極超新星(hypernovae)とは、ガンマ線バーストの正体として数年前に提案されたもので、核融合燃料を使い果たした恒星が最後に起こす大爆発という点では超新星と同じですが、その放出エネルギーが超新星よりもさらに大きく、またスペクトルにも特徴的な点が見られます。
極超新星の最大の特徴は、スペクトルに水素やヘリウムが見られない点です。恒星内部で生じる核融合は、まず水素が融合してヘリウムになるところから始まり、水素を使い果たすとヘリウムを燃料として、ヘリウムを使い果たすとケイ素などのより重い元素を燃料として核融合が進行、最終的には、核融合が充分に行われず重力を支えきれなくなったところで恒星コアの崩壊が起きて大爆発に至ります。極超新星では、水素だけではなく、(Ib型超新星に見られる)ヘリウムの線も(Ia型超新星に見られる)ケイ素の線も見られず、これらを使い果たしたことがわかります。さらに、典型的なIc型超新星ともいくつかの相違点があり、極超新星という新たな分類が提案されたわけです。
理論的な計算によると、極超新星爆発は、質量が太陽の40倍以上の重い恒星で見られます。このとき放出されるエネルギーは、通常の超新星の10倍以上(>10
54erg)になると予想されます。また、ニッケル56などの放射性元素が大量に生成され、これが大爆発後のエネルギー源となるため、周囲に放出された物質の膨張速度がきわめて大きくなります。1998年4月25日に観測されたガンマ線バースト(
Gamma-
Ray
Burst) GRB980425 の極超新星モデルでは、さらに、角運動量が(大質量の連星系を形成しているなどの理由で)大きく、強い磁場を持っていることが仮定されています。
これまで極超新星ではないかと見られるバーストは数例観測されていますが、まだデータが充分に集まっていないため、必ずしもその正体が解明されたわけではありません。爆発に至る過程にも不明な点が多く、より解像度の高い機器による観測に期待が寄せられています。
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永久磁石と磁性体の相互作用を計算するのは、意外に面倒です。
まず、磁石の周りの磁場を求めなければなりませんが、これは、磁石が有限な大きさを持つために、かなり厄介です。微小体積内部の磁化ベクトルを
Mとすると、磁石周辺のベクトル・ポテンシャル
Aは、
4π
A/μ
0 = -∫
M×
▽(1/r)dv' (MKS単位系)
という公式で与えられますが、このままでは、磁石による磁場を多重極展開したときに高次項が現れ、かなり厄介です。ただし、きわめて小さい磁石の場合は、
m = ∫
Mdv'
を使って、上式右辺を、
-
m×
▽(1/r)
と置き換えることができます。このときは、磁石の外部における磁場
Bは、
4π
B/μ
0 =
m・
▽▽(1/r)
となります。
一方、ある磁場
Bの中に置かれた磁性体が磁場から受ける力は、マクスウェルの応力テンソルの公式を使って計算されます。透磁率がμ
1の媒質中に、厚さが無限大の磁性体(透磁率μ
2)が置かれているとします(右図)。磁性体の表面要素dsに作用する磁気的な力df
jは、応力テンソルT
jkを使って、
df
j = ds[T
jn]
となります。ただし、添字のnは法線成分を、[ ]は境界面での応力テンソルの“飛び”を表しています。また、応力テンソルの表式は、
T
jk = H
jB
k - δ
jkH
iB
i/2
です。磁性体に電流が流れていない場合、境界面で磁束密度
Bの法線成分と、磁場強度
H(=
B/μ)の接線成分が連続になることを使って(単純だが面倒な)変形を行うと、具体的な力の公式が得られます。特に、媒質中の磁束密度を
B、法線と
Bのなす角度をαとしたときの力の法線成分dfは、
df = ds(μ
2-μ
1)B
2cos
2α{1+(μ
2/μ
1)tan
2α}/2μ
1μ
2
となります。
境界面が無限大の平面で、微小な磁石が境界面に垂直に置かれている場合は、これらの公式を使って計算することができます。
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(1)宇宙は有限か無限か、果て(境界)は有るか無いか。
宇宙空間が正の曲率をもつ非ユークリッド空間であるならば、宇宙には境界はなく、また宇宙は有限であると考えられる。一般相対論によれば、宇宙は4次元の球形になっており、有限で境界のないものであると考えられている。
(2)宇宙は開いているか閉じているか。
宇宙は膨張し続けて熱的死に向かうのか、いずれは反転してビッグクランチに向かうのか。最近のNASAの発表によると、宇宙の大局的構造は、開いているのでも閉じているのでもなく、平坦だという。
