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コンピュータで解を求める問題の中には、入力される値が大きくなるにつれて、計算時間が急激に長くなるものがあります。例えば、「n桁の自然数を素因数分解する」という問題を、あらゆる可能性をしらみつぶしにチェックするという方法で解いていくと、n の値が大きくなるにつれて、必要な計算時間は指数関数的に増えていきます。この計算を(量子コンピュータでない)古典コンピュータにやらせると、少し n が大きくなると、いつまで経っても計算が終了しません。入力される値 n が大きくなっても、計算時間がたかだか n
k (多項式時間)でしか増えないような問題のクラスをPとすると、Pは「古典コンピュータでも素早く解ける問題」だと言えます(Pは多項式 polynomial のPです)。
Pに対してNPと呼ばれる問題のクラスがあります。NPとは、直観的に言えば、計算の途中で場合分けが必要になったとき、各場合について並行して計算できるならば、解を得るまでの計算時間がたかだか n
k でしか増えないような問題のクラスです(と私は理解しています)。量子コンピュータでは、量子ビットを操作する過程で重ね合わせの状態が保たれ、実質的に並列計算を行えるので、適切なアルゴリズムが見いだせれば、NPの問題を多項式時間で解くことができます。例えば、量子コンピュータを使えば素因数分解問題が多項式時間で解けることは、1994年にショアが示しました。素因数分解以外にも、多くの興味深い問題(「巡回セールスマン問題」など)がNPであることがわかっています。これらの問題は、充分に容量の大きな量子コンピュータが開発されれば、原理的には素早く解けるはずです。
それでは、「量子コンピュータでなければ素早く解けない問題」はあるのでしょうか。実は、これはたいへんな難問です。P⊆NPであることは明らかですが、NPであってPでない問題があるか(P≠NPか)、あるいは、そうした問題はないか(P=NPか)は、いまだ結論が出ていません(ちなみに、この問題は、ミレニアム・プロブレムとしてクレイ財団が100万ドルの賞金を掛けています)。多くの計算科学者はP≠NPと予想しているので、NPであってPでない問題を1つでも見つければ良いのですが、これも簡単ではありません。上に述べた素因数分解の問題でも、今のところ、多項式時間で解くアルゴリズムは発見されていませんが、永遠に見つからないかどうかはわからないのです。逆に、P=NPであったとしても、量子コンピュータが不要になるというわけではありません。Pの問題でも、多項式時間で解くためのアルゴリズムを発見するのは難題で、それよりは、既知のアルゴリズムをもとに量子コンピュータを使って解いた方が楽なこともあるからです(素因数分解がPならば、その実例となります)。
量子コンピュータが開発された暁には、古典コンピュータでは手に負えない問題を量子コンピュータに素早く解かせるためのアルゴリズム設計を進めなければなりません。しかし、量子コンピュータ用アルゴリズムの一般論は、まだありません。まずは、類似したアルゴリズムで解ける問題のクラスを見つけることが重要ですが、こうした研究には、「P=NP?問題」のような形式的な議論が役に立つと思われます。
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現在、環境ホルモン作用(内分泌攪乱作用)が疑われる物質には、PCBのように甲状腺ホルモンの輸送機能を阻害するものも含まれています。しかし、文献に載っているリストを見ると、圧倒的に女性ホルモン関連が多く、それ以外はごくわずかしかありません。性ホルモンの事例が多い理由としては、生殖器の異常として顕在するので観察しやすい、一般市民の関心を集めるので研究者が多い−−などの理由が考えられます。しかし、それだけでは、男性ホルモン類似作用を示す環境ホルモンが少ないことを説明できません。多くの脊椎動物では、エストラジオールのような女性ホルモンだけでなく、男性ホルモンのテストステロンも共通して利用されており、ホルモンの利用頻度が異なるというわけでもありません。また、エストラジオールとテストステロンは化学構造が似通っているので、生化学的な作用の違いが原因でもなさそうです。
私が推測するに、環境ホルモンとして女性ホルモン類似作用物質など女性ホルモン絡みのものが多く上げられるのは、歴史的な事情によるのではないでしょうか。内分泌機能を混乱させる化学物質として、最初に注目されたのは、DESという合成女性ホルモン剤で、1960年代に流産防止薬として使われたものの実際には効果はなく、1970年代には、膣ガンなどの有害作用があることが判明しました。この研究を通じて、女性ホルモンと似た物質はごく微量でも生体に悪影響を及ぼすことが明らかにされ、DDTやPCBなどの人工化学物質が野生動物に与える被害への関心が高まっていた状況も重なって、環境中にある女性ホルモン類似物質についての研究が盛んになってきます。
