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 問  題   解  答   解  説 

出題のねらいと解法のカギ



第1問

円運動する座標系内部での単振動に関する問題で、東大の設問でしばしば見られるように、遠心力が実際の力であるかのように取り扱うことが必要になる。磁界が加わる後半は、難問に思えるかもしれないが、取り扱っているのが、等速円運動と単振動の場合だけなので、見かけほど難しくはないはすである。


  1. 角速度を増加する過程でおもりは準静的に移動するので、ガラス管の角速度がωになったときにも、おもりはガラス管に対して静止している。

     おもりの運動を記述するには、ガラスと共に回転する回転座標系を考えるとわかりやすい。回転中心を原点としてガラス管の軸方向外向きに座標をとり、おもりの位置をxで表す。
    1. バネからの弾性力と遠心力のつりあいを考えればよい。おもりの位置がxのとき、バネの伸びはx−lとなることより、

        弾性力 −k(x−l)

      となる。また、静止座標系から見ると、おもりは、半径x、角速度ωの等速円運動をしている。このときのおもりの速さはv=xωで与えられる。したがって、回転座標系で見たとき、おもりには、

        遠心力  mv2/x= mxω2

      が作用している。x=x0のとき弾性力と遠心力がつりあっておもりは静止しているとすると、

        −k(x0−l) + mx0ω2 = 0

      これを解いて、

        x 0=kl/(k−mω2)…(答)

      を得る。

      【注意】この問題は、静止座標系で式を立てて、

        (向心力)=(質量)×(向心加速度)

        k(x−l)=  m   ×  xω2

      と置くこともできるが、これ以降の設問では、回転座標系での計算が必須となる。

    2. (1)の解答からわかるように、ωが

        ω0fig

      に近づくと、おもりの静止位置xは無限に大きくなって、バネがどこまでも引き伸ばされていく。このとき、ガラス管を一定の角速度で回転させるのに必要な力のモーメントも無限大になるので、実際にこうした回転運動を実現することはできない。

    3. ガラス管の回転角速度をωから1/2ωに変化させたとき、ガラス管の内壁からおもりに力が作用するが、「内壁はなめらか」という条件があるので、この力はガラス管の軸に垂直な方向にしか働かない。したがって、軸方向に加速度は生じず、角速度が変化した直後には、ガラス管に対するおもりの相対速度は0のままである。この状態から単振動が始まるので、角速度ωのときにおもりがいた位置が、単振動の折り返し点になる。

       角速度が変化してからの運動を、ガラス管と共に回転する回転座標系で記述することにしよう。中心から測ったおもりの位置をxとすると、

        弾性力 −k(x−l)   …[1]

        遠心力 mx(1/2ω)2   …[2]

      となる。

      【注意】遠心力の公式は、通常、等速円運動の場合をもとに導かれるが、この公式自体は、回転系において物体が運動しているときにも成立する(このことは、東大などのハイレベルな入試問題で用いられている)。なお、遠心力のほかにも、コリオリの力と呼ばれる見かけの力(慣性力)が作用するが、これは、(回転座標系上での)速度に直交する向きに働くので、この設問のように運動がガラス管の軸方向に束縛されているケースでは、影響を及ぼさない。
      [1]と[2]の合力が、回転座標系でおもりに加わっている力Fとなる。

        F =  fig   …[3]

      この式は、バネ定数がkからk'=k−1/2mω2に変化したことを意味するので、単振動の振動数fは、

        f =fig

         = fig   …(答)

      で与えられる。また、振動の中心x1は、力Fが0になる位置なので、[3]式より、

        x1fig

      と与えられる。角振動数が変化した直後は、おもりは(1)で求めたつりあいの位置x0 に静止していたので、振幅は、

        x0−x1 = figfig

            = fig

      となる。



  2. 磁束密度Bの磁界が加わっているとき、これに直交する向きに速さvで運動する電荷qの荷電粒子に加わるローレンツ力は、q v B で与えられる。

    1. 角速度ωのときのおもりの位置を、ガラス管と共に回転する座標系でx=x2とする。このとき、ローレンツ力は、右ネジの法則(フレミング左手の法則)に従って、中心向きにq v B =q x2ωB となる。おもりはゆっくりと(準静的に)動いており、力のつりあいが成り立っていると見なして良いので、

