質問 インテグラルの真中に丸のある記号の意味はなんですか。【その他】
回答
 qa_fig73.gifのことだと思いますが、これは、ベクトル解析などでよく用いられる記号で、ある閉じた経路に沿ってぐるりと1周積分することを表しています。
qa_fig74.gif  電場や磁場のようなベクトル場について計算するとき、ある経路の接線方向の成分だけを積分する必要が生じることがあります。図1の場合、経路Kに沿ったベクトル場(x)の接線成分の積分は、(x)とベクトル線素dlの内積を点Pから点Qにわたって足しあげ、|dl|→0 の極限を取ることによって得られます。この積分は、式で書くと次のようになります。
  qa_fig75.gif
qa_fig76.gif 特に、図2のように端のない閉じた経路の場合には、経路に沿った1周にわたって積分することができます。ストークスの定理より、この1周積分は、積分を行う経路を境界(∂Ω)とする面Ωの上でベクトル場(x)のローテーション(rotE(x))を面積分したものと等しくなります。
  qa_fig77.gif

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質問 肥満の人がダイエットをしなかった場合、何か悪いことは起るのでしょうか?ダイエットの必要性を教えてください。【その他】
回答
 現在、日本人の4割が冠状動脈硬化・脳血管障害をはじめとする動脈硬化性疾患で死亡しているほか、老人性痴呆も過半が脳血管の動脈硬化が引き金になって発症しますが、肥満は、動脈硬化を促進する主たる要因の1つです。また、糖尿病・高血圧・高脂血症・高尿酸値症などの多くの生活習慣病が、肥満と深く関わっていることも知られています。こうしたことから、ダイエット(食餌療法)やエクササイズ(運動)によって肥満を解消するのが健康な生活を送るために望ましいと考えられています。
 ただし、どのような状態を肥満と呼ぶかについては、注意が必要です。よく用いられるのが、BMI(Body Mass Index)と呼ばれる指標で、(体重[kg])/(身長[m])2で求められます。多くの統計によると、BMI22前後の人が最も病気に罹りにくく死亡率も低いことから、(身長[m])2×22(身長165cmの人は60kg)を標準体重とし、これを20%以上越えている(BMIが26.5以上となる)場合を肥満と呼んでいます。しかし、筋肉は脂肪よりも比重が大きいため、筋肉質の人は健康体であってもBMIが大きな値になりがちであり、必ずしも信頼できる指標ではありません(プロ野球の選手は、BMI値が軒並み26.5を越えています)。より正確な肥満度の指標は、体脂肪率(体の成分のうちの脂肪組織の割合;通常は15〜25%)で、この値が男性で25%以上、女性で30%以上の場合は肥満に該当します。体重が標準的でも体脂肪率が高くなっている場合は「隠れ肥満」と呼ばれ、特に、内臓のまわりに脂肪が蓄積された「内臓脂肪型肥満」は 生活習慣病の引き金になるので気を付けなければなりません。
 体脂肪は、本来、飢餓状態に備えてエネルギーを体内に備蓄し、また、体温維持のための断熱材や内臓を保護するクッションとしての役割も果たす必要不可欠の組織です。しかし、体脂肪が増えすぎると、脂肪を分解してエネルギーに変える反応が昂進し、その結果として反応生成物である遊離脂肪酸が増加してしまいます。血液中の過剰な遊離脂肪酸は、インスリンの機能を阻害して糖尿病を増悪させるほか、さまざまな代謝異常を引き起こします。また、代謝の調節のために脂肪細胞が分泌する生理活性物質の中には、血栓を溶かす反応を妨げて動脈硬化を促進したり、血管を収縮させて高血圧の原因になるものもあり、過剰になると健康に悪影響を及ぼします。
 肥満は、摂取エネルギーが消費エネルギーを上回り、食べた物が体脂肪として身体にどんどん蓄積されることによって起こります。したがって、肥満を解消するには、ダイエット(食餌療法)によって摂取エネルギーを減らすか、運動を行って消費エネルギーを増やすことが必要です。ただし、やみくもにカロリー制限を行うと、体組織を作り維持するのに必要なタンパク質やビタミンが不足してしまい、かえって健康を損なうので、栄養バランスのよい食生活と適度な運動を心がけることが重要です。

