中性の気体分子の場合、磁場は磁気モーメントに歳差運動を生じさせることによって粘性などにわずかな変化をもたらしますが、特定方向に流れを作り出すことはありません。これに対して、チャンバー内のガスが電離している場合は、マクスウェル−ローレンツの理論に基づいて荷電粒子と磁場の相互作用が生じ、巨視的な運動に結びつくことがあります。
一般に、電離気体が充分に希薄な場合は、ローレンツ力の作用によって荷電粒子が磁力線に巻き付くように運動します。磁力線に沿った速度の向きは一定でないため、静磁場は巨視的な運動を引き起こしませんが、外部から加えている磁場が時間とともに変動しているときには、荷電粒子が磁力線に追随するような動きを見せます。
磁場以外に電場も存在している場合には、いわゆるドリフト運動が生じます。簡単のため、互いに直交する一様な静電場
Eと静磁場
Bがあるとすると、磁力線の周りを回転するラーマー運動の際に電場によって加減速が生じることより、円軌道の中心座標は、
v=c
E×B/B
2
という(質量や電荷の符号に依存しない)速度で移動します(
E×Bドリフト)。外部から電場を加えていないときでも、荷電分布が不均一なために生じる微小電場によってドリフト運動が生じますが、微小電場が変動するために運動は一定方向にはなりません。
磁場が空間的に不均一な場合も、ドリフトが生じます。磁場
Bの傾きgrad
Bが
Bと直交しているときには、
Bおよびgrad
Bに直交する向きにドリフトが生じます(gradient
Bドリフト;具体的な表式は、プラズマ物理の教科書を参照してください)。
現実の荷電粒子は、粒子同士の衝突によって磁力線の周りの円運動が中断されるため、上で図示したようななめらかなドリフトではなく、乱雑なものになります。
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電気力線は、重ならない方向から見たときの透視図を3次元的に表したり、ある力線に沿った面内で描画することはできますが、質問のケースでは、力線が重なって図には書けません。右図のように、z軸に垂直な面内で考えると、これを電気力線が横切ることになり、その接線成分は面内のベクトル場として表すことができます。また、横切る力線の密度は、この面に対する電場の法線方向の強さを表します。
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疎結合システム(loosely coupled system)とは、複数のプロセッサに処理を分散するためのアーキテクチャの1つで、メモリを共有し単一のOSに制御される密結合とは異なり、
各プロセッサが独立にアクセスできるローカル・メモリを備え、プロセッサ間通信は高速I/Oポートなどを介して行うシステムです(右図)。各プロセッサごとにOSが動いている場合でも、相互接続を利用して協調的に動作するようになっているため、クライアント側からは、単一のシステムとして機能しているように見えます。
疎結合している数十から数万のノード(CPUとメモリのセット)によって並列処理を行うシステムを超並列システム(Massive Parallel Processor System)と呼びます。どこからが“超”になるか決まっているわけではありませんが、例えば、コンパックのカタログを見ると、論理CPU数が2〜16のスケーラビリティを持つマシンは「並列サーバ」、2〜4080のマシンは「超並列サーバ」と記されています。
より拡張された疎結合として、独立して動作する複数のサーバを通信ネットワークを介して相互接続するタイプもあります。こうしたシステムは、同じ分量の計算をいくつか並行して行う場合(特定の力学系で境界条件を変えてカオス軌道を求めるときなど)に有利になります。
なお、「複数疎結合」という言い回しは、日本NCRのカタログなどで用いられていますが、一般的な用語ではないようです。
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指数関数とベキ関数の式は、係数が定数倍異なっているだけで、数学的には同一のものです。にもかかわらず、物理学の公式で指数関数や(eを底とする)対数関数が頻繁に使われるのは、そうした方が、さまざまな量の関係が簡単な式で表され、計算が簡単になるからです。例えば、(透磁率が1と見なせるような)金属内部に振動数fの電磁波が進入した場合、指数関数を用いて定義した吸収係数αと、屈折率nおよび電気伝導度σは、次の関係式で結ばれることが知られています:
α=n=(σ/f)
1/2
こうした簡単な式が成立するのは、指数関数の微分公式が簡単な形をしている
(*)ために、指数関数を使っておけば、電磁場の振舞いを決めるマクスウェル方程式で微分を遂行しても余分な数係数が現れないからです。
(*)
ここで、ベキ関数によって定義した吸収係数α'を使うと、
2.30α'=n=…
というわかりにくい関係式になってしまいます。一般に、理論家がeを用いた指数関数や対数関数を好むのは、理論的な式の変形が簡単で、関係式もシンプルになるためです。
一方、ベキ関数を用いる方が都合の良い場合もあります。例えば、ベータ線やガンマ線のような放射線が吸収体内部を透過する際、(あるエネルギー範囲では)エネルギーが指数関数的に減少していきます。このとき、ベキ関数を使って、
I(x)=I
0×10
-x/λ
のように表しておけば、幅λの吸収体で放射線源を覆うと、透過してくる放射線のエネルギーが10分の1になることがわかります(λは、吸収体を構成する物質の原子番号と密度の積にほぼ反比例します)。放射線のリスクはエネルギー強度の桁で表されていることが多いので、放射線被曝の危険がある現場で作業する人にとっては、指数関数を使った式よりもベキ関数の式の方が何かと便利でしょう。
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重力加速度は、単位質量の物体に加わる重力として定義されます。重力は、一般相対論によって規定される力で、座標系によって表現が異なりますが、通常は、ニュートンの法則に従って諸物体から作用する万有引力と、座標系が慣性系に対して加速度運動することによって生じる見かけの力(遠心力・コリオリ力など)に分けて考えることができます。
