質問 二酸化ケイ素を主成分とするものには、水晶類・シリカガラス・ケイ石などいろいろありますが、それらが単結晶体・多結晶体・非結晶体等に分類されると聞きました。具体的に、何がどういった構造上の違いで、単結晶体や多結晶体に分類されるのですか?【その他】
回答
 ケイ素(シリコン)は酸素に次いで地殻に多量に含まれる成分で、古くから科学的研究の対象とされ、工業的にもさまざまな方面で利用されてきました。このため、ケイ素化合物に関する用語法は、鉱物学・化学・地球化学・窯業・半導体産業・化学工業などの諸分野で微妙に異なっており、それがまた混乱の元にもなっています。
 二酸化ケイ素SiO2(シリカ、無水ケイ酸、または単にケイ酸ということもある)の結晶には、温度・圧力などに応じて多種類の結晶型(石英・リンケイ石・クリストバル石の低温型・高温型、コーサイト、スチショバイトなど)が存在します。六角柱状の結晶として天然に産するものは、主に低温型のα石英(三方晶系)です。 qa_fig52.gif 結晶の基本構造は、SiO4の四面体がOを共有して3次元に無限に連なったもので、SiO4の配列の差異に応じてさまざまな結晶型が現れます(右図のように、1個のOが2個のSiに共有されるので、化学式はSiO2になります)。
 一般に、全体が結晶軸のそろった単一の結晶から構成されている固体を、単結晶と言います。クォーツ発振器などに用いられる純度の高い石英の単結晶は、オートクレーブという窯の中に水酸化ナトリウム水溶液と石英の破片を加えて100気圧・400℃に加熱し、“種”となる小さな石英の塊の周りに結晶を析出させて作ります。一方、天然の岩石中に見られる通常の結晶は、単結晶の粒(結晶粒、グレイン)が結晶軸を異にして集合したもので、単結晶に対して多結晶と呼び慣わされています。また、結晶内部にさまざまな不純物が含まれていたり、格子欠陥(結晶配列の乱れ)が存在するのが一般的です。ひうち石は、天然に産する石英微結晶の集合体です。
 二酸化ケイ素の溶融体を急冷すると、非(結)晶質(アモルファス)の石英ガラス(シリカガラス)になります。これは、原子が周期的に配列しておらずSiとOが網状に連なった構造をしていますが、全てのSiが4個のOと、全てのOが2個のSiと共有結合するという基本構造は保たれています。石英ガラスを1000℃以上に加熱して長時間使用すると、一部が結晶化してクリストバル石が析出し、失透して脆くなることがあります。
 以上が化学的な説明ですが、用語上の注意点をいくつか付け加えておきます。
 「石英」とは、二酸化ケイ素の特定の結晶型を指す語ですが、二酸化ケイ素全般を意味することもあります。「シリカ」は二酸化ケイ素の総称として、また、試料中に含まれるケイ素成分を指す語として使われます。「水晶」は石英の俗称ですが厳密な定義はなく、宝飾用に使われるものに限定されることもあります。紫水晶と紅水晶は、それぞれ第二鉄とチタンを微量に含有する結晶です。「ケイ石」は工業的に用いられるケイ酸質原料の総称で、石英結晶の含有率が高いペグマタイト産の白ケイ石もありますが、多くは水成岩などとの混合物となっています。

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質問 人間の筋肉の質は生まれつきのもので、それによって足が速かったり遅かったりしますよね。速筋・遅筋の量・比率の違いだと思いますが、肉体改造はどの程度可能なのでしょうか?例えば、僕は高校時代にトレーニングによって、50m走で1秒以上、垂直飛びで15センチ弱記録が伸びました。もともと足も遅く、持久力も無い人間ですが、もっと能力を上げたいのです。ちなみに、現在21歳、170センチ・67キロ、体脂肪率は17〜20の間くらいです。【その他】
回答
 運動トレーニングによってどこまで運動能力が向上するかは、遺伝的要因やその時点での身体状況などさまざまな要因が関与するので、一概には答えられません。オリンピック選手クラスのトップアスリートになると、すでに限界近くまで肉体を鍛えているので、いわゆる「収穫逓減の法則」が働いて、多大なトレーニング時間を費やしてもせいぜい1%程度しか記録が向上しないことが多いのに対して、本格的なトレーニングを初めて間もない人は、1年で10〜15%の向上が可能だと言われています。

