質問 どんな質問に答えてくれるのですか。
回答
科学や技術に関する話題で、他の人も興味を持てそうなものならば、何でも質問してみてください。ただし、何でも答えられるわけではありません。解答らしきものを与えられる質問に限って、この場で紹介していきたいと思います。

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質問 水に1滴のインクをたらすとインクが拡散してエントロピーが増大すると聞きましたが、水に油を混ぜると上下に分離してしまいます。エントロピー増大の法則が成り立っていないのでしょうか。【古典物理学】
回答
エントロピーが増大する過程は、一般に「乱雑さが増す」プロセスだと言われますが、ここで言う「乱雑さ」とはあくまで微視的なレベルの話であり、マクロな世界では必ずしも乱雑な方向に変化するとは限りません。例えば、密閉容器の中に気体の二酸化炭素とドライアイスが入っている場合を考えましょう。巨視的な「乱雑さ」を考えると、ドライアイスが蒸発して気体に変化した方がエントロピーが高くなるように思われます。しかし、蒸発する際には、気化熱を奪って分子の乱雑な熱運動を減らす方向に作用するため、気体となって容器中に広がることによるエントロピー増大の効果が相殺されてしまいます。一般に、最初の状態の気圧が(温度に依存する)ある値より小さいときは蒸発が進み、逆に大きいときは結晶が成長していきますが、いずれの場合も、微視的に見れば乱雑さが増しており、エントロピーが増大しています。
水と油の場合も、微視的な乱雑さが大きな意味を持ちます。油分子は、疎水基と呼ばれる水分子と結合を作りにくい部分を持っており、はじめに水と油をよく混ぜておいても、しだいに水分子を排除して疎水基どうしが連結するような構造が形成されます。こうした「疎水結合」が形成される過程は、巨視的には水と油が分離することに相当し、あたかも乱雑さが減ってエントロピーが減少したように見えます。しかし、微視的にみると、疎水基の周りに規則的に並んでいた水分子が、疎水結合の形成とともに外部に移動して通常の不規則運動の状態に変化しているため、分子レベルで乱雑になってエントロピーが増しています。疎水基どうしの引力はあまり強くないので、この過程は、ランダムに動こうとする周囲の水分子に押される形で、疎水基を持つ油分子が集まってくるプロセスだと考えられます。つまり、まさにエントロピーを増大させようという作用によって、水と油が分離するのです。
滴下された油は、こうして水中に拡散することなく油滴を形成し、比重が小さいのでそのまま浮かび上がって、水の上に分離層を作ります。こうして、まるで巨視的な構造が形成されるような現象が、エントロピー増大の法則に反することなく実現されるのです。

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質問 カゼ薬ではカゼはよくならないというのは本当ですか。【技術論】
回答
取扱説明書を読むとわかりますが、市販されている総合感冒薬の薬効は、「カゼの諸症状の緩和」です。 カゼのせいでのどが痛いときに、この薬を飲むと痛みがやわらぐ、といった効果です。
この効果は、カゼを治した結果として現れるのではなく、身体反応をコントロールすることによって実現しているものです。カゼの症状の多くは、ウィルスの侵入に対する防衛反応なので、カゼ薬はカゼを治すどころか、自然治癒力を抑制することになりかねません。 例えば、カゼによるのどの痛みは、ウィルスが悪さをしてのどを傷つけているのではなく、血液の粘性を高めてのどに白血球を集め、咽頭部に感染したウィルスに集中攻撃を浴びせようとしたために、その部位の血管が膨らんで周囲の神経を圧迫することにより生じるものです。カゼ薬は、血液を元のようにサラサラにして痛みを取り去りますが、同時に、ウィルスをやっつけようとせっかく集まってきた白血球をも元に戻してしまう訳です。 このほか、せきやたん(異物を物理的に排除する)、発熱(熱に弱い細菌やウィルスの活動を鈍らせる)、体のだるさ(むやみに運動してエネルギーを消耗しないように脳に指示する)なども、カゼから身体を守ろうとする防衛反応なのですが、カゼ薬は、こうした身体の努力を無にしてしまいます。
もっとも、過剰な防衛反応によって身体が弱ってしまうケースもある(絶え間ないせきや39度以上の発熱など)ので、カゼ薬で適度にコントロールすることも必要にはなりますが。ともあれ、カゼを治すのは、あくまで身体の自然治癒力であり、カゼ薬は、不快な症状を緩和するだけの薬だと割り切っておくのが良いでしょう。