上記(1)と(2)の観点と回答は、現在の科学でどちらも受け容れ可能のようにも見え、一方で矛盾するものようにも思えます。この2つの関係が、よく分かりません。上記(1)は間違いなのでしょうか。【現代物理】
一般相対論で宇宙全体を扱うには、いくつかの仮定を置かなければ計算を進められません。1917年にアインシュタインが採用した仮定は、「宇宙がどこでも(どの方向を見ても)同じである」という一様等方性で、これをもとに、4次元球面状の(静的な)宇宙という最初の模型を創案しました。その後、1920年代にフリードマンがアインシュタインのアイデアを発展させて、(i)正の曲率を持つ閉じた有限の宇宙と(ii)負の曲率を持つ開いた無限の(動的な)宇宙という2つのモデルを提出、この“フリードマン模型”が、こんにちの宇宙論の基礎になっています。
現実の宇宙が2つのフリードマン模型のどちらなのか、あるいは(一様等方性という仮定が誤っていて)どちらでもないのかは、宇宙論最大の問題です。なかなか決着を見ないのは、空間曲率を直接測定することが困難だからです。例えば、三角形の内角の和は、曲率が正ならば180度より大きく、負ならば小さくなるはずですが、実際に3点のなす角度を計測しても、その和は誤差範囲内で180度となってしまいます。これは、宇宙空間の曲率が極端に小さいためです。なぜ宇宙の曲率がこれほど小さいのかは長らく謎でしたが、1980年代に提唱されたインフレーション理論によって、合理的な説明がなされました。この理論によれば、ビッグバン直後に宇宙は急激に(指数関数的に)膨張し、とてつもなく巨大な拡がりを持つようになったというのです。地球の場合、半径がたかだか6400kmしかないので、海岸に立つと水平線がくっきりと湾曲しているのが見えますが、仮に半径が数千億kmの巨大天体だったならば、遥か遠方に霞む水平線までほぼ平らにしか見えないはずです。宇宙空間も、同じように、あまりに巨大に膨張したために、宇宙の地平線の内側では平坦にしか見えないのです。NASAのデータは、観測可能な範囲で「限りなく平坦に近い」ということを意味しています。ただし、曲率が正と負のどちら側からゼロに漸近したかは、簡単にはわかりません。
曲率の正負を直接測定することはできませんが、これまでの観測データを総合すると、宇宙空間にある質量は(ダークマターを含めても)空間を閉じさせるには不十分であり、おそらく永遠に膨張し続けるだろうと考えられています。ただし、無限の拡がりを持つフリードマン宇宙になるかどうかは、必ずしも確実ではありません。フリードマン模型の前提となっている一様等方性が確認されているのは、たかだか100億光年程度の範囲であり、宇宙の地平線の彼方までそうであるとは限らないからです。宇宙全体では等方性が成り立っておらず、複雑なトポロジーを持つ可能性を指摘する物理学者もいます。この場合、曲率が負で空間的な拡がりが有限になることも考えられます。
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水溶液の場合、ppm(parts per million)は百万分の1を単位とする質量分率を意味し、水1kg中に何mg含まれるかを表します。水1kgの体積は(温度に依存する微小な補正を別にすると)1リットルになるので、ppmは直ちに、水1リットルに何mg含まれるかを意味する量になります。これに対して、大気中の濃度がppm単位で表されているときには、体積分率(空気1m
3中に何cm
3含まれるか)を意味します。従って、ppmとmg/m
3の間の換算には、モル数を使った計算が必要になります。ここでは、mg/m
3からppmへの換算を考えましょう。
グラム単位で表された質量を分子量[g/mol]で割ると、当該物質が何モルあるかがわかります。1モルの気体は0℃で22.4リットルであり、理想気体であると仮定すると、ボイル=シャルルの法則によってt℃のときの補正が計算できます。1リットルが1000cm
3であることを使うと、下の換算式が得られます:
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エネルギーの関係は、必ずしも「大きな法則」に起因するわけではありませんが、単なる偶然と言えないことも、また確かです。
コンデンサの例で説明します。極板は一方向にだけ動かせるとしてその位置座標をx、蓄えられる電荷をqとすると、コンデンサの内部エネルギーは、xとqの関数U(q,x)として表されます。qかつ/またはxを変化させたときに、電源のする仕事をW
1、コンデンサに加える外力のする仕事をW
2とすると、それぞれの微小変化は次のように与えられます:
