積比で55.5%(右図)、重量比で22.6%になる(1999年度環境白書)が、法的なデポジット制は導入せず、独自の容器リサイクル法によって問題の解決を図ろうとしている。


デポジット制度
廃棄物として放出されると環境に悪影響を与えるような製品の販売価格にデポジット(預託金)を上乗せし、製品ないしその廃棄物が(リサイクル可能なように)適切に返却された場合に預託金を払い戻す制度。消費者自身が返却を進んで実行するようになるだけでなく、環境中に放置された廃棄物の収集を促す効果がある。飲料容器の他、乾電池・プラスチック・農薬などさまざまな導入例がある。

ドイツ
 ヨーロッパを代表する“環境先進国”ドイツでは、デポジット制をはじめとするさまざまな施策によって、リサイクルを推進している。
 飲料・洗剤・洗浄剤の容器については約40円のデポジットを上乗せすることを義務付け、回収率は95%を超えている。また、政策的にリターナブル容器(返却後に再使用される容器)の保護を強く打ち出しており、「飲料容器条例」では2000年までに飲料容器の94%をリターナブルにすることが定められた。日本では1回の使用で破砕してしまうペットボトルも、リターナブルとして回収され、約30回繰り返し使用される。1989年にデボジット制(約50円)が導入されており、回収率は高い。一方、リターナブル化が困難な缶飲料は、生産が極端に制限されている。
スウェーデン
 スウェーデンも、ドイツとともに政府が環境問題に前向きであることで知られている。
 アルミ缶の場合、以前は使い捨てにされてきたが、その弊害が表面化したため、1982年に75%以上のリサイクルができなければ使用禁止にするという厳しい政府提案が出された。これを受けて、業界が試行錯誤の末に自主的にデボジット制を採用(1983)、その結果、リサイクル率は91%とアルミ缶としては世界最高になった。
 使い捨て(ワンウェイ)のペットボトルは1991年から禁止された。ガラスびんはメーカーが再使用しやすいように規格統一されており、94%がリターナブルとなっている。使い捨てびんには高い環境税がかけられる。街角に回収ボックス(びんの場合は透明・茶色ビンなど色別に集められる)が設置されており、回収率は97%以上に達する。
アメリカ
 ニューヨーク州では、それまで悪化の一途を辿っていた散乱ごみ対策として、飲料容器(びん・缶・ペットボトル)に対するデポジット法が1982年に成立した。5セント(=約5円)のデポジット導入後1年で散乱ゴミは15%減少、埋め立てゴミも20万トン滅少したと言われる。都心部にはホームレスが拾ってくる飲料容器を買い取るセンターが設立されている。回収率80%。同様の制度が、オレゴンやマサチューセッツなど9つの州で採用されている。
 また、カリフォルニア州では、製品に薄く掛けられた課徴金と再生資源の売払金を財源として返却された容器を買い上げる制度を実施し、カリフォルニア方式として注目されている。
アジア諸国
 台湾では、散乱ゴミ対策としてさまざまな施策が実行されたがあまり効果が上がらず、1992年になって、環境保護の行政指導でペットボトルの回収基金が設立され、デボジット制度が導入された。デポジット金額は1元(=4円)で、回収率は79%(1996)に達し、各種の施策の中でデポジット制度の有効性の高さが実証された。
 また、韓国でも、紙パック・ガラスびんのほか電池・タイヤ・一部家電にもデポジット制度が導入され、かなりの効果を上げている。
日本
L14_fig20.gif  デポジット制は義務づけられておらず、ビールびんに関してのみ、業界が自主的に容器保証金制度を設け、99%が回収されている。現在、市町村が回収している缶やびんの回収率は約6割、ペットボトルに至っては16.8%(1998)でしかない(ただし、それでも1994年時点の1%からは大幅に向上している、右図)。また、リターナブルびんは、消費者が望まない、回収に手間がかかるなどの理由で、ほとんど使用されていない。デポジット制度を導入しないで100%の回収を達成するためには、2兆円を越える費用が必要と見積もられている。
 法的なデポジット制は導入されていないが、拡大生産者責任(後述)の考えに基づいて自主的に実践しているところもある。紙コップ搭載の自動販売機を駅やオフィスに設置している東京のある飲料会社では、料金に10円のデポジットを上乗せし、紙コップを専用の回収機に入れるとこれが返却されるという仕組みを開発した。従来は、紙コップ用のゴミ箱を自販機の脇に置いて回収していたが、それでは、紙コップだけではなく、他のトレーやタバコなども投棄されるため、製紙会社に紙ゴミとして販売するには、社員が手で分別しなければならず、効率が悪かった。デポジット制の導入は、回収率をたかめるだけでなく、回収物の質を向上させるというメリットもあった訳である。


