質問 バクテリアの定義というのは何なんでしょうか。鞭毛がらせん状に回るということは分かったのですが。【その他】
回答
 バクテリア(細菌)の厳密な定義は、おそらくどんな生物学者にもできないでしょう。
 こんにち広く受け入れられている考え方は、生物を、「真核生物(細胞内に細胞核を有する生物)」「古細菌(高温好酸菌など特殊な環境に生息する微生物で始原菌とも呼ばれる)」および「真正細菌」に分類するというものです。以前は、古細菌と真正細菌を、細胞核を持たない「原核生物」にまとめていましたが、RNAの類似性などから、最近では、古細菌は真核生物に近い生物と見なされるようになりました。ウィルスを独立した生物グループとして分類することもありますが、代謝機能を持っていないので生物とは言えないと思います。マイコプラズマやリケッチアは、大きさは細菌とウィルスの中間に位置していますが、分類学的には真正細菌に入れられます。また、多細胞の組織を作るために放線菌を細菌と区別することもありますが、細胞の構造が同じなので、これも真正細菌と呼んで良いでしょう。
 …と形式的に分類することはできるのですが、では「バクテリアとは何か」と言われても、うまく答えられません。バクテリアの進化はきわめて急速であり、しかもその様式が実に多彩であるため、さまざまな環境に適応して一様でない姿をしているからです。実際、真正細菌の中には、進化の過程で他の細菌に取り込まれて共生を始め、いつしかミトコンドリアや葉緑体といった細胞内器官に姿を変えてしまったものもいます。さらに、互いに遺伝子を交換したり、死んだバクテリアから遺伝子断片を受け取ったりして、短期間のうちに大きく性質を変えることもあります。腸内常在菌である大腸菌に O-157のような危険な変異種が生まれたのは、ベロ毒素を産生する遺伝子を他のバクテリアからもらい受けたためです。
 バクテリアは、環境のわずかな変化にも対応すべく実に多くの変異種を生み出してきたため、その全てに共通するような独自の(真核生物や古細菌が持たない)性質は、もはや何もないでしょう。質問文にある「鞭毛がらせん状に回る」というのは、鞭毛をムチのように動かしている原生動物や精子とは異なって、バクテリアが「鞭毛モーター」と呼ばれる分子機械で鞭毛繊維をスクリューのように高速回転させていることを指しているのでしょうが、これも、ある種のバクテリアにおける特殊な進化の結果であって、どの真正細菌にも当てはまるというわけではありません。バクテリアという独立したグループを定義しようとするよりも、むしろ、それ以外の生物が、バクテリア(真正細菌)という膨大な遺伝子プールの中に現れた“うたかた”のような存在だと思った方が良いかもしれません。

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質問 高速回転するブラックホール周辺では、空間が負エネルギー状態になってジェットが発生するということですが、通常の物質でも光速に近い速度で回転すると、周辺の空間が負エネルギー状態になるのですか。【現代物理】
回答
qa_101.gif 「宇宙ジェット」と呼ばれる現象にはいくつかの種類がありますが、基本的には、ブラックホールのような大質量天体に引かれて落ち込んできた物質の一部が、中心付近で何らかのメカニズムによって加速され、特定の軸方向に高速で排出されたものと考えられます。このとき、ジェットのエネルギーを生み出しているのが、天体周辺の負の重力ポテンシャルであることは間違いありません。質問文にある「空間が負エネルギー状態になる」とは、重力エネルギーがマイナスになり、周辺領域から落ち込んできた物質が(エネルギー保存則に従って)運動エネルギー・熱エネルギー・電磁エネルギーを獲得できることを意味していると解釈されます。
 ただし、ブラックホールの周囲で重力ポテンシャルが大きなマイナスの値になるのは、その質量が巨大なためであって、回転の有無には依りません。回転している天体の周囲の重力場を表すカー解では、重力場の00成分 g00 が、
  g00 = -{1 - 2mr/(r2+a2cos2θ)}
  (m:質量、ma:角運動量、c=G=1)
と表されます。これより明らかなように、遠方で重力ポテンシャルと一致する{}内第2項が負の大きな値になるのは、質量が巨大であるせいであって、角運動量を持つこと(=回転していること)とは無関係です。ブラックホールが高速回転していることの影響は、事象の地平線近くまで落ち込んだ物体が回転方向に引きずられるといった形で現れます。