ここで問題になったのは、生体に対する微量な化学物質の作用を適切に評価することです。マウスのような実験動物を使ったのでは、作用が小さすぎて信頼できる結果は得られません。そこで、培養細胞を利用することが検討されましたが、女性ホルモンが結合する受容体を持ち、その作用に対して増殖反応を示すような細胞株がなかなか得られず、マウスの子宮上皮細胞や胎盤細胞が用いた実験は失敗に終わりました。培養細胞を使って女性ホルモン類似作用を定量的に評価することが可能になるのは、1980年代後半になってからです。このとき用いられたのはヒト乳ガン細胞株(何種類かあります)で、その後、この細胞株を使って、1991年にポリスチレン、1993年にはポリカーボネイトに女性ホルモン類似作用があるという研究成果が発表されました。しかし、このデータは、後に疑問視されることになります。
1996年、ようやく信頼性の高い実験材料が開発されます。ヒトの女性ホルモン受容体の遺伝子とガラクトシダーゼ遺伝子を導入した遺伝子組み換え酵母菌を使うと、女性ホルモン作用がある物質を投与したときにガラクトシダーゼ活性が増加することが確認されたのです。これを使って、DDTをはじめ多くの化学物質の女性ホルモン類似作用が続々と発見されました。同じ年、アメリカでコルボーンらが“Our Stolen Future (盗まれし未来)”を出版したこともあって、環境ホルモン問題に世間の注目が集まり、新たに発見されたものも含めて、多くの女性ホルモン類似物質が環境ホルモンとして指弾されます。日本の環境庁も、1997年に「環境ホルモンと疑われる化学物質」のリストを発表します。
しかし、まもなく、こうした動きに対して批判の声が向けられるようになります。研究が進むにつれて、培養細胞に対して女性ホルモン作用のある化学物質のいくつかが、生体内では代謝されて有意な影響をもたらさないことが明らかにされました。さらに、危険性を指摘された化学物質を扱う業界(ポリスチレンの容器を使っていたカップ麺業界など)が、データの曖昧さなどさまざまな問題点を指摘し、研究を批判し始めます。この逆風の中で、培養細胞を使った実験データをそのまま発表したり、環境ホルモンのリストに新たに追加することに対して、多くの研究者が慎重になったようです。この結果、環境ホルモンと疑われる物質のリストには、1990年代半ばまでに発見された女性ホルモン類似作用のある物質ばかりが目立つようになったのではないでしょうか。
【参考文献】『外因性内分泌攪乱化学物質問題に関する研究班中間報告書』(環境庁、1997)
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核融合炉は、核分裂を利用した原子炉に比べて、相対的に安全性が高いと言われていますが、それは、プラズマの反応条件が崩れると自動的に核融合が終息するために暴走しにくいからであって、プラント内に放射性物質が存在するという点で、ある程度の危険性をはらんでいることは否定できません。
核融合炉では、核分裂生成物(いわゆる“死の灰”)は生じませんが、核燃料として用いられるトリチウムと、中性子によって放射化した容器類という2種類の放射性物質が、安全上の問題になります。後者に関しては、水などの減速材がないため、核分裂炉よりも大量に作られはしますが、基本的には、原発の廃炉と同様に処理できます。環境への影響で未知な点が多く、懸念する人も少なくないのが、前者のトリチウムでしょう。トリチウムは、半減期 12.3年で弱いベータ線を放出してヘリウム3になる放射性物質で、健康被害をもたらす危険性があります。
濃縮・加工や再処理の過程であちこちの工場に転送される原発核燃料とは異なり、トリチウムは、一貫して核融合プラント内部に隔離されることになっています。核融合で消費された分は、炉で発生する中性子とリチウムを反応させて生産されます(技術的に可能かどうかは、まだ研究中ですが)。さらに、融合反応を起こさなかったトリチウムは、排出ガスから回収・精製し、再使用に回します。通常の核融合プラントでは、数キログラムのトリチウムが密閉された装置内部に閉じ込められて保有されますが、漏洩する危険性はないのか、漏洩した場合にはどの程度の影響があるのかを、正しく評価する必要があります。
トリチウムが装置から漏洩する危険性は、決して小さくありません。分子量の小さい気体なので、わずかな隙間があれば簡単に漏れだして拡散してしまうからです。このため、装置を含む空間全体を密閉した多重隔壁システムを構築し、最終的にはコンクリート建屋内に閉じ込めて、外部への漏洩を防ぎます。また、施設内の気圧を調節し、放射性物質を保有する区域から保有しない区域への空気の流れがないようにする方法も講じられるでしょう。しかし、水素と同じように軽い気体を完璧に封じ込めることは技術的に困難であり、ある程度のトリチウムが漏洩する事故の発生は、想定しておかねばなりません。
