質問 つい最近、どこかのテロリストが東京を攻撃すると脅してきましたが、テロ組織がハッカーを雇うと、日本のコンピュータでデータが書き換えられたりするのでしょうか? また、ドコモのiモード、auのez webといったところまでも破壊されてしまうのでしょうか?【その他】
回答
 金融機関や通信施設など社会のインフラとして重要な役目を果たしているコンピュータ・システムに侵入して機能を麻痺させる行為は「サイバーテロ」と呼ばれ、社会的な脅威と見なされており、アメリカ政府は、巨額の予算を費やしてその対策に力を入れています。1997年に米国家安全保障局(NSA)は北朝鮮がサイバーテロを仕掛けるという仮定の下で演習を行い、NSA職員のハッカーに政府機関を攻撃させたところ、彼らは、ごく簡単な操作で9つの都市の電力供給が停止できることを実証したほか、国防総省のコンピュータに侵入してプログラムを変更し、軍の指揮系統を混乱させられることを示しました(日経エレクトロニクス 2002.10.7.号 140-)。サイバーテロへの警戒感は全米同時多発テロ以降さらに高まっており、イラク戦争の際には、イラクからのサイバー攻撃に神経を尖らせていたと言われています。日本でも、経済産業省が、2004年を目処に官民共同の情報防衛センターを設立する予定です。
 サイバー攻撃は、有能なハッカーさえ雇い入れれば、多額の資金を使わずに相手国に甚大な被害を与えられるため、テロ組織がアメリカのような軍事大国を攻撃する格好の手段だと考えられています。しかし、現実には、これまで組織的なサイバーテロが仕掛けられたことはありません。せいぜい、コンピュータ・ウィルスをばらまいてインターネットに接続しているコンピュータをダウンさせるとか、政府や企業のホームページを面白半分に書き換えるといった程度です。例えば、2000年1-2月には、総務省や運輸省など日本政府のホームページが南京大虐殺を非難する中国語の文章に書き換えられたことがありますが、これも、内容から見て政治的な意図はほとんどなく、必ずしも技術レベルの高くない中国人のハッカーもどきが悪戯として行ったことだと考えられています。
 コンピュータに関して深い知識を持つ(ことばの本来の意味での)ハッカーたちは、一般に破壊的な衝動の持ち主ではなく、どちらかと言えば、おとなしい引っ込み思案タイプだと推測されます。多大な被害をもたらすようなコンピュータ犯罪に手を染めるケースは稀でしょうし、少々の金でテロリストの誘いに乗るとも思われません。不正アクセスやウィルス作成など、こんにち頻発しているコンピュータ犯罪の大半は、インターネットの掲示板などで技術の初歩をかじった程度の連中が、マニアの間で流通しているハッキング・ツールを入手して行っているものです。たとえテロ組織に雇われたとしても、彼らには、金融機関や交通管制システムのコンピュータに侵入して大規模なテロを実行するほどの能力はないでしょう。サイバーテロは、1つの可能性として警戒しなければならないものですが、過剰に心配する必要はないと考えます。

 携帯電話に侵入して誤作動させることは、コンピュータ・ウィルスの一種を使えば可能だとされます。最悪の場合、特定時刻に多数の携帯電話からいっせいに接続要求が出されて、回線が不通になることもあり得ます。ただし、携帯電話でプログラムを実行する際に一般に利用される Java は、セキュリティ・ホールだらけの ActiveX (ウィンドウズ・パソコンで利用されるインターネット関連技術)とは異なって、セキュリティ対策が比較的しっかりしており、かなり高度な技術を持つ人でなければウィルスを作成することはできません。実際、携帯電話のウィルスは、2000年にスペインで発見された「ティモフォニカ」以降は見つかっていません。リナックスなどの汎用OSが使われるようになるとウィルスの危険性も高まりますが、NTTドコモなどの通信会社は、それにあわせてウィルス対策を強化していくという方針を示しています。