一定電圧を加えるという条件は、∂U/∂q|
x=const となりますが、もちろん、これだけでは、W
1とW
2の一般的な関係を導くことはできません。質問文にあるような簡単な関係が成立するのは、内部エネルギーUが、
U = C(x)q
2/2
という2次形式になる場合です。このとき、少し計算すればわかるように、
δW
1 = -2δW
2
となり、コンデンサには外部電源がした仕事の半分が蓄えられます。
内部エネルギーUは常に全電荷に関する2次形式になるわけではありませんが、Uをqで展開した場合、(電荷の正負を入れ替えても同じエネルギーになるはずなので)偶数次の項しか現れません。従って、qが小さいときには、常に2次形式で近似できることになります。これは、qが小さいときにコンデンサの電気容量がqに依存しないことに対応しています。
内部エネルギーがコンデンサと同様の2次形式になっているような系は、他にもいろいろとあります。コイルの自己エネルギーは、電流iの向きによらずにiの偶関数となるので、電流が小さいときには、
U = L(x)i
2/2
となり、エネルギーに関する簡単な関係式が成立します。ただし、こうした関係式は、深遠な物理法則を表すものではなく、(電位差が電荷に比例するというような)線形近似が成り立つ範囲での現象論的な法則でしかありません。
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「運動している物体では、静止している観測者から見て“時間”が遅れる」ということは、1905年にアインシュタインが相対性理論を発表する前から知られていました。例えば、オランダの物理学者ローレンツは、1904年に発表した論文(Proc.Aca.Sci.Amst. 6)の中で、運動座標系Σ’でもマクスウェル方程式の形が変わらないような座標変数として、相対論と同じ変換公式に従う時間座標t’や空間座標x'を導入しています。これらを使うと、運動している物体の“時間”t’は、静止系Σから見ると遅れることになるはずです。しかし、ローレンツは、これを「時間や空間そのものが座標系によって異なる」とは解釈せず、t'を局所時間と呼んで真の時間tとは区別し、運動座標系Σ'も「仮想的な座標」として扱っていました。静止と運動の差を絶対的なものとするローレンツ流の考え方は、相対論の登場によって駆逐されていきますが、その大きな理由としては、「その立場を貫徹するためには恣意的な仮定に頼らざるを得ない」という点が上げられます。
ローレンツの場合、t'やx'を使えばマクスウェル方程式が不変になることは示せましたが、エーテルに対する相対運動が検出できないというマイケルソンの実験結果などを説明するためには、さらに、「運動物体は全て運動方向に一定の割合で押し縮められる(いわゆるローレンツ短縮を起こす)」「電磁気力以外の力も同様の変換公式に従う」といった新たな仮定を置く必要がありました。質問文にあるように時間の遅れを振動数の変化に求めようとしても、それだけで全ての実験結果を説明することは不可能であり、素粒子反応など振動とは関係なさそうな現象に関しても、時間の次元を持つ量はおしなべて一定の変換法則に従うと仮定しなければなりません。「理由は良くわからないが、時間や空間に関わる量は全てある変換を受ける」とするよりも、「時間や空間そのものが変換される」という相対論のアイデアに従った方が、はるかにすっきりしているのではないでしょうか。
時間や空間が一定の規則で変換される理由は、1908年になって、大学でアインシュタインを教えたこともあるミンコフスキによって明らかにされました。彼によれば、それまで「時間=持続」「空間=拡がり」として全く別個のものとして扱われていた時間と空間は、4次元幾何学で統一された「時空」となります。3次元ユークリッド幾何学に基づくデカルト座標では、静止物体の軌跡は時間軸と平行な直線、等速度運動する物体の軌跡は傾いた直線で表されますが(右図)、4次元時空になると、(ちょうど周囲に何もない宇宙空間でどの方向が上下かを決められないのと同様に)特定の時間軸を指定することができず、ある直線が「傾いている」かどうかを言うことはできません。これが、静止と運動を区別できない理由です。また、通常の3次元空間でも、相対的に傾いた物差しで測ると間隔の測定値が違ってくるのと同じように、互いに相対運動している座標の間で時間間隔は異なる値を取ります。このように、相対論的な効果をきちんと理解するためには、時間を拡がりと見なす4次元時空のアイデアを受け入れなければならないのです。
もっとも、4次元時空はあまりに日常的な直観から懸け離れているので、なかなか理解できないでしょう。それは、当然のことかもしれません。相対論の提唱者である当のアインシュタインでさえ、このアイデアに納得するまで数年間を要しているのですから…