 もっとも、負の重力ポテンシャルによって大きな運動エネルギーが獲得されたからと言って、すぐにジェットが発生するわけではありません。球対称な(全角運動量がゼロの)システムでは、周辺から落ち込んだ物質がそのままブラックホールに飲み込まれてしまうからです。全角運動量がゼロでない場合、周辺のガス雲は、遠心力があるためにすぐにブラックホールに落ち込まず、中心に近づくにつれて回転速度が大きくなるような薄い円盤(降着円盤)を形成します。ジェットは、この降着円盤内部で、プラズマ状の物質がガス圧や放射圧(光圧)、あるいは磁気の作用を受けて特定方向に加速されることによって発生するのです。このとき、角運動量を持った物質がブラックホールに飲み込まれるので、ブラックホールは角運動量を獲得し、結果的に回転運動をするようになります。

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質問 光が媒質に入ると速さが真空中に比べて遅くなることは、どのように理解すれば良いのでしょうか? また、屈折率が光の波長に依存するのはなぜですか。ローレンツ模型による計算を見たことはあるのですが、高校生が理解できるような説明があればうれしいのですが。【古典物理】
回答
 媒質内部での光速c'は、一般に次の式で与えられます:
  c' = c/(εμ)1/2
ただし、εは媒質の(真空に対する)誘電率、μは透磁率を表しており、幾何光学で定義される屈折率nと、
  n = (εμ)1/2
という関係式で結ばれています。誘電率と透磁率は、それぞれ媒質内部の誘電分極と磁化(磁気分極)の程度を表す量です。この式から明らかなように、媒質中で光速が遅くなるという現象は、誘電分極や磁化と密接な関係があります。
qa_129.gif
 真空中において電磁場の変動が波として伝わっていく現象は、(1)磁場の時間的変化が電場の空間的変化を生み出す;(2)電場の時間的変化が磁場の空間的変化を生み出す──という2種類の電磁誘導の法則の結果です。図のように、空間的変化がz軸方向にだけ生起し、電場 E がx成分だけを、磁場 H がy成分だけを持つケースでは、この法則は、次式で表されます:
  qa_130.gif
  (cgs単位系を採用)
これより、電場・磁場ともに、座標zと時間tに対する依存性が (z±ct) という形になり、一定の速度c で波形が移動していくことがわかります。特に、ある地点の電磁場が時間とともに正弦振動する場合は、電磁場が正弦波の形で伝播することになります。
 電磁波が媒質中に進入した場合は、上の式を次のように書き換えなければなりません:  基礎方程式のこうした変更によって、伝播速度が変化します。ここでは簡単のために磁化の項を無視して、誘電分極だけを考えることにしましょう。電磁場の時間的な変化があまり大きくない場合、誘電分極は電場E に追随して同じ向きになるので、ε>1 が成り立ちます。従って、一定振動数の電磁波が媒質に進入した場合、(2)の式に係数εが掛かっているために空間的な変化が大きくなり、波長は短くなります。振動数が等しく波長が短くなれば、当然、伝播速度は遅くなるわけです。
 誘電率が電磁波の振動数( = c/真空中の波長)にどのように依存するかは、簡単には説明できません。振動数が小さい場合は誘電分極が電場に追随するのでε>1 、振動数がきわめて大きくなる極限では、誘電分極が電場に追随できなくなるのでεが1に漸近すると予想できますが、可視光の領域では、直観的な議論は困難です。ごく大ざっぱに言えば、媒質中の電子が電磁場の振動に“共鳴”して誘電分極が無限大になるような振動数が紫外領域にあり、可視領域では、誘電率が無限大になる共鳴振動数に向かって「振動数が大きいほど誘電率が大きくなる」ように振舞います。質問にあるローレンツ模型は、共鳴振動数を含む領域での振舞いを調べるための古典的な模型です。こうした性質があるので、μの変化が無視できるような通常の媒質では、振動数が大きい(=波長が短い)光ほど屈折率が大きく、プリズムによってより大きく曲げられるという「正常分散」が生じます(本当のことを言えば、共鳴領域以外で正常分散になることは、有名なクラマース−クローニッヒの公式から導けるので、興味がある人は、光学の教科書で勉強してください)。