【Q&A目次に戻る】

質問 電磁波の重ね合わせは、エネルギー保存則を満たしているのでしょうか? 例えば同じ角周波数ωで振動している2つの電子を考え、それぞれが同じ位相で電磁波を放出しているとします。2つの電子は電磁波の波長よりもずっと短い距離に存在するとすると、重ね合わせにより電磁波の電場は2倍になるので、エネルギーは4倍になります。1つの電子から放出されるエネルギーがxであるとすると、2つの電子は4xのエネルギーを放出していることになります。電子同士の距離が離れていると、電磁波の干渉は場所によって強めあったり弱めあったりしてエネルギーは2xとなるようなのですが、こういった事実は、「電子が失ったエネルギーは光子数に比例するが、電磁波のエネルギーは光子数とは比例しない」ということになり、矛盾が生じるように思えるのです。【古典物理】
回答
 双極放射の近似で考えましょう。電気双極子m=Σqiri の変動を
  a = d2m/dt2
という量で表すと、双極子から充分に長い距離r だけ離れた地点での電場・磁場の大きさは、
  |E| = |B| = |a| sinθ/rc2 (θはarの間の角度)
  (cgs単位系,電磁場の時刻は右辺よりr/cだけ遅れた値を採用する)
となり、放射の全エネルギーは、
  2a2/3c3
で与えられます(証明は、電磁気学の教科書を参照してください)。同じ大きさの荷電粒子がすぐ近くに並んで振動している場合には、電気双極子の大きさは荷電粒子が1個のときに比べて2倍になり、電場・磁場の大きさは2倍に、放射のエネルギーは4倍になります。
 古典論の範囲で考えたとき、この現象には、何の矛盾点もありません。電磁波を放出し続けるためには、エネルギーを供給する必要があります。1個の荷電粒子が振動するときには、誘導起電力に起因する場の反作用があり、これに抗する外力を加えなければならないので、この外力のする仕事としてエネルギーが供給されます。この値が質問文にあるx です。2個の荷電粒子が振動している場合は、自分の振動によって生じる場の反作用だけでなく、もう1つの電荷が作る場からの作用に打ち勝たなければならないので、荷電粒子に加える外力は2倍になり、2個の粒子を併せると4x のエネルギーを供給することになります。
 量子論で議論するときには、コヒーレンス(可干渉性)という概念が重要になります。荷電粒子が遠く離れて振動しているときには、それぞれの荷電粒子から独立に光子が放出されていると見なすことができます。このとき、2つの電磁波が重なることがあっても、常に強め合う(あるいは弱め合う)という形で干渉することはない(=コヒーレントでない)ので、それぞれの光子は他の光子と無関係に伝播することになり、全エネルギーは、各電磁波が持つエネルギーの単純な和となります。しかし、すぐ近くの荷電粒子が同じ位相で振動している場合、互いに強く干渉するため、もはや2つの独立した放射の重ね合わせとは見なせません。2個の荷電粒子を併せて、4x のエネルギーを放出する1つの放射体と考えるべきなのです。
 こうした性質がきわめて特徴的に見られるのが、CDのピックアップなどにも利用されているレーザーです。レーザー発振では、数多くの双極子がいっせいに同じ位相で振動してコヒーレントな光が放出されるため、特定の振動数で強度が著しく強くなるという現象が見られます。