施設内部にトリチウムが漏洩したときには、除去装置を起動して、すみやかに取り除くことになっています。トリチウム除去装置には、(1)トリチウムを含む水素成分を触媒で酸化させ、生成した水分を乾燥材で吸着除去する、(2)トリチウムガスを水素吸蔵合金に吸着させる−−という方式があります(トリチウムを含む乾燥材や合金は、専用の気密容器で保管されます)。小規模空間では、充分にトリチウムが除去できることが実証されていますが、核融合プラントの大規模空間でどこまでトリチウムが除去できるかは、必ずしも明らかではありません(2000年にロスアラモス研究所で行われた実験では、3000立方メートルの実験室内からトリチウムを除去することに成功しています)。除去しきれなかったトリチウムは、排気塔から外部に放出されるので、環境に何らかの影響を及ぼす危険性があります。ここでは、人間の健康被害を考えましょう。
生物に対するトリチウムの悪影響として心配されているのは、放射線障害だけです。体内の水の相当量がトリチウム水になったならばともかく、ごくごく一部の水分子で水素原子がトリチウムに置き換わった程度では、障害が現れることはありません。また、生体内で重要な役割を果たす生化学物質がトリチウムを含んでいたとしても、これらは一般に分子量の大きい高分子なので、質量数の増加による物理的性質の変化は、きわめてわずかです。放射線は、化学反応よりもはるかに大量のエネルギーを放出するため、少量の放射性物質でも危険になるのです。
トリチウムの放出するベータ線はエネルギーが小さいため、外部被曝はそれほど心配する必要がなく、体内に摂取したときの内部被曝だけが問題となります。大気中に放出されたトリチウムは、土や水に沈着し、飲料水や食物の形で人間に経口摂取されます(トリチウム水蒸気を含む空気を呼吸して、肺から取り込まれるケースもあります)。ただし、一般に生物濃縮を起こす性質はないので、食物連鎖を通じてトリチウム濃度が高くなることはありません。トリチウム水が経口摂取されると、胃腸管から吸収されて体内に拡がった後、半減期10日程度で体外に排出されますが、代謝しにくい有機物にトリチウムが取り込まれると、1ヶ月以上にわたって体内に留まることもあります。体内でトリチウムがベータ崩壊して放射線を放出すると、染色体や生体膜が損傷を受ける可能性があります。人体の放射線の許容量として決められているのは、年間1ミリシーベルト(放射線業務従事者は年間50ミリシーベルト)ですが、トリチウム水で長期にわたって飼育したマウスの実験によると、500ミリシーベルト程度の被曝では、ほとんど影響は見られないそうです。
核融合炉は暴走事故を起こす危険性がほとんどないので、チェルノブイリ原発事故のように「核暴走から爆発に至って大量の放射性物質が放出される」というシナリオは想定されていません。核融合炉にある数キログラム(約100万テラベクレル)のトリチウムのうち、たかだか数パーセントが容器から漏洩するケースが考えられています。多重隔壁システムと除去装置がある程度まで機能することを期待すれば、環境中に放出されるのは、多くて1万テラベクレルではないでしょうか。これまで、核融合実験施設などから1千〜1万テラベクレルのトリチウムが放出されたという報告がありますが、尿中濃度のデータなどによると、最大被曝線量は 0.02ミリシーベルトとなっています
(*)。一般に、軽いトリチウムガスはひとたび放出されると大気中に拡散してしまい、沈着後もトリチウム水だけが再濃縮されることはほとんどないので、近隣住民に重大な健康被害を与えるほどの濃度になる危険性は、あまり大きくないはずです。こうしたことを考えると、よほどの手抜き工事か最悪の出来事の連鎖でもない限り、核融合炉からのトリチウム漏れが深刻な事態を引き起こすことはないと言えるでしょう。
ちなみに、私は、技術的な困難のせいで、今世紀中に商業的な核融合炉が稼働することはないと考えています。
(*)『放射性物質による環境汚染の予防と回復に関する研究の推進』(日本学術会議、2005)
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近い周波数の2音が干渉すると、それぞれの周波数の差に等しい周波数で強弱を繰り返す音のうなりが聞こえますが、それと同じように、光でも、周波数がわずかに異なる2波を重ね合わせると、光の強度が差周波数で明暗を繰り返すようになります(もともとの周波数で決まる光の色は変化しません)。光のうなりとも言うべきこの周期的な変化は、光ビートと呼ばれています。式で表すと、干渉がないときの光強度を I
0 として、干渉波の強度が
I = I