 運動トレーニングが運動能力にもたらす効果の中で特に重要なのは、次の2つです。
  1. エネルギー供給系の発達
     適度なトレーニングにより、
    • 心肺機能の向上
    • ヘモグロビンと血液容量の増加
    • 筋肉中のグリコーゲン(瞬発的な運動のエネルギー源となる)の貯蔵量の増加(2倍以上に増えることもある)
    • ミトコンドリア(エネルギー産生を行う細胞内器官)数とそこで働く酵素の量の増加
    • 筋線維あたりの毛細血管数の増加
    が生じ、筋肉に充分なエネルギーが供給されるようになります。
  2. 筋肉組織の変化
     1ヶ月以上にわたって適切なトレーニングと休息の繰り返しを行っていると、筋線維の断面積が増加し筋力がアップしてきます(筋肥大)。これは、次のようなメカニズムによって生じると考えられています。
     限界ぎりぎりまで筋肉を使用すると、筋線維内部にある太さ1μ程度の筋原線維が破壊されます。休息期間中に、周囲の(通常は機能していない)サテライト細胞が融合してこれを修復するのですが、このとき、一時的に筋線維が太くなって筋力が増強されます。これを「超回復」と言います。超回復の期間には個人差がありますが、およそ48〜72時間であり、この期間中に再びトレーニングを行うと、引き続き筋肉の増強が生じることになります。
     筋線維には、瞬発力に優れた速筋型線維と持久力に優れた遅筋型線維の2種類があり、速筋の方が遅筋よりも肥大しやすいことが知られています。速筋と遅筋の割合は、遺伝的要因に強く左右されます(男性は速筋が多い)。同じトレーニングを積んでも、筋肉が目に見えて肥大する人とそうでない人がいるのはこのためです。

 運動トレーニングによって達成できる運動能力の最大値は、遺伝的にほぼ決まっていると言われています(これは、一卵性双生児におけるトレーニング効果の相関などから確認されています)。ですから、オリンピック選手になれるかどうかは、かなりの程度まで親の能力で決まってしまうことになります。しかし、トップアマやプロのスポーツ選手であっても、潜在的な能力を最大限まで引き出している人は、むしろ少数派に属するでしょう。
 例えば、1995年のツール・ド・フランスの1日部門で優勝したランス・アームストロング選手(米)の場合、乳酸閾値(これ以上の負荷が筋肉に加わったときに乳酸が蓄積され始める値)を測定したところ、全米代表選手の平均値に比べて10%も低いことが判明しました。これは、一定の負荷で自転車をこぎ続けるロードレースにおいて、筋肉疲労が他の選手より早い段階で始まることを意味しています。そこで、トレーナーは、アームストロング選手に対し、測定された乳酸閾値よりわずかに高い負荷を加えたトレーニングを繰り返し行うように指示しました。その結果、彼の乳酸閾値は5%以上も改善され、ツール・ド・フランスより167kmも距離の長いUSツアー・デュポンで優勝することができたのです(『日経サイエンス』1996年8月号p.18-)。
 こうした事例が示すように、(限界に近いトレーニングを行っている一部のトップアスリートを除いて)多くのスポーツ選手は、生理学の知識のあるトレーナーの指示に従って適切なトレーニングを繰り返すことにより、運動能力がアップすると期待して良いでしょう。トレーニング効果が最大になるのは25歳前後とされていますので、質問者の場合は、年齢的にみても、まだまだ向上の余地があるはずです。
 もっとも、個人的な感想を言わせていただければ、プロ選手を志望しているのでもない限り、あまりしゃかりきに記録を伸ばそうとしないで、楽しんでスポーツをするのが一番だと思います。無理なトレーニングでケガをしては、何にもなりませんよ。