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宇宙論は、現在、「桁さえ合えば良い」という大ざっぱさを脱却しつつありますが、宇宙の大局的な構造や最終的な運命を推定するために必要なダークマターやダークエネルギーに関する知見が決定的に不足しています。これらの実態と起源を明らかにしなければ、精密科学に移行することはできないでしょう。この2つのダークな存在は、かつて、相互作用をほとんど行わないために「幽霊粒子」と呼ばれたニュートリノに似ています。ニュートリノは、泡箱など従来の実験装置では検出できないため、さまざまなモデルを案出しては素粒子実験による間接的なデータと突き合わせて、その正体を明らかにしていきました。ダークマターやダークエネルギーの解明までに、モデルを作っては予測と検証を繰り返すことになるでしょう。
全天で背景放射の温度揺らぎを測定した WMAP (Wilkinson Microwave Anisotropy Probe) のデータも、直接的に何かを教えてくれると言うよりは、理論的なモデルと組み合わせて初めて具体的な結論を引き出せるというものです。背景放射の揺らぎは、ビッグバンから38万年が経過し、温度が4000度以下に下がってプラズマが中性化する直前の密度揺らぎを表しています(プラズマが中性化するとマイクロ波を散乱しなくなるので、放射エネルギーの揺らぎが中性化前のまま残されるというわけです)。この密度揺らぎは、ビッグバン直後の小さな揺らぎが、宇宙とともに膨張するプラズマ中の波動によって周囲に拡がったものであり、その視角に関するパワースペクトルを調べることによって、膨張と波動に関する知見が得られます。例えば、パワースペクトルには複数のピークが現れますが、(視角の大きい方から見て)最初のピークの位置は、特定のモデルを仮定して膨張するプラズマの状態方程式を解くことにより、バリオン・光子・ダークマターの密度(および、その他若干のパラメータ)の関数として与えられます。また、2番目以降のピーク(WMAPのデータでは2番目と3番目のものが見える)については、その相対強度がバリオンとダークマターの密度の比に依存していることが知られています。こうした理論的な計算と、今回得られたデータを比較することにより、宇宙論的なパラメータについての推定値が得られるのです。
ダークマターやダークエネルギーに関する推定は、多くの仮定を重ねた上でのベストフィットとして与えられます。WMAPチームは、宇宙の全エネルギーのうち、ダークマターが23%、ダークエネルギー(宇宙定数だけと仮定)が73%を占めると推定していますが、こうした値も、観測結果から直接的に導かれるものではなく、宇宙年齢(137億年)やハッブル定数(71km/sec/Mpc)を含む多くの推定値が観測データと最も整合的になるような最良の組み合わせなのです。このため、仮定のどこかに修正が必要となった場合は、一揃いの推定値全てが大幅に変更になることもあり得ます。おそらく、ダークマターやダークエネルギーの値は、これから暫くの間、新たな観測データ(超新星の赤方偏移と相対強度の関係、超銀河集団の運動など)が得られるたびにフラフラと変わりながら、次第に一定の値に収束していくことでしょう。特に、宇宙定数以外のダークエネルギー(いわゆるquintessence)となると、その内部を伝わる音波がもたらす背景放射の揺らぎなど、きわめて間接的なデータしか利用できないので、結論が出るまでには時間が掛かりそうです。
なお、スタインハートは、さらに野心的に、今回のWMAPのデータを元にして、ビッグバン直後に生じた揺らぎの起源を特定できないかを考察しています。彼の説明によれば、このデータに適合する初期宇宙のモデルは、標準的な inflation modelと、彼自身が提唱している ekpyrotic/cyclic models であり、両者を区別する重力波起源の揺らぎに関しては、WMAPのデータでははっきりしないということです。また、パワースペクトルの端の方で宇宙定数とコールドダークマターのみを仮定する標準的なモデルからのズレが生じており、quintessence の可能性を示唆しています。いずれも本格的な論述ではないので論評は避けますが、私自身は、WMAPのデータには手前の物質に起因する系統的な誤差があると思われるので、エキゾチックなモデルを考えるよりも、誤差解析を徹底的にやってほしいと思っています。
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©Nobuo YOSHIDA