0 ( 1 + a cos (2πνt+Δφ) )
で与えられます。ここで、ビート周波数νは2波の周波数の差、a は2波の振幅の比で決まる量(a ≦ 1)、Δφは2波の位相差です。
光の周波数はきわめて大きい(可視光線で数百兆ヘルツ)ので、干渉性があって周波数の近い光を作り出すのは、そう簡単ではありません。周波数の近い光を作って人工的に光ビートを生じさせる技術は、光ヘテロダイン計測などで用いられています。
![qa_269.gif](qa_269.gif)
光ヘテロダイン計測の最もわかりやすい例は、レーザー・ドップラー速度計です。レーザー光線を運動体に当てると、ドップラー効果によって散乱光の周波数がわずかに変化します。この散乱光を基準光を干渉させると、差周波数で光ビートが生じるため、明暗の変化を測定することで散乱光の周波数がわかり、そこから運動体の速度が求められます。実際に用いられる装置は、精度を上げるために図のような構造になっています。この装置では、運動体の前方と後方から周波数f
0 のレーザー光が照射されます。各レーザー光は、散乱後に、ドップラー効果の公式に従って周波数がシフトします。ここで、前方/後方からのレーザー光の進行方向を示す単位ベクトルををそれぞれ
n1 と
n2 、散乱後に受光器でキャッチされる光の単位ベクトルを
n 、運動体の速度を
V とすると、散乱後の周波数は、前方から入射した光の場合、
f
1 = f
0 +
V・(
n -
n1 )/λ
後方から入射した光の場合は、
f
2 = f
0 +
V・(
n -
n2 )/λ
となります(波長の変化は小さいので、全て共通のλとしました)。散乱後の2つの波を干渉させたときに生じるビートの周波数νは、f
1 と f
2 の差なので、f
0 や
n の項は打ち消されて、
ν = |
V・(
n1 -
n2 )|/λ
となります。図の角度を使えば、
ν = 2V sin(φ/2) cosθ /λ
となります。したがって、干渉光のビート周波数νを測定すれば、運動体の速度 V についての情報が得られます(この実験のセットアップでは、θは不明のままです)。
レーザー・ドップラー速度計は、気体・液体の流速や音響機器の振動特性の測定に用いられます。
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電磁波のシールド材は、電磁波の波長と強度、使用場所や使用法に応じて使い分ける必要があります。
数メガヘルツ以上の高周波の場合、電場と磁場のいずれか一方を防げば遮蔽効果があるので、通常は、導電性素材によって電場の振動を減衰させることで、電磁波の進入を食い止めています最も簡単なシールド材は、金属です。大半の金属は、自由電子の効果で導電性に優れているため、厚さが0.5mmもあれば、1メガヘルツでは相当の、100メガヘルツでは完全に近い遮蔽効果を発揮します。導体に開いた隙間が波長より充分に小さいとき、電磁波は隙間を通り抜けられないという性質があるので、数ギガヘルツ(波長10cm前後)程度までなら、メッシュ状の金属で充分です。金属をコーティングした繊維で編んだ布を使えば、身につけたりカーテンとして吊したりすることもできます。それほど強くない高周波は、導電性ポリマーや導電性プラスチック、あるいは、導電性の表面処理によって遮蔽されます。ただし、金属板でシールドする場合は、反射波がどのような影響を及ぼすかを考慮しなければなりません。
低周波の場合、電場と磁場の両方をシールドしなければなりません。高周波用のシールド材は低周波磁場を充分に遮蔽できないので、導電性素材に加えて、透磁率が高く飽和磁束密度の大きい磁性素材を使う必要があります。磁性素材には、鉄、パーマロイ(鉄とニッケルの合金)、焼結フェライトなどがあります。数十ヘルツ以下の超低周波磁場を遮蔽するのは、かなり難しいと言えます。
![qa_268.gif](qa_268.gif)
シェルクノフの式は、無限平板シールド材に垂直に平面波が入射したときの遮蔽効果を、マクスウェル方程式から直接的に求めたものです(あまり著名な公式ではないようで、詳しく解説した教科書は見あたりませんでした)。これによると、遮蔽効果SE[dB] は、シールド材による吸収損失A、シールド表面での反射損失R、内部での多重反射B という3つの項の和となります:
SE = A + R +B
A、R、B は、シールド材の伝播定数γと厚さd 、シールド材と自由空間のインピーダンス比K を使って、
A = -20 log
10 exp(-γd) [dB]
R = -20 log
10 | (1+K)
2/4K | [dB]
B = -20 log
10 | 1 - exp(-2γd)(1-K)
2/(1+K)
2 | [dB]
と表されます。シールド材や波面の形状が変化すると、この式からのずれが生じるので、適用には注意が必要です。