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質問 銀河の泡構造は、どのようにして出来あがったのですか?【現代物理】
回答
 数千億個の恒星の集まりである銀河は、宇宙空間にバラバラに点在しているのではなく、数個から数千個が集まって銀河群や銀河団を形成し、さらに、銀河団が集まって超銀河団を形作っています。以前は、それ以上のスケールでは宇宙は均質に見えると思われていましたが、1980年代にアメリカのゲラー(Margaret Geller)たちのグループが行ったデータの解析を通じて、数千万から10億光年に及ぶ巨大な構造があることが判明してきました。 qa_fig51.gif それによると、銀河や銀河団はフィラメントないしシート状に集まり、その間隙にはボイドと呼ばれる銀河の少ない領域が広がっています(右図;Science 284(1999)445)。こうした大域的構造(large-scale structure)は、見方によっては洗剤の泡のようにも見えるので、「泡構造」と呼ばれることもあります。
 COBE(Cosmic Background Explorer Satellite)が捉えた背景放射(宇宙全体に瀰漫している電磁波)のデータによって、ビッグバンの直後の宇宙は完全に滑らかではなく、エネルギー密度の分布に十万分の1程度のゆらぎが存在していたことが判明しています。従って、宇宙が膨張する過程で、この微小なゆらぎが重力の不安定性(密度が周りよりわずかに高い領域があると、物質を引きつける重力も相対的に大きくなるので、ますます物質が集まって密度がいっそう高くなっていくこと)によって成長し、こんにち観測されるような銀河の分布が形成されたと推測されます。しかし、
  1. ビッグバン直後になぜ密度ゆらぎが存在していたのか。
  2. 初期宇宙のゆらぎが本当に「泡構造」に成長していくのか。
という点に関しては、必ずしも満足のいく理論ができあがっていません。
 1.については、ビッグバンから1兆分の1秒経過するまでに生じたとされる「真空の相転移」の仕方にゆらぎの起源があると考えられており、「位相欠陥」(相転移があちこちで起きて真空が一様でなくなったため、局所的にエネルギーが集中した領域が生じること)による構造形成のモデルが提唱されてはいるものの、決定的な証拠がなく定説にはなっていません。また、2.については、「暗黒物質」(宇宙の質量の大半を占めるとされる未観測の物質)や宇宙定数、平均密度をどのように仮定するかに応じて複数のモデル(「冷たい暗黒物質を持つ宇宙定数のない開いた宇宙モデル」など)が存在しており、その中のいくつかは、パラメータを適当に調整すれば、COBEのデータが示す初期ゆらぎが現在の大域的構造に成長していったとする仮説と矛盾しない結果を導き出せることがわかっていますが、どれか一つのモデルを選び出すにはデータが少なすぎるというのが現状です。

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質問 ブラックホールからX線が出ている理由が分かりません。光が逃げられないから「ブラックホール」と呼ばれるのに、なぜ同じ電磁波のX線は逃げられるのでしょうか。【現代物理】
回答
 ブラックホールとは、膨大な質量が狭い領域に集中し、重力があまりに強大になって、可視光はもちろん、電波・赤外線・X線・ガンマ線などあらゆる種類の電磁波を外部に放出しない天体です。したがって、宇宙空間に1個のブラックホールがポツンと存在している場合は、望遠鏡で観測することは全く不可能となります(ただし、強い重力のせいで背後にある物体の像が歪むので、ブラックホールの存在を推測することは可能です)。
 しかし、他の天体と何らかのシステムを構成しているブラックホールでは、少し事情が異なります。例えば、普通の天体と連星系を作っているケースでは、強大な重力によって伴星から引きちぎられた塵やガスがブラックホールに向かって流れ込み、事象の地平線(その内側からは光も逃れられない境界)の外側に、希薄な高温ガス(プラズマ)から成る球状の領域と、その周りを土星のリングのように取り囲む濃密な低温ガスの領域(これを降着円盤と呼ぶ)が形成されます。こうしたガス粒子の相互作用によって発生した電磁波が宇宙空間に放出されると、望遠鏡で観測することが可能になります(下図)。
qa_fig50.gif
 ブラックホールを取り巻くガスからは、さまざまな電磁波が放出されますが、大半は通常の天体からのものと区別できません。ブラックホールの存在を確証するのは、アウトバーストと呼ばれる特殊なタイプのX線放射です(ブラックホールと言えばX線のデータが持ち出されるのはこのためです)。これは、ふだんは暗い静かな星が、約1週間にわたって通常の100万倍ほどの強さのX線を放出し、その後、1年ほどかけて徐々に暗くなっていくという現象で、同じ天体で10〜100年に1度の割合で起こります。X線強度が間欠的に変化する天体は他にもありますが、これほど強いX線を長期間にわたって放出し続けられるのは、莫大な質量を持つブラックホール(または中性子星)だけです。現在の理論では、アウトバーストは、降着円盤が不安定になって一部が内側に崩れ落ち、高温ガスと相互作用する過程で強力なX線を放出したものと考えられています。典型的なX線のアウトバーストは、1996年4月下旬に「GROJ1655-40」という天体で起きたもので、X線天文衛星RXTEがキャッチしたX線スペクトルの振舞いから、理論の正当性が検証されています。