        ローレンツ力−q x2ωB

        弾性力   −k (x2−l)

        遠心力    mx2ω2

      という3つの力の合計が0になる。

        −q x2ωB −k (x2−l)+mx2ω2 =0

      と置いて、x2について解けば、

        x 2fig   …(答)

      を得る。

    2. 静止したガラス管内部でおもりが振動するとき、ローレンツ力は運動方向に垂直に働くので、振動のしかたには影響を及ぼさない。したがって、ガラス管が停止した後のおもりの運動を調べる際には、バネからの弾性力のみを考慮すれば良い。ガラス管を急に止めた直後には、I(3)と同じ理由で、ガラス管に対するおもりの相対速度は0である。よって、おもりは、

        x=x2

      を振動の折り返し点とし、バネが自然長となる

        x=l

      を振動の中心とする単振動を行う。おもりが x=l を通過するときの速さをv0 とすると、力学的エネルギーの保存則より、

      fig



       ∴ fig

      このとき、ガラス管の軸方向に垂直に作用するローレンツ力は、qv0B なので、回転軸の回りの力のモーメントIは、

        I= qv0B l

         =fig   …(答)

      となる。ガラス管を静止させておくためには、モーターから、これと大きさが同じで逆向きのトルクを加えなければならない。

    3. ガラス管の停止後、おもりに作用する軸方向の力は、バネからの弾性力だけなので、振動が起きないためには、ガラス管が止まる瞬間に、バネが自然長となる地点におもりが位置していることが必要十分条件となる。すなわち、

        x2=l

      これを解くと、

        ω =0, qB/m

      を得る。ただし、ω=0は、もともとガラス管が回転していないという無意味な解なので、正解は、

        ω = qB/m   …(答)




第2問

コンデンサーに誘電体を挿入するというおなじみの問題を、少しひねってみた。周辺的なことに煩わされずに、コンデンサーの電気容量や静電エネルギーを手早く計算できる人は、充分に太刀打ちできるはずだが、「誘電体が液体!」というだけで舞い上がってしまった人には、いささか難しい問題と言えよう。II(3)やIIIを直ちに解答できるかどうかで、物理学のセンスの有無が判別できる。


  1. Aの容器に誘電体の液体が高さhまで入っているときの電気容量をC(h)とする。このようなコンデンサーは、極板間に誘電体が満たされた幅hのコンデンサーと、誘電体が挿入されていない幅h−dのコンデンサーを直列につないだものと等価である(下図)。
    todai98_ex_fig12.gif
    極板の面積がS、間隔がd、極板間の誘電率がεのコンデンサーの電気容量Cは、公式より、

      C = εS/d

    で与えられる。また、直列コンデンサーの合成容量の逆数は、各コンデンサーの容量の逆数の和に等しい。したがって、

      1/C(h) = h/εS + (d−h)/ε0S

      ∴ fig   …(答)

  2. Aの液面の高さがh+xになったときの電気容量は、C(h + x)で与えられる。

    1. 電気容量Cのコンデンサーに電荷Qが蓄えられているときの静電エネルギーUEは、

        UE = Q2/2C

      で与えられる。題意の過程では、電荷が一定なので、静電エネルギーの変化分は、

        ΔUE = Q2(1/C(h + x)−1/C(h))/2

            = −xQ2/2S・(1/ε0 − 1/ε)   …(答)

      ε0<εなので、ΔUEは(x>0の場合は)負になる。

    2. この過程は、底面積S、高さxの直方体の形をした液体が、高さ xだけ持ち上げられることに相当する(下図)。

      todai98_ex_fig17.gif

      持ち上げられた液体の質量は、

        ρS x

      で与えられる。したがって、重力(による位置)エネルギーの増加分は、

        ΔUG =(ρS x)gx

           = ρSgx2  (>0)   …(答)