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量子コンピュータとは、古典コンピュータでは帯電の有無で表している1ビットの情報を、量子力学的な状態 |0〉と |1〉を使って表すものです。古典的な状態とは異なって、こうした「量子ビット(qubit)」は、演算の途中で a|0〉+b |1〉( |a|
2+|b|
2=1 )のような重ね合わせ状態になれるので、これをうまく利用すれば、量子ビット数に対して計算能力が指数関数的に増大すると期待できます。現時点では、量子ビットとして利用できそうなさまざまな量子系をテストしている段階で、本格的な量子コンピュータが実現されるまでには、まだ、かなりの時間が掛かりそうです。
量子ビットとして利用できる量子系には、次のようなものがあります:
- 2重量子ドット:電子を100ナノメートル以下の領域に閉じ込める量子ドットを並べて作り、トンネル効果を利用して電子を移動させる素子。2003年にNTTが作成に成功しましたが、重ね合わせの状態を保てる時間が短い(現在では数百ナノ秒程度)のが障害です。
- ジョセフソン接合量子箱:超伝導体を薄い絶縁体を隔てて接合した素子で、2つの電子が対になったクーパーペアが絶縁体障壁を乗り越えて行き来できるので、クーパーペアの移動数をもとに量子状態を定義します。1998年にNECの研究チームが試作したものは、重ね合わせの状態を数ナノ秒程度しか保てませんでしたが、2002年には、欧米のいくつかのグループがマイクロ秒のオーダーまで伸ばすことに成功しています。
- ジョセフソン接合ループ:ジョセフソン接合を挟んだ超伝導の閉回路では、永久電流が作る磁束が量子化されるので、量子ビットとして利用できます。2002年に1量子ビットの実験が成功しました。
- 溶媒分子の核スピン:溶媒に溶かした分子の核スピンを量子ビットとして利用することもできます。具体的な演算は、磁場中の原子核のスピン状態を核磁気共鳴法で制御することによって行います。2001年には、IBMが、この原理を使って7量子ビットの量子コンピュータを実作し、最初の具体的な計算(15を素因数分解して3×5を得るというもの)を行いました。ただし、溶媒中の分子を使う方法では、せいぜい10量子ビット程度までしか拡張できず、あまり実用的ではありません。
- 固体中のスピン:量子ドットに閉じ込められた電子のスピンや、シリコン基板にドープされた不純物原子の核スピンを利用する方法。まだ、アイデアを実験で検証している段階です。
- イオントラップ:真空中に電磁的に捕獲したイオンの電子状態を利用するもの。各イオンにレーザービームを照射して電子状態を制御します。2量子ビットの操作には成功していますが、集積化は困難で、あまり大規模なものは作れないと考えられています。
- 光学素子:ミラーやスプリッタを使って光学回路(光子を移動させる回路)を組み立て、光子の偏光状態などを量子ビットとして利用するもの。数量子ビット以上に拡張するには、かなり複雑な光学回路を作成せねばならず、量子コンピューティングの動作を確認する実験装置以外に使い道がないかもしれません。
実用的な量子コンピュータを作るためには、20〜30量子ビットのレベルに引き上げなければなりませんが、それには、あと一段の技術革新が必要です。
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![qa_267.gif](qa_267.gif)
エネルギーの保存は基本的な物理法則なので、破れることはありません。主に熱エネルギーとなって拡散すると考えられます。
簡単な例として、斜めに交わる同一波長・同一振幅の平面波を考えましょう。このとき、一方の山と他方の谷がぶつかる領域では干渉して振幅はゼロになりますが、山と山、谷と谷が干渉すると、振幅は2倍になります。波のエネルギーは、この振幅が大きい領域に集中することになり、全体では保存されます。
このように、逆位相の波を発生させてノイズを打ち消そうとしても、広い範囲にわたって完全にキャンセルすることは困難です。ノイズの波面は、一般に平面波や球面波と異なる複雑な形をしているため、逆位相の波を作っても、特定の領域でしかキャンセルできず、その周囲で振幅が大きい領域が現れてしまうからです。実際にオーディオの分野で使われているのは、ノイズキャンセリング・ヘッドフォン(あるいはイヤホン)という密閉型の構造をしており、耳に到達する音波に対して逆位相の波を発生して打ち消しています。耳に入ってくる音波に関しては波動エネルギーが減衰していますが、その分だけ周囲に振り向けられ、内壁で吸収されて熱に変換されているはずです。
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©Nobuo YOSHIDA