 なお、透磁率μの振動数依存性は、ε以上に複雑です。

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質問 発射された弾丸の弾道をレーザーの光圧で歪曲させ、塹壕や廃屋に潜んでいる敵兵を効果的に殺傷する兵器は、実現可能でしょうか?【その他】
回答
 マクスウェル理論によると、物体に照射された光は、
  P = U/3 (U:エネルギー密度)
の圧力を及ぼすことが知られています。こんにち使用されている最大級のレーザー光線では、単位面積あたりの照射エネルギーが 1GW/cm2 程度になるので、その光圧 Pは、
  109×104[J/s m2]/3×3×108[m/s]
   〜 104 [N/m2]
   〜 0.1 [atm]
と、かなりの大きさになります。この数値だけを見ると、レーザー光線の光圧で砲弾やミサイルの向きを変えることができそうにも思えます。
 しかし、実際にこうした兵器を作ることは、絶対に不可能とは言えないものの、きわめて困難だと言わざるを得ません。
 1つには、レーザー光線の出力不足があります。照射エネルギーの面密度が大きな値になるのは、ビームスポット径を1mm以下に絞り込んだ場合であり、レーザー全体の出力は、せいぜい数百W でしかありません。こんにち盛んに行われているレーザー加工とは、狭い範囲にエネルギーを集中してその部分だけを高温にし、切断・溶接・表面加工などを行うというものです。光圧を使って物体を動かすレーザー・マニピュレーションという技術はありますが、これはあくまで、顕微鏡下で行われる微小物体の操作(精子のトラッピングなど)に限られます。弾丸のように運動量の大きい物体の向きを変えるためには、レーザー出力を飛躍的に増大させる必要があります。
 もう1つの問題は、正確に弾丸の動きを制御することの難しさです。高速で運動する弾丸に狙いを定めてレーザーを照射すること自体、きわめて高性能の照準装置が必要になります。ましてや、向きを変えた弾丸を特定の標的に当てるように制御することは、技術的にほぼ不可能と言えるでしょう。リアルタイムでの弾道計算は現行のスーパーコンピュータの能力を遥かに超えますし、たとえ加えるべき圧力値が計算できたとしても、正確にレーザー照射を行うには神業が必要です。光源から標的までの距離が長いと、ビーム径が拡がってピンポイントで圧力を加えることができなくなりますし、間に大気が存在すると、空気の粗密による屈折率の違いでレーザー光線が曲がってしまいますから(「レーザー光線は風になびく」と言われています)。
 光圧で弾丸の動きを制御するのはきわめて困難ですが、レーザー照射によるミサイル防衛ならば実現不可能ではありません。これは、発生する熱を利用してミサイルを破壊したり、空気の熱膨張による圧力で向きを逸らしてしまおうというもので、アメリカで実際に研究されています。

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質問 逆立ちコマというコマがあります。球の一部を切り取って、切り口の中心に軸をつけた形をしていて、観光地の土産物屋などで売られているものです。このコマは回すと次第に傾いていき、最後は逆立ちします。そこで質問なのですが、最初に時計回りに回したとき、コマは逆立ちした後も時計回りに回っています。これはなぜなのでしょう。軸の回転を考えれば、逆立ちした後は反時計回りに回りそうな気がします。その一方で、逆立ちしたからといって、上から見た回転の向きが途中で反対になるのも不自然な気もしています。ビデオで録画して、超スロー再生すれば、目で見て確認できるのでしょうけれど。とても不思議です。【古典物理】
回答
 コマは「心棒の周りに自転している」というイメージがありますが、逆立ちコマの場合、これは正しくありません。逆立ちコマが少し傾くと、そのまま傾いた心棒の周りで回転するのではなく、鉛直軸の周りに心棒自体が振り回されるような運動をします。これは、逆立ちコマが持っている角運動量(=Σmr×v;回転の強さを表す量)が近似的に保存されるためで、氷の上でスピンしているフィギュアスケートの選手が、体を傾けても鉛直軸の周りに回転し続けるのと同じ現象です。角運動量の保存則のため、最初に上から見て時計回りに回転していたコマは、横倒しになっても倒立しても、やはり時計回りに回転し続けることになります。