地表付近の重力加速度を大地に固定された座標系で測定する場合、地球の自転に伴うコリオリ力は作用しないので、重力加速度を引き起こす力は、(1)地球からの万有引力、(2)地球の自転による遠心力、(3)その他の万有引力および見かけの力となります。このうち、(3)は一般に無視されます。実際には、1kgの物体に作用する太陽からの万有引力は約6ミリニュートンとなり、決して無視できるほど小さくはないのですが、地球の公転による遠心力がこれとほぼ同じ大きさになってその効果を打ち消してしまうので、通常は考慮されません(両者が打ち消しあうことの必然性は、一般相対論によって示されます)。他の天体から作用する万有引力も、同じ理由で無視されます。
質量分布が完全に球対称である場合、地表付近の重力加速度gは、ニュートンの法則によって、
g=GM/R
2−Rω
2(1-sin
2φ)
(G:万有引力定数、M:地球質量、R:地球半径、ω:自転の角速度、φ:緯度)
という式で表されます。ここで、第1項が地球からの万有引力の作用、第2項が自転による遠心力の作用を表しています(右図参照)。遠心力の効果は赤道上(φ=0)で最大になり、第1項の1/290程度の大きさになります。また、高度hでの値は、上式でRをR+hと置き換えれば得られます。
実際には、地球の形状は近似的に扁平な回転楕円体(地球楕円体)になっているため、この式からずれてきます。表面が等ポテンシャル面になるという条件から地球楕円体の形を求めると、1次近似の範囲で、理論的に次の式(Clairautの式)が導けます:
g=g
e(1+αsin
2φ)+aω
2sin
2φ
ただし、
α=(3/2)aω
2/g
e−ε
(ge:赤道上の重力加速度、a:赤道半径、ε:扁平率)
αが掛かっている項が球からのずれの効果を表します。各係数の値は、およそ次のようになっています:
α=0.0018
aω
2=0.0035
現実の地球は、回転楕円体からもずれているので、ジオイド(平均海面に一致する等ポテンシャル面)上の標準重力加速度gを、
g=g
e(1+β
2sin
2φ+β
4sin
22φ)
と定義し、g
eとβ
2は観測値に基づいて定め、β
4は、地球が回転楕円体になっていると仮定してg
eとβ
2から計算しています。重力加速度の実測値に高度補正などを加えたものと標準値の差は重力異常と呼ばれ、その近傍の物質分布の偏りを表しています。
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地平線近くの月が天頂部にあるときよりも大きく見える現象は、「月の錯視」と呼ばれる錯覚の一種で、人間の空間的認知の特性に起因することが判明していますが、細かなメカニズムに関しては、まだ未知の部分が残されています。
人間が物体の大きさを判定する際には、網膜像の大きさとともに距離に関する情報を利用しています。手近な本やコップなどを使って実験してみればわかるはずですが、同じ物体を近づけたり遠ざけたりして網膜像の大きさを変えてみても、物体の大きさが変化しているようには感じられません。これは、同じ物体でも、近くにあるときは大きく、遠くにあるときは小さく見えるという経験知に基づいて、物体の大きさに関する認知を無意識的に補正しているからです。物体までの距離は、両眼視差(左右の目による見え方の違い)や水晶体の状態(近くの物体に焦点を合わせるときにはレンズを厚くする)などの知覚データに加えて、(自分の部屋はこの位の大きさだというような)経験的な知見を援用して算定するので、身の回りにあっていつでも手に取れる物体に関しては、距離と大きさの認知を著しく誤ることはありません。しかし、日常的な経験の範囲ではカバーしきれないケースで、距離の推定が狂って大きさを錯覚してしまうことがあります。
人間の場合、水平方向にはふだんから歩き回っているので距離についての経験知を持ち合わせていますが、鉛直方向に移動することは少ないため、なかなか距離感がつかめません。ビルの屋上から100m下の人間や自動車を見ると、野原で100m先にあるものを見るときと比べて、“豆粒のように”小さく感じることがあるのは、そのせいだと言われています(もっとも、この感覚には個人差が大きいようです)。地平線上にある物体は、経験的に数km先にあることがわかっているので、たとえ見かけは小さくても実際には相当の大きさの物体として認知されます(下図)。こうして、地平線近くの月は、山に匹敵する巨大な物体として大きさが強く印象づけられます。ところが、天頂付近にあると、周囲に距離を決定する基準になるような物体がないため、地平線上よりも近くに位置すると誤認され、(近くにあるのに網膜像の大きさが同じなので)小さな物体として認知されることになります。また、雲の端が月に掛かっていると、距離感が変わって認知される大きさも変化する場合があります。
さらに、「月の錯視」は、距離感の混乱だけでなく、人間の知覚空間がユークリッド空間からずれていることにも起因していると言われています。
例えば、被験者に天頂と地平の中間点を目測で決めるように命じると、多くの人は、水平方向から30°辺りを指すことが報告されています(右図)。つまり、人間の知覚空間は、地平線付近で計量が大きい非ユークリッド空間になっており、自分の目線の高さにある物体がより大きく感じられる傾向にあるようです。実際、周囲を完全に暗闇にしてさまざまな大きさの円形の光源を提示したとき、視角が同じであっても天頂に向かうにつれてより小さく感じられるというデータもあります。一般に、見上げる角度が大きくなるほど見かけが小さくなるため、眼筋の緊張度が関わっているという説がありますが、必ずしもはっきりしていません。個人差も大きいようです。
なお、地平線近くの月が赤っぽく見えるのは、透過する空気層が厚くなって波長の短い青い光が散乱されたことによる物理的な現象です。
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©Nobuo YOSHIDA