【Q&A目次に戻る】

質問 カーステレオを買おうとしてふと思いました。5万円と30万円のシステムでは何が違うのでしょうか? 実際に試聴すれば、高級なシステムのほうが良い音に聴こえます。しかし世の中には2-300万もするスピーカーや電源ケーブルだけで65万もするものもあります。CDに刻まれている信号を正確に抽出し、スピーカーから音を出すというのはそんなに困難なことなのでしょうか?それとも1万円前後で売られているポータブルCDでも十分に原音再生ができていて、超高級システムは超高級な味付けをしているのでしょうか? 【その他】
回答
 デジタル信号を処理する部分に関しては、価格差はあまり大きくないと考えられます。CDから信号を読み出すピックアップ機構は、高級機ほど信頼性の高いものになっており、自動車のように相当の振動がある環境下でも読み取りエラーを抑えることができます。しかし、この分野は低価格競争が進んでおり、大枚をはたかなければオーディオファンに満足してもらえる部品を調達できないというわけではありません。また、読み取りエラーがあったときに前後の音から失われた部分を補完する機能も、一般的に言って高級機の方が優れており、普及機では音飛びのひどい傷モノCDでもきちんと再生できる場合があります。ただし、この機能も、価格を大幅に変えるほどのものではありません。
 CDチェンジャを装備している、mp3ファイルが読み出せる──といったオプションの差は、そのまま価格に反映しますが、これは、カタログを比較すれば、何がいくらぐらいしているか割り出せるので、納得ずくで購入できるはずです。
 オーディオシステムで最も大きな価格差を生むのは、デジタル信号を力学的振動に変換するアナログ系でしょう。例えば、スピーカによる音質の差は、素人が聴いてもはっきりとわかりますし、しかも、値段の高いものほど、厚みのある味わい深い音が出ています。これは、力学的な振動が、振動体の材質や形状と密接に関係しており、コンピュータによる機械的な設計が可能なデジタル回路とは異なって、その調整に熟練した職人の技がものを言うからです。実際、ダイナミックレンジが広く、多彩な音色が絡み合っている楽曲の再生においても、固有振動数による共振を起こさず、入力信号を忠実に再現するような振動体を設計するのは、コンピュータによるシミュレーションが困難な作業になります。また、アンプに関して言えば、単純な回路ではどうしても入力と出力が非線形なってしまう──このため、大音量で聴こうとすると、低価格アンプでは音が歪んでどうにもならないことがある──ので、広い範囲にわたって線形性を保つためには、複雑な補償回路を組み込まなければなりません。さらに、アンプやスピーカなどのアナログ回路まわりで音質劣化をもたらさないように、接続端子を金メッキして酸化膜の形成を防止したり、電磁干渉の少ない高性能ケーブルを採用したりすると、全体にコストが嵩んできます。
 もっとも、価格差と音質の差は、比例関係にはありません。あるレベルまで達すると、その状況を少し改善するのに莫大な労力が必要となるという“収量逓減の法則”が成り立つのであり、価格が2倍になったからと言って、音質も2倍になるとは限らないのです。アナログ系の評価は、個人の好みに依存する部分が大きいため、本人が満足できるコストパフォーマンスであるかどうかが、重要なポイントとなるでしょう。

【Q&A目次に戻る】

質問 二酸化炭素は、なぜ大気圧状態では液体にならないのでしょうか。物質の相変化図を見ると、圧力が三重点以上だと液体状態が存在し、それ以下の圧力では昇華してしまいますが、なぜ圧力が高くなると液体状態が存在するのでしょうか。【古典物理】
回答
qa_202.gif  二酸化炭素の相図は、右のようになっています。質問にあるように、1気圧では液相は存在せず、固体の二酸化炭素は直ちに気体へと昇華するので、表面が濡れていないドライアイス(乾いた氷)の状態になっています。
 ただし、なぜ液体状態が存在したりしなかったりするかと聞かれると、返答に窮してしまいます。原子間力のきわめて弱いヘリウムを別にすると、全ての物質は、絶対零度付近で固体になることが知られていますし、アモルファス状態まで含めれば超高圧下で固体になるのは直観的に明らかですから、圧力を縦軸、温度を横軸とする相図の左側には、必ず固相が現れます。一方、圧力がそれほど高くない場合、超高温状態では物質はバラバラになるので、(気化する前に化学結合が切断されることがなければ)相図の右下部分は気相になるはずです。問題は、両者の中間的な状態がどのようになるかです。一般に、気体状態の物質に圧力を加えると、原子・分子の電気モーメントによる引力のために凝集相を形作ります(臨界温度以上では、相変化を起こさずに密度が増加するだけになります)。このとき、原子・分子の基準位置が固定された固相になるか、あるいは、移動の自由度が残された液相になるかは、相互作用の大きさに依存するために、一概には言えません。
 固体・液体・気体の三重点が存在する二酸化炭素や水の場合、温度・圧力がこれ以下の領域では、気体状態のものに圧力を加えたり冷却したりすると、分子間力によって結晶へと相変化します。逆に、温度が三重点より高くなる(=昇華曲線に沿って見ると圧力が三重点より高くなる)と、凝集状態でありながらも分子間の引力を振り切って移動することが可能になり、液体状態が実現されます。どのような温度・圧力で液体になるかは物質によって大幅に異なりますが、固相と気相に挟まれて液相が現れるという性質は、かなり一般的です。例えば、炭素のように液体になりそうもない物質でも、1気圧の下では4000度付近で最も安定な固相である黒鉛と気体炭素が共存し、昇華の形での相転移が見られますが、同じ温度でも、圧力を100気圧以上にすると、溶融状態の液相が現れます。しかし、全ての物質に当てはまる性質ではなく、ヘリウムのように、いかなる温度でも固相と気相が共存しないものもあります。

【Q&A目次に戻る】



©Nobuo YOSHIDA