 簡単な図で説明しましょう。逆立ちコマは、図1のように球の一部が切り取られた形をしており、重心Gが球の中心Oより下に位置しています。回転中に小さな摂動のためわずかに心棒が傾いた場合、コマは、角運動量保存則によって、鉛直軸の周りに心棒を振り回すようにして回転し続けます(図2)。もし、床との間に摩擦が全くなければ、コマは心棒の周りに自転することなく、床を滑りながら鉛直軸の周りを回るはずです。しかし、実際には摩擦のせいでコマは床の上を転がることになり、床との接点Pにおいて図3の向きに転がり摩擦が作用します。
qa_128.gif

 この摩擦力fは、コマの回転の間に向きを360°変えるので全角運動量への寄与は相殺されますが、転がりによって生じた心棒の周りの自転の角運動量(これは、全角運動量の一部です)を変化させる効果があります。鉛直回転軸の周りをコマと共に回転する座標系で考えることにしましょう。摩擦力fは、重心の周りに図3のNというトルクを生み出します。心棒の周りの自転角運動量Mは、このトルクの向きに変化します。図からわかるように、Mは傾きを大きくしていきます。心棒が水平になるところで摩擦力の向きが逆になり、さらに、心棒が床に接触した瞬間に大きな摩擦力が働いて、一気に軸を倒立させることになります(図4)。最後の段階では、もともとの鉛直軸の周りの回転にコマの自転が合わさって、最初に与えた全角運動量と近似的に等しい値に戻ります。こうして、逆立ちコマは見事にひっくり返り、心棒の周りの自転の向きは初めと反対になっているのです。
【参考文献】近角聡信著『日常の物理事典』(東京堂出版)3.4.6-3.4.9

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質問 主星と従星の公転面に無視できるほど小さい質量の衛星を配置すると、ラグランジュポイントという安定する場所があるそうですが、それは5個所存在し、主星と従星を底辺とした正三角形の頂点(従星の公転方向の進行方向側)、また、主星と従星を底辺とした正三角形の頂点(従星の公転方向の進行方向の反対側)が最も安定すると聞きました。これはなぜですか。【古典物理】
回答
 18世紀の数学者ラグランジュは、互いに万有引力を及ぼしあっている3質点の運動がどうなるかという「三体問題」の特殊解として、3質点が正三角形の頂点に位置したまま等速円運動する「正三角形解」と、3質点が直線上に並んで等速円運動する「直線解」を発見しました(直線解は、それ以前にオイラーも見つけています)。こうした解は、長らく理論的な興味しかないと考えられてきましたが、20世紀に入ってトロヤ群と呼ばれる小惑星群が太陽・木星と正三角形をなす位置に集まっていることが発見されるや、現実的な関心を呼ぶようになりました。さらに、将来スペースコロニーを地球周回軌道上に建設する際には、地球と月を底辺とする正三角形の頂点の位置が、安定な軌道運動を実現できる地点として、第一候補地になるはずです。
 「三体問題」自体は数学的な扱いがきわめて難しいのですが、トロヤ群やスペースコロニーなどのケースを考える場合には、巨大な質量を持つ2天体(太陽と木星/主星と伴星など;質量 m1,m2)が重心Pの周りに一定の角速度ωで円運動をしているときに、この運動を擾乱しないほど質量の小さい第3の質点(小惑星/衛星など;質量 m)の運動を求めるという「制限三体問題」に還元することができます。この種の問題は、2天体と共に等速円運動する回転座標系で考えると、扱いやすくなります。回転座標系において、質点には、2天体からの万有引力の他に、「見かけの力」である遠心力(回転軸から遠ざかる方向に mrω2;r は回転軸からの距離)とコリオリ力(速度と角速度の積に比例)が作用しますが、平衡点を探すためには(静止物体にはコリオリ力が働かないので)2天体からの万有引力と遠心力の釣り合いを考えれば充分です。
 平衡点が5個あることは、次のようにして確かめられます。まず、遠心力の向きが2天体の軌道面と平行なので、この面内での運動を考えればよいことは明らかです。万有引力の合力が遠心力と同一直線上にある、すなわち、2天体の重心方向を向くためには、第3の質点が、(1)2天体を結ぶ直線上にある、または、(2)各天体から等距離の位置にある──のいずれかの条件が満たされることが必要です。(1)のケースはすぐに了解できるでしょう。(2)については、下の図を見てください。