    3. 静電エネルギーと重力エネルギーの変化分の和を式で表せば、

        ΔUE+ΔUG

         =−xQ2/2S・(1/ε0 − 1/ε)+ρSgx2

         =ρSg{x−(1/ε0 − 1/ε)Q2/4ρS2g}2−(定数)

                 (計算の面倒な定数項は省略)

      この値は、x=0のときは0になり、xが増えると(1次項の係数が負なので)いったん0より小さくなる。これをグラフで描けば、解答欄に示したものになる。

       コックを開くと、液体は、全位置エネルギーが小さくなる状態へと引きずり込まれていく。はじめのうちは、液体が流れることによる運動エネルギーを持つが、液体に粘性(液体内部の摩擦)があり、液体の運動に伴って発生した熱が周囲に散逸されるので、系からエネルギーが失われることになる。この過程は、ちょうど、摩擦のあるお椀の内側にビー玉を置いたときの運動に似ている。ビー玉は、しばらくは振動運動をするが、しだいに摩擦熱を散逸してエネルギーを失い、最終的には位置エネルギーの最も低いお椀の底で静止する。同じように、この問題の液体も、初めのうちこそ大きな流れを見せるが、そのうち動きを止めて、位置エネルギーが最小になる状態で静止する。この点は、ΔUE+ΔUGのグラフが最小になる点に相当する。このときのxの値は、上の式より、

         x=(1/ε0 − 1/ε)Q2/4ρS2g   …(答)

      となる。

      【注意】より厳密に言えば、位置エネルギーを空間座標で微分すると物体に加わる力になるので、位置エネルギーの極小値以外は安定な平衡状態になり得ない。この問題の流体に限らず、熱エネルギーを失いながら運動する物体は、最終的にはすべて、位置エネルギーが極小になる状態に落ち着くことになる。

    4. 上で述べたように、コックを開いて液体を移動させる過程で、熱が発生して周囲に散逸する。実験の初めと終わりには、液体が静止していて運動エネルギーを持っていないので、熱エネルギーが散逸した分だけ、UE+UGが減少することになる。


  3. 電源電圧V と電荷Q、および、Iで求めたC(h)は、次の関係式を満たしている:

      V = Q/C(h + x)

    ただし、Iで示したように、1/C(h)はhについての1次関数であり、当然、

        1/ C(h + x)

    は、xの1次関数となる。

     一方、II(4)で得られたQとxの関係式は、液体が静止したとき、蓄えられた電荷と液面の位置の間の一般的な関係を示すものであり、コンデンサーに電源を接続したときにも成立する。したがって、この設問の場合でも、液面の上昇xはQ2に比例する。

     これらをまとめれば、

      V = Q ×(Q2の1次関数)

    となり、VがQの3次関数になることがわかる。


第3問

理想気体の状態変化に関する標準的な出題で、今回の3問の中では、いちばん解きやすかっただろう。このタイプの問題で立てるべき式は、各状態に関して、状態方程式と内部エネルギーの公式、状態変化に関して、熱力学第一法則  と決まっているので、あらかじめ、必要な式を立ててから問題に臨むのも1つの手だろう。


 一般に、体積V、圧力p、絶対温度Tのnモルの理想気体は、状態方程式:

  p V=n R T

を満たし、内部エネルギーUが、

  U = n CVT   (CV :定積モル比熱)

で与えられる。この問題では、

  n=1

  CV =3/2・R (単原子分子気体の定積モル比熱)

となる。

 題意の状態変化を、順に辿っていくことにしよう。

状態a

体積 SL

温度 T   (熱浴と接触している)

圧力 P = RT/SL  (状態方程式より)


状態a→b:定積加熱

状態b

体積 SL

圧力 P1 = P0 +mg/S(大気圧+おもりの圧力)

温度 T1 = (P0S + mg)L/R(状態方程式より)
状態b→c:定圧加熱

状態c

体積 S(L + l)

圧力 P1 = P0 +mg/S  (大気圧+おもりの圧力)

