現在、多くの国で廃棄物問題は深刻な状況にある。過去数十年間にわたって、人口の増加や消費型産業の発展に伴ってゴミの量が増大してきたのに対して、ゴミ処分場の建設に対しては、環境の悪化を理由に地域住民が反対し、慢性的な不足が生じているからである。こうした中で、製品の再使用や再資源化など広い意味でのリサイクルを推進し、廃棄されるゴミの量を削減することが急務となってきた。
ただし、すでに大量消費生活の便利さに慣れた市民を相手に、リサイクルの必要性を訴えるだけでは、実効性に乏しい。1991年のOECD(経済開発機構)理事会では、より有効な手段として、次のような「経済的手法」を勧告している。
ここでは、各国のリサイクルへの取り組みを示すものとして、容器に対するデポジット制度を見ていくことにしよう。
OECD加盟国の都市ゴミに占める容器包装廃棄物の割合は平均で3割(重量比)に達し、各国ともデポジット制や課税措置の導入により、ゴミの減量化を図っている。日本の場合、一般廃棄物に占める容器包装の割合は、容積比で55.5%(右図)、重量比で22.6%になる(1999年度環境白書)が、法的なデポジット制は導入せず、独自の容器リサイクル法によって問題の解決を図ろうとしている。
国際的に見てもリサイクル活動の遅れが目立つ日本だったが、1990年代の後半から、政府もこの問題に本腰を入れ始めた。特に、リサイクル関連法の数では、諸外国以上に“充実”している。具体的には、次のような法律が成立している:
環境基本計画(1994年閣議決定)に基づいて策定された容器リサイクル法により、1997年からスチール缶・アルミ缶・紙パック・ガラスびん・ペットボトルの分別収集が実行されている。ペットボトルとガラスびんについては、事業者に再商品化(リサイクル)の義務が発生する。2000年4月からは、プラスチックと段ボール箱もリサイクルの対象になるほか、適用される事業者が従来の大規模業者から中小規模の事業者にも拡大された。
ここでいう再商品化とは、原材料や製品として使用する者に引き渡せるような状態にすることを意味するが、日本の容器包装は製品として再使用されていることが前提とされていないものが多いので、大半は、原材料として再資源化される。ガラスの空びんは破砕して異物を除去・洗浄し、「カレット」というガラス容器等の原料にする。ペットボトルは、破砕して異物を除去・洗浄して、「フレークまたはペレット」という繊維などの原料にする。また、プラスチックを燃料となる炭化水素油にすることもリサイクルとして認められている。
この法律は、リサイクルに関して次のような役割分担を課すものである。
特に大きな問題としては、リサイクルにコストがかかりすぎ、全く採算に合わないことが指摘される。ペットボトルの場合、回収品にキャップやラベルなどのPET以外の素材が混入していると、製造したフレークの質が悪くなるため、販売できるフレークを作るためには、手作業で分別を行った上で、何度も洗浄を行わなければならない。こうして手を掛けても、ボトルに賞味期限などを印刷しているためにインクが不純物として混入し、フレークの品質を低下させてしまう。また、ペットボトル由来のフレークから化学繊維を作ろうとすると、糸切れしやすい低品質のものしかできないにもかかわらず、専用の製造ラインが必要となって石油から作るよりもコストが掛かってしまう。これは、単にリサイクル事業が赤字になるというだけでなく、再資源化するのに膨大な資源を投入することを意味する。これでは、資源消費の節減は実現されない。
容器包装のリサイクルを有意義なものにするには、1回の使用だけで破砕して再資源化することをメインにする現在の方式では不備であり、個々の製品の長寿命化や製品のままでの再使用を促進するべきである。ペットボトルに関しては、ドイツなどに習ってリターナブル・ペットボトルを採用、洗浄して再使用するというサイクルを数十回繰り返し、最終的には固形燃料としてサーマルリサイクルする方が、環境へのダメージが小さい。ただし、繰り返し利用されるペットボトルは、表面に細かな傷が付いていかにも中古品という見かけになるため、これを容認するように市民の環境意識を高める必要がある。