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 万有引力のポテンシャルと遠心力のポテンシャル(-mr2ω2/2)の和を考えると、(2)の条件が満たされているときに、ポテンシャルが極値を取って万有引力と遠心力が釣り合うのは、3つの質点が正三角形の頂点に位置する場合であることがわかります(下の説明;図形をひっくり返せば質点が2天体を結ぶ線分の反対側に位置する解が得られる)。(1)でもポテンシャルのグラフを描けば直ちに3個の平衡点が見いだされるので、合計5個の平衡点があることがわかります。この5個の平衡点が、ラグランジュポイントと呼ばれています。
qa_121.gif

 ただし、見つかった5個のラグランジュポイントが安定平衡点である──すなわち、わずかな摂動に対して復元力が作用する──かどうかは、すぐにはわかりません。ポテンシャルの定性的な振舞いを考えれば明らかなように、ラグランジュポイントではポテンシャルが極大値を取っており、通常は不安定平衡になる条件を満たしていますが、摂動に対する応答にはコリオリ力も大きな役割を果たすので、これだけでは安定性が判定できないからです。実は、3質点が直線上に並ぶ(1)のケースは、不安定平衡の状態になっており、平衡点から少しでもずれると、次第にずれが大きくなっていくことが知られています(証明は省略します)。これに対して、(2)のケースにおける2個の平衡点は動的な安定平衡の状態になっており、(宇宙ステーションがうっかりロケット噴射するなどして)釣り合いの位置から少しずれても、平衡点付近に留まり続けるという性質があります。この性質があるからこそ、正三角形解に対応するラグランジュポイントが、スペースコロニーの建設地点として期待されているのです。
 正三角形の頂点の位置が安定平衡点になることの証明は、かなり厄介です。厄介な理由は2つあります。1つは、ポテンシャルを微小変位の2次形式に書き直す計算が面倒なこと(と言っても大学2〜3年の演習問題レベルです)、もう1つは、コリオリ力まで含めた運動方程式の安定性を判定するのが簡単ではないことです。ここでは、細かな計算を端折って、議論の筋道だけを示しておきましょう(詳しく知りたい場合は、制限三体問題について解説してある力学の教科書、例えば、山内恭彦著『一般力学』(岩波書店)などを参照してください)
qa_122.gif  単位質量あたりのポテンシャルを、正三角形解からの変位ξ,ηの2次までの近似で表すと、次の形になります:
  qa_123.gif
正三角形の頂点はポテンシャルの停留点となるので1次の項はなく、また、2天体の質量が等しければ重心が2天体の中点になってη軸に関して対称になる(=ξの奇数次の項はなくなる)ので、ξη項には質量の差が係数として掛かかります。
 このポテンシャルを使えば、コリオリ力まで含めた運動方程式は、次の行列で表されます:
  qa_124.gif
 ここで、ξ,ηの時間依存性を exp(λωt) と置き、運動方程式が成立するためにλが満たすべき行列式を求めると、
  qa_125.gif
となり、λ2の2次方程式になっていることがわかります。ここで、λ2>0 なる解があると、時間とともにξやηが増大するので、正三角形の頂点は不安定平衡点であることがわかります。逆に、λ2<0 ならば、λは純虚数となって平衡点の周りに微小振動するので、安定平衡だと言えます。ポテンシャルの表式を求める面倒くさい計算を実行すると、
  qa_126.gif
が得られます。λが純虚数になるのは、
  qa_127.gif
という関係式が満たされる場合です。これより、正三角形の頂点の位置が安定平衡点であるためには、2天体のうち小さい方の質量が大きい方の1/25.96以下になることが要請されます。太陽と木星、地球と月の場合は、この条件式が満たされており、トロヤ群やスペースコロニーは、天体に対してほぼ同じ位置を長期間保つことができます。

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©Nobuo YOSHIDA