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質問 宇宙に外側はあるのでしょうか?それと、宇宙は1つなんでしょうか?【現代物理】
回答
現在、最もスタンダードな理論では、「この」宇宙は一般相対論の解の1つであるフリードマン模型で近似的に表されると考えられています(もちろん、これとてもあくまで仮説にすぎませんが)。それによると、空間の中にある物質の密度がある値以上か以下かによって、宇宙が「閉じている」か「開いている」かが決まります。
「閉じている」宇宙は、ちょうど地球の表面のように、ある方向にずっと進んでいくといつかは元の所に戻ってくるという構造をしています(厳密に言うと、現在の宇宙は光よりも速いスピードで膨張しているので、元の場所に戻ることはできないのですが)。この世界では、例えば、前に背中が見えたのでポンと叩いたら自分の背中だった、頭の上に何か載っていると思ったら自分の靴だった、というように、空間そのものが閉じているので、ふつうの(ユークリッド的な)空間をイメージして、「その外側」を考えることはできません。
一方、「開いている」宇宙は、無限の拡がりを持っていて、どこまで行ってもわれわれが住んでいる銀河系の近くと同じように天体や星雲が存在しています。ですから、ロケットなどで、その外側に飛び出すということは不可能です。
「この」宇宙が「閉じている」か「開いている」かは、いまだに議論が続いています(観測データに基づくと「開いている」という主張が優勢のようです)が、いずれにせよ、宇宙に「外側」はないと言って良いでしょう。
ただし、「この」宇宙以外にも宇宙が存在する可能性は、何人かの物理学者によって指摘されています。宇宙の始まりであるビッグバンのときに、ちょうど粘菌の発芽のように、いくつもの宇宙が作られていくのです。こうしたたくさんの宇宙は、物理定数がそれぞれ異なっており、大半は、一瞬のうちに消滅したり、物質が形成されない混沌のままにとどまりますが、ごく一部の宇宙は、そのうちに天体を形作り生命を宿すことができるはずです。こうした「アナザーワールド」が本当に存在するのか科学者の間でも意見が分かれていますし、いつか人類が知り得るたぐいのことかどうかも定かではありませんが、われわれの想像力に大いなる刺激を与えてくれるものだと思います。
(参考書:佐藤勝彦著『宇宙はわれわれの宇宙だけではなかった』(同文書院)など)

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質問 電気製品から出る電磁波が体に悪いと聞きましたが、何が1番悪いのですか。【環境問題】
回答
電磁波にはさまざまな波長のものがあり、波長の短いものから、放射線、X線、紫外線、可視光線、赤外線、マイクロ波、超短波、短波、中波、長波、超長波、静電場・静磁場となります。このうち、紫外線より波長の短いものについては、細胞傷害性があるため、漏出については厳しい規制があります。パソコンのディスプレイなどからも多少はX線などが発生しており、女性の流産との関係が疑われたこともありますが、ごく微量なので、影響はほとんどないだろうと言われています。
可視光線については、長時間にわたって見続けたときに眼精疲労やドライアイ症候群をもたらしたり、明滅する光線が光過敏性てんかんの発作の引き金になることもありますが、肉体に直接的な悪影響を及ぼすことはないと考えられています。ただし、イベント会場で使われるレーザー光線のような小光径のスポットが同じ部位に数秒以上にわたって照射され続けると、発生する熱で周辺の細胞が壊死することがあります。
マイクロ波は電子レンジでの加熱に使われる電磁波で、熱を発生する作用があります。昔の電子レンジの中にはシールドが不完全でマイクロ波が漏れ出すものがあり、それが原因で使用していた人が白内障になったというケースも報告されていますが、最近の製品は、安全対策を講じているので、通常の使用法の範囲では危険はないと考えられます(前面ガラスなどが壊れた製品をそのまま使い続けた場合の安全性は、保証できません)。
問題は、マイクロ波より波長が長い電磁波を浴び続けたときの長期的な影響でしょう。こうした電磁波が身体にどのような影響を与えるかについては、さまざまな機関で研究が進められていますが、充分に解明されているとは言えません。1980年代には、高圧送電線が発するELF(30Hz〜300Hz)やVLF帯(3kHz〜30kHz)の超長波と小児白血病の因果関係が話題になりましたが、こんにちでは疫学調査や動物実験のデータをもとに、ほぼ否定されています。ただし、(送電所の近所のように)電磁波が強くなると、生体内部で微小電流が発生してピリピリするような刺激をもたらすので、これに過敏に反応して身体症状を呈する人もいます。電気毛布のように身体に密着させて使用する製品の場合は、かなり強い電磁波を浴びることになるので、過敏症の人は避けた方が無難かもしれません。
日常的に使用する製品で、身体に影響を及ぼす可能性が最も高いのは、パソコンのCRT(ディスプレイ)と携帯電話だと言われています。
fig1 CRTは、X線から静電気までのさまざまな波長の電磁波を発生しますが、数十Hzのパルス磁界と数十kHzのパルス電界を、後方部に多量に放射しています。オフィスでパソコンを載せた机を平行に並べていると、背後のCRTが発する電磁波に後頭部を直撃されることになるので、パソコンのCRTが背中合わせになるように配置するのが良いとされています(図参照)。
携帯電話は数百MHzの超短波を利用していますが、基地局まで届かせるため、コードレス電話などとは比べものにならないほど強力な電波を放出します。しかも、頭部に密着させて使用するため、この超短波をまともに受ける脳に影響が現れる心配があります。モトローラなどの携帯電話の大手メーカーは、サルを使った動物実験などによって安全性を主張していますが、長期的な影響についてはなお不明な点が多々あります。業務で1日何時間も電話を使用する人は、携帯電話は避けた方が気分が楽でしょう(杞憂かもしれませんが)。また、携帯電話は、強力な電磁波によって電子機器を誤作動させるので、病院や飛行機内では使用が禁止されています。ペースメーカーの動作も異常になるので、近くに心臓病の人がいるかもしれない人混みの中で使用するのも、止めるべきでしょう。

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©Nobuo YOSHIDA