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第5章.いかにして安全を保つか

 §1.重みを増すメーカー責任
 「これまではコストと機能重視できた。これを深く反省すべき時期にきている。安全やリサイクルの容易さなどをどう製品に取り込んでいくか。これが難しい問題だ」
 「製品にクレームがつけられたとき、和解金が安くすめば褒められる時代もあった。そんな時代はもう終わった」
 (いずれも、大手電気機器メーカー役員)
 「私たちの製品は、公害と、騒音と、廃棄物を生み出しています」
 (自動車メーカー・ボルボの新聞広告)
 §2.欠陥の種類と対策
 (1)製造上の欠陥:検査の不備による不良部分の見過ごし
 《対策》品質管理(QC)の徹底
 (2)設計上の欠陥:安全設計の不備、安全装置の不搭載
 《対策》安全重視の設計、最新技術の採用
 ・フェイルセーフ(多重安全設計)
 【例】液晶投射型ディスプレイはランプの発熱量が大きくファンが停止すると過熱状態になりやすい。このため、サーミスタで温度を検出して設定温度以上になると自動的に電源が切れる装置が組み込まれているが、これが故障したときのバックアップとして、ランプの回路の一部をバイメタルで作って高温になると回路が切れる工夫もされている。
 ・フールプループ
 【例】複写機はアース線を付属させることが電気用品取締法で義務づけられている。ところが、富士ゼロックスが行ったユーザー調査によると、60%のマシンが接地されずに使われていた。このため、同社では、接地していないユーザーに配慮して、大型機はブレーカを内蔵するようにした。さらに、小型電気機器についても、電流の流れる部分に触れないような構造を採用しつつある。
 ・ホステッジ・コントロール
 【例】大型反応槽などのように、整備点検のために人が入っているときにスイッチを入れられると大事故につながる装置では、入力スイッチの一部が入り口のキーになっていて、キーを持っている限りスイッチをオンにできない仕組みにがしばしば採用されている。
 ・製品の無害化/無毒化
 【例】おもちゃの場合、幼児が誤って飲み込む危険性のある小さい部品は、本体と一体成形したり大型化することによって減らしている。どうしても必要な部品については、万一飲み込んでも気道が確保できるように穴が開けてある。また、パソコンのCRTの表面には、従来、有毒な静電気防止剤が塗布されていたが、家庭での使用中に幼児がなめることを想定して、毒性の低い材料に変更された。
 ・安楽死する機械
 (3)表示上の欠陥:警告表示の不備、過失的/詐欺的な不実表示
 《対策》危険性の明示、取扱説明書の改善、ユーザーの啓蒙
 統一的な警告ラベルやマークの採用、

 §3.開発危険の抗弁
 採用の根拠
 「開発危険の抗弁を認めない場合は、技術革新の停滞等による不利益が消費者にも及ぶ可能性があるとともに、場合によっては製造者等にその負担能力以上の賠償義務を課すことによって、かえって被害者が確実な救済を受けられなくなる可能性もあり、適当とは考えられない」 (国民生活審93年度答申より)
 「科学または技術に関する知見」について
 「欠陥の有無を判断するにあたって影響を受け得る程度に確立された知識のすべて」であり、「面責されるためには、当該欠陥の有無の判断に必要となる入手可能な最高水準の知識に照らしても欠陥であることを認識できなかったことを証明することが必要」 (衆議院商工委員会での答弁より)
 【事例】低周波バイオエフェクトへの対応
 (既述)

 §4.PL法施行1年の日本
 救済制度の拡充
 医薬品副作用被害救済制度(製薬会社が基金拠出)など
 被害者保護のためには賠償よりも補償を
 裁判外紛争処理機関の設置
 公的a国民生活センター(特殊法人)、消費者センター(地方自治体)など
 【例】苦情処理委員会(地方自治体が設置):利用者から2千〜1万円の手数料を取った上で、苦情相談、相対取引の斡旋、紛争の調停を行う。
 私的aPL対策センターの設置
 【例】日本製薬団体連合会による「医薬品PLセンター」(苦情相談や相対交渉の斡旋)
 これまでのところ調停例はほとんどなく、「開店休業」状態
 PL保険(生産物賠償責任保険)
 損害保険各社が販売するPL保険の売れ行きは好調
 取引先や下請けに加入を強制する動きも
 残された問題
 不動産、ソフトへの適用
 開発危険の抗弁の範囲


©Nobuo YOSHIDA