現在、一般家庭から排出される家電製品は、小売業者または市町村が回収、その半分が直接埋め立てされ、残りは破砕処理された後、一部金属を回収してから埋め立てられる。こうした状況を改め、家電製品のリサイクルを図るために、製造業者・小売業者・自治体・消費者などの関係者の役割と義務を明確にし、リサイクルのシステムを構築するため、家電リサイクル法が1998年に制定された。2001年4月から施行予定である。リサイクル品目は政令で定めるが、施行当初は、テレビ・冷蔵庫・洗濯機・エアコンの4品目を対象とすることが決まっている。
ここでいうリサイクルとは、回収された機器を解体し、分離した部品や材料を原材料・部品・燃料として利用すること。フロン(冷蔵庫やエアコンに冷媒として封入されており、オゾン層を破壊する環境破壊物質である)・鉛(蓄電池に使用され、人体に有毒である)など有害物質について適正な処理を行う。
容器リサイクル法と同様に、次のような関係者の役割分担が定められている。
家電リサイクル法は、容器リサイクル法と異なり、施行された当初はかなりの混乱を引き起こすことが予想される。最大の理由は、リサイクルに要するコストの高さである。現在、粗大ゴミ処理コストはトン当たり11万3760円(清掃局事業概要)なのに対して、徴収されている処理費用は2万8500円程度で、差額は税金で補填している。例えば、東京都の場合、粗大ゴミとして大型テレビを廃棄する場合は、1台当たり1400円程度の課金を徴収されるが、これを解体して金属原料の回収などを行うと、かなりの手間を要するため、最低でも5000円、あるメーカーの試算では1万円程度は掛かるとされる。大型冷蔵庫の場合は、厄介なフロン処理が加わるため、さらにコストがかさむ。
指定家電を回収する際にメーカーが消費者から徴収する料金は、2000年秋に各企業から発表された。それによると、各メーカーとも同一の料金体系となり、実際に必要となる処理費用より大幅に低い額に設定されている(下表;処理費用は、都清掃局の試算による)。
品 目 | 料 金 | 処理費用 |
洗濯機 | 2,400円 | 7,688円 |
テレビ | 2,700円 | 6,177円 |
エアコン | 3,500円 | 8,733円 |
冷蔵庫 | 4,600円 | 15,822円 |
当初、メーカー側は、処理費用に近いより高めの料金を望んでいたと言われる。しかし、首都圏で行われたアンケートでは、多くの消費者が1000〜3000円程度の負担なら支払うが、それ以上は好ましくないと答えており、あまり高額にすると不法投棄が増えることが懸念された。このため、通産省が3000〜5000円の範囲に収めるようにとメーカーを強く指導したようだ。結局、家電リサイクル法の趣旨に反して、処理費用の過半をメーカーが負担することになった。
もっとも、メーカー負担でのリサイクルを強制することは、うまくいけば好ましい結果を招来すると期待される。メーカーは自腹を切って自社製品を再商品化することをを余儀なくされるので、あらかじめ「リサイクルしやすい」製品を製造するようになるはずである。既存の製品は、リサイクルされることが想定されていないため、再使用可能な部品だけを取り外すことは難しく、プラスチックの素材別回収も困難であるため、再資源化に手間がかかる。しかし、設計段階からリサイクルを考慮して作っておけば、より低いコストで処理を行うことができ、メーカーの負担は低減する。また、リサイクル製品(再使用部品・再資源化した原材料)の使用で利益を上げることもできる。こうして、メーカー主導でリサイクルが推進されると期待される。
すでに、その効果は現れ始めている。例えば、シャープは、これまで典型的な家電製品には10種類以上のプラスチックを素材として使用してきたが、これをポリスチレン・ポリプロピレン・ABS樹脂の3つに統合すると発表した。プラスチックは、素材によって再原料化・油化・焼却処理・埋立処理など廃棄後の処理法が異なるため、人手で丹念に分別する必要があり、リサイクル・コストを押し上げる要因となる。生産段階で再資源化が可能な素材に統合しておけば、リサイクル費用が安く抑えられることになる。
メーカーがリサイクル費用の過半をすることに関しては、製品の販売によって莫大な利益を上げている以上、当然の社会的責任だという見方もある。この「拡大生産者責任」は、循環型社会を実現する上できわめて重要な意味を持っている。
©Nobuo YOSHIDA