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第1章.製造物の欠陥とは

 §1.製品に求められる安全性
 基本的問題 : 技術の高度化、複雑化に伴って安全基準が不明確に
 製品が有すべき安全性を欠いているため、ユーザーが不当に危険(unreasonably dangerous)な状態に置かれる場合、その製品には「欠陥(defect)」があるとされる。
 守られるべき基準は何か?
 高い
 ↑ その時点での科学・技術に可能な最高の水準
 | ユーザーが期待する安全性
 | メーカーが保証する安全性
 | 標準的な使用法の範囲で得られる安全性
 ↓ 政府などによる公的基準
 低い

 §2.「欠陥」の判断基準
 ○消費者(ユーザー/通常人)期待基準
 ユーザーが期待する安全性を下回った場合、「欠陥」と見なす。
 以下のコメントは、アメリカでの判例に基づいている。
 【コメント1】取扱説明書に記された標準的な使用法を逸脱して使ったために損害が発生した場合でも、それが一般的なユーザーにとって「この程度ならかまわない」と感じられる範囲ならば、メーカーに賠償責任が課せられる。
 【事例】オーディオセットを毛足の長いカーペット上で使用したため、装置が過熱して火災が発生した。ステレオの取扱説明書には、「装置を決して柔らかいものの上に置かないでください(Never place the unit on a soft, yielding surface)。シャーシ下部からの換気が妨げられます。装置の上と後ろは、少なくとも2インチの隙間を設けてください」と書かれていたが、裁判所は、「この警告文は、無視した場合の危険の程度が明らかにされていないので不十分」として、メーカー敗訴の判決を下した。(ルイジアナ州高裁、1976年)
 【コメント2】製品に避けることのできない危険性がある場合は、警告表示によってユーザーの期待水準を下げなければならない。危険性を察知できる警告があるにもかかわらず、ユーザーがこれを無視したために事故が発生した場合、メーカーは責任を免れる。
 【事例】高電圧の変電室で作業中の電気工が、通電中のコンデンサの蓋を開けてドライバを差し込んだところ、放電が起きて火傷を負った。被害者はメーカーを提訴したが、裁判所は、コンデンサの蓋に「遮断後5分間待つこと。作業に掛かる前に、端子を短絡しコンデンサを接地すること」と書かれていたことを指摘、「原告は経験30年のベテラン電気工であり、こうした警告文があれば危険性が十分にわかるはずだ」として、原告の主張を斥けた。(ペンシルバニア州最高裁、1990年)
 【コメント3】メーカーが合理的に予見することができないような使用法によって損害が発生した場合は、メーカーは責任を免れる。
 【事例】犯人が、赤色灯を車の屋根に取り付けてパトカーを装い、走行中の車を停車させて強盗/殺人を犯したケース。被害者の遺族が悪用されたランプのメーカーを訴えたが、裁判所は被告勝訴の判決を下した。(イリノイ州高裁、1989年)
 【コメント4】一般的に「誤用」と判断されるような使用法をしたために損害が生じた場合、製品がその原因になっていたとしても、メーカーは責任を免れる。
 【事例】アパートで火事が発生、2人が重傷を負った。被害者は、「煙感知器が作動しなかったことが被害拡大の原因」と主張し、感知器メーカーを訴えた。しかし、裁判所は、「原告は、感知器が電池を電源としていることを知りながら、電池切れの予告音を発したときに電池を抜いてそのまま放置している」ことを指摘、メーカーに責任はないと判示した。(北ダコタ州最高裁、1989年)
 [以上の事例は、いずれも日経エレクトロニクス(1990.9.3.号)より引用]

 ○危険効用基準
 製品が有する危険と効用を比較考量し、危険が効用を上回ったときに欠陥と見なす。アメリカの判例で一部採用されている。
 §3.法令における欠陥の定義
 「この法律において「欠陥」とは、製造物の通常予見される使用に際し、生命、身体、または財産に不相当な危険を生じさせる製造物の瑕疵をいう」
 (製造物責任研究会、1975.8.)
 「欠陥とはその物が通常有すべき品質または安全性を欠いていることをいう。製造物に関する通常期待されるべき表示・警告がないため安全性を欠く場合も含む」
 (東京弁護士会・消費者問題特別委員会検討資料、1989.3.)
 「製造物は、次のすべての事情を考慮したうえで、当然期待される安全性を提供しない場合に欠陥があるとされる。
 (a)製造物の表示
 (b)合理的に予期された製造物の使用法
 (c)製造物が流通に置かれた時期」
(EC指令第6条、1985.7.)
 「この法律において「欠陥」とは、当該製造物の特性、その通常予見される使用形態、その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期、その他の当該製造物に係わる事情を考慮して、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう」
(製造物責任法、日本、1995.7.)
 「いかなる製品においても、有用性・効用の観点から除去しえない危険性が存在しており、また、製品によっては、極めて大きい有用性のために高い危険性を許容しなければならないものもある。製品に内在する社会的に許容される不可避的な危険性は、それが既知のものであろうと未知のものであろうと、その存在のみから欠陥であると評価されてはならない」
(国民生活審議会消費者政策部会報告「総合的な消費者被害防止・救済の在り方について」、1992.10.)




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