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質問 何故地上から月の同じ面(表側)しか見られないのですか?地球と月の自転周期が同じだからというのが、子供の頃に聞いた答えだったと思いますが、独立に出来た(と思われる)2つの天体の自転周期が全く同じというのは納得がいきません。【その他】
回答
qa_fig71.gif  月が地表に対していつも同じ面を向けているのは、月の公転周期と自転周期がともに27日7時間43分11秒で等しいためです(右図)。実際には、月の公転軌道は真円からわずかにずれており、近地点と遠地点で公転速度が異なっているので、半分以上の部分を見ることができますが、裏側の大部分は、アポロ宇宙船が月の裏側を回るまでは人類にとって未知の領域でした。
 月の起源については、約45億年前に地球に火星くらいの大きさの天体が衝突し、はじき飛ばされた岩石片が重力で凝集してできたという説(ジャイアント・インパクト説)が有力です。コンピュータ・シミュレーションによれば、衝突後約1ヶ月で地球半径の3倍強の位置に衛星が形成され、その後、地球との相互作用を通じて(地球半径の60倍という)現在の位置に移動してきたと推定されます(現在なお、月は地球から年3.8cmの割合で遠ざかりつつあります)。できたばかりの月は、衝突の衝撃もあって、自転も公転も現在より遥かに速かった(公転周期は7時間強)はずですが、潮汐作用の効果で回転のスピードがどんどん遅くなっていきました。
 潮汐作用とは、母星に近い側と遠い側で重力の大きさに差があるために、潮の干満と同じように天体自体が変形してしまう作用で、岩石同士が擦れて地殻内部で熱が発生する一方、天体が持っている力学的エネルギー(回転のエネルギーなど)が失われることになります。例えば、木星の衛星イオの場合、楕円軌道を描いて木星に近づいたり遠ざかったりしているため、赤道付近の地表が1.7日周期で約4メートル上下しており、その際に生じる熱が太陽系で最も激しいと言われる火山活動を引き起こしています(イオの火山活動は、ボイジャー宇宙船が送ってきた写真によって発見されました)。 qa_fig72.gif 特に、潮汐作用を受ける天体の公転と自転の周期が異なっていると、自転とともに天体が刻々と歪められることになるために、熱エネルギーの発生量が大きくなり、回転のエネルギーが急激に失われてしまいます(右図)。この結果、潮汐作用が一種の摩擦として働き、公転と自転の周期が次第に等しくなってきます。月は、こうして常に地球に対して同じ面を向けるようになったのです。

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質問 運動選手のための栄養について教えてください。【その他】
回答
 パフォーマンスの向上を目指し、日々激しいトレーニングを行っている運動選手の栄養摂取に関しては、基礎体力の増強と消費エネルギーの補給という2点から考えなければなりません。
 筋量や血球量を増大させるためには、肉・魚・卵・豆などのタンパク質含有量の多い食品が欠かせません。タンパク質の必要量は、年齢・体重・運動内容などによって異なりますが、体重1kg当たり1日1.5g程度とされています(持久系の競技者は1.5g弱、パワーを要求される競技者は1.5g強)。急に激しい運動をすると「スポーツ貧血」を起こすこともあるので、普段からタンパク質をしっかり摂っておくことが大切です。ただし、必要以上にタンパク質を摂取すると、余分な量は糖質サイクルに回されるので、その処理のために肝臓・腎臓に負担を掛ける上に、肥満の原因になります。
 また、タンパク質は体内でいったんアミノ酸に分解されてから再合成されますが、その際に、各種のビタミン(B6・葉酸など)やミネラル(マグネシウム・亜鉛・鉄など)が必要となるので、これらの補給も忘れてはなりません。

 運動選手は、一般の人の2倍近いエネルギーを消費するので、それに見合うエネルギー摂取を行うことも重要です。特に、糖質は効率的にエネルギーを産生できるので、摂取エネルギーの60%はご飯・パン・めん類・砂糖などの糖質から摂るのが好ましいとされています。摂取された糖質は分解されてブドウ糖になり、筋肉に運ばれてグリコーゲンとして蓄えられます。運動時に筋肉を収縮する際には、このグリコーゲンが消費されますが、筋グリコーゲンが不足してくると感覚的な疲労感が生じるので、事前に貯蔵量を高めておいたり、運動中に糖質を摂取してグリコーゲンの枯渇を避けることが重要です。また、ブドウ糖は、神経細胞の唯一のエネルギー源で、血中のブドウ糖濃度(血糖値)が低いとイライラして集中力が失われやすくなり、パフォーマンスに悪影響を与えます。激しい運動している場合、朝昼晩の3食で糖質の必要量を満たすのは難しいので、適切な間食も大切ですが、余分な糖質が脂肪太りの原因になることも忘れてはなりません。
 脂質は、グラム当たりのエネルギー量が多い(糖質の1g当たり4kcalに対して9kcal)ため、少ない摂取量で多くのエネルギーを得られる上、胃での停留時間が長く腹持ちが良いという特徴があります。また、脂溶性のビタミン(ビタミンA・D・E・K)の摂取にも必要です。しかし、過剰摂取はオーバーウェイトの元になり、エネルギー変換効率が悪い分だけ疲労を招きやすいので、摂取エネルギーの25%程度にとどめておくのが無難でしょう。残り15%のエネルギーは、タンパク質などから摂ることになります。
 ブドウ糖や脂肪酸からエネルギーを発生させるには、ビタミンB1・B2・ナイアシン・パントテン酸などが使われます。また、疲労感をもたらす乳酸を処理するためにはビオチンが、ヘモグロビンの合成にはビタミンB6・B12・葉酸が必要です。これらはビタミンB群と総称されますが、特に不足しやすいビタミンですので、普段の食事できちんと摂取することが重要です。ただし、大量に摂取したからといって、運動能力が向上する訳ではありません。
 このほか、運動選手は、発汗によってナトリウム・カリウム・カルシウム・マグネシウムなどのミネラルが失われるので、食事によってこれらを補給しておくことが必要です。