■リサイクルへの法整備(日本)

 国際的に見てもリサイクル活動の遅れが目立つ日本だったが、1990年代の後半から、政府もこの問題に本腰を入れ始めた。特に、リサイクル関連法の数では、諸外国以上に“充実”している。具体的には、次のような法律が成立している:

 ここでは、容器包装リサイクル法と家電リサイクル法について解説する。

容器包装リサイクル法(容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律)

 環境基本計画(1994年閣議決定)に基づいて策定された容器リサイクル法により、1997年からスチール缶・アルミ缶・紙パック・ガラスびん・ペットボトルの分別収集が実行されている。ペットボトルとガラスびんについては、事業者に再商品化(リサイクル)の義務が発生する。2000年4月からは、プラスチックと段ボール箱もリサイクルの対象になるほか、適用される事業者が従来の大規模業者から中小規模の事業者にも拡大された。

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 ここでいう再商品化とは、原材料や製品として使用する者に引き渡せるような状態にすることを意味するが、日本の容器包装は製品として再使用されていることが前提とされていないものが多いので、大半は、原材料として再資源化される。ガラスの空びんは破砕して異物を除去・洗浄し、「カレット」というガラス容器等の原料にする。ペットボトルは、破砕して異物を除去・洗浄して、「フレークまたはペレット」という繊維などの原料にする。また、プラスチックを燃料となる炭化水素油にすることもリサイクルとして認められている。


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 この法律は、リサイクルに関して次のような役割分担を課すものである。

いまだ回収率が低いという問題はあるものの、1997年から部分的に施行されて以降、次第に成果が上がりつつあり、ある程度はうまくいっていると評価して良いだろう。ただし、いくつかの看過できないトラブルも表面化しつつある。

 特に大きな問題としては、リサイクルにコストがかかりすぎ、全く採算に合わないことが指摘される。ペットボトルの場合、回収品にキャップやラベルなどのPET以外の素材が混入していると、製造したフレークの質が悪くなるため、販売できるフレークを作るためには、手作業で分別を行った上で、何度も洗浄を行わなければならない。こうして手を掛けても、ボトルに賞味期限などを印刷しているためにインクが不純物として混入し、フレークの品質を低下させてしまう。また、ペットボトル由来のフレークから化学繊維を作ろうとすると、糸切れしやすい低品質のものしかできないにもかかわらず、専用の製造ラインが必要となって石油から作るよりもコストが掛かってしまう。これは、単にリサイクル事業が赤字になるというだけでなく、再資源化するのに膨大な資源を投入することを意味する。これでは、資源消費の節減は実現されない。

 容器包装のリサイクルを有意義なものにするには、1回の使用だけで破砕して再資源化することをメインにする現在の方式では不備であり、個々の製品の長寿命化や製品のままでの再使用を促進するべきである。ペットボトルに関しては、ドイツなどに習ってリターナブル・ペットボトルを採用、洗浄して再使用するというサイクルを数十回繰り返し、最終的には固形燃料としてサーマルリサイクルする方が、環境へのダメージが小さい。ただし、繰り返し利用されるペットボトルは、表面に細かな傷が付いていかにも中古品という見かけになるため、これを容認するように市民の環境意識を高める必要がある。


家電リサイクル法(特定家庭用機器再商品化法)