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質問 物理の問題なのですが、ヨロシクお願い致します。
無重力の宇宙空間に浮かんでいる半径100メートルのドーナツ型の宇宙船に、人工的に加速度を作るために、ドーナツの中心を通ってドーナツ面に垂直な軸の回りに宇宙船を一定の角速度ωで回転させる。
  1. 物体が落下するときの加速度が地上での重力加速度g=9.8[m/s^2]と等しくなるためには、角速度をいくらにすればよいか。
  2. 加速度を月の上と同じg/6にするには、角速度をいくらにすればよいか。
【古典物理】
回答
qa_fig49.gif  回転している宇宙船の内部に放り投げられた物体には、次の公式で与えられる遠心力が回転軸から見て外向きに作用します。
  遠心力f = mrω2
    m:質量、r:回転半径、ω:角速度
ここで、ドーナッツ状の宇宙船内のどこにいても回転半径が一定の値(=100[m])と見なせるとすると、遠心力は(質量)×(定数)となるので、地上付近の重力と式の形が同じになります(これは、単に見かけの上で同じというだけではなく、重力は座標変換によって現れることを明らかにしたアインシュタインの一般相対論の帰結です)。これを、f=mαという運動方程式に代入すれば、宇宙船内部で放物運動をする物体の加速度がα=rω2と求められます。設問の解答は、α=g、あるいはα=g/6と置くことによって計算できます。
 故キューブリック監督の『2001年宇宙の旅』(1968)など、以前のSF映画では、遠心力を使って内部に擬似重力を作り出しているドーナッツ状の宇宙船が頻繁に登場していましたが、近年になって事情が変わってきました。宇宙空間に人類が進出する意義は、むしろ簡単に無重力状態が作り出せることにあり、対流による気流の乱れや比重の差が原因となる物質の分離が生じないことを利用して、各種の実験や化学物質の生成を行うことが期待されるようになったのです。このため、SFで馴染みのドーナッツ状の宇宙船は宇宙開発の青写真から姿を消し、代わってプレハブのブロックを上下左右に繋げて拡張していく無粋な宇宙ステーションの建設が計画されています。

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質問 「燃焼理論」という授業で Divergence Theorem(ガウスの定理)について調べろ、という課題を出されたのですが、イマイチよくわかりません。なるべくやさしく教えて頂きたいのです。【その他】
回答
 ガウスの発散定理とは、ストークスの定理やグリーンの定理と共にベクトル解析における基本的な定理の1つで、次の式で表されます。
qa_fig47.gif
証明はベクトル解析の教科書に譲るとして、ここでは、物理的な意味を考えることにします。この定理は、場の強度が流量であるような1つの流束としてベクトル場をイメージすると、直観的に理解しやすくなるでしょう。このとき、ベクトル場の発散:divA(=▽・A)は、各点における湧き出し(マイナスの場合は吸い込み)の大きさを表します。 qa_fig48.gif 静電場の場合、電荷が電場の湧き出しとなっている訳です(右図)。一方、面積分の項は、表面に垂直な流れの成分を足しあわせている訳ですから、表面を通って流れ出る流束の総量を意味します。ガウスの定理とは、ある領域内部の湧き出しの総和が、表面から流れ出る流束に等しいことを意味します。静電場のケースでは、流束の総量は電気力線の本数に等しく、電場の湧き出しは電荷密度(の定数倍)となるので、ある領域から出ている電気力線の本数は、その領域内部にある総電荷(の定数倍)と一致します。
 ガウスの定理は、ベクトル場を使って表される全ての物理量に関して成り立つ関係なので、電磁気学や流体力学をはじめ、物理学のさまざまな分野で登場します。このように、物質としては全く異なる対象の振舞いを同一の式が記述するということは、自然界における数学的秩序の現れと考えることもできるでしょう。

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©Nobuo YOSHIDA