温度 T2 = (L+l)/L・T1  (状態方程式より)


 おもりをバネからつり下げた後、バネの伸びがxで、おもりとピストンが接触している状態を、状態xと呼ぶことにする。

状態x

体積 S(L + l- x)

圧力 Px = P0 + (mg -kx)/S

温度 状態方程式から求められる

 状態xの体積と圧力がともにxの1次式となるので、状態cから状態xまでは、pV図が直線になるような変化であることがわかる。

 これ以降の状態変化は、バネ定数の値によって異なる。一般に、バネ定数kのバネに質量mのおもりをつり下げたときのバネの伸びは、

  mg/k

となる。これがlより大きいときは、おもりは、最後までピストンと接触したままだが、小さいと、途中でピストンから離れることになる。したがって、次のように場合分けしよう:

kl<mgのとき

ピストンはおもりと接触したままストッパーの位置に達する。ピストンがストッパーと接触した瞬間の気体の状態を、状態eと呼ぶことにする。

状態e

体積 SL

圧力 P3 = P0 + (mg - kl)/S

温度 状態方程式から求められる

状態e→d:定積冷却

状態d:状態aと同じ

kl>mgのとき

おもりがピストンから離れる瞬間の気体の状態を状態f、ピストンがストッパーと接触する瞬間の状態を状態gと呼ぶ。

状態f

体積 S(L + l - mg/k)

圧力 P0

温度 状態方程式から求められる

状態f→g:定圧冷却

状態g

体積 SL

圧力 P0

温度 T0 = (P0SL)/R  (状態方程式より)



状態g→d:定積冷却

状態d:状態aと同じ

  1. 上の結果をまとめれば良い:

    kl<mgのとき

    おもりは最後までピストンと接触しているので、最終的にバネはlだけ伸びる。
    kl>mgのとき

    おもりは途中でピストンから離れて宙吊りになるので、バネの伸びは、mg/kになる。


  2. いずれも、上の結果から簡単に求められる。

    1. 状態a→bは、温度がTからT1へ上昇する定積加熱の過程なので、気体が吸収する熱量Qは、

        Q = 3/2・R(T1−T)

          = 3/2・{(P0S + mg)L −RT }

      となる。

    2. 状態cの内部エネルギーUは、公式から与えられる。

        U=3/2・RT2

         =3/2(P0S + mg)(L+l)

    3. 上で求めた状態xの圧力を書けばよい。

        圧力 Px = P0 + (mg - kx)/S


  3. これまで式で書いたことをグラフに描けば、解答欄に与えたpV図になる。この問題の場合、pV図でのすべての変化が直線で表されることに注意する。

  4. 気体が外部にした仕事を求めるには、[1]pV図でグラフに囲まれた部分の面積を計算する、[2]力学公式を用いて計算する  という2つの方法がある。この問題に限っては、大気に対する仕事が正味で0になり、バネ+おもりの力学的エネルギーの変化だけを求めれば良いので、[2]の求めかたの方が簡単である。

    kl<mgのとき

    おもりは、最後までピストンと接触したまま最初の位置に戻ってくるので、重力による位置エネルギーに変化はない。したがって、伸びがlのバネに蓄えられた弾性エネルギーが、気体から供給されたエネルギーEとなる。したがって、

      E = kl2/2   …(答)

    【別解】pV図より、求めるエネルギーは、底辺が(b→cでの体積変化に相当する)S l、高さが(c→eでの圧力変化に相当する)kl/Sの三角形の面積に等しい。これより、上と同じ結果が得られる。


    kl>mgのとき

    途中でおもりがピストンから離れるので、重力による位置エネルギーの増加分とバネの弾性エネルギーの和が、気体から供給されたエネルギーとなる。バネの伸びはmg/k、おもりが高くなった距離は l−mg/k なので、

    fig

     fig

    となる。

    【別解】pV図より、求めるべきエネルギーは、上底が S(l−mg/k) 、下底が Sl 、高さが mg/S の台形の面積に等しい。これより、上と同じ結果が得られる。



©Nobuo YOSHIDA