 現在、一般家庭から排出される家電製品は、小売業者または市町村が回収、その半分が直接埋め立てされ、残りは破砕処理された後、一部金属を回収してから埋め立てられる。こうした状況を改め、家電製品のリサイクルを図るために、製造業者・小売業者・自治体・消費者などの関係者の役割と義務を明確にし、リサイクルのシステムを構築するため、家電リサイクル法が1998年に制定された。2001年4月から施行予定である。リサイクル品目は政令で定めるが、施行当初は、テレビ・冷蔵庫・洗濯機・エアコンの4品目を対象とすることが決まっている。

 ここでいうリサイクルとは、回収された機器を解体し、分離した部品や材料を原材料・部品・燃料として利用すること。フロン(冷蔵庫やエアコンに冷媒として封入されており、オゾン層を破壊する環境破壊物質である)・鉛(蓄電池に使用され、人体に有毒である)など有害物質について適正な処理を行う。

 容器リサイクル法と同様に、次のような関係者の役割分担が定められている。

 家電リサイクル法は、容器リサイクル法と異なり、施行された当初はかなりの混乱を引き起こすことが予想される。最大の理由は、リサイクルに要するコストの高さである。現在、粗大ゴミ処理コストはトン当たり11万3760円(清掃局事業概要)なのに対して、徴収されている処理費用は2万8500円程度で、差額は税金で補填している。例えば、東京都の場合、粗大ゴミとして大型テレビを廃棄する場合は、1台当たり1400円程度の課金を徴収されるが、これを解体して金属原料の回収などを行うと、かなりの手間を要するため、最低でも5000円、あるメーカーの試算では1万円程度は掛かるとされる。大型冷蔵庫の場合は、厄介なフロン処理が加わるため、さらにコストがかさむ。

 指定家電を回収する際にメーカーが消費者から徴収する料金は、2000年秋に各企業から発表された。それによると、各メーカーとも同一の料金体系となり、実際に必要となる処理費用より大幅に低い額に設定されている(下表;処理費用は、都清掃局の試算による)。

品 目料 金処理費用
洗濯機2,400円7,688円
テレビ2,700円6,177円
エアコン3,500円8,733円
冷蔵庫4,600円15,822円

 当初、メーカー側は、処理費用に近いより高めの料金を望んでいたと言われる。しかし、首都圏で行われたアンケートでは、多くの消費者が1000〜3000円程度の負担なら支払うが、それ以上は好ましくないと答えており、あまり高額にすると不法投棄が増えることが懸念された。このため、通産省が3000〜5000円の範囲に収めるようにとメーカーを強く指導したようだ。結局、家電リサイクル法の趣旨に反して、処理費用の過半をメーカーが負担することになった。

 もっとも、メーカー負担でのリサイクルを強制することは、うまくいけば好ましい結果を招来すると期待される。メーカーは自腹を切って自社製品を再商品化することをを余儀なくされるので、あらかじめ「リサイクルしやすい」製品を製造するようになるはずである。既存の製品は、リサイクルされることが想定されていないため、再使用可能な部品だけを取り外すことは難しく、プラスチックの素材別回収も困難であるため、再資源化に手間がかかる。しかし、設計段階からリサイクルを考慮して作っておけば、より低いコストで処理を行うことができ、メーカーの負担は低減する。また、リサイクル製品(再使用部品・再資源化した原材料)の使用で利益を上げることもできる。こうして、メーカー主導でリサイクルが推進されると期待される。

 すでに、その効果は現れ始めている。例えば、シャープは、これまで典型的な家電製品には10種類以上のプラスチックを素材として使用してきたが、これをポリスチレン・ポリプロピレン・ABS樹脂の3つに統合すると発表した。プラスチックは、素材によって再原料化・油化・焼却処理・埋立処理など廃棄後の処理法が異なるため、人手で丹念に分別する必要があり、リサイクル・コストを押し上げる要因となる。生産段階で再資源化が可能な素材に統合しておけば、リサイクル費用が安く抑えられることになる。

 メーカーがリサイクル費用の過半をすることに関しては、製品の販売によって莫大な利益を上げている以上、当然の社会的責任だという見方もある。この「拡大生産者責任」は、循環型社会を実現する上できわめて重要な意味を持っている。




©Nobuo YOSHIDA