高次元空間における量子過程を記述するに当たっては、階層的なパラメータを導入するのが好都合である。秩序構造を形成する多自由度力学系では、巨視的な集団運動は比較的少数の秩序パラメータによって支配される。数学的には、これらは時間とともに緩慢に変化する変数として定義され、断熱近似の下では、急速に変化する隷従パラメータの値を決定する。特に、生物の形態形成などの自律的な秩序形成を表す力学系のモデルでは、秩序パラメータを軸とする表現空間内部に、トリヴィアルでないアトラクタが現れることが知られている。
ここで問題となるのは、高次元空間における秩序パラメータの位置づけである。数学的に力学系のモデルを考察する場合には、秩序パラメータ{Q1,…,Qf}を座標軸とする空間を考え、その内部の軌道の極限集合を調べればよい。しかし、現実の高次元空間においては、隷従パラメータへの依存性も評価しなければならないので、単純に秩序パラメータを軸とする部分空間を考えれば済むという訳ではない。次のような手順で考えていこう。
N個の場の変数{φ1,…,φN}を考えよう(ただし、Nはきわめて巨大な数とする)。ここで、(適切なヤコビアンを求めた上で)秩序パラメータQの導入に相当する変数変換:
{φ1,…,φN} → {Q1,…,Qf,q1,…,qN−f},
を行う(ただし、fはNに較べてきわめて小さい数である)。この変換は、秩序パラメータQが実質的に隷従パラメータqを支配しているとき、すなわち、Qが定める特定の値のq(Q)の周辺で、qを引数とする状態関数が鋭いピークを作るか、あるいは、微小な非相関ゆらぎを示すとき、有効である。この条件は、ラフな書き方をすれば、
Ψ(…,Qi,…,…,qj≠qj(Q),…)= 0
と表される。もう少し正確な書き方をすれば、隷従パラメータを
qj=rj+qj(Q)
と書き直し、状態関数のrに依存する部分が近似的に因子化できる、すなわち、(添字を省略して)
Ψ(Q,r+q(Q))≒Ψ(Q,q(Q))×ΦQ(r)
が満たされれば、秩序パラメータの導入が正当化される。この場合、巨視的にまとまった物体として振る舞う系の秩序構造は、状態関数Ψ(Q,q(Q))でもって表される。理想的なケースでは、ΦQ(r)は、経路積分によって単なる規格化定数に置き換えることが可能である。
古典的な力学系では、秩序パラメータQの振舞いだけを追跡することが許されるが、高次元空間では、Qとq(Q)という総数N個の2種類の変数を考えなければならない。この意味で、秩序構造はN次元空間にわたっていると言うことができる。ただし、N−f個のqはf個のQに従属しているので、秩序構造を表す状態関数が定義されるのは、もともとのN次元の空間ではなく、秩序パラメータの個数に等しいf次元の空間である。数学的には、N次元空間に埋め込まれたf次元の多様体上に秩序構造が出現していることになる。
秩序構造Ψ(Q,q(Q))が定義されるf次元空間は、秩序パラメータによって張られる空間と呼ぶのが適当である。厳密なことを言えば、この空間は陰伏的にしか定義されないので、基底ベクトルの線形結合によって張られる数学的な意味での部分空間ではない。直観的に言えば、元の空間に対して“曲がった”軸を持つ次元数の低い空間になっている。
©Nobuo YOSHIDA
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