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質問 宇宙に形はあるのでしょうか?もし形があるとしたら、その中で地球の位置はどこらへんなのでしょうか?できるだけ簡単に答えてください。【現代科学】
回答
 ある物体の“形”がどうなっているかを語るためには、一般に、その物体に境界や階層的な構造がなければなりません。はっきりした境界を持たず薄く拡がっているガスに形はありませんが、地球の大気には、地表を境界とし高度が上がるにつれて希薄になるという構造があるので、その形を考えることができます。
 われわれが住んでいる宇宙に境界(宇宙の涯て)があるか、中心と周辺を分けるような階層構造を持っているのか──この難問に対して、古来多くの科学者や哲学者が独自の解答を与えてきました。例えば、古代ギリシャのアリストテレスは、地球を中心として太陽や惑星が円運動している宇宙を想定し、その上に恒星が載っている天球が宇宙の涯てになると主張しました。彼の宇宙像によると、宇宙は月軌道を境に地上世界と天上世界に分かれており、完璧な幾何学的秩序に支配される天上世界では、円や球のような整った図形が世界を構成していることになります。宇宙が幾何学的秩序に支配されているという世界観は、17世紀にケプラーが惑星運動の法則を発見した頃から崩れていきますが、それでは宇宙の境界や構造がどうなっているかについて、人間はなかなか答えられませんでした。
 宇宙全体についての信頼できるモデルは、1917年から24年にかけて、アインシュタインとフリードマンによって作られました。それによると、宇宙には、ここから先は宇宙ではないという境界も、中心−周辺という階層構造も存在しないことになります。現在、宇宙望遠鏡で観測可能な数十億光年までの領域には、そこが宇宙の中央か辺境かを示すような際だった特徴は見られません。望遠鏡で確かめられる範囲だけでなく、超光速ロケット(もしあればの話ですが)に乗ってどこまで進んでいっても、そこはやはり天の川銀河周辺とあまり変わらない天体やガス雲などが存在する世界のはずです。このように、宇宙全体がほぼ均質で境界も階層構造もないというテーゼを「宇宙原理」と呼びます。観測できない「宇宙の地平線」の彼方まで宇宙が均質かどうかは断定できませんが、理論的に最もすっきりしたモデルが作れることから、多くの科学者は、宇宙原理が全宇宙で成立していると考えています。
 ただし、境界や階層構造がないからといって、宇宙の形について全く語ることができないわけではなりません。宇宙空間は、縦・横・高さの3次元を持っていますが、これを数学的な(現実には存在しない)4次元空間の中に埋め込んで考えることも可能なのです。ちょうど、2次元の面を考える場合、無限に拡がる平面も半径Rの球の表面も、面内にいる人の目には境界も階層構造もない均質な世界に映りますが、3次元空間の中に埋め込んで考えると、全く異なった“形”が描けるようなものです。 qa_fig70.gif このとき、面内を進むロケットに乗って飛んでいくと、平面では出発点から無限に遠ざかっていきますが、球面の場合は、ぐるりと1周してまた元の場所に戻ってきます(右図)。絵では描けませんが、均質な3次元空間も、平面的な世界、球面的な世界、それに双曲面的な世界に分類することができます。球面的な世界は大きさが有限で、超光速ロケットならばぐるりと1周して元の地点に戻って来られますが、平面的な世界と双曲面的な世界は大きさが無限大になります。現在の観測データによると、宇宙は双曲面的な世界である可能性が高いようですが、断定されたわけではありません。こうした世界は、ある意味で数学的な“形”を持っていますが、われわれは、この3次元世界の中から宇宙を見ているので、その“形”を観察することはできません。また、平面的・球面的・双曲面的な世界はどれも「宇宙原理」が成り立つ均質な空間を構成しているので、地球がどこか特別な位置とは言えないのです。
 なお、近年になって、宇宙の“形”はさらに複雑なものになり得ることがわかってきました。部分的に見ると平面・球面・双曲面のどれかなのですが、空間が複雑に継ぎはぎされたようになっていて、双曲面的世界であっても、一方向にずっと進んでいくと元の場所に戻ってくる有限世界になるというのです(これを、宇宙にトポロジー構造があると言います)。この問題に関しては、現在得られているデータからは何とも判断がつきませんが、想像力を駆り立てる面白い話題として科学者・哲学者の興味を惹いています。

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©Nobuo YOSHIDA